大ヒットモデル マカンシリーズに「GTS」が加わり、ラインナップが完成した。このモデルは価格的にはマカンSとマカンターボの間を埋めるポジションだが、それだけではなく実力と人気も相当に高い。(Motor Magazine 2020年12月号より)
ポルシェの屋台骨を支えるミッドサイズSUV
ここのところのポルシェの業績は右肩上がりが続き、20199年は前年比+10%で28万台を売るまでになった。販売数が4桁に達するトヨタのようなフルラインメーカーと比べれば少ないが、少数精鋭のスポーツカーブランドとしては立派な数値だ。
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その好調ぶりを支えているのが、02年デビューの初代カイエンから展開の始まったSUVモデル。13年末には弟分となるミッドサイズのマカンが加わり、今ではポルシェの販売台数のざっくり3分の2を、この2台のSUVが受け持っている。
中でもマカンは、サイズや価格の手頃さもありもっとも人気が高い。デビューからすでに6年が経過していることを考えると驚異的だが、ポルシェのミッドサイズSUVという存在自体がもはや孤高で代わる物がないし、18年にはエンジンの仕様変更に加えて、新世代のインフォテインメントシステムであるPCMの採用やADASのアップデート、サスペンション設定の見直しといった大掛かりな改良を、内外装のフェイスリフトと共に受けるなど、鮮度を保つ努力も怠ってはいない。
ところで、ポルシェは用意の整ったパワーユニット及びグレードを順次追加し、最終的に各モデルのラインナップを完成させる展開方法を続けている。最量販のマカンも例外ではなく、マイナーチェンジ後は245psの2L直4ターボ搭載の「マカン」、354psの3L V6ターボを搭載する「マカンS」の受注を順次開始。
その後、19年10月に最強力版となる440psの2.9L V6ツインターボを積む「マカンターボ」が、さらに、最終バリエーションと目される「マカンGTS」は20年1月から予約受注が始まっている。
2.9L V6ツインターボの搭載で出力、トルクが向上
予約受注が始まった992型911GTSを筆頭に、今やポルシェのラインナップすべてに設定されるGTS。これはポルシェがクルマづくりで大切にしているグランドツーリングカーとしての素養を犠牲にすることなく、走りに関連する装備や足まわりをよりブラッシュアップしてスポーツ性まで高めたモデルだ。
動力性能での最強力版は、BEVのタイカンにも使うように「ターボ」という名前が絶対的な威光を放っているのだが、GTSはパワー第一主義ではなく、スポーツモデルとしての総合性能を巧みに調律している。そのためマカンのみならずカイエンやパナメーラでも人気が高い。今回、その新型マカンGTSを日本の道で試す運びとなった。
新型マカンGTSでもっとも注目すべきポイントはエンジンだ。マカンはマイナーチェンジ前も現行モデルも3LのV6ツインターボを搭載しているが、新型GTSではピストンストロークを89mmから86mmへと短縮することでさらなる高回転/高出力を目指した2.9L V6ツインターボに置き換わっている。その結果、現行マカンが354ps/480Nmなのに対し、GTSは380ps/520Nmを発生。これはマイナーチェンジ前のGTSに対して20ps/20Nmの上乗せである。
ちなみに現在のマカンターボも、同じく2.9L V6ツインターボを搭載し、出力は440ps/550Nm。マイナーチェンジ前の3.6L V6ツインターボから大幅に排気量ダウンしながらも、出力は増強させているあたりが最強力版の「ターボ」ならでは。
今後さらにパワフルなマイナーチェンジ前のターボパフォーマンスのようなモデルが登場する可能性も考えられるが、ひとまずはこの新型GTSの登場によって、ラインナップは完結を見たのである。
低回転から大トルクを発生走り出しから動きは軽快
ステアリングホイール右側、インパネから生えたシルバーのノブを捻ってエンジンを始動する。安易にプッシュボタン式に流れないのはポルシェのこだわり。始動直後に過剰な吠え声を上げることもなくV6エンジンは粛々と回り始めた。7速DCT(PDK)をDレンジに入れて走り出す。
