“ザ・ザ・ガボール(Zsa Zsa Gabor)”という、ちょっと風変わりに聴こえる名前を知っているのは、かなり熱烈なクラシック映画ファンか、あるいは一定以上の年齢の人だろう。
ザ・ザ・ガボールは、1917年にハンガリーで生を受け、1936年に“ミス・ハンガリー”に選ばれたのちアメリカに移住。1940年代から1970年代にかけてハリウッドで活躍した、往年のスター女優である。
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December Bride1958年当時のザ・ザ・ガボール(Photo by CBS via Getty Images)。CBS Photo Archive彼女は、ハリウッドにおけるゴージャス極まりないライフスタイルや、9回にも及ぶ華麗な結婚歴など、常に世間の耳目を集めたプライベートライフも有名だった。いわば、“ハリウッド・セレブ”の先駆けともいうべき人物だったとされる。
男性遍歴のみならずクルマ遍歴も華麗だった。パパラッチたちがスクープ撮影した写真には、メルセデス・ベンツ「300SL」やナッシュ「ヒーレー」、そして数々のロールス・ロイスとともに映る彼女の姿が多く見られた。
彼女の愛車だった1台、ハリウッド流ドルチェヴィータをもっとも体現しているであろう1961年型ロールス・ロイス「シルヴァークラウドII」が、2月7日、フランス・パリのクラシックカー・トレードショー「レトロモビル」オフィシャルのオークションである「アールキュリアル(Artcurial)」に出品された。
DIEDERIK LIEFTINK驚きの魔改造このシルヴァークラウドIIがアイコニックな存在になっている理由は、恐るべき“魔改造”ぶりだ。希少なロングホイールベース版のルーフ前半を、馬車時代に端を発する“セダンカ・ド・ヴィル”のように取り外し可能にし、テールのトランクフードにはスペアタイアを背負わせる、こちらも旧き良きスタイル。内外装のクロームメッキパーツは24金に変更され、ガラスにもエッチングが施されるというあんばいで、趣味の良し悪しはさておき、驚くべきモディファイが施されている。
DIEDERIK LIEFTINKカスタマイズを手掛けた人物もまた、伝説の人物だった。1950年代から今世紀に至るまで活躍した“アメリカ・カスタムカー界の神様”である、故ジョージ・バリスである。
ティーンエージャー時代からクルマの改造に魅せられたバリスは、弟のサムとともにロサンゼルスでカスタムカー専門の工房「Barris Kustoms」を開き、数多くのホットロッドやカスタムカーを製作した。多くは、個人のエンスージアストから依頼されてワン・オフ製作されたものだった。
彼の名声を決定的なものにしたのは、映画やドラマに登場する劇中車を手掛けたから。たえば、1966~1968年に放送されたテレビシリーズ『バットマン』のために製作された、元祖“バットモービル”もバリスが手がけた1台である。
ジョージ・バリスが手がけたクルマを紹介する新聞記事。今回出品されたロールスや初代バットモービルも掲載されている。1955年型のリンカーン「フューチュラ」をもとに、デザインから製作までバリスが手掛けた初代バットモービルは、全世界の子供から大人までを魅了。ドラマの人気に拍車をかけた。2013年1月におこなわれたバレット・ジャクソン社のオークションに出品された初代バットモービルは、462万ドル(当時の邦貨換算で約5億6000万円)という驚くべき価格で落札された点でも話題を呼んだ。
予想落札価格は高いか? それとも妥当か?バリスが手がけたザ・ザ・ガボールのロールスに話を戻そう。
今回、アールキュリアル社の公式オークション・カタログに記載された予想落札価格は8万~14万ユーロと、かなり幅が設けられていた。こうしたカスタムカーの評価が難しいことを物語っている。
DIEDERIK LIEFTINKもし同年代のシルヴァークラウドIIの無改造車であれば、この半額くらいで落札されるケースが多いのを考えると、やはり“ザ・ザ・ガボール”&“ジョージ・バリス”のネームバリューが影響したように思う。
2月7日の競売にて、ロットナンバー148で出展されたザ・ザ・ガボールが所有したロールス・ロイスは、残念ながら最低落札価格に届かず“No Sale”に終わってしまった。しかし今後、ヨーロッパやアメリカのイベントなどに姿をあらわす可能性は充分にあるだろう。
ロールス・ロイスの大ファンである筆者は、このクルマのテイストには正直なところまったくもって感心できないが、それでも自分の眼で見てみたいという好奇心には抵抗できないのである。
文・武田公実
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