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ガソリンエンジンのトレンドとなる「リーンバーン」技術

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ガソリンエンジンのトレンドとなる「リーンバーン」技術

この記事は2020年5月に有料配信したメールマガジンを無料公開したものです

2020年から2021年は、グローバル規模でクルマの電気自動車化という大きな潮流がうねる年となる。もちろんこれまでに、日産、ルノー、三菱、テスラ、BMWなどがいち早く電気駆動化のパイオニアとなっているが、世界的な規模で電気自動車化の推進役になっているとは言い難い。

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内燃エンジンの将来性

ビジネスの観点では、電気自動車の開発、生産、販売は赤字であり、最も急激に電気自動車の事業を拡大しているテスラでさえ自動車部門は赤字が続き、現在でも収支は際どいレベルにある。

だが、2020年から2021年にかけては、フォルクスワーゲン グループが先頭に立って電気自動車によるグローバル規模でのビジネス化が開始されることになる。VWは、巨額の設備投資が行なっているが、ビジネス面では最初から大量生産を行ない、想定通りの売れ行きになれば収益を生み出す計画としている点が画期的である。

しかし、その一方で内燃エンジン搭載モデルがどんどん消滅していくわけではない。ヨーロッパでは依然としてディーゼルエンジンの開発が継続しており、より厳しくなる排ガス規制をパスしながらも存続している。排ガス規制をパスするためのデバイスにコストがかかるため、大型の高価格モデルなどディーゼルエンジン搭載モデルは限られるとはいえ、熱効率が高く、CO2排出量が少ないという特長は評価されているからだ。

ただ、今後のハイブリッド化のトレンドを考えると、コストの高いディーゼルエンジンとハイブリッドの組み合わせを普及させるのはハードルが高いと考えるのは当然だ。

一方で、コンパクトカークラスはガソリンエンジンが依然として継続される。もちろん今後はガソリンエンジン単体ではなく48Vマイルドハイブリッド、ハイブリッドとの組み合わせが主流になっていく。

しかしガソリンエンジンは、これからはディーゼルエンジン並みの熱効率に高めることが求められている。特にハイブリッド用のエンジンは、モーターの駆動力を活かすことでより効率的な運転が可能になるため、より高い熱効率が実現すれば、CO2排出量を減らすことができることを意味し、ガソリンエンジンとハイブリッドシステムの組み合わせはWell to Wheel(原油採掘から実走行までのCO2排出量)の観点で電気自動車に対して競争力を持つことが想定されている。

正味熱効率を重視

ここで改めて熱効率について考えてみよう。熱効率には、理論熱効率、図示熱効率、正味熱効率の3種類がある。理論熱効率は熱損失や摩擦のない、理想的なエンジンを仮定した熱効率だ。理論熱効率は圧縮比と熱交換ガスの種類によってのみ決まる効率で、投入された熱エネルギー(燃料)と有効に取り出されたエネルギーの比を表す。当然ながら実際のエンジンではこの値よりも低くなる。

図示熱効率は燃焼によって作動ガスが膨張することによりピストンが行なう仕事と投入された熱エネルギーの比を表す。冷却損失、時間損失、排気損失などが差し引かれるので理論熱効率より低い値になる。

正味熱効率は図示仕事(ピストンがする仕事)から摩擦損失やポンプ損失を差し引いた、クランクシャフト後端から有効に動力として取り出せる仕事と投入された熱エネルギーの比を表す。今、問われているのはこの正味熱効率だ。

熱効率を上げるには、理論熱効率を上げて、次に実際のエンジンで発生する様々な損失を減らすというという手段が必要だ。

現在のガソリンエンジン

かつてはガソリンエンジンの熱効率は30%といわれた時代が長く続いたが、現在の最新ガソリンエンジンはすでに40%のレベルに達している。

熱効率を高めるにはふたつの技術が必要とされる。まず、圧縮比が高いほど熱効率はアップし、同時に、できる限り希薄な混合気で燃焼させる。そして冷却損失、摩擦損失などのエンジンの損失をできる限り低減させるという手段が必要となる。つまり理論熱効率を高めるためにできる限り高圧縮比で希薄燃焼(リーンバーン)を行ない、さらにエンジンの様々な損失を低減させることで正味熱効率を向上させることができる。

しかしガソリンエンジンは高圧縮比化するとノッキングが発生し、エンジンが破壊されるため、様々な手段のノッキングを回避する必要がある。

また、希薄燃焼を追求する場合、着火しにくい、着火しても燃焼が拡大しないなどの課題があり、そして希薄燃焼の詳細なプロセスも理論的に明らかではなかった課題がある。

そのため、これまでは理想空燃比で高圧縮比化とエンジンの各損失の低減、さらに排気熱の回収などのあわせ技で熱効率を高めてきたわけだ。

アトキンソンサイクル

その先駆となったのがプリウスに搭載する4気筒エンジンで、14.0という高圧縮比(アトキンソン=ミラーサイクル採用)や燃焼の改善、2系統冷却、低摩擦化、排気熱回収などを追求することで、熱効率40%を実現している。

さらに、プリウスより後にデビューしたカムリに搭載された新開発のダイナミックフォース エンジンではエンジン駆動用のA25A-FKS型ではアトキンソンサイクルで、高圧縮比として熱効率40%を達成、そしてハイブリッド用のA25A-FXS型エンジンでは世界最高レベルの熱効率41%を達成している。

