アメリカ大陸が誇る最高峰ストックカー、NASCARカップシリーズで恒例となる開幕前エキシビジョン戦『ブッシュ・ライト・クラッシュ・アット・ザL.A.コロシアム』が、2月5日にカリフォルニア州のL.A.コロシアムで開催され、150周で16回のコーションが乱発の荒れた長期戦を、マーティン・トゥルーエクスJr.(ジョー・ギブス・レーシング/トヨタ・カムリ)が制する結末に。新規定車両“Next-Gen”導入初年度となった昨季も安定した戦績を残しながら、プレーオフ進出を逃していた2017年チャンピオンが“復活の狼煙”となる勝利を飾っている。
早くも2023年の開幕を迎えたカップ戦の一行は、伝統の開幕戦『デイトナ500』を約半月後に控え、初開催の前年度に続きロサンゼルスの4分の1マイル決戦で今季最初の腕試しに臨んだ。
“壁走り”禁止を明文化。ホイール脱落の厳罰緩和と安全対策向上も。NASCARが2023年規約を一部改訂
その会期直前にはシリーズ規約の一部改訂もアナウンスされ、従来から明記されていた規定条文の運用を厳格化し、昨季プレーオフ進出権で決定的な瞬間を演出した“壁走り”が、正式にタイムペナルティの対象となることが確認された。
これに対し“ゲーミング・ムーブ”を敢行した当事者であるロス・チャスティン(トラックハウス・レーシングチーム/シボレー・カマロ)は、エキシビジョン戦直前の土曜に「そのこと自体を誇りに思っている……もう2度とやりたくないけど(笑)」と、その心情と本音を語った。
「それは僕の人生でもっとも長い“破壊行為”だったからね。あのときは本当にうまくいって成功したけれど、もう2度とやりたいとは思ってないよ。そして自己満足ではあるけれど、本当に重要なところで成功を収め、挑戦が真に報われた唯一のドライバーとして歴史に名を残せたことはうれしく思っている」とチャスティン。
こうして始まった週末は、プラクティスでトゥルーエクスJr.の19号車トヨタ・カムリ最速で幕を開けると、ファイナル進出を賭けた各4回のヒートレースに向け、ジャスティン・ハーレイ(カウリグ・レーシング/シボレー・カマロ)や、シボレー陣営移籍で心機一転のカイル・ブッシュ(リチャード・チルドレス・レーシング/シボレー・カマロ)、その元僚友クリストファー・ベル(ジョー・ギブス・レーシング/トヨタ・カムリ)に、ウイリアム・バイロン(ヘンドリック・モータースポーツ/シボレー・カマロ)らがポールポジションを確保する。
その各ヒートで勝利を挙げたアリック・アルミローラ(スチュワート・ハース・レーシング/フォード・マスタング)とトゥルーエクスJr.が『ブッシュ・ライト・クラッシュ』の最前列に並ぶ一方、敗者復活のLCQに回ったチェイス・エリオット(ヘンドリック・モータースポーツ/シボレー・カマロ)は辛くもファイナル27台の枠に滑り込み、前年度のL.A.勝者で2022年王者にも輝くジョーイ・ロガーノ(チーム・ペンスキー/フォード・マスタング)も17番手スタートと苦しい展開となる。
また、ブラッド・ケセロウスキーとクリス・ブッシャーのRFKレーシング勢は2年連続で『ブッシュ・ライト・クラッシュ』進出を逃し、タイ・ディロン(スパイア・モータースポーツ/シボレー・カマロ)、リッキー・ステンハウスJr.(JTGドアティ・レーシング/シボレー・カマロ)、オースティン・シンドリック(チーム・ペンスキー/フォード・マスタング)らも、この時点でコロシアムを去ることを余儀なくされた。
迎えた150周勝負は序盤から接触上等の肉弾戦と化し、元五輪会場の超ショートトラック内では至るところで接触が発生、フィールド全体でグリーンフラッグのリズムに乗るのが困難な状況に。
■イエロー連発&長期戦の決勝に「僕らは一晩中洗濯機にいた」と酷評
