はじめに
お気づきだろうか、フォードが好調だということを。
たしかに彼らは、欧州で大規模なリストラを敢行中だ。英国では、ブリジェンドのエンジン工場閉鎖にピリピリした空気も漂っている。
また、研究開発コスト合理化の一環として、電動化や自動運転の分野でフォルクスワーゲングループとの共同開発を行っている。財政は緊縮され、ビジネスの先行き不透明感も否定できない。
だが、ここはそうした経済ニュースのような話題でなく、ドライバー目線でクルマを評価するロードテストのページだ。そうした観点で語るなら、フォードはものごとをじつにうまく運んでいる、ということになる。
最新のフィエスタは、キャビンの雰囲気に見るものを圧倒するところはない。だが、ことハンドリングに関していえば、このクラスで抜きんでた存在だ。
2018年に登場した4代目フォーカスも同様だ。ベースグレードでさえ、正真正銘のホットハッチさえ凌ぐほどの運動性でドライバーを魅了する。おそらく、その点では1998年に世界を驚かせた初代さえ凌ぐだろう。
そして昨年、フィエスタがベースのコンパクトSUVで、プーマの名跡が復活した。その名に恥じないドライビングの楽しさは、数多くのライバルを寄せ付けない。
そこにきて、今回の新型クーガだ。旧型のセールスを上回っていた日産キャシュカイやフォルクスワーゲン・ティグアン、プジョー3008などのシェアを奪うべく投入されたモデルだ。
エクステリアのデザインはソフトになり、室内は広さを増し、マイルドとプラグインのハイブリッドを設定して経済性も高めた3代目クーガ。はたして、セグメント内のランキングを大きく変えることはできるのだろうか。
意匠と技術 ★★★★★★★★☆☆
新型クーガのグリルは、先代より大きくなったようだが、かつてのエッジが立ったしかめっ面はそこにはない。もっとフレンドリーで曲線的なルックスは、顧客からの声を聞き入れた結果だ。
そのルックスはなかなかに魅力的だ。見かたによっては、アストンマーティンDBXに似ているといえなくもない。だいぶ遠目に見れば、ではあるが。
そのボディワークの下にあるのは、みごとな完成度でなかなかに強固なフォードのC2プラットフォーム。これにより、全長は89mm、全幅は44mm拡大。また、フォードによればクラストップの後席レッグルームを実現しているとか。全高は逆に、先代より20mm低くなっている。
とはいえ、目に見えないところではもっと多くの変化がある。たとえば、先代のエンジンはトラディッショナルな4気筒のガソリンとディーゼルのみだったが、新型ではラインナップが拡がった。
エントリーレベルは、1.5L直3ガソリンターボのエコブーストで、120psと150psの2タイプを設定。ディーゼルのエコブルーには、120psの1.5Lと190psの2.0Lがあり、このほかに150psディーゼルのマイルドハイブリッドと、最上位機種となる225psガソリンのプラグインハイブリッドが用意される。
標準搭載されるトランスミッションは6速MTで、ディーゼルでは8速ATも選べる。ガソリン車はMTのみで、唯一の例外が今回のプラグイン仕様ということになる。
そのPHVバージョンは、135psの2.5Lアトキンソンサイクル直4ガソリンに、CVTと111psの電気モーターを組み合わせる。このセットアップはトヨタのそれと同じタイプだ。14.4kWhのバッテリーパックは、キャビン半ばのフロア下に設置。クーガPHEVのEV走行可能距離は56kmほどだ。
C2プラットフォームの採用で、新型クーガは先代より90kg軽量化したとされるが、ハイブリッドシステムの重量はその削減分を超える。そのため、ラインナップ中でもっとも経済的であると同時に、1844kgというもっとも重いウェイトとなっている。
サスペンションはフロントがマクファーソンストラット、リアがマルチリンク。同じプラットフォームを用いるフォーカスが、下位グレードのリアにトーションビームを用いるのに対し、クーガは全車とも独立懸架となる。
内装 ★★★★★★★☆☆☆
外観にはどことなく、世界でも屈指のスタイリッシュなクルマを生み出し続けてきたブランドのデザインに似たところがあった。内装もさぞやすばらしかろう、とドアを開けたとたん、そんな幻想は打ち砕かれた。
モノクロなマテリアルや、誰が見てもわかるほど単純な基本設計は、目にしてすぐに失望させられるというものでもない。また立ち気味のドライビングポジションでサポート性に優れたSTライン仕様のスポーツシートは、高さはあるものの路面から離れすぎない絶妙なバランスの着座位置だ。
