トヨタの新型「カローラ・クロス」の人気について、今尾直樹が考えた。
カローラ大躍進!
日本自動車販売協会連合会が毎月発表している国内の販売台数「乗用車ブランド通称名別順位」の2022年1月は、1位ヤリス、2位カローラ、3位ルーミーだった。さらにアクア、ライズと、あいかわらずトヨタが5位まで独占している。昨年1月は、1位ヤリス、2位ルーミーで、アルファード、ハリアーと続き、カローラは5位だった。1年で5位から2位へ。カローラ躍進の陰になにがあったのか?
そう。昨年9月にカローラ・クロスが発売されたのです。このカローラ初のSUVがカローラ・シリーズの数字を押し上げた。カローラ・クロスの月販基準台数は4400台。去年1月のカローラの販売台数は7773台で、前年比91.7%と新車効果が薄れ始めていた。そこに援軍が加わり、1万2671台、前年比163%という好成績につながったのである。
おなじカローラとはいえ、完全別ボディのSUVまで、ひとまとめにすることもないのでは? という声もありそうだけれど、1位のヤリスもヤリス・クロス込みの数字で、別々にして発表したからといってGDPの統計データが変わるわけでなし。新型コロナのパンデミックと半導体不足のなかで、このような結果を出しているのだから、関係者、たずさわるみなさんの努力、奮闘たるや、たいへんなものであるにちがいない。
では、カローラ・クロスはなぜ売れているのか? 先般、短時間ながら試乗したので、筆者なりの意見を開陳したい。聞いてやってください。といっても、ごく平凡なものであります。製品としての完成度がメチャクチャ高い!
扱いやすいボディ
簡単にカローラ・クロスについておさらいしておくと、いうまでもなくカローラ・ベースのSUVである。ただし、ボディ・サイズは全長×全幅×全高=4490×1825×1620mmと、カローラ・セダンより5mmだけ短く、80mm幅広くて、185mm背が高い。ホイールベース2640mmはセダンと共通だ。
ちなみに海外版のカローラ・セダンは2700mmと、ちょっとだけ長い。国内向けのカローラは全幅もちょっとだけナローにして、コンパクトなボディをわざわざあつらえている。それほど、トヨタというのはサイズにこだわるメーカーなのだ。
そのトヨタがカローラ・クロスをグローバルと同じサイズにしているのは、全高の高いクルマをわざわざ選ぶお客さんなわけだし、そもそもSUVはユーザーの年齢がセダン系より若いということもあるのだろう。
実際、全幅1.8mを超えているといっても、カローラ・クロスは扱いやすい。狭いところには、正直行っておりませんが、たぶん、まちがいない。「使いやすい」と書いて、変換キー、って最近のPCにはついていませんが、を押すと、「カローラ・クロスな」と、出そうなほどである。
筆者が感心したのが、着座位置である。開発担当者のお話によれば、セダン比で55mm高い位置にある。おかげで、お尻をさほど落とす必要がないし、全高がセダンより200mm弱高いということは、その分、鴨居も高いということで、腰をかがめる必要もない。だから、よっこらしょ、といわなくても、イージーに乗り降りできる。
55mm高い分、アイ・ポイントも高くなり、55mmなんて6cmにも満たないわけだけれど、ちょうど下駄を履いたときように背が高くなって、まことに気分がよいのだ。そうそう。ヘッド・ルームが広いことも、気分のよさにつながっている。
完成度の高い商品
スターターを押しても、計器盤が点灯するだけで、静かなままなのはハイブリッドだから、である。試乗車は、1.8リッターのガソリン+電気モーターという、世界でもっとも量産されているハイブリッド・システムの、Zという最上級グレードのFWD(前輪駆動)だ。カローラ・クロスにはハイブリッドとガソリンの1.8リッターがあり、ハイブリッドにのみ、後輪をモーターで駆動する4WD、E-Fourもある。筆者はどちらにも試乗していないので、あるということのみお伝えしておきます。
スターターを押しても、計器盤が点灯するだけで、静かなまま、ウンともスンともいわないのはハイブリッドだから、というところに話を戻すと、なかなかこれに私は慣れない。計器盤で確認すると、電池は半分ぐらいしかない。いや、半分も残っている、と考えるべきか。スタートはモーターだけで走り始める。EV走行なので、とっても静かである。なかなか私は慣れないので、電気エネルギーが少ないため、すぐさまガソリン・エンジンが始動すると、ホッとしたりする。
それにしても最近のトヨタのハイブリッドは静かである。エンジンが始動しても、高回転まで回さない限り、存在を隠しているかのごとくである。その代わり、もちろん路面にもよるけれど、ロード・ノイズ、風切り音が大きく感じる。
高速に上がって、100km巡航は2000rpmぐらいか、とタコメーターを確認していたら、エンジンが動いていない! 先行車について走っていたら、いつのまにか減速していて、速度が67km/hに落ちていた。そうするとモーターだけの走行に切り替わり、80km/hを超えるとエンジンが再始動し、再始動したかと思えば、あ、また休む。を繰り返す。
