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ちょっとやんちゃになりました──新型BMWアルピナB5リムジン試乗記

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ちょっとやんちゃになりました──新型BMWアルピナB5リムジン試乗記

BMW「5シリーズ・セダン」をベースに、アルピナが手がけた「BMWアルピナB5リムジン」を今尾直樹がテスト。直前に乗ったB7リムジンとの違いとは?

世代交代に伴う違いとは?

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BMWアルピナB7に続いて試乗したB5は、問題作だった。アルピナに久しぶりにふれた筆者がB7に感動したあとだったこともあるけれど、B5はB7の単なる縮小版ではなかった。

B7がスポーティネスをエレガンスでくるんだ完璧な高性能サルーンだとすれば、B5はスポーティネスの度合いがエレガンスに勝る、いわば抜き身の刀のような高性能サルーンだったのだ。

びっくりしたなぁ、もー。アルピナというエレガントな包装紙でくるんではあるものの、包装紙自体が若干薄い、あるいはあえてダメージ加工してあるというのか、野性味がはみ出ている。

外見はB7と同様のアルピナ流でまとめられている。だから、これはベースの7シリーズと5シリーズの違いがそのままあらわれている、と解釈することもできる。けれど、そうではない。そう考えているのは、筆者だけではなくて、輸入元のアルピナの広報担当者自身もである。

ここで紹介したいのが、B7は創業者であるブルカルト・ボーフェンジーペンの最後の作品であり、B5はブルカルトの息子のアンドレアスが開発の指揮をとっているという事実だ。

創業1965年の名門BMWチューナー、アルピナにおける世代交代という大問題。それゆえか、クルマの仕立てがよりダイナミックに、どっちかというとBMW本家のM5にちょっぴり近づいている。そう、長年アルピナを扱ってきたニコルの担当者が認めている。

そう聞いて、筆者にも思い当たることがあった。それは2012年のこと。来日したアンドレアス・ボーフェンジーペンがドライブするBMWアルピナ「B6 GT3」の助手席に、富士スピードウェイの本コースで乗せてもらったことを思い出したのだ。

レーシング・ドライバーでもある彼の、そのときのドライビングの豪快だったこと! グワっと加速して、ガツンと減速し、ドーンッと横Gを出す。まるで絶叫マシンだぁ。

1962年生まれのアンドレアスは、1982年からレーシング・カートを始め、フォーミュラ・フォードを経て、DTMに参戦するにいたる。DTMで勝つことはできなかったけれど、ニュルブルクリンク24時間では1998年にディーゼル・エンジンを搭載したBMW「320d」(E36)で優勝を飾ったチームの一員として、表彰台のてっぺんに立った4人のドライバーのひとりであった。

1990年代の半ばにはBMWの開発部隊に加わり、E46やZ3、Z8のサスペンションを担当している。Z8ベースのアルピナがあったけれど、あれはアンドレアスの発案だった。

というようなことがネットを検索していたらわかった。家業のアルピナ社に入ったのは2002年だから、すでに20年近い歳月が流れている。つまり、父ブルカルトの流儀を学ぶには十分な時間があった。富士でのB6 GT3のドライビングは、B6自体、レーシング・カーだったこともあるし、助手席に乗るひとを楽しませることを重視したドライビングをしていたのかもしれない。とも思う。

軽やかな走り

あらためてB5のスペックを見てみよう。

全長は4980mm、ホイールベースは2975mmで、B7と較べると、全長で290mm、ホイールベースで235mm短い。いっぽう全幅は30mm、トレッドはフロントが10mm狭い程度だから、さほどの違いはない。

基本的に7シリーズと5シリーズは近しい関係にある。とりわけ、B5の運転席に座ってしまうと、フロントの景色はB7とさほど変わらない。それだけB5の質感が高いともいえる。ところが、動き出すなり、B7の洗練された乗り心地に較べると、B7の洗練に圧倒された筆者からすると、どうにも武骨に感じる。

その要因は複数ある。ひとつには、ホイールベースが235mm短いこと。もうひとつは、B7がエア・サスなのに対して、B5はコイル・バネに可変ダンピングというメカニカル・サスペンションであること、である。コイル・スプリングはアルピナ独自の、よりショートでタイトなものを採用している。