ところが、近くに寄って観察すると、安っぽいプラスティックの表面はザラザラなテクスチャーで、角が切りっぱなしのように尖っているところもある。
たとえばドアトリムの上部は、前席側がソフトなタッチの合成皮革で覆われているものの、後席側は同じデザインでありながら弾力のないプラスティックとなっている。
マツダやプジョーの競合車なら、もっと暖かな雰囲気で、目を楽しませてくれて、快適に過ごせる空間を提供してくれる。その点、クーガの尺度は、より登場年次の古いキャシュカイなどに近いものだ。
とはいえ、トランスミッショントンネルを覆うブラシ仕上げなど、おもしろいテクスチャーのプラスティックも使われている。また、今回取り上げた中間グレードのSTラインでは、手に触れる箇所がなかなかのクオリティだ。
乗員の快適性や広さという点では、それほど悪くない。Aピラーは太いが、キャビンは開放感があり、どこに座ってもヘッドルームとレッグルームが十分にある。とくに後席は、150mmの前後スライドのおかげでゆったりと過ごせる。ただし、あまり足元の広さを求めると、荷室容量が削られてしまうのだが。
そうでなくても、プラグインハイブリッド化で荷室は狭まっている。後席をもっとも前までスライドさせた状態では、645Lの非ハイブリッド車に対し581Lだ。ただし、フロアから開口部の幅広いリップまでフラッシュサーフェスになっているので、荷物の出し入れはしやすい。
それ以外の収納スペースも、スコダ・コディアックほど豊富に用意されているわけではないが、まずまず悪くない。大きなドアポケットは便利だが、それ以外にもキーや携帯電話などの小物を置くスペースは多い。
走り ★★★★★★★☆☆☆
ウェイトは、やはりパフォーマンスの大敵だ。0-100km/h加速タイムをみると、このクーガPHEVは9秒以上かかるが、これより582kg軽いフィエスタSTは200psで6.5秒をマークする。
たしかにオーバーテイクは、ためらいなく済ませてくれるだろうが、224psというシステム出力から期待するようなフィールをもたらしてはくれない。
トヨタRAV4やホンダCR-Vのハイブリッドは、クーガPHEVより元気な加速をみせる。大容量バッテリーもプラグイン充電機構も備えていないにもかかわらずだ。
それでも、クーガPHEVが遅く感じられるというわけではない。スタンディングスタートやほどほどのスピードからの加速では、スロットルレスポンスはこのクラスの水準からすればじつにシャープ。たっぷりあるトルクを利して、走り出しにみせるモーターアシストを受けての爆発的な加速を、ほんの数秒間で終わらせずに維持する。
フルスロットルではCVTらしさが際立ち、エンジンは唸りを上げて一本調子に回り続けながら、トランスミッションが変速比を調整して速度を上げていく。しかしほとんどの間、このハイブリッドパワートレインはほどよくしつけられたところをみせる。
バッテリーを使い切った場合、巡航時の燃費は15.6km/Lをマーク。フル充電ならば、データ上では120km/h巡航でその倍ほどの燃費を稼げるということになっている。
残念だったのは、街乗りでのふるまいが冴えなかったこと。走り出しはあまりにも唐突だ。モーターの立ち上がりが急激で、意外なほど急発進になってしまう。ブレーキングも同様で、回生ブレーキからディスクブレーキへとスムースに移行できない。
使い勝手 ★★★★★★☆☆☆☆
インフォテインメント
クーガのインフォテインメントシステムは、フォードの最新デバイスであるSync 3。従来のSync 2ソフトウェアに馴染んでいると、やや新奇に思えるところがある。とくに、STライン以上では12.3インチ画面を用いたデジタルメーターパネルとの組み合わせになるので、よけいに目新しい。
インフォテインメント用ディスプレイは8.0インチのタッチ式で、ダッシュボード上部にこれ見よがしなくらい突き出している。だが、そのすぐ下には実体スイッチが並んでいるので、素早いアジャストも容易だ。
プレミアム系でないSUVのなかでは、このシステムはよくできているといえるが、ベストといえるほどではない。メニューは、期待したほど先進的ではなかった。操作性では、マツダCX-5にあるようなダイヤル式コントローラーに軍配が上がる。
