モータースポーツでは、レギュレーションに違反すると何らかの罰則が科されることになる。その中には罰金を科されるケースもあり、最高峰のF1ともなれば、その罰金の額はとんでもないものとなる。
多くの場合、罰則を科されるのはチームだ。レギュレーションに違反した場合には、グリッド降格から罰金まで、様々な罰則が用意されている。しかし、ドライバーに直に科される罰金も存在する。
■暴言発した角田裕毅に約690万円の罰金。スチュワードは角田の反省を評価し、半額を執行猶予に
現在のレギュレーションでは、F1ドライバーに科される可能性がある罰金の最高額は100万ユーロ。円安傾向にある昨今であるがため、日本円で1億6000万円以上にもなってしまう。ただ幸いなことと言うべきかどうかは分からないが、この額の罰金を科されたドライバーはいない。
本稿では、これまでドライバーに科されてきた高額の罰金を含むペナルティの事例をいくつか紹介していく。それによって、今後の裁定に対する客観的な事例とすることもできるだろう。
■接触の責任
F1では、解釈にグレーゾーンがなくてはならない。逆にグレーゾーンがなければ、F1ではないとも言える。スチュワードにとっては、それを正しく裁定するのは、非常に難しい仕事であろう。
そんな中で、接触事故の責任があると認定されたドライバーに対しては、ペナルティが科されることが多い。そしてそのペナルティは、競技的なペナルティだけではなく、罰金という罰則も科されることもある。
その典型例は、2012年のベルギーGPで起きた多重クラッシュだ。この事故は、当時ロータスのロマン・グロージャンが、スタート直後のターン1でブレーキングを激しくミスし、チャンピオン候補の2台を含む5台にダメージを及ぼした。その中の1台は、F1で初めてフロントロウスタートとなった小林可夢偉(当時ザウバー)であり、日本のファンの夢はまさに一瞬で崩れ去った。よく覚えておいでの方も多いだろう。
この事故はグロージャンに全面的な責任があるとして、1レースの出場停止と5万ユーロ(約800万円)の罰金が科された。
ただその前の数年は、コース上での接触に対して罰金が科されることは非常に稀だった。そんな中のひとつが、1994年ブラジルGPで起きた事例である。
このレースでは、エディ・アーバイン(ジョーダン)がヨス・フェルスタッペン(ベネトン)とポジションを争っていた。34周目、アーバインは周回遅れのエリック・ベルナール(リジェ)を抜こうとしたが、その瞬間にはフェルスタッペンが横に並びかけていたため、幅寄せするような格好となった。
フェルスタッペンはアーバインとの接触を避けるためにコース外に押し出されるとコントロールを失い、アーバインとベルナール、そしてひとつ前を走っていたマーティン・ブランドル(マクラーレン)を巻き込むような形でクラッシュが起きてしまった。
これについてはアーバインに非があるとされ、1万ユーロ(約160万円)の罰金と1戦出場停止の処分が下った。所属チームのジョーダンはこれに抗議したが、判定は覆らないどころか逆に重く、出場停止処分が3戦に拡大してしまった。
また2012年のイギリスGPでは、当時ウイリアムズのパストール・マルドナドが、ザウバーのセルジオ・ペレスに接触。スチュワードはマルドナドに対して、やはり1万ドル(約150万円)の罰金を科した。この裁定については、軽すぎるのではないか……という声もあった。
ただこのレースでは、ペレスのチームメイトであった小林にも、罰金が科された。小林はピットストップの際に、停止位置を見誤って3人のクルーを跳ねてしまった。このうち2名は治療が必要となった。小林にはこの事故の責任を問われ、2万5000ユーロ(約400万円)の罰金が科された。
つまり他のチームに損害を与える行為よりも、自チーム内に損害を与えた行為の方が、重い罰金を科されることになったというのは皮肉な話だ。
■グレーゾーンがない罰金
F1ドライバーが確実に罰金対象となる事例がある。それは、許可なくコースを徒歩で渡るという事例だ。一貫性がないと言われることの多い近年のF1だか、ことコース横断に関する裁定には、一貫性があると言うことができよう。
2023年のカタールGPでは、スタート直後にメルセデスのルイス・ハミルトンとジョージ・ラッセルが同士討ち。この事故によりハミルトンがリタイアとなり、セーフティカーが出動した。このセーフティカーラン中、ハミルトンは許可なくコースを横断したため、5万ユーロ(約800万円)の罰金が科された。このうち半額は執行猶予がつけられたが、それでも日本円にして400万円もの罰金は即座に払わなければならなかった。