出走27名中、実に21名がコーションに巻き込まれるなか、オースティン・ディロン(リチャード・チルドレス・レーシング/シボレー・カマロ)と、その新たな僚友ブッシュが乱高下のレースを展開し、ブッシュは残り64周でロガーノに押し出されてスピンオフを喫するも、最後尾から3位までカムバック。一方のディロンも、この日40周をリードしたダレル“バッバ”ウォレスJr.(23XIレーシング/トヨタ・カムリ)と何度も接触したことを「不快に思った」だけでなく、残り7周で2位だった23号車カムリを仕留める一幕も演じた。
「僕自身、バッバのためにも(プッシングを)嫌っていた。彼は良いクルマをもち、良い走りをしていたからね」と語った2位のディロン。
「でも、誰が彼を押しているのか、あるいは押されているのかはわからない。彼が僕をコーナーで押し込んだことは知っているが、僕もそこで3回はセーブし、ブレーキを解除した。昨年から全員が良くなったから同等に近かったし、彼にとっても(その動きは)少し難しすぎたんじゃないかな」
同じくチームメイトのブッシュも、ここL.A.での初開催だった初年度とは異なり「今日は惨事と呼べる状況だった。みんなが互いを軽視し、すれ違い、すべてがうまくいかなかった」と混沌のレースを振り返った。
「昨年のショーは比較的クリーンで良いレースだったように感じた。ぶつかったりぶつけられたりしていたが、グリーンフラッグのアクションで長く走らせることができていた」と続けたブッシュ。
「ここはタイトな4分の1マイルで、これがおそらく普通のやり方なんだろう。最初の年は良いショーで甘やかされ過ぎた。NASCARが1年前にコロシアムに到着したとき、それは新しいトラックであり、シリーズも初めて新しいクルマを導入した。これが普通だったのかもしれないね」
コロシアムでの最初の『ブッシュ・ライト・クラッシュ』は1時間以内に終了し、全体のコーションはわずか5回だった。それが一転「6周するのに45分かかるのは大変だ」と4位アレックス・ボウマン(ヘンドリック・モータースポーツ/シボレー・カマロ)が語るとおり、ルーキーのノア・グラグソン(レガシー・モータークラブ/シボレー・カマロ)も「日曜の夜はただのピンボール・マシンだった」と語り、JGRトヨタのベルも「僕らは一晩中洗濯機にいた」と、16回のイエローで1時間43分を費やした決勝を評した。
そんななか、コーションのレポートに記載されていない6名のうちのひとりとなったトゥルーエクスJr.は、残り25周でカップ復帰のライアン・プリース(スチュワート・ハース・レーシング/フォード・マスタング)からリードを奪うと、終盤2度のイエローも乗り越えチェッカー。『ブッシュ・ライト・クラッシュ』初勝利を手にした。
「今日は本当に良いレースカーだった。彼らはこの19号車で素晴らしい仕事をした」と喜びを語ったトゥルーエクスJr.。
「昨年は僕らにとって勝利のない厳しいシーズンだった。最多ステージウイン、500周以上のリードラップにより、レギュラーシーズン終了時点で5位以内にいる統計的な堅調さはあったが、勝つために必要なすべてのことを実行していたから、本当にイライラした」
「今夜はあきらめず戦い抜いて、最終的に適切な場所にいることに集中した。思いどおりに進み、いくつかの良い調整も実施できた。僕は『決心しただけ』だし、腹の底では昨年やったことを変えるためのたくさんの火がついている!」
こうして幕を開けた2023年のNASCARカップシリーズだが、2月16日には伝統の1戦に向けた出場枠を争う“デュエル”が催され、同19日にはフロリダ州デイトナビーチにて、開幕戦『デイトナ500』が争われる。
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