英国のリビエラ:ペイントン
グレートブリテン島の南西、イギリス海峡に面したペイントンの街には、小さな遊園地がある。そこに面した砂浜で、祖母と過ごした記憶は今も忘れない。
【画像】走る芸術作品 ベントレー・コンチネンタルGT クーペとコンバーチブルを比較 全49枚
近くのトーキーという小さな港町に、年金生活の祖母が住んでいた。年に数回、休みになると筆者の母はわたしを実家に預けたのだ。
遊園地は不良の集まる場所だといわれ、祖母と一緒に行くことはなかった。でも筆者は、こっそり遊びに行っていた。そこで初めて、アーケードゲームのフォルツァ・モータースポーツをプレイした。
クルマのカタチをした筐体に、ステアリングホイールが付いている。当時は2ペンスを払うと、見たこともないサーキットでクルマを運転するような体験ができた。正直、内容は期待はずれだったけれど。
最近ペイントンを訪ねてから、25年以上が過ぎている。どういうわけか、再び筆者はその海岸線にいる。
今回、ベントレー・コンチネンタルGT コンバーチブルで目指す場所として、英国にあるリビエラを探した。道が複雑な南フランスではなく。ご時世的に、冬の休暇に海外旅行というのは少しはばかれる。たどり着いたのがこの場所というわけだ。
ユネスコの世界ジオパークには、英国のリビエラとしてちゃんと登録されている。トスカーナ地方やプロバンス地方のジオパークと並んで。カンヌやサントロペを夢見たなら、英国のトーキーやペイントンの街を思い出して欲しい。
柔らかなパウダーブルーのコンバーチブル
ペイントンの砂浜には太陽の光が降り注ぎ、ヤシの木が空へ伸びている。そして、1台のまっさらなコンバーチブルが道を進む。筆者を乗せて。
イタリアのカンヌには、怪しい男性が未来を占ってくれる、ガラスで覆われた小屋のある遊園地はないはず。モンテカルロにも、派手な電飾の付いた騒がしいスロットマシンが、壁一面に並んだ遊園地はないだろう。
筆者が腰を降ろしているのは、柔らかな色調のパウダーブルーに塗られたコンチネンタルGT コンバーチブル。豪奢なインテリア越しに、英国のリビエラを楽しんでいる。後ろから流れ込む優しい風のなかで、ジャケットとパナマハットに身を包みながら。
遠くから見れば、大富豪らしい風格を漂わせていたかもしれない。でも、その内側はいつものジーンズとシャツ。試乗テストでは定番の、普段着のままだ。祖母はこの世を去って久しく、知り合いもいないから、冷やかしで声をかけてくる人もいない。
しばらくコンチネンタルGTで走っていると、オープンカーだということを強くは意識しなくなる。マリナー部門によるオプションが載り、総額22万2725ポンド(約3385万円)のベントレーだけれど。
英国で富を象徴するような高級車を運転していると、あまり好ましくない反応が返ってくる場所もある。でも、この街なら大丈夫そうだ。
遠くで聞こえるV8ツインターボ・エンジン
ペイントンの人々が、コンチネンタルGT コンバーチブルを駐車しようとしている筆者を笑顔でチラ見していく。じっくりボディを一周眺めた後に、驚くほど丁寧に写真を撮影していいか聞いてくる人もいる。そんな対応がうれしい。
英国の南西の海岸まで、柔らかなレザーで仕立てられたインテリアに包まれて来た。ダイヤモンド柄のキルト加工が施された上質なシートに座り、ベントレーのV8ツインターボ・エンジンの唸り声を、遠くに聞きながら。
フロントガラスの上を流れていく風が、優しく筆者の髪を撫でる。平穏で優雅に、海岸線を走る。
といっても、やはり本場のフランスには敵わない。ペイントンの景色は安っぽい。英国のリビエラを華やかに見せるかと思ったコンチネンタルGTだが、かえってこの街のつまらなさを強調してしまったようだ。まあ、写真は美しく撮れたようだが。
少なくとも、ペイントンへ四半世紀ぶりに戻ってきた筆者を、この街の人は歓迎してくれているようだった。幸せな気分になった。
筆者はラグジュアリーなコンバーチブルが似合う人物だとは思っていない。確かに個人的にオープンカーを乗り継いできたが、手頃で遅いクルマばかりだった。シトロエン2CVの巻取り式ソフトトップを、筆者ほど開いて運転している英国人も少ないと思う。
この続きは後編にて。
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