EVモードのときは、当たり前だけれど、EVのように静かで、トヨタ・ハイブリッド・システムの大きな魅力になっている。その分、前述したように、風切り音とロード・ノイズがちょっと気になる。この騒音と、1.8リッター・エンジンを高回転まで回したときの色気のない音は弱点ともいえるけれど、色気のない音は、エンジンを高回転まで回さないようにするだけで回避できる。
着座位置がセダンより55mm高いことは、気分のよさだけでなくて、視界のよさにもつながっていて、いや、視界のよさが気分のよさにつながっているのか、運転しやすくもある。運転しやすいということは気分のよさにもつながっている。つまりですね、カローラをクロスオーバーSUV化したことがドライバーの気分をよくしているのである。
最低地上高はセダンより30mm高いだけだけれど、たかが30mm、されど30mmである。たとえば……、と雪の日を想像してみる。カローラ・セダンだったら積雪が160mmでドアが開かなくなるかもしれない。カローラ・クロスだったら、心配ご無用だ。最低地上高が160mmあるから。これが雪ではなくて、水深だったら、もっとありがたいことになる可能性も大いにある。
自動車の場合、全高が高いことのマイナスは重心が高くなることで、重心が高いと、ドライバーはなんとなく不安を抱く。ところがカローラ・クロスは、乗用車とほとんど同じようにふるまう。下駄を履いているのに、スニーカーを履いているみたいな感覚なのだ。してみると、下駄型のスニーカー、というので特許をとれるかもしれない……。スニーカー型の下駄はダメだと思うけど。
ということはさておき、カローラ・クロスには乗り心地のよさにもたまげた。ひょっとしたら、記憶のなかのカローラ・セダンより、やさしくて快適な気もする。タイヤの硬さが強調されていない、というか……。
試乗車のZという最上級グレードは、ほかのグレードより1インチ径の大きな18インチ仕様になっている。タイヤ・サイズは225/50で、17インチ仕様の215/60より、1サイズ太くて、より扁平だ。つまり、タイヤが細くて扁平率が低い17インチ仕様のほうが、バネ下も軽いし、18インチより乗り心地面ではよりよいことが予想される。あくまで一般論ですけれど。
申し上げたかったのは、18インチでも、ファミリー・カーとして快適な乗り心地を実現しているということで、まとめると、カローラ・クロスは完成度が高い商品なのである。
地道な努力
では、なぜ、トヨタの開発陣はカローラ・シリーズ初のSUVにして、いきなりこのように完成度の高いクルマを生み出せたのか? 筆者が書きたかったのは、じつはここからなのです。長くなって恐縮ですけれど、すぐ終わります。
それは、カローラ・クロスという名前の通り、カローラとプラットフォームを共有しているから。なのだけれど、もうちょっと細かくいうと、このカローラのプラットフォーム、GA-C(Global Architecture-Compact)は2015年登場の現行4代目プリウスで登場し、その後、C-HRを経て、カローラに採用されている。カローラの国内発表は2019年だから、時間的な余裕があったことになる。
しかも、カローラ・クロスの前に、2016年12月に発売されたC-HRがあった。このC-HRの経験が大きく寄与したのである。もちろんこれは、ご存じの方はすでにご存じのごとくでありまして、筆者はたまたまちょっと前に知ったに過ぎないのですけれど。
カローラ・クロスのプラットフォームは、基本的には他のGA-Cプラットフォームと同じで、フロア自体を上げている。プラス30mmの最低地上高は、「サスペンション・メンバー」といわれるところで嵩上げしている。サスペンションはショック・アブソーバーの形状が異なるという。
「C-HR(のノウハウ)があるものですから、それでつくれたところもある」というのは、カローラ・クロスの開発担当者の証言だ。
「でも、C-HRのほうが少しリア・シートが低く、クーペっぽくしている。(カローラ・クロスは)C-HRよりリアは30~40mm高い。ですから、後ろに乗っても見渡しやすい」
じつはこれ、2021年11月に横浜みなとみらいで開かれたトヨタ・オールラインアップ試乗会のときに立ち話でうかがったことである。この時点で、納車は半年待ち。5万台もの受注を抱えているということだった。
セダンが売れなくなりますね。と筆者がお訊ねすると、「日本ではセダンよりツーリングの方が売れています。ツーリングが月4400台ぐらい。カローラ・シリーズのなかではツーリングとクロスがボリューム的にはメイン」で、セダンとハッチバックは、それぞれ半分ぐらいをちょっと切るぐらいの、1000台から1500台ぐらいの販売台数で、このとき担当者の方がおっしゃった好調な数字が2022年1月も続いている。
ライバルは、やっぱりヤリス・クロスですか?
