210馬力のVG20DETに、世界初の5速ATを搭載!
セダンのキャラに似合わない豪快かつスポーティな走り
「常識の盲点を突いた大穴グレード!」Y31グロリアのグラツーはハードトップだけじゃない【ManiaxCars】
8代目Y31グロリアの登場は1987年6月。伝統のブロアムに加え、ハードトップに初めてグランツーリスモをラインアップしたのが大きなトピックだったが、翌88年6月、なぜかフォーマルなはずのセダンにも走りのグランツーリスモが用意されたのは、恐らく日産内部のどこかで歯車が狂ったからに違いない。
搭載エンジンは2LV6DOHCターボのVG20DET。当初、インタークーラーレスのレギュラーガソリン仕様で、スペックは185ps/22.0kgm。ミッションは4速ATが組み合わされた。
ここで軽く変態な印象を受けるのがVG20DETのボア×ストローク。実はφ78.0×69.7mmってのはRB20DETとまったく同じで、エンジン形式が違うのにその数値が共通なのは、結構レアなケースだと思う。ちなみに、トヨタ初のV6エンジン、1VZ-FEはボアφ78.0×ストローク69.5mm(1992cc)と、図らずもVG20に極めて近いスペックだったりする。
さらに翌89年6月には、大がかりなマイナーチェンジを実施。VG20DETはインタークーラー追加と同時にハイオクガソリン仕様に変更され、210ps/27.0kgmへと大幅なスペック向上を果たした。
ちなみに、同じ時期に存在した日産の2.0Lエンジン、S13に搭載された直4のSR20DETは205ps/28.0kgm、R32に搭載された直6のRB20DETは215ps/27.0kgmだったことを考えると、VG20DETTはそれらスポーツユニットにまるで引けを取らない性能を誇っていたというわけだ。
また、マイチェンで大きく変わったのがミッション。従来の4速ATに代えて世界初の5速ATが採用された。これはVG20DET搭載モデル(グラツーとブロアム)のみに与えられたもので、グラツーにかけた日産の意気込みも伝わってくるというもの。
ギヤ比は4速ATの2.785/1.545/1.000/0.694に対して、5速ATは3.857/2.140/1.384/1.000/0.694。ファイナル比はVG30ET搭載モデルの3.700、VG20E搭載モデルの4.625に対して、VG20DETは3.900となる。セレクターレバーで2速を選び、下の“1”スイッチを押すと1速発進が可能。また、サイドブレーキは足踏み式で、手前のノブを引き上げて解除する。
一見ただのセダンと油断させておきながら、実は知る人ぞ知る変態グルマというY31セダンのグラツーは、そのシレ~ッとした出で立ちからしてたまらない。
まず外装での特徴はフロントバンパー。下部がリップスポイラー形状とされ、フォグランプ内蔵タイプとなる。単体で見ただけでは気づかなくても、カタログを開いてブロアム&クラシック系のフロント周りと比べてみると、なるほど、たしかにグラツーの方がはるかにスポーティな印象だ。
グラツーのロゴはトランクリッド右側のエンブレムと、リヤクォーター下に確認できる。ウインドウ周りを始め、ヘッドライト&フロントグリルやリヤコンビネーションランプ周辺にあしらわれたメッキモールが高級セダンの証。
左リヤフェンダーのアンテナは、スイッチ操作によって写真のようにハーフ位置で止めることもできる。
純正アルミホイールに組み合わされるのは、標準205/65R15サイズのレグノGR-XT。グラツーはビスカス式LSDが標準装備され、足回りも専用セッティングを施したスポーティサスペンションが採用される。
それと外装でいうと、デュアル出しマフラーもグラツー…というか、ブロアムを含むVG20DET搭載モデルならではの装備。これは見てくれだけでなくエンジン回転数に応じてバルブを開閉し、低回転域と中高回転域で排気経路を切り替えるデュアルモード機能が採用されてたりする。さすが、技術の日産(笑)!
