アウディのミドルクラス「A6」の2.0リッターモデルが日本に上陸した。試乗した印象を田中誠司がリポートする。
価格以上の充実
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アウディのアッパーミドル クラスにして中核モデルである「A6」に、最大の売れ線モデルと目される2.0リッター直列4気筒ガソリンターボ エンジン搭載の「45 TFSI クワトロ」がくわわった。
昨年3月の日本導入以来、最高出力340ps/最大トルク500Nmを発揮する3.0リッターV型6気筒エンジンを搭載するハイエンド モデルしか用意していなかったA6であるが、1月に発表されたこの2.0リッター ガソリンターボ搭載車にくわえて、4月には2.0リッター ディーゼルターボ エンジン搭載の「40 TDI クワトロ」も登場した。一気に高級車マーケットでの存在感が高まりそうだ。
車体の寸法と価格はアップサイジング、エンジンは過給+ダウンサイジング。それが近年の高級車市場のトレンドである。1994年に「100」からの名称変更で生まれたA6は、長くV型6気筒とV型8気筒エンジンによるラインナップを続けたが、“C7”と呼ぶ先代の途中からそうした流れに乗って、直列4気筒ターボとV型6気筒ターボに切り替わった。
それが現行“C8”の登場当初はV型6気筒エンジンのみの設定となり、結果として価格帯は1000万円前後に限られてしまった。クルマとしての評価は高い現行A6ながら、街で見かけた記憶があまりないのはそれが理由だ。
メルセデス「Eクラス」(734万円~)、BMW「5シリーズ」(666万円~)、ジャガー「XF」(636万円~)、レクサス「GS」(約589万円~)といった全長5.0mクラス サルーンのライバルが軒並み4気筒エンジンを搭載し、ディーゼルかハイブリッドをラインナップに揃える中では価格競争力が弱い。
だから今年、このセグメントにアウディが4気筒エンジン搭載車を投入するインパクトは大きい。最高出力245ps/最大トルク370Nmを発揮するガソリン ターボ モデルは752万円~、最高出力204ps/最大トルク400Nmを発揮するディーゼルターボ モデルは745万円~と、価格帯がぐっと下がったからだ。
それでもほかより高いじゃないか、という声もありそうであるが、A6は全車が4WDでエンジン出力が高く、パーシャル レザーのシートやパーキング アシストも18インチ ホイールも標準で……という比較をしていくと、目に見えるほどの差はなくなっていく。とくにドイツ3ブランドは、他社の価格を装備や出力ごとに細かく分析して横並びで調整しているので、なにか思い切ったキャンペーンを打たない限り実のともなう価格差はつかないのだ。
ところで、そもそもどうして売れ線の2.0リッター モデルの投入が遅れたのかというと、WLTPという新しい燃費試験法に対応する認証手続きに、導入スケジュールが影響されたためだそうで、日本における販売戦略云々の問題ではないらしい。
機能部品とデザインの調和
今回の試乗車はガソリンターボ エンジンを搭載する「45 TFSI クワトロ スポーツ」で、スポーツサスペンションとレザースポーツシートが標準装着されて車両本体価格は799万円(消費税込み)。「S lineパッケージ」をはじめとする5種のパッケージを含め、220万円のオプションが盛り込まれて総額としては1000万円を超える。
長いホイールベースにアーチ状のルーフラインと高く採ったウエストライン、そして大きめのホイールリムを組み合わせたシルエットは、この3世代ほどアウディA6に受け継がれている。基本形を変えないままトレンドに沿ったディテールを盛り込んで、しっかりモダンに見せているのはプレミアムブランドならではだ。
ドライバーズシートに座ってサイドミラーを覗くと、リアフェンダーの上にシャープな峰が走っており、かつて“ビッグ クワトロ”に親しんだ身としては嬉しくなってしまう。こうした細工も含め、ボディパネルやデコレーションの工作精度はとても高い。
アルミもしくはアルミ調パネルを多用したインテリアも、マットな風合いのレザーとほどよくコーディネートされている。センターコンソールに2枚のタッチスクリーンからなる「MMIタッチレスポンス」、メーターパネルとして備わる「アウディ バーチャルコックピット」も含め、さまざまな機能部品の素材とデザインのバランスをうまくとる点で、アウディは数あるプレミアムブランドのなかでも一歩先を進んでいる。
ボディサイズも15年前からほとんど変わっていないが、感心するのは車両重量も1.8t弱を保ち続けていることだ。安全装備や自動運転支援システムが充実するのと並行して電子システムの重量が増えていくなかで、アルミ等軽量素材の積極採用やエンジンのダウンサイジングなどでそれを相殺する努力をたゆみなく続けている。
調べてみたところアウディに限らず他のプレミアムブランドも、このセグメントでは軽量化に勤しんでいて、全長5mクラスでも1.7t前後に収まっていることが判った。
2.0リッターでも高級車らしさは健在
今回の試乗で注目したのは、“4気筒エンジンが800万円近いアウディA6に相応しいのかどうか”だ。6気筒以上のマルチシリンダーは、振動やサウンドの面では優れているので昔から高級車に好まれた反面、摩擦抵抗が大きいため燃費低減が難しく、最近はこのセグメントでも上級グレードに限って搭載されている。
A6 45 TFSI クワトロが搭載する2.0リッター直列4気筒ユニットには、今回初めて12Vのマイルド ハイブリッド システムがくわわり、エンジンスターターや発電機を兼ねるモーターが発進時に短時間、2kW/60Nmと微力であるもののエンジンを助けてくれる。
ガソリン微粒子フィルターの装着など連綿と進化しつつも、基本設計としてはデュアルクラッチ式7段Sトロニック トランスミッションとともに10年以上使われ続けているエンジンで、筆者が10年ほど前、2年にわたり走らせた「A4 2.0 TFSI クワトロ」とベースはおなじである。
当時のA4のパワートレインは“俊敏・快活”で、高回転まで気持ちよくスポーティかつパワフルではあったものの、高級な印象はあまり受けなかった。
しかし新しいA6に搭載されたそれは、低速でも高級車らしいゆとりあるトルクを生み出し、ノイズや振動も抑えられている。アクセルペダルを深く踏んでスピードを高めていっても、3000rpmを超えればひたすら安定したトルクとともに滑らかに6750rpmのトップエンドまで吹けあがっていき、かつてのV型6気筒エンジンにまったく遜色ない高級感を身に着けていると思えた。
若干くぐもった音と振動を伝えてくるのは、2000rpm台のごくわずかな区間だけだ。低速におけるトルク感の余裕は、マイルドハイブリッド システムの助力によるものかもしれない。近年ヨーロッパでは高級車の主流がディーゼル車になっていて、ノイズと振動を遮断する技術が発達したことも追い風になっているはずだ。
アウディを選ぶ理由とはなにか?