ポルシェのV6エンジンは、2基のツインスクロールターボチャージャーを含む排気系をバンクの内側に置くセンターターボレイアウトを採用している。他ブランドではホットインサイドとも呼ばれるこの方式は、タービンに至るまでの排気経路を短くできるためレスポンスに優れるのが特徴。
実際の走行フィールは低速域からアクセルのつきが抜群に良い。520Nmという大トルクを1750rpmという低い回転域から発生させ、走り出しから2トン近い車重を意識させない軽やかな所作を楽しませてくれた。
さらに、これはGTSだけではないが、7速DCTのマナーの良さはいつ乗っても印象的だ。クラッチのミートのさせ方を入念にチューニングしているのだろう、低速域でもギクシャクするようなことは皆無で、トルクコンバーター式ATと比べても遜色のない滑らかな乗り味を実現していた。
マカンGTSの乗り心地も特筆に値する部分である
試乗車はステアリングホイール右内側のロータリースイッチで走行モードを「ノーマル」「スポーツ」「スポーツ+」「インディビデュアル」の4パターンに切り替えられる上に、中央のスポーツレスポンススイッチを押すと20秒間オーバーブーストとなるスポーツクロノパッケージを装備していた。
ワインディング路に入ったところでスポーツ+に移行すると、排気音がグンと野太く、アクセルペダルやシフトレスポンスはさらに鋭くなり、標準装備のPASMもタイトなセッティングとなった。
4000rpmから上の高回転域はまさにGTSの本領発揮という感じ。380psのピークパワーは6800rpmのリミット直前まで維持されるようだが、トルクの落ち込みなど一切感じさせずに直線的にフケ上がって行く様はなんとも刺激的だ。
コーナリングでの軽快な動きという点では、足まわりのセットがもう少しマイルドで挙動変化も大きいマカンやマカンSの方がわかりやすいかも知れない。スポーツ+でのGTSはボディの動きは制約され、代わりにガシッとした接地感が際立って来る。この逞しさこそが魅力と言えよう。
マカンの電子制御式4WDは通常走行時、後輪により多くのトルクを配分するセッティングだ。今回乗ったGTSはその上に、左右後輪のトルク配分も制御するオプションのポルシェベクトリングプラスを装備していた。
それらの効能か、高速ターンではアクセルペダルを踏み増すほどにライントレース能力が高まる感じ。細かいコーナーが続く場面では、持ち前のエンジントルクと、ポルシェならではの操作系の剛性の高さによって、ここでも遅れのない軽快な動きが楽しめた。
もうひとつ、乗り心地の良さも特筆に値する部分である。PASMがハードになるスポーツ+では相応な硬さも感じさせるが、減衰性に優れ、入力を一発でいなしてくれるため不快さはない。標準車から車高をローダウンさせたスポーティなセッティングとは思えない仕上がりだ。ノーマルモードではこれがさらに明確にマイルドになり極めて快適だし、もう少し締まった感じのスポーツモードにも十分な日常性が感じられた。
マカンGTSの最大の魅力がシリーズ中でもっともスポーティな走りのテイストにあるのは疑いようがないが、もうひとつ、外観を引き締めるスポーツデザインパッケージや可変制御式サスペンションなどを標準装備していることでお値頃感がある点も、無視できないチャームポイントなのである。(文:石川芳雄)
■ポルシェ マカンGTS主要諸元
●全長×全幅×全高=4686×1926×1609mm
●ホイールベース=2807mm
●車両重量=1910kg(EU準拠)
●エンジン= V6DOHCツインターボ
●総排気量=2894cc
●最高出力=380ps/5200-6700rpm
●最大トルク=520Nm/1750-5000rpm
●駆動方式=4WD
●トランスミッション=7速DCT(PDK)
●車両価格(税込)=1062万円
[ アルバム : ポルシェ マカンGTS はオリジナルサイトでご覧ください ]
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