内装に目を移すと、アメ車的でもヨーロッパ車的でもない、日本古来の高級車然とした雰囲気に安心する。
メーターパネルからセンタークラスターまで、上部がひさし状になってるのが特徴。ホーンパッド中央にグランツーリスモのロゴが入るステアリングはシリーズで唯一の本革巻きとなる。
スピードメーター&7200rpmからレッドゾーンが始まるタコメーターの両脇に水温計(右)と燃料計(左)を配置。
上からデジタル式時計、エアコン吹き出し口&オーディオON/OFFとバンド切替スイッチ、オートエアコン操作パネル、2DINのオーディオ、灰皿&シガーライターが並ぶセンターコンソール。カセット付きAM/FM電子チューナー+グラフィックイコライザーはグラツーに標準装備のモノ。スピーカーは25W×4だ。
それと、セダンで特筆すべきはゆとりのヘッドクリアランス。ハードトップよりも全高が20mm高く設定され、室内高は前席で20mm、後席で45mmもセダンの方に余裕があるのだ。スタイルよりも実用性や快適性を重視。そんなセダンにグラツーをラインナップしてしまったことが、重ねがさね変態に思えて仕方ない。
ブロアム&クラシック系に比べてサイドサポートを張り出させ、ホールド性を高めた前席。運転席は前後スライド、リクライニング、座面高さともにドア側に設けられたスイッチでの電動調整式を採用する。
また、ドアアームレストにはサングラスホルダーを装備。ルーフに設けられてることが多いが、こっちの方が使いやすそうだ。
シリーズで唯一ハイバックタイプの背もたれを採用した後席。他グレードはヘッドレストが別体式で前後調整が可能となる。
ドアアームレストには灰皿とシガーライターを装備。後席に乗るひとに対する“おもてなし”の表れだ。
さらに、リヤスピーカーボードにはフタ付き小物入れが用意され、ディーラーオプションの救急セット収納場所でもあった。メルセデスを真似した!?
高級セダンらしく、トランクルームはフルトリム仕様。もうちょい奥行きが欲しいところだが、容量的には不満ナシ。また、荷物を固定するためのラゲッジベルトも装備。ただ、使い勝手はあまり良くなさそう…というのが率直な感想だ。
早速、試乗へ。VG20DETは、街中を流して乗る分には可もなく不可もなく…といったところ。しかし、グイッとアクセルを深く踏み込んだ瞬間、性格が豹変。3500rpmからターボの過給効果が現われ始め、4000rpmを超えてパワーに一段と弾みをつけると、そのまま6500rpmオーバーまで豪快に吹け上がる。
そこにドッカンターボ的な荒々しさはないが、どこから過給してるのか意識させない今時のエンジンに比べるとターボらしさは満点! とりわけ、中高回転域でのパワー感と伸びは想像以上のモノだった。
その速さに効いてるのが5速ATだ。3速直結の4速ATに対して、5速ATは4速直結。つまり4速ATでは1~2速でカバーするレンジを5速ATは1~3速とひとつ多いギヤで刻めるから、その分、各ギヤ比を近づけられるし、1速ギヤをよりローギヤードにも振れる。結果、ゼロ発進から力強く加速し、シフトアップ時のエンジン回転数の落ち込みも抑えられる。
時代という言葉で片付けるのはどうかと思うが、オッサン向けのセダンにも関わらず、グラツーをカタログモデルとして用意した日産の英断は素晴らしい! 今回は、その一言に尽きる。
■SPECIFICATIONS
車両型式:EY31
全長×全幅×全高:4690×1695×1420mm
ホイールベース:2735mm
トレッド(F/R):1440/1455mm
車両重量:1520kg
エンジン型式:VG20DET
エンジン形式:V6DOHC+ターボ
ボア×ストローク:φ78.0×69.7mm
排気量:1998cc 圧縮比:8.5:1
最高出力:210ps/6800rpm
最大トルク:27.0kgm/3600rpm
トランスミッション:5速AT
サスペンション形式(F/R):ストラット/セミトレーリングアーム
ブレーキ(F/R):ベンチレーテッドディスク/ディスク
タイヤサイズ:FR205/65R15
TEXT&PHOTO:廣嶋健太郎(Kentaro HIROSHIMA)
●取材協力:カーサポート・ルーツ 宮城県仙台市青葉区上愛子字上遠野原9-96 TEL:022-392-9083
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