現在位置: carview! > ニュース > 業界ニュース > 【ヒットの法則209】クライスラー300C SRT8は異次元のハイパフォーマンスサルーン

ここから本文です

【ヒットの法則209】クライスラー300C SRT8は異次元のハイパフォーマンスサルーン

掲載 更新 4
【ヒットの法則209】クライスラー300C SRT8は異次元のハイパフォーマンスサルーン

2006年、迫力のあるアメリカンサルーンとして人気のあったクライスラー300Cに高性能バージョン「SRT8」が導入されている。クライスラーのレーシングテクノロジーから生まれたモデルで、エンジンが6.1Lに排気量アップされただけだと思っていたら大間違い、5.7L HEMIとはまったく別のハイパフォーマンスマシンだった。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2006年8月号より)

大排気量エンジン時代がまさか到来するとは
のんきに喜んでいていいものかどうか。その是非は別にして、ともかく私は今、とても幸せである。そういえば我が家のガレージにも、5.7Lと6.75Lがいたっけ。マルチシリンダー大排気量から、足の指先ほどの力をもらってクルーズする心地良さったら。これもまた、ハイパフォーマンスの一現象ではないか。もちろん、アクセルを踏み込めば……。

【くるま問答】交通取締りで警察官がする質問「過去1年以内に違反をしたことは?」の意図とは!

大排気量といえば、アメリカ車の常套句であった。ところが今、アメリカンブランドは未曾有の危機に瀕している。原油価格がさらに高騰すればアメリカ人のアメリカ車離れも一層進み、相当にやばい状況になるだろう。

本音を言えば、アメリカ市場のことなど知ったこっちゃないし、向こうでフツウの市民が乗るクルマにもまるで興味もない。が、隠れアメ車ファンとしては、アメリカンブランドの没落に少々危惧をせざるをえない。元気な大エンジンのアメ車をこの先、いつまで楽しみにできるのか……。せめて海外市場でガツンと存在感を示せるブランドだけでも残って欲しいものだ。

これまでローカリズム一辺倒だったアメ車の中で、今、本当の意味でグローバル化に成功しているクルマを私は3台知っている。シボレーコルベットとハマーシリーズ、そしてクライスラー300Cシリーズだ。

これらはすべて、見るからにアメリカンである。ヨーロッパにもない、アジアにもない、いわば赤と黄のハンバーガーみたいなもの。自国内に圧倒的なファンを抱え、その余勢をかって海外市場に躍り出た。ローカルを見極めることで本当のグローバルが見えてくるという好例であろう。

中でもクライスラー300Cの成功には目を見張る。他の2つが、大量にばら撒くことの叶わない特殊なモデルであるのに対し、300Cは言わば大衆車。国内のヒットはもとより、その生産拠点をヨーロッパやオセアニアなど海外にも求めて世界中での拡販を狙う。目指せ、自動車界のマック、ケンタッキーというわけだ。

絶妙な味付けのチューニング
なあに所詮中身は型落ちのベンツでしょ、とシタリ顔の方も多いと思うが、コトはそう単純ではない。確かに基本設計たるプラットフォームは旧型Eクラスなれど、すべてが新デザインであり、例のティップシフトにしてもクライスラーでやり直したものだ。だから、上手にローカル&グローバルなクルマが出来上がっている。

私も、その見てくれに飛びついたひとりだ。5.7LのHEMIエンジンという字面には、マニアのような特別な想いなどない。ただ、あのスタイルと、意外なほどマトモで身体に馴染む乗り味に感動したから、すぐに手に入れた。オドメーターは1年ですでに2万km近くを示している。

その日本発売当初からわかっていたのが、3.5L V6=バーガー、5.7L V8=ダブルバーガーという日本メニューに、近い将来、ビッグマックたる6.1L V8が加わるということだった。