くわえて、タイヤ&ホイールが違う。B7がミシュランなのに対して、B5はピレリPゼロを履いている。しかも、前255/35、後ろ295/30の、ともにZR20というペッタンコのロー・プロファイル・タイヤが選ばれている。このような極太、極薄タイヤのコイル・バネで、しかもクラスがひとつ下のクルマに対して、B7より乗り心地が云々と書いている筆者がアホなのではあるけれど、それほどB7の乗り心地がインプレッシヴだったこともまた確かなのである。

エンジンは基本的にB7とおなじ4.4リッターだけれど、2021年に上陸した新型B5は最高出力がそれまでの608psから621psに引き上げられている。最大トルクは800Nmで変わっていないけれど、608psのB7よりもパワフルなエンジンをより軽量コンパクトなボディに載せているのだ。カタログ値比で220kg、B5のほうが軽い。8ATのギア比はB7と同じだ。

0~100km/h加速は3.4秒とB7よりコンマ2秒速い。当然、山道ではB7より軽やかで、走りやすい。ホイールベースが20cm少々短いから曲がりやすいことは疑いない。B5もまたインテグレイテッド・アクティブ・ステアリングを備えていて、その自然さに、後輪操舵の存在をほとんど意識させない。

現代人の舌に合うように修正

駆動方式はB7同様の「xDrive」、すなわち電子制御4WDだけれど、ドライ路面で走っている限り、4WDであることを、これまたまったく意識させない。

B7の場合は、いわゆるドライブ・モードを選ぶ際に、積極的に「コンフォート」にしたくなるのに対して、B5は積極的に「スポーツ」を選びたくなる。コンフォートにするとボディの上下動が気になるからだ。それならいっそ、ガチッと引き締まった足まわりのほうが筆者的には潔くて好ましい。そうすると、排気音もひときわ大きくなり、戦闘モードになって、ますます抜き身の刀っぽくなる。

高速巡航はたいへん静かだけれど、V8は1500rpm以下でゆるゆるまわっている程度だから、それも当然かもしれない。おそらくアンドレアス・ボーフェンジーペン氏が想定しているもっとも快適な巡航速度は、巡航最高速度330km/h という公式値が示しているように、はるかに上にあるのだろう。つまるところ、BMWアルピナB5とは、超高性能スポーツ・セダンなのである。

本家BMWのM5のスペックと比較してみると、BMWアルピナB5はM5ではなくて、M550i xDriveをベースにしていると思われる。

M550iは1335万円で、4.4リッターV8は530psと750Nm。M5は1814万円で600ps、M5コンペティションは1900万円で625psのM社謹製4.4リッターV8を搭載する。最大トルクはいずれも750Nmでおなじだ。

B5は1898万円で621ps、800Nm。0~100km/h加速3.4秒というのは、マイナーチェンジ 前よりコンマ1秒速く、M5と同タイムである。8速ATのファイナルがM5とM5コンペティションは3.154なのに対して、B5は2.81と若干高い。そのハンディをエンジンのパワーが補っていることになる。

ちなみに、M550iは3.8秒、M5コンペティションは3.3秒という俊足ぶりだ。もちろん、このような数字は、現実的な意味はほとんどないわけだけれど、ひとつの指標として理解の助けにはなる。

アルピナのオウナーはお医者さん、それも外科医や歯科医が多いそうである。みなさん、道具好きで、アルピナは「控えめなところがいい」と、考えておられるという。そのアルピナにあって、B5は「ちょっとやんちゃになっている」と、ニコルの広報担当者はおっしゃる。そして、それを案じておられるように筆者は拝察した。だからこそ、問題作なのである。

アルピナは年間1700台しかつくっていない、ごく少数生産の自動車グルメのためのクルマである。だからといって、よく聞くたとえを用いると、いかに老舗とはいえ、昔とまったくおなじ料理のままでは続かない。現代人の舌に合うように修正していたりするわけである。1965年創業のBMWアルピナB5にあっても事情は同様であるだろう。

ファミリー・ビジネスにおける世代交代という大テーマ。これを乗り切ることができれば、アルピナはますます安泰となるにちがいない。ちょっとやんちゃになった新型B5、ぜひお試しください。

文・今尾直樹 写真・安井宏充(Weekend.)

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