■かつてはフツーに使われたクルマ用語もいまは聞かない
以前は普通に搭載されていたクルマの装備でも、時代の流れのなかで見かけなくなったモノがあります。
「ツインターボ」を聞かなくなったワケ 時代と共に変化し続ける「ターボ」という技術
たとえば新車でシガーライターや灰皿を装備するクルマは、一部の商用車を除くとほとんどありません。シガーライターはDCソケットになり、灰皿はドリンクホルダーに置くタイプになりました。
ほかにもクルマにまつわる用語で、昔はよく見聞きしたものでも、最近は見かけなくなった言葉があります。そこで、いまとなっては「死語」同然のクルマ用語を5つピックアップして紹介します。
●ソレタコデュアル
「ソレタコデュアル」は、現在40代から50代以上で、チューニングカーに興味があった人なら知っていると思います。
ソレタコデュアルは1970年代くらいに始まったパワーアップのためのメカニカルチューニングの際に、必需品ともわれた「ソレ=ソレックスキャブレター」、「タコ=タコ足=等長エキゾーストマニホールド」、「デュアル=デュアルマフラー」の3つをまとめて指す造語で、どれもレーシングカーでは当たり前のように使われた技術です。
フランスのソレックス社が開発したソレックスキャブレターは、日本のミクニ社がノックダウン製造していたため国産車に純正装着されていたこともあり、部品の入手が容易で比較的安価でした。
そのため、チューニングカーに採用されることが多く、イタリアのウェーバー社のキャブレターよりも普及しました。
1980年代になると電子制御インジェクションシステムの進化とターボ車の台頭により、徐々にキャブレターは使われなくなり、現在では旧車のチューニングや補修部品としての利用がほとんどとなっています。
等長エキゾーストマニホールド(以下、エキマニ)は、シリンダーヘッドからの排気効率を高めるために、各気筒の排気脈動の干渉を抑えるために排気管長を調整したものです。
純正のエキマニの多くは鋳造で作られていましたが、社外品の等長エキマニは鉄やステンレスパイプを曲げて作れており、その形状がタコの足のように見えることから「タコ足」の愛称で親しまれました。
なお、タコ足は現在も健在で、自然吸気エンジンのチューニングには、定番となっています。
デュアルマフラーはエキマニから後ろの排気管のことを指し、エキマニからマフラーのテールエンドまでを2本にして排気効率を高めたもので、主に6気筒エンジンで採用されました。
これら3つのアイテムを装備していたチューニングカーには、ソレタコデュアルという但し書きが付けられ、見かけだけじゃないとアピールすることができたのです。
●RV(アールブイ)
1990年代の初めに、クロスカントリー4WDを中心にした「RVブーム」があり、三菱「パジェロ」やトヨタ「ハイラックスサーフ」、日産「テラノ」などが大ヒットしました。
RVは「Recreational Vehicle(レクリエーショナル・ビークル)」の略称で、当時はクロスカントリー4WDだけではなく、ステーションワゴンや、ミニバンもRVにカテゴライズされました。
レジャー用途車を指す用語として幅広く使われていましたが、現在ではボディタイプのカテゴリーが細分化されたことや、総称のように「SUV」(Sport Utility Vehicle:スポーツ用多目的車)という言葉が誕生したことで、RVという言葉を耳にすることは減りました。
ちなみに、現行モデルの三菱「RVR」は、RVを語源とした「Recreation Vehicle Runner」の略称だということも、すでに忘れられているかもしれません。
●オーバートップ
1970年代半ばまでは乗用車のトランスミッションは4速MTが一般的で、4速のギア比は「1」、つまりエンジンとトランスミッションのアウトプットシャフトが同じ速度で回転する設定となっていました。
そのため4速を「トップギア」と呼んでいましたが、高速走行時のエンジン回転数を抑えることで静粛性や燃費の向上のためにトップのギア比を1以下とした5速MT車が登場し、その5速を「オーバートップ」と呼んでいました。
また、1970年代末からトヨタがATの多段化を進め、4速AT搭載車両をラインナップし、4速のギア比を1以下として「オーバードライブ」と設定。
以降、4速以上の多段ATが増え、シフトノブに「O/D OFF(オーバードライブ オフ)」というスイッチが付属するようになり、エンジンブレーキを強めたいときなど、スイッチ操作でギアの切り替えができるようになりました。
現在ではCVTの普及や、多段式ATも8速などになると6速以上がすべて1以下のギア比とすることが一般的で、オーバートップやオーバードライブという単語を耳にする機会はなくなりました。
■ターボ車では必須だった行為があった!?