2024年マイアミGPのF1スプリントでも、ランド・ノリス(マクラーレン)がコースを横断し、やはり5万ユーロ(約800万円)の罰金、半分は執行猶予付きという処分を受けた。
2024年シンガポールGPの予選Q3では、フェラーリのカルロス・サインツJr.がやはりクラッシュした直後にコースを横断。この時は赤旗中断中だったため、罰金額は2万5000ユーロ(約400万円)に減額。うち半額の1万2500ユーロ(約200万円)は執行猶予つきである。
■暴言に対する罰金
最近特に話題となっているのが、暴言に対する罰金だ。
フェルスタッペンは今年、FIAの会見で放送禁止用語を使ったとして、罰金よりも重い社会奉仕活動への従事という罰則を科された。
RBの角田裕毅もオーストリアGPの予選で、ピットレーンで前のクルマに詰まってしまった際、暴言を吐いた。この件については4万ユーロ(約600万円)の罰金対象となり、その半額は執行猶予付きである。
フェラーリのシャルル・ルクレールも、2024年のメキシコシティGP決勝レース後の記者会見で、不適切な言葉を使ったとして罰金1万ユーロの裁定が下った。これも、半額が執行猶予となっている。
なおFIAからではないものの、失言により超高額の罰金刑を言い渡されたドライバーがいる。それは、元F1チャンピオンのネルソン・ピケである。
ピケは2021年にポッドキャスト番組で、同年のイギリスGPで接触したルイス・ハミルトンとフェルスタッペンの件について尋ねられた際、ハミルトンについて人種差別的な発言を行なった。これには非難の声が上がり、ブラジルの人権団体が法廷に持ち込んだ。その結果、ブラジルの民事裁判所はピケに対し、500万レアル(約1億2500万円)の罰金を命じた。
なおピケの娘であるケリー・ピケは、まもなくフェルスタッペンとの子供を出産予定である。
■奔放なベッテル
4度のF1チャンピオン経験者であるセバスチャン・ベッテルは、独特な形で罰金を言い渡された人物でもある。
2018年のブラジルGP予選でベッテルは、ランダムに義務付けられる重量計測に呼ばれた際、早く終わらせるようFIAの担当にプレッシャーをかけた。当時は雨が強まりそうなタイミングであったため、ベッテルはいち早く軽量を終わらせ、コースに戻りたかったのだ。
そのベッテルは計量が完了する前にマシンを発進させてしまい、その結果計量台を破壊。この行為で2万5000ユーロ(約400万円)の罰金を言い渡された。
2022年のオーストリアGPでは、ベッテルは怒りのあまりドライバーズミーティングを途中退出してしまった。ただ落ち着いたベッテルは謝罪し、オフィシャルと建設的な話し合いを行なった。FIAはこの件に関して2万5000ユーロ(約400万円)の罰金処分を科したが、話し合いを行なったことが評価され、全額が執行猶予付きとなった。
この年のオーストラリアGPのFP1では、コースを無断でスクーターで走ったとして、5000ユーロ(約80万円)の罰金を言い渡された。このセッション終盤にベッテルはマシントラブルによりコース脇にストップ。そしてセッション終了後、マーシャルのスクーターを”奪って”コースに進入し、ファンサービスしながらピットに戻った。ただこの時はまだコースに入る許可が降りていない段階であり、罰則の対象となったのだ。
■2021年の激闘の裏で
2021年シーズンのF1は、フェルスタッペンとハミルトンによる激しいタイトル争いが繰り広げられた。
そんな中フェルスタッペンは、ブラジルGP予選の後に、ライバルであるメルセデスのリヤウイングを注意深く観察し、そして触ってしまった。しかしこれはスポーティングレギュレーション違反であり、即座に5万ユーロ(約800万円)の罰金が言い渡された。
またその翌日、ハミルトンはレースに勝利し、喜びのあまりウイニングラップ中にシートベルトを外してしまった。この行為についても「ジュニアカテゴリーのドライバーたちに対して悪い前例」になるとされ、即座に5000ユーロ(約80万円)の罰金。さらに2万ユーロ(約320万円)が執行猶予となった。
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みんなのコメント
カピロッシによる原田撃墜事件だろう
無謀な速度で原田にぶつかった挙句に押し出し
自分はそのおかげでコース上に留まりチェッカー
罰金どころか逆転でシリーズタイトル獲得
あれは本来ならシーズンポイント全剥奪及び罰金
なんなら翌シーズン数戦は出場停止くらいの
実に酷いやり口だった
まあ、そんな2人が今じゃ友達なんだから
世の中何がどうなるか分からないんだけど
そう言う意味でも安く使われてるなと思う。