全20戦で争われたロードレース世界選手権の2022年シーズンが幕を閉じ、オフシーズンに日本の3メーカーが恒例のMotoGP取材会を実施した。スズキでは河内健テクニカルマネージャーと佐原伸一プロジェクトリーダーにインタビューを行い、ジョアン・ミル、アレックス・リンスが戦ったチーム・スズキ・エクスター、そしてMotoGPマシンのスズキGSX-RRについて聞いた。
2022年限りでMotoGPから撤退することとなったが、最終戦は優勝で締め括るなど話題を集めたスズキのラストシーズンはどのようなものだったのだろうか。前編は“マシン”、後編は“ライダー”にスポットを当てた。
「勝ちパターンが少なかった」ヤマハYZR-M1の課題と2023年型の展望/MotoGP取材会
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まず、どのメーカーでも同一条件となるが、コロナ禍の影響でエンジン開発が凍結されていたため2年間エンジン仕様の変更はできなかった。2022年はそれが解かれ、スズキGSX-RRのエンジンは大きく進化したという。
「2022年はエンジン開発凍結が解禁となったので、少し大きなステップで仕様を変えることができました。耐久性を上げて、回転数が少し上げられました」と河内健テクニカルマネージャーは語る。
数年前にも馬力が向上する仕様はできていたのだが、レースライダーによるテストの結果、コントロール性が十分でないと判断されたため実戦採用はしていなかった。2022年は「その仕様をブラッシュアップして採用できました」と馬力を上げたことを語った。このエンジンの仕様変更も寄与して、最高速を上げられたことがレース中のバトルにも大きく影響した。
「決勝レース中にポジションをキープしやすくなり、レースの組み立てはかなり楽になりました。予選順位が良くなかった時など、レースで後方からの追い上げを強いられる場合に、以前はコーナーで抜いてストレートで抜き返されてを何度も繰り返しているうちに上位が逃げてしまうパターンがありましたが、2022年はストレートでも順位をキープでき、コーナー区間で前のライダーに追いつけるので、すごく大きい要素ではありましたね」
逆に「これまで燃費は比較的余裕があったのですが、回転数を上げたことなどによって燃費が今までよりは悪くなりました。でも、悪くなったといってもまだコントロール下にはあったと思っています」と少しネガティブな部分も発生したという。
次に、目に見えるパーツ類での効果について聞いた。スズキは通常黒いホイールを使用するが、フロントに白いホイールを装備していたラウンドがあった。他メーカーでもホイールをグランプリごとに変更する様子が見られたが、どのような狙いがあったのだろうか。
「放熱を促進して少しでもタイヤを冷やすために白いホイールを使用したことがありました。決勝中のフロントタイヤの内圧の上昇は走行性能にけっこう影響するものですから、それをなるべく抑えたくてコンディションによっては使っていましたね。うちが発明したわけではなくて、部品メーカーさんが提案してくれたんですけどね」
佐原伸一プロジェクトリーダーは続けて「ダクトが付いているタイプのフロントフェンダーも同じような考えで使うことがありました。すごく冷えるというものでもありませんが、データ上で若干の効果が見られたので、アレックスが決勝で2回、ジョアンが1回使いました」と説明を加えた。
さらに第16戦日本GPでは、新パーツとしてリヤウイングを登場させた。当初はワイルドカード参戦予定だった津田拓也(ミルの代役での出場に変更)が使用するはずが、リンスがフリー走行でテスト。しかし、決勝では使用されることはなく、以降も登場しなかった。
「ドゥカティが試していたので、どのような効果があるのか開発部隊で解析してみたところ、どうもブレーキの安定性向上に効きそうだとなり、風洞テストでもやっぱりそうだとなって、試しに走らせてみました」とドゥカティへの意識もあったと河内氏。
「アレックスの評価としては、ブレーキングでリヤが少し安定すると。でもそれが、場合によってはコントロールしづらい。効果はあまり大きくないとアレックスは言っていました」
エンジンやホイール、カウル類など様々な面でマシンを進化させられることに成功したスズキ。ミルとリンスの両者がその改良されたマシンで戦ったが、実は空力パーツに違いがあった。
「(第9戦後、6月の)カタルーニャテストに、日本のテストチームで確認された2種類のカウルを持って行ったんですね。仮にAとBとして、僕らの予想はテストライダーの津田の評価や事前の解析、実験結果などからAが選ばれるだろうと考えてテストに臨みました」
このテストはシーズン後半のカウル仕様を決める重要なものであった(レギュレーションによってシーズン中のカウルのアップデートは各ライダー1回だけ認められている)。しかし、リンスが第9戦カタルーニャGP決勝スタート直後のアクシデントで怪我をしてしまったため、このテストにはミルしか参加していなかった。
「ジョアンに比較させたら、Bの方が良いって言うんですよ。何回か乗せてもやっぱりBだって言うんで、Bで行こうとなりました。アレックスはテストの機会がなかったので、津田の評価や、ジョアンの走行データを見ながら、ジョアンの選択とは違ってしまいますが、アレックス用には我々がもともと本命と考えていたAを選択しました」
「(第15戦後、9月の)ミサノテストでもう一回アレックスがカウルを評価する機会があったんですね。AとBを試したら、アレックスはAが良いって言ってたんで、選択は間違いじゃなくて良かったなと安心しました」
その空力パーツはウイリーを抑制しながらも、最高速やハンドリングがなるべく犠牲にならないように、設計された物だったという。そのため、第11戦からミルとリンスは別々の新しいカウルを使うことになったのだ。
マシン全体がブラッシュアップされ、さらに2名が2パターンのカウルで戦ったスズキ。双方がそれぞれの選択をしたが、なぜこのような選択になったのだろうか。前編ではGSX-RRというマシンをメインにフォーカスしたが、後編ではそれに関わるミルとリンスのライディングスタイルや性格の違いについて触れていく。
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