「トヨタのラインナップでいくと、RAV4とヤリス・クロスの間になります。カニバリズムがゼロとはいいませんが、やっぱりRAV4だとちょっと大きい、ヤリス・クロスだとちょっと小さいよね、という、そのぽっかり空いているところ。それが意外と広いので、けっこう受注が取れているのかなと。C-HRがあったんですけど、デザイン重視で、ユーティリティ的には……」
次のC-HRは、もうないですね、きっと。
「いや、なかなか僕の口からは……。ユーティリティリティだけではなくて、デザインを求められている方もいらっしゃるので」
この開発担当者はC-HR、プリウス、カローラ、全部見ておられるということで、そのような責任ある方に無礼千万な質問をさせていただきました。
カローラ・クロスのハードウェア面でつけ加えておくと、「車重がちょっと重くなった分、デフのギア比を1段、ロー・ギアードにして、走りの出だしに重さを感じさせないような工夫」している。そして、大きな変更はないけれど、ハイブリッドに関しては、「加減速したときのリニア感を、しっかりレスポンスよくするというのは日々」やっておられるという。
もうひとつ、価格についても質問した。試乗したハイブリッドのZで299万円。それのE-Fourだと319万9000円。カローラで、ですよ、と私。
「1番安いところは199万円から始まっていますし、売れ線はハイブリッドの、4駆というよりは、FFの、250万から300万円のあいだです」
クルマって、消費者物価指数の調査項目には入ってないんですよね。じつはこれが、つねづね筆者が国産車メーカーの方に投げかけたかった質問だった。最近の国産車の値上がりぶりはすさまじいものがある。カローラの開発担当者の方のお返事は、さすがカローラの開発担当者だった。
「おっしゃるように、日本も所得自体が伸びていないなか、クルマって相対的に高くなっている」
僕の感覚だと2倍です。
「おっしゃる通りのところもあります」
でも、売れてるんですからね。じつは購買力がある、ともいえる。
「それがいま、買い方として一気にではなくて、残価設定で、3年間リースということで、そうするとカローラ・クロスだとは月々3万から4万円。一番安いのは、2万7500円というのがあるんですけど、それで保険も含めてまかなえる。という買い方がどんどん増えてきています。イニシャル・コストが300万円、カローラ・クラスで? といわれると、ぼくらもエ? と……」
それにしても、カローラ、完全復活ですね。
「ありがとうございます」
そのとき、会場の一角に展示してあった、2022年に発売といわれている新型EVのbZ4Xが筆者の目にとまり、思わず、こうつぶやいた。ああ、次にあいつがきちゃうか。
「あ、でも、ちょっと大きい。RAV4ぐらいの大きさになってますので」
あっちはインターナショナル・サイズということですね。
「おっしゃるように、国によって違いますので。カローラはアメリカではエントリー・クラス、日本でいうとヤリスぐらいの大きさ感で見られていて、どっちかというと、カムリなんかがカローラみたいな感じに受けとられているかもしれない。大きさのとらえ方が少し違ってくる。やっぱり、このクルマもそうですけど、グローバルでの役割を見ながらつくっているので」
あと、どれぐらいハイブリッドの命運はあるとお考えですか?
「ああ。2030年とか2035年が、ある意味、ひと区切りという目線かもしれませんが、まず、われわれはいかに幅広く選択肢を構えるかということだと思います。メーカーだけの思いだけではなくて、お客さまの選択肢はなんだということで、僕らはまさにハイブリッドがインフラ的にも整っていますので、主流だと思っています。ただ、水素とか選択肢は準備していかないと。慌てないように」
石橋を叩いても渡らない。ともいわれるトヨタの象徴たるカローラは、「1966 年の誕生以来、常にお客様の期待を超える『プラスα』の思想を基に進化を重ね、これまでのグローバル累計販売台数は 5,000万台超」だそうである(「」内はカローラ・クロスのプレス発表からの引用)。5000万台到達は2021年7月。同年11月にはカローラの5000万台達成特別仕様車が発売されている。
ウィキペディアによると、「トヨタ・カローラは1974年に車名別世界生産台数1位、1997年には累計販売台数でフォルクスワーゲン・ビートルを抜いてギネス世界記録を樹立。現在も年間世界販売台数1位を記録し続ける、トヨタが世界に誇れる自動車でありブランド(商標)である。2013年には世界生産台数累計4000万台生産を達成したが、これはトヨタが創業以来生産した自動車の4台に1台がカローラであり、また初代登場以来世界で10秒に1台カローラが生産されている計算」だという。
いま、この瞬間も、世界のどこかで売れている。カローラにどこか特別な技術が詰まっているわけではない。あるのはトヨタイズム。日々、積み上げられた地道な努力にペコリと頭を下げずにはいられない。
文・今尾直樹
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