ここ10年間で最も大きな話題を集めた1台
あのハーレーダビッドソンから、電動モデルのライブワイヤーが発売された。筆者が乗ったなかではベスト・ハーレーと呼べるだけでなく、本物の個性すら感じさせてくれる1台だといえそうだ。
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ハーレーダビッドソン・ライブワイヤーの価格は、英国で2万8995ポンド(約440万円)から。ハーレーとして最高額ではないものの、安くはない。
ライブワイヤー1台で、電動バイクのゼロ・モーターサイクルSR/Sと、内燃エンジンのヤマハMT-07の2台を購入できてしまう。だが、資金力のあるアーリーアダプター・ライダーを惹きつけることはできるだろう。
ライブワイヤーが発表されたのは2019年。ここ10年間で、最も大きな話題を集めたバイクだといえる。英国のテレビ番組、「ロング・ウエイ・アップ:大陸縦断バイクの旅」にも登場し、すでに高い評価を集めている。
先進技術の企業としてポジショニングを改めるという、ハーレーダビッドソンの決断も、バイク業界で大きな反響を生んだ。Vツインのアメリカンバイクを作ってきたメーカーが、最先端の電動バイクを真っ先に発表するとは、殆どの人が想像しなかったと思う。
伝統あるブランドとして、勇敢なチャレンジだといえる。英国では多くの人が認識しているようで、撮影の合間に電動のハーレーですよね、とたくさん声をかけていただいた。
マーケティング的には幸先の良いスタートを切った、ライブワイヤー。実際に乗った印象はどうだろうか。今回は珍しくバイクへの試乗となるが、少しお付き合いいただきたい。
駆動用モーターは105ps 航続距離は152km
まずはハードウエアの確認から。V型2気筒エンジンの代わりに搭載されるのは、105psの駆動用モーターと、15.5kWhのバッテリー。航続距離は市街地で234km以上、高速道路など複合的な環境では152kmがうたわれている。
現在の電動バイクとしては競争力のある距離だが、画期的な数字ではない。スポーツバイクのゼロ・モーターサイクルSR/Sは、試乗時に259kmを走れている。
ただしSR/Sとは異なり、ライブワイヤーは急速充電器へ標準で対応する。DCで最大13kWまで許容し、0-80%を最短40分、0-100%は最短60分でまかなえる。
丁度いい場所に充電スポット付きのレストランを見つけられれば、昼食をとっている間に充電を完了できるだろう。英国家庭用の3ピン・コンセントにも対応し、自宅でも1時間当たり20kmぶんの電気を蓄えられるという。
製造品質やディティールは、さすがハーレーダビッドソン。従来的なタンク型カウルの上部に用意された充電ポートや、小さな部品にまでコダワリを感じる。オレンジ・フューズと呼ばれるメタリック塗装の仕上げも、圧倒的に高い。
LEDヘッドライトにTFTのメーターパネル、キーレス・イグニッション、ショーワ社製のフォーク、ブレンボ社製のブレーキが標準装備。高めの価格だけのことはある。
スターターボタンを親指で押しただけでも、ライブワイヤーに払われた労力が伝わってくる。TFTモニターの両脇に配されたライトバーがグリーンに灯り、電動バイクがライブ状態であることを教えてくれる。
路上を飛行しているように清々しい
ハンドルとシートベースからは、脈打つようなパルス振動が伝わってくる。電気モーターが生み出しているものだという。グリップのスロットルをひねって、オンかオフかを確かめる必要はない。SR/Sにも欲しい機能だ。
クラッチやトランスミッションがない電動バイクは、大型スクーターのように乗りやすい。印象的なほど自然なスロットル・レスポンスも、近づきやすくしてくれている。
クルマでいうドライブモードに当たる、ライディングモードにはエコ、レイン、ストリート、スポーツの4種類が用意されている。エコ・モードは市街地に丁度良く、ウーバーのスクーターを引き離すのに充分なダッシュ力が得られた。
スポーツは回生ブレーキの強さが強くなり、スロットル・レスポンスも向上。流れの速い郊外の道にピッタリだ。
クラッチもギアもないハーレーは、ガソリンを燃やす従来モデルのように、生々しく豊かなスリルを味わえないのでは、とお考えかもしれない。確かに、筆者も実際にまたがる前に抱いていた疑問ではある。それは杞憂だった。
大きめにスロットルを開いた時の加速力が、そんな考えを吹き飛ばした。0-100km/h加速は3.0秒と主張され、速度変化に伴うノイズはほぼない。常に路上を飛行しているように清々しい。お決まりの表現かもしれないが、本当にそう感じる。
最先端のトラクション・コントロールも装備され、コーナーでも余計な不安なしにフルパワーを与えられる。最新のクルマへ積まれるシステム以上に、クレバーかもしれない。
電動バイクの楽しさを体験できる
車重は249kgと、BMWのアドベンチャーバイク、GSシリーズとほぼ同等。前後のバランスも良好で、挙動も予想しやすい。
高速域で進路を素早く変えるには、身体の筋力が求められる。だがシャシーが重すぎると感じることはなく、ミシュラン・スコーチャー・タイヤがふんだんなグリップ力を与えてくれる。感触も豊かだ。
気になる点といえば、やはり航続距離。ツーリング仲間は、充電の待ち時間やその頻度にヤキモキするかもしれない。ロンドンから南部のチチェスターまで片道約110kmのツーリングのあと、走行可能距離は残り12kmだった。
現実的に、一度の充電で走れる距離は120kmほど。早朝のリフレッシュや通勤には問題ないかもしれないが、ロングツーリングには適していないといえるだろう。
英国価格2万8995ポンド(約440万円)のライブワイヤーは、多くのバイクファンへ訴求するモデルではないとは思う。冒頭で触れたように、別ブランドなら電動モデルと内燃モデルを両方買える値段だ。
しかし、ハーレーダビッドソン初の電動モデルとして、設計やデザインの完成度は非常に高い。人間工学や製造品質だけでなく、電動バイクの楽しさも見事に堪能させてくれる。欲しいと思えるほどに。
ハーレーダビッドソンは、順次電動モデルのラインナップを拡大すると発表している。ライブワイヤーは、その未来の実現に大きな期待を持たせてくれた。
ハーレーダビッドソン・ライブワイヤー(英国仕様)のスペック
英国価格:2万8995ポンド(約440万円)
全長:2136mm
全幅:833mm
シート高:762mm
最高速度:185km/h
0-100km/h加速:3.0秒
航続距離:152km
電費:−
CO2排出量:−
車両重量:249kg
パワートレイン:電気モーター
バッテリー:15.5kWhリチウムイオン
最高出力:105ps
最大トルク:11.8kg-m
ギアボックス:−
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バイクは個体電池が実用化されるまで待った方がいいんだろうか