ホンダはアコード ハイブリッドに専用開発の2.0L 4気筒エンジン LFA-MF8型を投入している。このエンジンはVTEC(可変バルブタイミング&リフト)、電動可変バルブタイミング(VTC)を装備し、圧縮比13.0としている。ミラーサイクル、低摩擦化、補機の電動化、排気熱回収を組み合わせることで、熱効率は正式発表されていないが、A25A-FXS型と同等レベルになっていると推測される。このエンジンは、発電だけではなく高速走行時には駆動も担当する。

なおホンダは1999年に登場した初代インサイトでは1.0L 3気筒エンジンで希薄燃焼を採用しており、2003年にはストリームにVTEC、VTC、ホンダ初のセンター直噴、そしてEGRと超希薄燃焼を組み合わせたK20B型(i-VTEC I)エンジンを発売している。このエンジンは圧縮比10.0で、EGRガスを含む混合比で65:1という超希薄燃焼を達成するなど、希薄燃焼に関してはパイオニアとなっている。

スカイアクティブ

高圧縮比、希薄燃焼に正面から踏み込んだのがマツダのスカイアクティブ-X(HF-VPH型)エンジンだ。ミラーサイクル、EGRなども併用しながら、圧縮比を15.0まで高め、軽負荷時には空燃比30程度としている。こうした空燃比では着火が難しいため、このエンジンはセンター直噴+点火プラグを組み合わせた成層燃焼により着火(SPCCI)しているのが特長だ。

HF-VPH型エンジンも熱効率は公表されていないが、おそらく40%程度だと推測されている。

このように最新エンジンは熱効率が40%付近に達しているが、次世代のエンジンは限りなく50%にまで高めることが課題となっている。すでに、トヨタ、ホンダ、日産が熱効率50%オーバーを目標にエンジン開発を行なっており、スバルもターボエンジンで熱効率40%超えを狙っている。開発が順調なら、早ければ2021年にも熱効率50%は達成される可能性がある。

希薄燃焼

そのキーポイントになるのが超希薄燃焼の技術だ。実は希薄燃焼は、市販エンジンより先に、スーパーGTのGT500クラス、トヨタの世界耐久選手権レース用のエンジン、ホンダのF1エンジンなど、レースエンジンではすでに実用化されているのだ。

これらのレースでは燃料流量制限の規則があるため、高回転域では希薄燃焼が必須となり、そこでいかにパワーを引き出すことができるかの競争になっている。

こうした技術が量産ハイブリッド用エンジンに投入されることは容易に想像できる。ただ、日産だけは可変圧縮比+アトキンソンサイクルの組み合わせを使用した希薄燃焼を目指しているといわれている。

今後は希薄燃焼の実用化が課題

燃費の大幅な向上、CO2排出量の削減を図るためには、熱効率を50%以上に高めることは自動車エンジンのテクノロジーの焦点である。

そのため、各自動車メーカーが研究開発を行なっているだけではなく、国家的なプロジェクトとして政府の手動する「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」でも全国の大学が協力し、超希薄燃焼の研究が行なわれてきた。

学術的にも、高圧縮比での希薄燃焼のプロセスは未解明であったため、全国の大学の研究室でリーンバーンでの着火や燃焼の可視化、モデルベース化、解析などを行ない研究が行なわれた。

このSIPの第1期のテーマのひとつであった「革新的燃焼技術」の研究プロジェクトは2019年に終了しているが、その成果として東工大の研究室は、圧縮比17.0、空燃比27.3で図示熱効率52.6%を達成することができた。

目標値が明確に

この実験エンジンでは、高タンブル流、高圧縮比、直噴、そして空燃比27.3という希薄な混合気の条件で、さらに直噴ウォーターインジェクション(水噴射)を併用する。ピストン頭部側に水噴射して水蒸気層を生成し、ノッキングを回避、そして冷却損失を一段と抑制することで、2000rpm付近で図示熱効率52.6%、正味熱効率を51.5%を達成しているのだ。

もちろんこれは実験用エンジンでの例であるが、従来の理想空燃比での熱効率追求から希薄燃焼での熱効率50%超えの目標が見え始めたということができる。

なお希薄燃焼の実現に向けて、ホンダやトヨタはモータースポーツで使用している副燃焼室を使用する希薄燃焼を開発しているといわれている。

このタイプは副燃焼室に高圧の燃料直噴を行ない、その混合気に点火プラグで着火してジェット噴流を生成し、メインの燃焼室内の薄い混合気を一気に高速で燃焼させるという基本原理である。

いずれにしても2021年には希薄燃焼を採用した高い熱効率のエンジンが市販エンジンとして登場する可能性は極めて大きくなっている。

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みんなのコメント

7件
  • アトキンソンサイクルは日産可変圧縮比エンジンに近いもので、トヨタがアトキンソンサイクルと名乗ったものはミラーサイクル。ミラーサイクルは吸気バルブを早閉じ又は遅閉じすることで事実上の圧縮比を下げる。圧縮比10、膨張比14の場合、燃やせる燃料は71%になる。それでもパワーダウンがほぼ無いのは、効率が良いからだ。
    トヨタが「21世紀に間に合いました」とプリウスを出したのは1997年、マツダがユーノス800ミラーサイクルを出したのは1993年。ミラーサイクルの元祖はマツダ。マツダがやったから日本では全く売れなかったが、アメリカではそこそこ売れた。
  • 近年のディーゼルの情勢はとても悪いが、ガソリンエンジンをリーンバーンさせていくなら、リーンバーンエンジンであるディーゼルエンジンの関連技術は避けて通れないだろう。
    メルセデスやスバルのリーンバーンエンジンはディーゼル同様の排ガス処理問題を持っているし、マツダのSKYACTIV-Xはコモンレールシステムで燃料噴射するガソリンとディーゼルの間の子のような代物。
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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