スポーツサスペンションをベースに、前輪だけでなく後輪も操舵する4WS「ダイナミック オールホイール ステアリング」と衝撃吸収のレベルを調整可能な「ダンピング コントロール サスペンション」、20インチの大径タイヤをオプションで加えた足まわりは、スピードを高めるほどにむしろ安心感を増すほど、盤石のフットワークを見せる。
「アウディ ドライブセレクト」を通じてダイナミック モードを選べばスポーツカーのようにふるまうし、コンフォート モードなら滑らかに路面を撫でる。20インチのホイールは路面の目地段差で若干の衝撃を伝えてくるが、それは許容範囲にある。A6のカタログにはいまや21インチ ホイールも掲載されているのだ。
後輪を最大5度まで操舵するダイナミック オールホイール ステアリングは、ぜひ選択しておきたいオプション装備である。低速におけるコーナリングでの敏捷性と高速における安定性を高めてくれるのにくわえて、小回り性能も大幅に改善し、最小回転半径が通常の5.7mから5.2mまで短縮される。
この日はたまたまホンダ「シビック ハッチバック」が取材に同行していたが、Uターンに要する道幅は全長が40cmも長いアウディのほうが明らかに少ないことに驚いた。トランク容量565リッター、後席ひざ前の空間が20cm(身長172cmが前後に座った場合)というスペース ユーティリティにデメリットがない。
このほかA6の入手を検討するにあたって念頭に置いておきたいのは、上級車種の「A8」にはより高いレベルの自動運転支援システムが備わることだ。
主にミリ波レーダーとシングルカメラで制御するA6に対し、A8には高性能であるが高価な「レーザースキャナ」がくわわる。それゆえ首都高速で前のクルマに追従しながらレーンキープアシストを使うようなシーンでは、A8のほうがカーブでも粘り強く車線をキープしてくれる。
そして、まだ試乗は叶っていないもののすでに発表されているディーゼル モデル「40 TDI クワトロ」の存在がある。そもそも欧州でアウディの販売が飛躍的に伸びたのは、高品質のディーゼル エンジンによるところが大きかったわけであるが、日本市場への導入は2015年に起こった“ディーゼル ゲート”(排ガス検査不正問題)の影響もあり長く封印されてきて、昨年ようやく「Q5」に搭載されて日本市場に導入された。
Q5のTDIモデルは、重い車体やSトロニックとの相性が完璧とは言えない、という話もあった。しかしさらにハイパワーになったA6向けのチューニングと、車重の違いにより改善されていることも期待できるし、そもそもWLTC燃費が45 TFSIの11.4km/リッターに対し、40 TDIでは16.1km/リッターまで伸びるメリットは相当に大きい。
ここまで紹介したとおり、あらゆる側面で高い得点をマークするのが新しいアウディA6である。とはいえ、これまでリードしてきた内外装の品質や室内スペースにおいてはライバルメーカーもキャッチアップしつつあり、4WDの設定もこのセグメントでは常識化してきた。
そんななか、アウディを選ぶ決定的な理由というのは一体なにか? と、考えたとき、やはり最大の魅力は“新しい技術に根ざしたデザイン”であると私は思う。
ほかのメーカーが伝統とかナショナリティーを個性として打ち出すなかで、アウディは「最新であること」を、絶対軸に据えてデザインされ続けている。外装でいえば長いホイールベースや大径ホイール、LEDを駆使したライティング、内装でいえば3つのデジタルスクリーンがその核となっている。
私の友人にもきっちり3年おきにアウディの新車を買い続けて10余年というヤツがいるが、“乗り換えれば必ず新しいなにかがカタチになっている”、そんなアウディの実直なところを彼も気に入っているみたいだ。
文・田中誠司 写真・安井宏充(Weekend.)
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みんなのコメント
3Lモデルと比べると若干滑らかさが劣るくらいですが、その分エンジンが軽いので回頭性は良かったです。
前モデルの2Lより数値的にはほんの少しパワーダウンしていますが、全然わかりませんでした。
マイルドハイブリッドのおかげでしょうか?(なぜ48Vシステムじゃなく12Vなのかわかりませんが)