それでも、少なくともApple CarPlayとAndroid Autoは、いちいちスマホを手にしなくても、車両側ディスプレイを介して操作できるようにはなっている。
オーディオは、タイタニウム以上のグレードでは、バング&オルフセンのプレミアムサウンドシステムが装備される。
操舵/快適性 ★★★★★★★☆☆☆
クーガの幅広いモデルレンジにおいて、ハンドリングのよさを求めてグレードを選ぶなら、このプラグインハイブリッド仕様はベストな選択ではない。
だが、われわれは目の前のテスト車でしかジャッジできない。このクルマ、重量のかさむバッテリーパックはうまいことホイールベース内に低く配置されているのだが、鼻先の向きを変えた後に安定するまでに、間違いなく予想以上の時間がかかる。
路面状況が悪いと、ショックの吸収にありがたくない硬さがみられるが、これはSTライン仕様のサスペンションによって悪化しているようだ。
それも高速道路に入るといくらか和らぎ、すばらしく安楽に外乱なくクルーズできる。ただし、それはサスペンションがわずらわされずに済んでいる間のことだけ。舗装が荒れてくると、フォードとしては大きめのふわつきや突き上げが頻繁に感じられるようになる。
さらに走らせていくと、またわかることがある。ギア比の速い、ちょっとゴムっぽい感触のあるステアリングは、フォーカスではじつに調子よく機能していた。
しかしそれが、背が高く重いクーガでは、とりたてて有効に再現できているとはいえない。重量の足かせがあるクルマとは、マッチしていないのだ。
ステアリングの切りはじめのレスポンスが過敏なのも、その一因に挙げられる。そのため、車線の中央を完璧にキープするのが難しい。
とはいったものの、それらの問題はささいなことだ。このプラグインハイブリッドでさえ、コーナーを3つも駆け抜ければ3代目クーガのよくできた、直観的で地味に満足させてくれるハンドリングの片鱗に気づかされる。
その特性は、マツダCX-5のような、このクラスでもレベルの高いモデルが持ち合わせている類のものだ。たとえば、3速で走れるコーナーなら、今回の前輪駆動のテスト車は、ほとんどのクロスオーバーSUVを凌駕するバランスと身のこなしを見せつける。
ただ、クーガPHEVの総合的な運動性能が期待されたような、問題のない、冴えたものではなかったことは残念に思える。そのメカニズムなら、クラス水準を超える能力を備えるSUVになれたはずなのだ。
購入と維持 ★★★★★★★★★☆
カンパニーカーとしてのクーガの人気は、税率の低さからPHEVに集中しそうだ。56kmのEV走行が可能なので、1週間は給油しなくても乗り続けられるだろう。
ただし、勤務中に充電しておける施設は必要だ。フルチャージに要する時間は、ウォールボックス経由なら3.3時間、通常のコンセントからなら6時間だ。
71.4km/Lという公称燃費を、当然ながら日々乗る中で実現することはまずできないだろう。しかし、まめに充電し続けて使えば、年間通してみるとかなり近い数字に驚きを覚えるかもしれない。
クーガのラインナップ全体をみると、エントリーグレードのゼテックでも標準装備は充実。スマートフォンのワイアレス充電器や革巻きステアリングホイール、クルーズコントロール、スポーツシートを備える。
とはいえ、プラグインハイブリッドはタイタニウム以上でないと選べない。その場合は、18インチホイールとデュアルゾーンエアコンもついてくる。
STラインかSTラインXを選ぶと、さらにハードなサスペンションなどのスポーティアイテムも追加される。ただし、それらはどうしてもほしいというようなものではなかった、というのが正直な感想だ。
スペック
レイアウト
クーガは、フォーカスと同じC2プラットフォームがベース。しかし、フォーカスの廉価グレードではリアサスペンションにトーションビームを用いるのに対し、この新型SUVは、全車とも四輪独立懸架を採用する。
プラグインハイブリッドとしては珍しく、14.4kWhのバッテリーパックは荷室ではなく、ホイールベース内のフロア下に搭載される。自然吸気のエンジンは、フロントアクスル直前に横置きされる。
エンジン
駆動方式:フロント横置き前輪駆動
形式:直列4気筒2488cc、ガソリン、電気モーター(111ps)
ブロック/ヘッド:アルミニウム
ボア×ストローク:φ89.0×100.0mm
圧縮比:13.0:1
バルブ配置:4バルブDOHC
システム出力:225ps
最大トルク:未公表
