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これが日本のナンバー1……スーパーフォーミュラ王者・野尻智紀の無線から漂う“したたかさ”。大型新人ローソンも脅威ではないのか?

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これが日本のナンバー1……スーパーフォーミュラ王者・野尻智紀の無線から漂う“したたかさ”。大型新人ローソンも脅威ではないのか?

 富士スピードウェイで行なわれた2023年スーパーフォーミュラの開幕ラウンドでは、TEAM MUGENの野尻智紀が第1戦で2位、第2戦で優勝を飾り、タイトル3連覇のかかるシーズンを理想的な形でスタートさせた。そんな彼がレースウィーク中に発した言葉の数々を紐解くと、端々から絶対王者としての“余裕”が感じられた。

 野尻の2023年シーズンは、開幕直後にやや出鼻をくじかれる形となった。第1戦では予選でポールポジションを獲得する、決勝レースではチームメイトで新人のリアム・ローソンに接近される展開に。そのローソンがピットインしたことを受け、翌周にピットに入った野尻だったが、アウトラップでタイヤの温まったローソンに交わされ、逆転を許した。

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 結果的に第1戦のトップチェッカーを受けたのはローソンで、野尻は2位。ローソンはレッドブルジュニアチームの一員であり、F2での実績も十分なドライバーとはいえ、参戦初戦のルーキーに直接対決で敗れた訳だから、野尻の心中が穏やかでなくとも無理はない。

 しかし、レースを終えた野尻から発せされる言葉からは落胆や焦燥感は感じられなかった。

 以下はセーフティカーランのままチェッカーを迎えようとしていた野尻と、一瀬俊浩エンジニアのやり取りだ。

一瀬「ピットアウトの瞬間はリアムが速かったけど、最後野尻さんがプッシュし始めてからのペースはうちの方が速かったよ」
野尻「なんか、寒くなってきたじゃん? 日が陰って。そしたらだいぶリヤ(のグリップ)が戻ってハンドル切れるようになってきたから、リヤ車高とかフロント車高とかを検討しよう。あとはブレーキでリヤタイヤが路面から離れちゃって、それでオーバーステアがあるから、そこを直せばまあ大丈夫かな」
一瀬「了解。明日はやり返しましょうね」
野尻「そのつもりです」

 このように、翌日の第2戦に向けて野尻陣営の改善点は既に明確になっていた。第1戦後の記者会見で野尻が、2位という結果に「満足している」と答えたのも、そういった点が背景にある。

 また会見後にローソンについて聞くと「(ローソンに)負けていたらスーパーフォーミュラ(のレベル)がどうなんだという話にもなると思うので、負けちゃいけないなと思いますが、そんな酷な話ないよね、と思います(笑)」と気丈に話していた野尻。7年前にストフェル・バンドーンとコンビを組んだ際、大きな差を痛感して思い悩んでいた野尻だが、今回そんな様子は全く感じられなかった。

 そして迎えた第2戦。野尻は予選で2戦連続となるポールポジションを獲得した。スタート直後は大湯都史樹(TGM Grand Prix)に先行されたが、ピットストップで前に出ると、そこからは終始レースの主導権を握ってトップチェッカーを受けた。

 そんな中で野尻は28周目、無線で「バイブレーションがすごく出てきてる」と訴えており、コンマ数秒ペースを落としていた。結果的には最後まで坪井翔(P.MU/CERUMO・INGING)を抑えきって41周のレースを戦い切るのだが、33周目にはこんな興味深いやり取りをしている。

野尻「この、僕がバイブレーションがあるっていう無線って、○※△×(音声不明瞭)してたりしないのかな?」
一瀬「場内で流れてました」

 ノイズが大きく聞き取りにくい部分もあるが、前後の文脈から推測するに野尻は「バイブレーションがある」という無線が中継やSFgoを通してライバルの耳に入ったかどうかを気にしていたということだろう。

 これは単純に、バイブレーションがあるという情報をライバルに聞かれて「しまった」かどうかを心配しているようにも聞こえるが、その一方で、実は野尻はあえてバイブレーションのことをライバルに知らせて心理戦を仕掛けたい意図があり、その情報がライバルに「ちゃんと」伝わっているかどうかを確認したのではないか……つまり、無線さえも“勝つための道具”として活用しようとしていたのではないか? そう邪推してしまう。

 F1で7度のタイトルを獲得したルイス・ハミルトンは、無線でマシンやタイヤの状態が厳しいと訴えながらも、結局は最後まで完璧にレースをマネジメントするという姿を何度も見せてきた。それは走りのセンサーが敏感過ぎるが故に、結果として大げさなコンプレインに聞こえてしまっているのか、それとも戦略的にライバルを油断させ、心理戦に持ち込むための無線交信なのか……それはハミルトンに関しても野尻に関しても本人のみぞ知るといったところだが、最近の野尻とハミルトンが重なって見えるのも確かだ。

 野尻はチェッカーの際にこうチームに呼びかけていた。

「こんなもんだよ。ねえ、みんな! 次も頑張ろう。クルマすごく良くなったね」

 それに対して、「寝ないで頑張った甲斐があった(笑)」と返した一瀬エンジニア。実は一瀬エンジニア、本当に夜を徹したというわけではなく、野尻に「カッコいいところ」を取られてばかりだった中で、そこに対抗するためについ口から出たのがこの無線だったという裏話もあり……それほどに“ニクい”振る舞いを見せていたのが野尻だったというわけだ。

 第2戦後の記者会見では、ローソンに敗れたことで「メンタル的にもくるモノがあった」と語っている野尻。しかし前述の無線やコメントを総合すると、果たして本心はいかに……と勘繰りたくもなってしまう。今後も“絶対王者”の一挙手一投足には目が離せない。

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