いつの時代も究極を追い求めるブリッツ
かつて「BLITZ(ブリッツ)」は、谷田部での最高速チャレンジから始まり、ボンネビルやニュルブルクリンクなどにもチャレンジを続けていたため、常に「速さ」を追求したチューニングパーツのメーカーという印象を持ち続けている人も多いだろう。しかし、いまではそうしたハードなイメージから一転して、洗練された間口の広いパーツを数多くリリースしている。現在、このブリッツを牽引している代表取締役の山口 聡氏に、製品開発において気をつけている点などについてお話を伺った。
過去にこだわることなく、新しいものづくりに対してチャレンジを続けていく【株式会社ウェッズ取締役会長 稲妻範彦氏:TOP interivew】
山口 聡氏の愛車遍歴
バブル世代、団塊ジュニア世代のクルマ好きは、クルマの情報を漫画から吸収したという人も多い。山口氏も幼い頃から『サーキットの狼』を読み、スーパーカー消しゴムで遊んだ記憶があるという。
ただし、本格的にクルマが好きだと思い始めたのは、免許を取得してからだという。二十歳で免許をとり、クルマを運転するようになってから、クルマが楽しいと思うようになったそうだ。
「僕は、ブリッツを創業したわけではないんですね。父が始めたわけなんですけれども、クルマに関係する商売だなとは幼い頃から漠然とはわかっていました。ただ、自分がクルマを運転するわけでもなく、世の中の仕組みがわかってなかったこともあって、あまり父の仕事を意識していませんでした。
それが、自分でクルマを運転するようになってから、クルマが面白いなと思うようなったんです。それが仕事になるのなら、それこそ面白いなと思い始めたのは大学に入ってからですね」
自ら運転するようになって、はじめてクルマが面白いと感じるようになった山口氏だが、最初はどのようなクルマに乗っていたのだろうか。
「最初は当然お金もないんで、自分のクルマは持てませんでした。しかし、姉が当時すでに働いていて、クルマを持っていたんですね。そのクルマを勝手に、夜な夜な運転していました。
それで最初に運転したのは、WRCにも出場していた四駆ターボのファミリアです。型式で言うとBFMRですね。当時、インタークーラー付きターボと言ってました。エアサスが装着されていて、スイッチで車高を上下させることができたのですが、壊れて車高が下がりっぱなしになってしまったという思い出があります。
それから姉がユーノス ロードスターに乗り換えたんですね。もちろんそれにも乗ってました。埼玉にある大学に通っていたので、埼玉に住んでいる友達の家に泊まりに行くこともあって、よく埼玉の山道にドライブに出かけてました。このとき、クルマを運転することが楽しいとわかったんです。それから本格的にクルマが好きになりましたね。
大学を卒業してからは、3年ほど別の会社で営業職に就いてました。社会人になってからも姉のロードスターをさも自分のもののように乗ってました(笑)、いま思うと姉に非常に申し訳ないんですけれど……。さすがにこのロードスターは姉のクルマなので、まったく手を入れることはなかったです。
この営業時代には、レーシングカートショップが得意先だったこともあって、自分でレーシングカートを購入して走っていましたね。当時お金がなく途中でやめてしまいましたが」
チューニングに目覚めさせた「インテグラ タイプR」
「28歳でブリッツに入ってからすぐに乗ったのが、インテグラ タイプRです。外装がホワイトで赤のバケットシートが入ってるやつです。これはかなり手を加えました。当時のチューニングはターボが流行っていたので、KKKのK3Tキットを装着して、タコ足も作りましたね。K3Tという一番使い勝手の良いターボがあって、それをいれてました。一応、ブリッツの試作ということだったんですけど、残念ながら製品化にはならなかったですね。でも、好きなことが仕事になったので、当時は楽しかったですね。
インテグラは車検も通したので、割と長く乗りました。そのあとは、クルマはいろいろと変わったので、クルマを乗り始めた頃の思い出話はこれぐらいですね」
自社製品の開発のために、実際に数多くのクルマに触れてきた山口氏だが、それらはユーザーが求めるものが何であるのかを研究するためであり、公私でハートを熱くするというものではなかったようだ。
しかし、四十代後半に差し掛かる頃から、再びかつての「運転して楽しい」感覚が蘇ることになる。きっかけは、トヨタ「86」の登場であった。そして山口氏のプライベートでは子どもが成長してひと段落ついたタイミングであった。
「86が出たときは、これは面白いクルマが出たなと思いましたね。ブリッツでも数多くのパーツを開発しました。それらの自社製パーツを装着しまくって、思い切りカスタムしました。このクルマで、サーキットを走るようになったんです。