その名もSRT8。ストリート・アンド・レーシング・テクノロジーの略ということからもわかるとおり、クライスラーにおけるロードゴーイングハイパフォーマンスカーの統一呼称である。規模の大小は別にして言ってしまえば、メルセデス・ベンツのAMG的な存在だ。300CのSRTバージョン、日本上陸を半分心待ち、半分意識外にしていたのだが、こうして日本のナンバーが付けば付いたで、乗りたくなるのがクルマ好きの悲しい性分である愛車が色あせるかも知れぬことを承知で、ノコノコと取材に赴いた。

見た目の雰囲気からして、ノーマルとは絶妙に異なる。オーラの質が違うとでも言おうか。濃くて、力強い。バンパーやドアミラー、ドアハンドルなどのクロームメッキパーツが消え、ボディ同色となっているだけで随分と違う、と思いきや、大径ワイドタイヤを収めるべくリップ形式のオーバーフェンダーが付いている。これがフェンダーのふくらみを強調していて、よりワイルドに見せているのだ。鍛造アルミの輝きもいい。

たまらずエンジンフードを開けてみる。立派なカバーが付いているではないか。ボアアップの+400ccは伊達じゃない、ということか。

日本仕様のSRT8は右ハンドルのみである。要するに、今日本に正規で入ってくる300Cはすべて、ヨーロッパ生産ということになる。生産国にこだわる意味がなくなって久しい。

ドアを開けて真っ先に飛び込んでくるのがバケットタイプのスポーツシートだ。海外のモーターショーで初めて見たとき、これは300Cに似合わない、と思っていたのだが、実際に座ってみると、国産スポーツカーのようにわき腹を締め付けられ、デブさ加減をののしられた気分になるようなこともなく、割とイージーに収まった。

インテリアもハードコアな印象だ。ウッドが取り払われ、代わりにシフトレバーやハンドル上部、インナーグリップなどにはレザーが奢られた。その他、シフトベースのトリムがノーマルとは異なっている。速度計も260ではなく300をマックスとして指している。高性能の証、だろう。

世界中で通用する高性能を目指した
エンジンを掛けた。その一瞬のサウンドは、2万km走ったマイカーの方が猛々しい。だが、そう思うのも束の間、SRT8の、アイドリング時における意味深で獰猛な響きには負ける。いかにもチューニングカー的だ。

街中でのマナーには感心するしかなかった。20インチタイヤだから乗り心地もさぞかし硬くなり、ノーマルでも少し感じるわなわな感が増幅されていると思いきや……。

専用ダンパーやブッシュの性能がノーマルよりも段違いにいいのだろう。つんつんとダイレクトな反応を感じるが、決して硬すぎるわけでもなく、どちらかと言えば心地良い突き上げだ。肉厚のより薄いタイヤの方がダイレクトに反応する分、足まわりの性能を計算どおりにうまく引き出し、結果的により素晴らしい乗り心地を見せることがままある。SRT8にもそれが当てはまるということだろう。

さらに少しドライブした後に気付くのが、乗り味が引き締まっているという点だ。V8ノーマルモデルよりも、ギュッと実の詰った印象で、そのことがクルマの大きさを精神的に小さく思わせる。300Cとて、慣れればそれほど扱いに困らないというのが本音だが、SRT8なら一層、ラク。

同じことが高速走行でも言える。フロントサスが高性能タイヤに負けることなく、常に反応がダイレクトに返ってくるので不安がない。ノーマルでは若干だぶつくが、そういうことも皆無。突然のわだちなどには反応しきれなこともあるが、それは愛嬌。コントロール性に不満はない。

まるでメルセデス・ベンツのように、だがアメリカのパッケージで走る。高い速度域で多少、ステアリングフィールが軽くなるのが気になったぐらいだ。

そして。ハイライトは、何と言ってもエンジンフィールだ。3000rpmを超えて5000rpmを上回るまで続く、力強くかつエンスーなフィールは、心地のいい鳥肌ものである。大量の空気を吸い込み、そして吐き出す。ただそれだけなのに、この官能ぶり。クルマに常に力が滾(たぎ)っているから余計に大きさを感じさせない。すさまじい加速だ。しかもブレンボ製ブレーキシステムの自然で強力な制動力があるから、なおさらクルマの大きさを感じる暇などない。

