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速度取り締まりの最終兵器が使い物にならない? 可搬式オービス「LSM-300」が“カカシ”化するであろう深いワケ

掲載 更新 116
速度取り締まりの最終兵器が使い物にならない? 可搬式オービス「LSM-300」が“カカシ”化するであろう深いワケ

可搬式オービス「LSM-300」はカカシ?

「新型コロナの外出自粛で交通量が減った。走りやすくなってスピード違反が増えた。可搬式のオービスで神出鬼没に取り締まります」。そんなニュースがぽつぽつあった。用いられる画像、映像はだいたい東京航空計器(以下、TKK)のLSM-300だ。都道府県警察の多くがLSM-300を1台1千万円ほどで購入している。世間は「LSM-300はヤバイぞ」という認識になっているようだ。

可搬式、半可搬式、固定式…新型オービスの種類を写真で見る

しかし! 私はまったく別の見方をしている。どうやらLSM-300は、「ヤバいぞ」と思わせるためのカカシにすぎないようだ。大胆に言ってしまえば、使い物にならず、いずれ姿を消すのではないか。ディープな話をしよう。

1、新型オービス、偽りの大義名分
2、「速度違反金」と取り締まりの民間委託
3、遅れてTKKが「レーザー式」で参戦
4、警察庁がえげつなくTKKをひいき
5、物理的デバイスと戦後初の予算撤回
6、LSM-300は姿を消し、センシスの時代に

1、新型オービス、偽りの大義名分

警察庁は、表立っては2013年6月から「新たな速度違反自動取締装置」の導入へ動きだした。装置的にも運用的にもまさに「新たな」であり、私は「新型オービス」と呼ぶ。可搬式はその一種だ。固定式も含めネットでは「移動オービス」「移動式オービス」と呼ばれる。呼称問題についてはこちらを。 → https://driver-box.yaesu-net.co.jp/new-article/33450/

「通学路、生活道路の速度を抑止して安全を守る」、それが新型オービスの大義名分だ。テレビ・新聞の報道では、児童らの安全を守る「切り札」として紹介されてきた。だが、よく考えてほしい。通学路等の速度を抑止するにはハンプ(かまぼこ型の盛り上がり)や狭さく(頑丈な杭を設けてわざと道路を狭くする)など物理的な方法がある。それらは24時間、365日、速度を抑止し続ける。たまに取り締まりを行うより断然効果的だ。ところがハンプや狭さくのことは一切触れず、可搬式オービスが「切り札」だというのである。絶対おかしい。

2、速度違反金と取り締まりの民間委託

オービスは1970年代の後半に登場してからずっと赤切符の速度違反(現在、一般道路では超過30km/h以上)を取り締まってきた。しかし通学路等はだいたいどこも「ゾーン30」といって制限30km/hだ。従来どおりの運用なら、通学路等を60km/h以上でかっ飛ばす暴走車だけを取り締まる? まさか。当然、青切符の違反(同じく超過30km/h未満)も取り締まるはず。通学路等の安全を大義名分とすることで、オービスを「赤切符の制約」からスムーズに解き放てるのだ。

だがそうすると大問題が生じる。オービスは現場では測定&撮影を行うだけ。後日、写真に映ったナンバーからクルマの持ち主へ呼び出し状を郵送し、違反者を出頭させて取り締まる。ずるずる出頭しない者もいる。身代わり出頭を企む者もいる。定置式(いわゆるネズミ捕り)や追尾式に比べてかなり手間がかかる。

じゃあどうするか。答えはひとつだ。駐車取り締まりと同様、違反者は相手にせずクルマの持ち主から、放置違反金ならぬ「速度違反金」を徴収すればいい。現場での取り締まりは、道端に可搬式オービスを置いて見張るだけとなる。警察官にやらせる必要はない。「限りある警察力は重大犯罪の捜査へ振り向けます」とか言い、速度取り締まりを民間委託する。新たに巨大な市場をつくる。それが本当の狙いに違いない。私はそう読んだ。

3、遅れてTKKが「レーザー式」で参戦

駐車監視員ならぬ「速度監視員」に使わせる可搬式オービスは、「民間の素人が取り締まって大丈夫なのか」と言わせないために、絶対に信頼できる装置でなければならない。警察庁は早くから、スウェーデンの世界的企業、Sensysに目を付けた。のちにある裁判を傍聴してわかったのだが、警察庁は担当者をスウェーデンへ派遣し、2013年12月から翌年4月まで日本国内の各所で非常に念入りな試験をおこなった。Sensysの可搬式(測定方法はトラッキングレーダー式)は日本の従来のオービスと比べて圧倒的に高性能だった。