とにかく足回りに手を加えてサーキットを走りましたね。タイヤとホイールはダンロップとエンケイで固めて、脚やマフラー、ブレーキなど、ブリッツで製品化したものはほぼすべて装着してサーキットを走りこみました。この頃にカートも復活したんです」
ハチロクにはたくさんの思い出があると語る山口氏。みずからがサーキットで走ることが、ブリッツの製品開発にどのようにフィードバックされるのだろうか。
自らサーキットを走らせてユーザー目線で開発
「最初、ハチロクでサーキットを走ろうと考えたときに、どこのステージにしようかといろいろ考えたんですね、富士スピードウェイとかも含めて。そこで出した答えが、筑波サーキットだったんです。われわれの業界はやっぱり筑波だろうということで。
ちょうど車高調の販売をはじめたころだったので、ハチロクにも装着して筑波を走りました。ただ、タイムを出すためだけにセッティングはしていません。タイムを狙うのならハイグリップのタイヤを履いて、バネレートも高くして……ということになるんでしょうけど、これでストリートを走ると当然かたすぎて走りづらくなっちゃう。だから、その辺はユーザーがどのあたりを求めているのかを考えながらバランスを取るようにしてます。
実際ストリートとサーキットで使うパーツを、うまくどちらにもマッチさせるのは難しいんですよ。速さを突き詰めていくと、普段乗りには扱いにくくなるので、僕らはどの辺で止めるのか、バランスをとるのかが問われるんだと思います。
結局、コンセプトはストリートにあって、実際にレースでコンマ幾つを削ることではないんですね。僕もストリートを走りますので、僕くらいの評価がちょうどユーザーに寄り添っているのかもしれませんね」
エントリーユーザーに向けた製品開発
2006年に38歳で社長となった山口氏。製品づくりでこだわっていることとは?
「世の中もクルマも変わってきましたよね、実際。むかしは音量が大きいマフラーが求められていたのに、法律だけでなく人の意識も変わってきました。われわれもそうした時代に合わせてユーザーに受け入れられるものを作らないと、いくらわれわれがいいんだといっても、それは受け入れられないですよね。
たとえば、ひとむかし前はマニアな人が付けるのが車高調だったんですね。そうでない人は純正形状をつけるとか。それをエントリーユーザー向けに受け入れられるようにしようと製品化したのがわれわれなんです。
でも、今から10数年前に車高調を発売した時には最後発だったんですね。それ以前にも車高調を販売してはいましたが、ブリッツが現在の体制になってから、コンセプトをストリートにしたんです。要するにやり直しだったんです。当時は他社さんはハイエンドな製品をラインアップなさってたんですが、ブリッツはそことは違うコンセプトで車高調を作り直したんです。
他社さんと異なるコンセプトの車高調とはいえ、ブリッツは、NAPACのなかのASEAとJASMAに加盟しています。車高調だとASEAということになるんですけれども、同業者の方たちや周辺の会社を含めて製品を作る際の進むべき方向は同じなんですね。だからASEAに加盟しているメーカーさんがつくるハイエンドな車高調と同じく、ASEAのみなさんと協力して安心・安全な車高調、ひいては製品の流通を目指しています」
「ブリッツだから」という固定観点を捨て、スタッフの能力を重んじる
創業者ではないので自分ひとりでなんでも決めていくタイプではありませんと謙遜しつつ、山口氏は次のように現状のブリッツについて分析してくれた。
「各々、能力のある社員なので、その人たちの個性を重んじましょうというのは、先代の社長から引き継いでます。なので、権限をスタッフに徐々に委譲してその範囲の中で思い切りやってもらっています。現場には、あんまり踏み込んでは行かないようにはしてます。
レーダー探知機もいろんな企画の中で、こういうのをやったら面白いんじゃないかと意見があがって、『ブリッツだからこうだ』みたいな固定観念は外していってもいいんじゃないかということで製品化しました」
* * *
社長に就任したのが38歳。それから10年くらいは忙しかったと振り返る山口氏。代表取締役という肩書にはなっていても、社長としてやっていけると自信がつくまでには、10年ぐらいかかったという。その間はクルマの趣味はまったくやる余裕がなかった。
ちょうど86が登場したのが、社長としての自信もついてきた頃。筑波サーキットを走るようになってから、モータースポーツライセンスも取得した。それからJAF戦に出てみようということになって、あくまでもプライベートでロードスターのパーティレースに参戦しているという。若い頃にやっていたレーシングカートも復活したそうだ。
いままさに、プライベートでのクルマ趣味も充実している山口氏。ひとりのカーガイとしての意見がフィードバックされた新製品の登場が、楽しみではないか。
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