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au TOMSはどうしてそんなに強いのか? GT500最大の疑問に迫る。鍵となるのは“積み重ね”……そこに「悟空とベジータ」が応える最強布陣

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au TOMSはどうしてそんなに強いのか? GT500最大の疑問に迫る。鍵となるのは“積み重ね”……そこに「悟空とベジータ」が応える最強布陣

「36号車って、なんであんなに強いんですかね」

 そんな会話が口々に聞こえてくるのは、スーパーGTが開催されるサーキットの観客席だけではない。関係者が集うパドックでも、この1年はこの話題で持ちきりだった感がある。それほどまでに、最近の36号車au TOM'S GR Supraの強さは際立っている。

■“GTの原点”に立ち返る新たな挑戦。市販車モノコック製Z GT300をデビューさせたゲイナーが奮闘の先に見据えるものとは

 昨シーズンは、坪井翔と宮田莉朋のコンビで3勝を挙げてGT500クラスのチャンピオンを獲得。そして宮田に代わって山下健太が加入した今シーズンも開幕戦岡山でポール・トゥ・ウインを飾り、昨年の第7戦から数えて3連勝を飾った。GT500で同一チームの同一ドライバーが3連勝を記録するのは、30年の歴史で初の快挙となった。

 第2戦富士では46kgものサクセスウエイトを積みながらも、3時間の決勝レースで着々と順位を上げ4位フィニッシュ。このレースを制したNISMO NDDPの3号車Niterra MOTUL Zは昨年から36号車の目下最大のライバルと言えるが、その3号車に乗る高星明誠は、独走優勝を飾った後の記者会見でこのように語っていた。

「僕たちは昨年も良いパフォーマンスがあったと思いますが、それでもチャンピオンに届かなかったのが現実であって、昨年のパフォーマンスを超えていかなければいけないという思いが強いです」

「まだ昨年のパフォーマンスに到達できていないというのが今の僕の気持ちなので、まずはそこまでマシンのバランスを引き上げていきたいです」

 独走で優勝してもなお高星をこのように思わせるのは、36号車の強さあってのことだろう。またHRC(ホンダ・レーシング)の佐伯昌弘ラージ・プロジェクトリーダーも、第2戦でホンダ陣営の複数の車両がトラブルでリタイアしたことを引き合いに、「36号車は昨年からシーズンを通して速い。36号車の前に何台か入らないといけないレースだった」と総括。皆が36号車を意識しているのだ。

 そんな36号車は、2021年にも関口雄飛と坪井のコンビでタイトルを獲得するなど、直近3シーズンで2度チャンピオンに輝いている。その強さの秘訣は何なのか? 2020年から同車両のチーフエンジニアを務める吉武聡エンジニアに様々な疑問をぶつけた。

■“積み重ね”の賜物

 2021年までは前任の東條力エンジニアがチームに残っていたこともあり、チーフエンジニア就任から2年は引き続き東條エンジニアの指示を仰ぎながら仕事をしていたという吉武エンジニア。さらに2021年に関してはライバル車両のアクシデントによりタイトルが転がり込んできたという側面も大きかったため、昨年のタイトルこそが「初めて自分で獲ったタイトル」という感覚が強いという。

 当然ながら、レースで結果を残すためには“速いマシン”が必要なことは自明。吉武エンジニアは、現在のGT500のマシンパフォーマンスを司る要素の中で、最も肝となるのはタイヤだと語る。

 スーパーGTでは今もマルチメイクのタイヤ開発競争が行なわれているため、タイヤ性能は凄まじいと言われる。36号車はGT500を8連覇中のブリヂストンタイヤを履くが、タイヤ戦争が行なわれている関係上、メーカーが開発するタイヤの種類もコンパウンドや構造違いで数多くあり、その中からコンディションに合った適切なタイヤをチョイスして持ち込むことが必要になってくる。

 適切なタイヤチョイスをするために、どのようなことを心がけているのかと吉武エンジニアに尋ねると、シーズンオフの間にいかにタイヤをテストできるかが最も重要だと述べた。

「タイヤを選ぶ上で最も重要なのは、ちゃんとテストをできているかどうかですね」

「オフシーズンのテストで“材料”を溜めておかないと、そこから先はタイヤを選ぶ材料になるものがありません。ですから一番大事なのはオフシーズン。そこでしっかりタイヤの評価をしないと、シーズンに入ってからも迷ってしまい、タイヤを決められないと思います」

 確かに36号車は、開幕前の公式テストでもライバル以上にロングランに力を入れていた印象があり、このコメントには頷けるところ。吉武エンジニアも「ロング(ラン)をしないタイヤは基本的に選べないですから」と言う。

 ただ積極的なロングランをするためには、ある程度マシンセットアップが仕上がっていることが前提になってくるだろう。無論、セットアップで迷走している状態では適切なタイヤの評価ができないからだ。これについて吉武エンジニアは「(セットアップの完成度が)5割くらいの状態で持ち込んでしまうと(セットアップ作業で)テストが終わってしまう。8割9割でタイヤの評価テストをできる状態にしておく必要があるので、持ち込みセットを外さないよう気を付けています」と語る。

 持ち込みセットアップを外さないように……これができれば苦労しないというのが、多くのチームの本音ではないだろうか。吉武エンジニアに、セットアップを外さない秘訣を聞くと、そこには過去数年間で積み上げてきた実績が大きな役割を果たしていると答えた。