2014年10~12月、警察庁は新型オービス3種、可搬式と半可搬式と固定式を使って埼玉県で「試行運用」をおこなった。3種も用意したのは「慎重に検討しました」というためのポーズと私は見る。可搬式と固定式はSensys製、半可搬式はオランダのGatso製だった。両社は間もなく合併してSensys Gatso Group(以下、センシス)となった。

さあ、これから通学路等で青切符の違反をどんどん取り締まり「速度抑止の効果は上々だが、違反者を呼び出すやり方は警察の負担が大き過ぎる。駐車違反と同様、違反者ではなく車両の持ち主の責任を問う形にしたい」と言いだすはず。私はわくわく待った。が、2015年は何事もなく過ぎ去った。あれっ? どうしたんだろう。

2016年4~6月、警察庁は埼玉県と岐阜県で「モデル事業」をおこなった。試行運用と同じようなことをなぜまたやるのか。私は情報公開法により3種の契約書等をゲットした。可搬式と固定式はセンシス。なんと半可搬式に突然、日本のオービスの老舗、東京航空計器(TKK)が姿を現した! 私は思った。この鈍重な胴部を三脚に換えれば、まんま可搬式になるじゃないか。

モデル事業が終わるや、実際そのとおりになった。それがLSM-300だ。測定方法は、TKKが得意なループコイル式ではなく、日本では初めて聞く「スキャンレーザー方式」だった。いつの間にそんなものを開発したのだろう。私は驚いた。

4、警察庁がえげつなくTKKをひいき

警察庁は全国の警察に「交通指導だより」を送付してLSM-300を宣伝した。以降、あちこちの警察がぽつぽつとLSM-300を購入し始めた。だいぶ遅れてセンシスの可搬式も「交通指導だより」に載ったが、どういうことなのか、その価格はモデル事業のときの2倍、約2千万円とされた。LSM-300は約1千万円だ。当然ながらセンシスの可搬式は全く売れなかった。

入札方面が得意なマニア氏から私は続々と情報をいただいた。可搬式はセンシスとTKKが競合する形なのに、TKKの購入を前提とするかのような入札条件だったり、不可解な理由を付けてTKKとの随意契約だったり、そういうのがぼろぼろあった。「えげつないひいき」としか見えない。そんなことを地方の警察が独自にやるだろうか。警察庁の中に、天下りポストの関係か「TKK推し」の一派が確かにいる、どうもそう感じられた。

センシスの可搬式は測定部と発光部(フラッシュ)を別の三脚に立てる。TKKは一体型だ。一体型のほうが使い勝手がいいはず。性能的に同じなら放っておいてもTKKのほうが売れるはず。なのになぜ、えげつないひいきをする必要があるのか。もしや、TKKの可搬式は使い勝手か性能面で、だいぶ劣るのか?

2017年、2018年、2019年、さらに各地の警察がぽつぽつとLSM-300を購入した。「通学の生徒を守る新兵器が我が県に初めて登場した」といった調子で、LSM-300の画像、映像とともに報道された。

センシスは、2018年12月に北海道警察の入札で初めての契約を勝ち取った。応札金額はTKK側が1千万円。センシス側は698万円。なんと302万円も値引きしたのである。値引き額は10万円でも100万円でもなくなぜ302万円なのか、思い当たることがある。そこは長くなる。省略しよう。

ともあれ、可搬式による取り締まりはどうも増えないまま月日が過ぎた。たまに「当県では1年間に百何十回の取り締まりをおこない百何十件を取り締まった」といった賛美報道が出るものの、割り算すると1回1件に満たない。そんなバカな取り締まりがあるもんか! 速度違反金の導入へと進む気配もまったくない。いったいどうなっているのか。

5、物理的デバイスと戦後初の予算撤回

2020年2月7日、警察庁が「歩行者優先と正しい横断の徹底に向けた取組の強化について」という通達を発出した。要するに、日本は欧米に比べて歩行中死者の割合が高く、また信号機のない交差点での徐行・停止義務違反が目立つ。東京オリンピック・パラリンピックへ向け歩行者の安全を守るべしというものだ。

じつは同旨の通達が2018年10月にもあった。ところが2020年の通達では突然、とんでもないことが指示された。

「ハンプや狭さくといった物理的デバイスは、速度抑制効果が認められるところ、各道路管理者と連携して適切な箇所への整備に努めること。特に、信号機のない横断歩道とハンプを組み合わせたスムース横断歩道については、より高い効果が期待できることから、歩行者の横断実態や交通事故発生状況等を踏まえ、登下校時の通学路や高齢者の多い場所等を重点に整備を進めること」