●デスビ
1980年代までは、ガソリンエンジン車の始動不良や燃費悪化など不具合が起こると、真っ先に原因として疑われたのが電気系統のひとつ「ディストリビューター(Distributor)」です。
ディストリビューターは分配器で、イグニッションコイルで発生した高電圧の電気を、各シリンダーのスパークプラグに適切なタイミングで供給するための部品として略して「デスビ」と呼ばれました。
デスビの内部には、中心に「ローター」というイグニッションコイルからの電流を受け取った回転部品があり、それを覆っている「デスビキャップ」に繋がれたプラグコードから各気筒のスパークプラグに供給する構造です。
ローターとキャップの電極は非接触ながら、回転しながら放電を繰り返す金属部品であるため、電極の摩耗(溶損)は避けられず、それぞれ定期的に交換が必要な部品でした。
また、点火制御にコンピューターが使われる以前は、デスビには適切な点火タイミングを制御する役割がありました。
現在ではエンジンコントロールユニットで点火を制御し、多くのエンジンで点火コイルが各スパークプラグに配置されたことでデスビが不要になり、メンテナンスフリー化が進みました。
●アフターアイドル
ターボチャージャーはコンプレッサーの1種で、エンジンの排気でタービンを回転させ、その回転を利用してコンプレッサーが空気を圧縮し、大気圧以上の圧力の空気をエンジンの燃焼室に送り込むことで、高出力を得るというものです。
タービンはエンジンの排気にさらされているので、高負荷時では表面温度が800℃以上になることがあります。
高温になるターボチャージャーですが、その回転部分の潤滑はエンジンオイルを循環させることでスムーズな回転が維持されています。
この軸受を保護するため、かつては連続高速走行時や登坂走行などの直後はエンジンをすぐに止めてはいけないとされていました。
これは、軸受のオイルの循環が止まるためで、高温のタービンの影響でオイルの焦げにより「スラッジ」と呼ばれる物質が、軸受で生成されないようにするためです。
スラッジがタービンシャフトの回転部分に付着してしまうと、タービンの回転が鈍くなることによるスロットルレスポンスの低下や、適切な過給が得られなくなりパワーダウンを招くことがあります。
それを防ぐために、高負荷走行の後は一定時間アイドリングすることが推奨され「アフターアイドル」と呼ばれました。
エンジンオイルをタービンシャフト周辺の温度が下がるまで循環させることで、スラッジの発生を抑え、ターボチャージャーの能力を維持するものです。
1980年代から1990年代初頭のターボ車は、取り扱い説明書にもアフターアイドルをするように書かれていたほどです。
クルマから早く離れたいドライバーのためには「アイドリングタイマー」や「ターボタイマー」と呼ばれた、イグニッションをOFFにしてキーを抜いても、設定時間内はエンジンを回し続ける社外品パーツも多く販売されていました。
現在ではオイルとターボチャージャーの軸受の性能が向上し、アフターアイドルは不要になりました。そもそも、ターボ車でもアイドリングストップする時代ですから、高速走行後でも気を使うことはありません。
※ ※ ※
今回取り上げた5つの言葉を聞いて、懐かしいと思った人が多いのではないでしょうか。
RV以外の言葉は、すべて技術的な進歩によって消えていった言葉やモノです。
おそらく、いま当たり前のようにクルマに搭載されている装備も将来的に消えて、死語になる運命にあるでしょう。
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