「2021年にチャンピオンを獲得して、2022年からは自分が(メインで)やっていますが、2022年も坪井選手が予選Q1でトップタイムをマークすることなどがありました。そうやって結果を残すと、そのセットアップが次のベースになります」

「過去の実績を基に少しずつ積み上げていったものが、今のクルマに繋がっています。逆に言えば大きな変化をしなくてもいいと言いますか、『去年のセットにすればタイムが出る』と分かっているので、そこから少しずつ少しずつ積み上げることができます」

 そう語る吉武エンジニアだが、筆者も様々なチームに話を聞く中で、実績のあったセットアップを持ち込んだにもかかわらず、当時とは異なるコンディションなどに悩まされてセットアップがうまく決まらないといった話もよく聞く。36号車でそういったことはないのかと尋ねると、吉武エンジニアはこう答えた。

「そこはフリー走行の中でコンディションに合わせて少しずつ変えていけばいいですから。そこで大きくジオ(サスペンションジオメトリ)が変わるとか、そういったことはありません」

「(今季開幕戦の)岡山であのような結果を残せたので、(第2戦の)富士に向けては、そこをベースにちょっとずつ改良していけば、それより遅くなることはないので」

 タイトでコンパクトな岡山と、ロングストレートのある富士では、コース特性も異なるため、求められるセットアップの方向性は異なるのではないかと感じられる。そこについて尋ねると、吉武エンジニアは根幹となる部分は変わらないと話す。

「大きなベースは一緒で、そこから空力や車両の姿勢などを調整します。富士だとストレートを速くするために姿勢を変えたり、ウイングの角度を変えたりします」

「岡山で結果が全く出なかったとなるとゼロからのスタートになり、富士ではどうしようかと悩んでしまいます。ですから毎年結果を残しているということが、次に繋がっている部分もあると思います。昨年の(第7戦)オートポリスで勝ったことが(最終戦)もてぎに繋がり、もてぎで勝ったことが岡山に繋がっています」

■“悟空とベジータ”、最強のコンビ

 さらに36号車の車両セットアップという点では、関係者から取材を進めるうちに興味深い話が出ていた。36号車はブレーキング時に車両が激しく跳ねているように見えるという指摘だ。

 これはより強力なダウンフォースを稼ぐために、36号車は車高を低く攻めていることが原因なのではないかとも考えられた。吉武エンジニアにこの点を尋ねると、36号車はコーナリング時のダウンフォースを稼ぐためにブレーキング時のスタビリティを犠牲にしている部分があるが、それはひとえにドライバーの技術あってこそだと語った。

「去年は結構マシンが跳ねていましたが、これはドライバーの腕という面が大きいですね。跳ねたクルマに乗れないドライバーもいますから」

「(車高が下がると)コーナリング中はダウンフォースが出ているのでいいのですが、ブレーキング時に下がってくることで跳ねてしまう部分もあります。コーナーを速くするために、ブレーキのところを犠牲にしているというか、犠牲になっちゃうというか……そこはドライバーがうまくねじ伏せて乗ってくれているので速いんです」

「(ブレーキング時に跳ねると)接地がなく、フロントロックをしてしまったりしますから。これが他のドライバーだったら『乗れないから車高を上げてくれ』と言われるレベルだと思います」

 吉武エンジニアは、昨年タイトル獲得に貢献した坪井と宮田、そして今季から加入した山下を、人気アニメ『ドラゴンボール』のキャラクターになぞらえて次のように評した。

「坪井選手は今一番GTで一番速いドライバーだと思っています。2021年にチャンピオンを獲った時から速さと強さがありました。頭も良いし、燃費走行だったりタイヤのマネジメントだったり、細かいことを言わなくても自分で考えてやってくれるので、何も不満はありません」

「昨年のコンビはドラゴンボールで例えるなら、坪井選手が孫悟空で、何でも強いタイプ。宮田選手は孫悟飯タイプで、潜在能力が高いですが戦闘の経験値はやや低いと。ただ去年にかなり成長をして、強くなりましたね」

「ヤマケンはキャラクターが違っていて、ドラゴンボールで言うとベジータですね。悟空と同じくらいの強さがあって、速さも経験値もあって、今のGTでは最強のふたりじゃないですかね」

 チームとしての実績の積み重ねと、ドライバーの実力との掛け算によってGT史に残る活躍を見せている36号車。連覇のかかる吉武エンジニアに今季の意気込みを聞いた。

「目標はチャンピオンですが、そんなに簡単にいくとは思っていません」

「最近では岡山で勝ったチームがチャンピオンになれないというジンクスもあります。ジンクスというよりも、今のサクセスウエイトのレギュレーションでは必然だと思っています。最初にウエイトを積んだチームが(第7戦の)オートポリスまでそれを降ろせないというのは、やはり不利なんですよね」

「ただ、そのハンデを背負ってでもチャンピオンを獲りにいけるように頑張りたいです」

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みんなのコメント

3件
  • big********
    同じことはホンダのスタンレーやアステモ、日産のマレリにも言えるんじゃないかな。
    どちらもメーカーワークスではないけど、本家よりも結果を残している。
    今シーズンはauが確かにリードしているけど、このまま終わるわけがない。
  • 葛葉恭次
    欠片ほどもドラゴンボールを理解できてないニワカで草
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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