お~、これにより登下校の生徒、高齢者を被害者とする事故は目に見えて減るだろう。素晴らしい。いや、ちょっと待て! 可搬式オービスの大義名分は通学路等の速度抑止。その大義名分を守る「物理的デバイス」の有用性はスルーしてきたのに、なぜっ? 警察庁の中で何か大きなものが動いた、そうとしか考えられない。

3月19日、新潟日報に激震の記事が載った! 「知事与党で県議会最大会派の自民党」が「可搬型オービス」の「導入を取りやめ、その経費1,100万円を減額」する修正案を議会に出したというのだ。自民党が警察予算の撤回を提案するなど前代未聞だ。「戦後初の事態」と新潟日報は報じている。

予算がどうこうの段階なので、オービスのメーカーは表向きはわからない。が、関係する議事録に「愛知県警などで…(使用実績がある)」と出てくる。約1100万円という金額からしてもLSM-300の予算と推認される。警察予算の戦後初の撤回を、地方の自民党議員が勝手にできるとは思えない。警察庁から指示があったのだろう。これらのことはいったい何を意味するのか、私の読みを以下に述べよう。

6、LSM-300は姿を消し、センシスの時代に

2013年当時は、通学路等の安全を旗印に高性能の新型オービス(特に可搬式)を導入し、新制度すなわち速度違反金と民間委託へ進むつもりだった。可搬式はかなりの台数が必要となる。大きな商売になる。当然、高報酬の天下りポストが生まれる。良い悪いはともかく、日本の根幹は官僚、官僚の根幹は天下りといわれる。

なのにセンシスは天下りをどうしても受け入れなかったようだ。この点について、のちにセンシスは『ラジオライフ』(三才ブックス)からの質問に対しこう答えている。「本国には非常に厳しい企業倫理がありその企業倫理を日本でも守らなければいけません。弊社は製品の性能、サポート、信頼を勝ち取って戦うしかありません」。

そこで、いわば利権派が、40年来の老舗企業であるTKKに受注させようと動いた。なんとかレーザー式のオービスをつくって半可搬式の枠に割り込ませた。それを可搬式のLSM-300に改め、全国の警察に強引に買わせた。ところが、LSM-300はまともに取り締まれないことがわかってきた。

しかし利権派は引き下がらず、新制度への移行がずるずる長引いた。少子高齢化は進み、2013年に約205万件だった速度取り締まりは2019年には約114万件にまで落ち込んだ。しかも自動運転の時代がどんどん迫ってくる。2020年4月1日、自動運転の「レベル3」が解禁となった。速度取り締まりは落ち目のジャンルになってしまったのである。

TKK利権にこだわった一派のせいで時期を逸し、警察庁の野望は台無しになってしまった。いい加減にしろ! 通学路等の速度抑止、事故防止は物理的デバイスでやる。LSM-300はもう買うな。それが前記通達であり新潟の予算撤回だと私は読む。

4月12日、朝日新聞が「神出鬼没の可搬式オービス 速度違反どこでも取り締まり」と大きく報じた。可搬式オービスを今年度(2020年4月1日~2021年3月31日)中に43台増やすと警察庁が宣言したというのだ。記事にはこうある。

「今年度は未配備の山形、茨城、新潟、鳥取、山口、徳島、高知、鹿児島、沖縄の9県警に計10台を置く。すでに配備実績がある北海道や埼玉、千葉、岐阜、三重、大阪、兵庫、福岡、佐賀など18都道府県警にも計33台を追加する。費用は1台800万円ほどだ。」

金額からしてセンシスの可搬式と思われる。記事にある写真はずばりセンシスの可搬式だ。

今後、TKKのLSM-300は姿を消すか、または無知な運転者をびびらせるカカシとして使用されることになるだろう。そしてセンシスの可搬式が高性能ぶりを発揮してばりばり取り締まることになるだろう。取り締まりの民間委託がどうなるかわからないが、速度違反金、つまり違反車両の持ち主からペナルティを徴収する制度はいずれ導入されるのではないかと私は見る。警察庁が表立って動きだしてから今年で7年、ずいぶん年月を食ったものだ。教訓:目先の利得にこだわりすぎてはいけない。

〈文=今井亮一〉

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みんなのコメント

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  • 何が言いたいのか分からない。
    とりあえず自分の妄想を書き連ねました的な?記事ですかね。
  • 長い。よくわからない。
    いずれにせよ取り締まるなら精度位公開したらどうだ?
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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