クライスラーの目指したハイパフォーマンスとは、すなわち最新アメリカン大排気量V8が提供する古典的だがよく調教されたエンジンパワーとフィーリングを、世界中どこの道でも通用するシャシ性能で提供すること、ではなかったか。そう思えば、ベースとなった300Cの成功も理解できるし、同じくビッグマックを持つコルベットのやり方にも得心がいく。

V8パワーといったローカルを大切にしながら、シャキっとした足まわりやブレーキといったグローバルに必要な条件をきっちり見極めて融合する。それがアメリカンハイパフォーマンスの生き残る道だったとしても、私は大歓迎だ。アメリカ産牛肉を無理して食べずとも、国際基準にあった材料でアメリカの料理を楽しむことは、いくらでもできるはず。要は、調理方法を間違わなければいいだけの話である。(文:西川淳/Motor Magazine 2006年8月号より)



クライスラー300C SRT8 主要諸元
●全長×全幅×全高:5000×1910×1480mm
●ホイールベース:3050mm
●車両重量:1910kg
●エンジン:V8OHV
●排気量:6059cc
●最高出力:431ps/6000pm
●最大トルク:569Nm/4800pm
●トランスミッション:5速AT
●駆動方式:FR
●0→100km/h加速:5.0秒(US参考値)
●車両価格:726万6000円(2006年)

[ アルバム : クライスラー300C SRT8 はオリジナルサイトでご覧ください ]

