コンパクトモデルにおいても、乗って上質であり快適であることは重要なポイントだ。スポーツイメージをアピールするにしても、そのために何かを犠牲にすることはできない。フォルクスワーゲンで「R」という存在は、いまやトップモデルに位置づけられている。(Motor Magazine2023年1月号より)
マイナーチェンジで魅力を増したTロックに「もっと」をプラス
フォルクスワーゲンのTロックは、輸入車SUVとして屈指のセールスを誇るモデルである。何しろ、2021年にTロックは日本で7241台が販売されて、輸入SUVV市場で同じフォルクスワーゲンのTクロスに続くランキング2位につけた。そんなTロックのマイナーチェンジが実施されたのは22年7月のこと。これに合わせて、それまで国内では発売されてこなかった「R」モデルがラインナップされたのである。
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TロックRはシリーズ随一の300psを発生する2L直列4気筒ターボエンジンを搭載して7速DCTと組み合わせ、ハルデックスカップリングを用いたフルタイム4WDシステム「4モーション」を介して4輪を駆動する。これはフォルクスワーゲンの「R」に共通する処方箋であり、最高出力に多少の違いはあれども、ゴルフRやティグアンRと基本的に同じ構成と言っていい。
一方でちょっと気になるのが、今回発売されたTロック Rが日本市場のTロックとしては唯一の4WDモデルである点。つまり「R」以外のTロックは、いずれも前輪駆動なのだ。
そしてその理由は、フォルクスワーゲンの「R」人気にある。たとえば、21年5月に発売された新型ティグアンのうち、ティングアンRは全体の2割を超すほどの人気ぶりだという。こうした状況を受けて、Tロックについても通常モデルの4モーション仕様を追加するよりも早く、Tロック Rの導入を決めたというのだ。
顔立ちはよりハンサムに。インターフェイスは質感を向上
この事実は、ティグアンやTロックがオフロードを走るための純然たるSUVというよりも、SUV的なスタイリングが与えられた実質的なクロスオーバーとして市場に定着している証拠だと言っていい。
日本上陸を果たしたTロックRは、前述のとおりマイナーチェンジ版のTロックを基本としてい
る。このため、フロントグリルの「網目模様」はこれまでよりも大柄なものに改められる一方で、グリル中央にメタリック系のラインがアクセントとして追加されることになった。
しかも、グリルの向かって右側には「R」の輝く文字が取り付けられている。結果として、これまでよりもはるかに「目鼻立ちがはっきりした顔立ち」になったように思う。
デザインの見直しはインテリアにも及んでいて、これまでダッシュボードに埋め込まれていたセ
ンターディスプレイはダッシュボードから突き出すような形に改められ、従来よりも少ない視線移動で表示内容を確認できるようになった。ダッシュボードやドアトリムに、ステッチを施したソフト素材などを用いて質感を高めたことも新型の特徴という。
信じられないほどの快適さ。そこから生まれる上級感
TロックRで一般道を走り出すと、そのあまりに快適なことに舌を巻かされる。たとえばタウンスピードで市街地を走っていても、タイヤからゴツゴツとしたショックが伝わってくることは滅多になく、サスペンションがスムーズにストロークする様が実感できる。235/40R19という低扁平率タイヤを履いていることが信じられないくらいの、穏やかな乗り心地なのである。
そう、乗り心地はフォルクスワーゲンらしく、どっしりとして落ち着きの良さを感じさせるタイプ。さらにいえば、ゴルフ8と違ってタイヤからショックを受けたとき、ボディや足まわりなどに微振動が残らない点も好ましい。
結果として、ゴルフよりもはるかに質感が高く感じられる。ダンパーの動きもしっとりとしていて、
高級感が漂っているように思えた。
ロードノイズが静かなことも、この種のハイパフォーマンスSUVとしては特筆すべきことだ。エンジン音も低く抑えられていて、車内は実に平穏。いや、正直に言えば、高性能モデルとしてはやや物足りなく感じたくらいだ。こうした質感の高さ、優れた快適性に関する印象は高速道路での走行でもまったく変わらなかった。
では、ワインディングロードでのTロックRはどんな表情を見せてくれたのか?その優れた安定感、そしてコーナリングマナーの良さは、軽く流している程度のペースでも十分に感じ取れる。どっしりとした印象の足まわりは、荒れた路面でもボディを安定した姿勢に保つ。
しかもコーナリングフォームが絶妙でイン側が浮き上がるというよりはアウト側が沈み込むロール感覚で、SUVにありがちな腰高感を伴わない。ハンドルに軽く手を添えているだけで何の苦もなくコーナーを駆け抜けていけるのだ。
優れた安定感とマナーの良さ。積極的な走りで本領を発揮
もっとも、これは普通のフォルクスワーゲンではなく、シリーズ中でもっともスポーティなグレードの「R」である。したがって「ここまで刺激感が薄いのも、いかがなものか?」と感じたのも事実だ。
そこで、それまでより少しだけエンジンを引っ張って、5000rpm付近でシフトアップするドライビングに切り替えてみた。すると、どうだろう。それまで押し黙っていたエンジンが、小声ながらも澄み切った美しい歌声を響かせるようになったのだ。
それと同時にエンジンのピックアップも鋭くなり、スポーツドライビングの醍醐味を味わわせてくれるようになった。それでもハンドリングはごく軽いアンダーステアに留まったままで、急激に変化する素振りは見せない。この、どこまでも安定しきった操舵特性こそが、フォルクスワーゲン「R}の真骨頂といっていいだろう。
そういえば、先代のゴルフRヴァリアントがデビューしたおり、私はその国際試乗会に参加したが、やはりサーキット走行ではどう頑張ってもアンダーステアを打ち消せなかったことを思い出す。そしてそのことを居合わせたエンジニアに伝えたところ、彼はこんな風に答えたのである。
「フォルクスワーゲンは、多くのお客さまに選んでいただくクルマを作っています。したがって、い
くらRだからといって、急にオーバーステアに転じるようなハンドリングにはできません」
彼らの「Rスピリット」が、このTロック Rにも受け継がれているのは間違いなさそうだ。文:大谷達也/写真:永元秀和、佐藤正巳、井上雅行)
フォルクスワーゲンTロックR主要諸元
●全長×全幅×全高:4245×1825×1570mm
●ホイールベース:2590mm
●車両重量:1540kg
●エンジン:直4DOHCターボ
●総排気量:1984cc
●最高出力:221kW(300ps)/5300-6500rpm
●最大トルク:400Nm/2000-5200rpm
●トランスミッション:7速DCT(DSG)
●駆動方式:4WD
●燃料・タンク容量:プレミアム ・55L
●タイヤサイズ:235/40R19
●車両価格(税込):626万6000円
[ アルバム : フォルクスワーゲン TロックR はオリジナルサイトでご覧ください ]
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