許容回転数:5500rpm
馬力荷重比:122ps/t
トルク荷重比:-kg-m/t
エンジン比出力:54ps/L
ボディ/シャシー
全長:4626mm
ホイールベース:2710mm
オーバーハング(前):-mm
オーバーハング(後):-mm
全幅(ミラー含む):2178mm
全幅(ミラー除く):1882mm
全高:1690mm
積載容量:411-1478L
構造:スティール、モノコック
車両重量:1844kg(公称値)/-kg(実測値)
抗力係数:-
ホイール前・後:7.5Jx18
タイヤ前・後:225/60 R18
スペアタイヤ:なし(修理キット装備)
変速機
形式:無段変速機・動力分割機構
ギア比/1000rpm時車速〈km/h〉
最終減速比:2.91:1
燃料消費率
メーカー公表値:消費率
低速(市街地):-km/L
中速(郊外):-km/L
高速(高速道路):-km/L
超高速:-km/L
混合:71.4km/L
燃料タンク容量:43L
バッテリー容量:14.4kWh
現実的な航続距離:612km
EV航続距離:56km
CO2排出量:32g/km
サスペンション
前:マクファーソンストラット/コイルスプリング、スタビライザー
後:マルチリンク/コイルスプリング、スタビライザー
ステアリング
形式:電動アシスト機械式、ラック&ピニオン
ロック・トゥ・ロック:-回転
最小回転直径:11.4m
ブレーキ
前:330mm通気冷却式ディスク
後:302mmディスク
結論 ★★★★★★★☆☆☆
クーガはこの3代目でも、フォードのポピュラーなSUVにとってわかりやすく喜ばしい特色を備えている。
今回テストした完全新設計のプラグインハイブリッド仕様は、ダイナミクスとエルゴノミクスに不満がなかったわけではないが、心地よさと広さには感心する。
そして、これより軽くてシンプルなバージョンだったなら、乗り心地やハンドリングはクラストップになってもおかしくないだろうと示唆するようなエビデンスも見出せた。
ファミリーカーとしても魅力的で、英国ではクーガ購入者の3分の1に及ぶPHEVオーナーは、傑出したEV航続距離と競争力のある価格の恩恵に預かれるだろう。
われわれがこうしたエンジニアリング主導のメーカーに望むのは、電動パワートレインの精密かつ巧みな制御だ。今回のテストでは、経済性とパフォーマンスの良好さは明らかになったが、走りの細かい部分からはハイブリッドカーにおけるフォードの経験不足が露呈した。
これまでにも、競合相手となる背の高いプラグインモデルをテストしてきたが、そこからわかったのは、まっとうなクルマに仕上げるのは難しいということだ。このクーガも総体的に見ると、フォードの背の低いハッチバックにあるような決定打を放ててはいなかった。
担当テスターのアドバイス
リチャード・レーンクーガのEV走行モードはおおむね納得できるものだが、パフォーマンスはエンジンとモーターの両方をフルに使った場合に比べると、驚くところもないほど限定的だ。テスラ・モデル3のような加速は期待しないように。
マット・ソーンダースクーガのほとんどは前輪駆動だが、ディーゼルのトップグレードである2.0L版には四輪駆動も設定される。悪路走行の機会が少なくないのであれば、これは使える仕様だ。
オプション追加のアドバイス
装備内容と価格のバランスがベストなグレードはタイタニウムだ。ホイールサイズも分別ある範疇にある。10ウェイ電動調整シートは550ポンド(約7.7万円)だが、これは購入前にじっくり試して決めたい。パノラミックサンルーフは995ポンド(約13.9万円)と安くはないが、インテリアの雰囲気を明るくしてくれる。
改善してほしいポイント
・インテリアはルックスと質感の向上を。硬いプラスティックはなくしてもらいたい。
・電力走行時の走り出しとブレーキフィールはもっと巧妙に。どちらもプログレッシブさが足りない。
・キャビンに侵入するロードノイズはもっと抑えてほしい。
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みんなのコメント
ハンドリング最高だ。
トヨタは、動力分割機構そのものを電気式無段変速機(電気式CVT)と言って、いわゆるトランスミッションは存在しないと理解している。クーガは無段変速機 動力分割機構の2段階になってるということ? この程度のサイズの車に、ありえないコストの掛け方となるのだけど、本当?教えて。