こんな記事も読まれています

【新車価格情報】輸入車 デビュー&改良情報(ダイジェスト)※2024年4月20日時点
【新車価格情報】輸入車 デビュー&改良情報(ダイジェスト)※2024年4月20日時点
カー・アンド・ドライバー
【ゴールデンウィーク渋滞予測2024】混雑を避けて移動したい! 道路別・渋滞予測まとめ
【ゴールデンウィーク渋滞予測2024】混雑を避けて移動したい! 道路別・渋滞予測まとめ
くるくら
最近聞かない「水抜き剤入れますか?」のセリフ! なぜ勧められなくなった? 昔はよく声掛けられたのに…なぜ?
最近聞かない「水抜き剤入れますか?」のセリフ! なぜ勧められなくなった? 昔はよく声掛けられたのに…なぜ?
くるまのニュース
修理代を請求されることはある? 教習所で転倒してしまった場合の責任の所在
修理代を請求されることはある? 教習所で転倒してしまった場合の責任の所在
バイクのニュース
MINIに新種『エースマン』登場、航続406kmのEV…北京モーターショー2024
MINIに新種『エースマン』登場、航続406kmのEV…北京モーターショー2024
レスポンス
GW渋滞、京滋バイパス・阪和道・近畿道・西名阪道・京都縦貫道のピークはいつ?【ゴールデンウィーク渋滞予測2024】
GW渋滞、京滋バイパス・阪和道・近畿道・西名阪道・京都縦貫道のピークはいつ?【ゴールデンウィーク渋滞予測2024】
くるくら
ヨコハマタイヤ 日本のスーパーフォミュラマシンを使った無人自動運転レースにアドバンタイヤを供給
ヨコハマタイヤ 日本のスーパーフォミュラマシンを使った無人自動運転レースにアドバンタイヤを供給
Auto Prove
EVけん引役の米テスラ、4年ぶりの減収減益で“大騒ぎ”[新聞ウォッチ]
EVけん引役の米テスラ、4年ぶりの減収減益で“大騒ぎ”[新聞ウォッチ]
レスポンス
日産ではない日産車? 本格4WD「謎のSUV」発表!新型「パラディン」って? 手掛ける鄭州日産、中国で誕生
日産ではない日産車? 本格4WD「謎のSUV」発表!新型「パラディン」って? 手掛ける鄭州日産、中国で誕生
くるまのニュース
スバル『レガシィ』セダン、2025年春に生産終了へ…電動化への移行を反映
スバル『レガシィ』セダン、2025年春に生産終了へ…電動化への移行を反映
レスポンス
ホンダ・WR-V vs ライバル ~ヤリス クロス/CX-3/クロスビー etc.~
ホンダ・WR-V vs ライバル ~ヤリス クロス/CX-3/クロスビー etc.~
グーネット
日産 リビングと車内がシームレスにつながるNissan ConnectにGoogleを搭載
日産 リビングと車内がシームレスにつながるNissan ConnectにGoogleを搭載
Auto Prove
【MotoGP】MotoGPの人気復活にはシュワンツのような男がいる? 大注目の新人アコスタ、“個性”あるライダーの必要性感じる
【MotoGP】MotoGPの人気復活にはシュワンツのような男がいる? 大注目の新人アコスタ、“個性”あるライダーの必要性感じる
motorsport.com 日本版
最大渋滞40km!? 東北道の「GW渋滞地獄」回避するコツは? 鬼門の「羽生PA」 実はけっこうある「意外と空いてる時間帯」は一体いつなのか
最大渋滞40km!? 東北道の「GW渋滞地獄」回避するコツは? 鬼門の「羽生PA」 実はけっこうある「意外と空いてる時間帯」は一体いつなのか
くるまのニュース
ヤマハの電アシ「PAS SION-U」 低床U型フレーム採用車の2024年モデル発売
ヤマハの電アシ「PAS SION-U」 低床U型フレーム採用車の2024年モデル発売
バイクのニュース
スマート第3のモデルはオフロード電動SUVに、航続550km…北京モーターショー2024に展示予定
スマート第3のモデルはオフロード電動SUVに、航続550km…北京モーターショー2024に展示予定
レスポンス
2シーズン目が始まる「フォーミュラ・ジムカーナ」! 「大学の自動車部対抗競技」をなぜ大企業が支援するのか?
2シーズン目が始まる「フォーミュラ・ジムカーナ」! 「大学の自動車部対抗競技」をなぜ大企業が支援するのか?
WEB CARTOP
ホンダが中国市場に投入する新型EVの「烨(yè:イエ)シリーズ」を発表
ホンダが中国市場に投入する新型EVの「烨(yè:イエ)シリーズ」を発表
カー・アンド・ドライバー

みんなのコメント

4件
  • 前の300Cではなく、今の300を一度ディーラーへ見に行ったことがある。
    いい意味でワルさいっぱいのエクステリアは惹かれるものがあった。これでエンジンがHEMIのV8なら本当に最高!
    ただ、メーターの青いグラデーションだけは子供っぽかった。
  • この車の性能は知らないが、乗っている方々が痛い人確率が異様に高い事は知っている。
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

この記事に出てきたクルマ

新車価格(税込)

398.0582.8万円

新車見積りスタート

中古車本体価格

35.0465.0万円

中古車を検索
300C(セダン)の車買取相場を調べる

査定を依頼する

メーカー
モデル
年式
走行距離

おすすめのニュース

愛車管理はマイカーページで!

登録してお得なクーポンを獲得しよう

マイカー登録をする

おすすめのニュース

おすすめをもっと見る

この記事に出てきたクルマ

新車価格(税込)

398.0582.8万円

新車見積りスタート

中古車本体価格

35.0465.0万円

中古車を検索

あなたにおすすめのサービス

メーカー
モデル
年式
走行距離(km)

新車見積りサービス

店舗に行かずにお家でカンタン新車見積り。まずはネットで地域や希望車種を入力!

新車見積りサービス
都道府県
市区町村