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新型3シリーズ ツーリングが教えてくれた、BMWが“ワゴン”を作り続ける理由【初試乗】

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新型3シリーズ ツーリングが教えてくれた、BMWが“ワゴン”を作り続ける理由【初試乗】

BMW 3 Series Touring

BMW 3 シリーズ ツーリング

新型3シリーズ ツーリングが教えてくれた、BMWが“ワゴン”を作り続ける理由【初試乗】

それでもワゴンが必要なワケ

日本では“爆発的ブーム”なんて時代もあったのに、最近では見かける頻度がめっきり少なくなってしまった。セダンをベースに荷室を拡げたワゴンのことである。

「セダンよりはスタイリッシュに見える」「いざという時にたくさん荷物が積める」のがワゴン大流行の主な理由だったけれど、その当時(1980年代後半から1990年代前半頃)はまだ、“スポーツ・ユーティリティ・ビークル=SUV”という新種がいまのように台頭していなかったから、現在のSUVブームはワゴンに取って代わった現象という言い方もできるかもしれない。

日本はワゴンが絶滅危惧種

ワゴンよりもSUVのほうがずっと売れる状況は日本だけの話ではないそうで、欧州でもワゴンの販売台数は毎年緩やかな減少傾向にある。

売れない商品は作らない。これは製造業ビジネスの基本的な戦略なので、正直に真面目に忠実にそれに従っている日本の自動車メーカーのラインナップにもはやワゴンはほとんど存在しない。

一方で、そうは分かっていても「文化的歴史的慣習的背景」や「少数でも根強い愛好者」を尊重することが回り回ってブランドの訴求やブランド力の強化に大いに貢献すると知っている欧州メーカーは、今でも正統派ワゴンをきちんと作り続けている。ワゴンを売るためにワゴンを作るのではなく、セダンやブランドイメージを売るためにワゴンを作り続けているのである。

だから昨年フルモデルチェンジしたBMWの3シリーズにツーリングが追加されたと聞いても大きな驚きはなく、「今回もまたルーティンにきちんと従っているのだな」とむしろホッとする。

「ワゴン」ではなく「ツーリング」

ちなみに、BMWはワゴンタイプのモデルを“ツーリング”と呼ぶことにひとかたならぬこだわりがある。日本で“ワゴン”ではなく“バン”と呼ぶと途端に商用車が浮かぶのと同じようなイメージが“ワゴン”という語句にはあるようで、エンジニアと話している時にうっかり「ワゴン」「アバント」などと言ってしまうと「ツーリングです」と直ちに修正される。確かに、荷物を積んで遠出する=ツーリングのほうが、楽しそうなライフスタイルが容易に想像できるかもしれない。

BMW3シリーズは現行モデルが7世代目となるが、3シリーズ・ツーリングは2世代目のE30(1987年)から導入されたのでこれが6世代目。累計販売台数は約170万台に及ぶ。従来型までの国別のシェアではドイツ本国が33%でもっとも高く、これにイギリス(13%)、イタリア(10%)が続く。

一方でセダンとツーリングの割合を見ると、イタリアはなんと3シリーズの75%がツーリングで、ドイツでも半数を超える66%、イギリスで25%という実績がある。このデータだけ見ると、売れ行きが鈍化しているとはいえ、ツーリングをやめられない理由の一端が理解できる。

前後重量配分50:50の信念

ツーリングの作り方はこれまでと同じである。セダンをベースにBピラーから後ろは専用設計とし、ルーフを延長している。

ボディサイズは従来型と比べて(以下、いずれも欧州仕様車)全長76mm、全幅16mm、全高8mm、ホイールベース41mmそれぞれ大きくなった。セダンと比較すると、全長/全幅/ホイールベースは変わらず、799mmのフロントオーバーハングはもちろん、1059mmのリヤオーバーハングまで同値だった。

異なるのは全高と前後トレッドくらい。ツーリングのほうが全高は35mm高く、トレッドは前18mm、後15mm狭くなっている。ツーリングボディを仕立てたことで重量は約100kg重くなったが、前後重量配分は例によって50:50を達成しているそうだ。

確か、現行の3シリーズセダンが登場した際も「前後重量配分は50:50」と言っていた記憶がある。単純に考えると、ツーリング化による100kgの重量増は主にBピラーから後方に集中しているはずである。ホイールベースもリヤオーバーハングも同値のボディスペックなのに、ツーリングになっても50:50というのはいったいどういうことなのか。

日本で試乗したセダンの330i Mスポーツの車検証によると、前軸重830kg:後軸重800kgとあった。これだと前後重量配分は50.9:49.1でフロントのほうがやや重い。となると、正確にはツーリングのほうが50:50に近いのかもしれない。いずれにせよ、BMWのウェイトマネージメントに対するこだわりというか執念には頭が下がるばかりである。

ガソリンは4気筒、ディーゼルは6気筒

現状では330i/320d/330dの3種類のパワートレインが用意されていて、330iと320dでは後輪駆動と4輪駆動のxDrive仕様が選べるが、330dはxDriveのみとなる。日本に秋頃導入されるのは330iと320dの予定とのこと。それなのに、試乗会に用意されていたのは330d xDrive。唯一、日本へやってこない仕様だった。

その上、例によってオプションてんこ盛りであり、アダプティブMサスペンション、Mスポーツブレーキ、Mスポーツディファレンシャル、バリアブルスポーツステアリングなどが装着さていた。つまり電子制御式ダンパーと電子制御式ディファレンシャル(=Eデフ)と可変ギヤレシオステアリングが付いたドライビングサポート満載仕様車である。

ガソリンの330iとディーゼルの330dはいずれも「サンサンマル」を名乗るものの、決定的な違いが存在する。330iは4気筒、330dは6気筒だからだ。この6気筒、出来がすこぶるいい。とにかく振動と音が抑えられている。

エンジンそのものが静か

遮音や吸音などの対策効果というよりも、エンジン自体のNVが優れているのだろう。エンジンは往復質量(=ピストン)や回転質量(クランクシャフト)の慣性作用がバランスを崩したり、モーメントの乱れが周期的に働く傾向があり、振動や共振を引き起こす原因となる場合が多い。

この6気筒ディーゼルにはピストンやクランクシャフトなどがバランス良く均質に動いている様が伝わってくるようなエンジンフィールがある。ディーゼルとは思えないほどレブリミットまでスムーズに吹け上がるし、トルク特性も線形で過給機の存在はほとんど感じられないほど。

580Nmの最大トルクは1750rpmから2750rpmという回転域の狭いところで発生するものの、8速ATのギヤ比と制御が完璧なので常用域での使い勝手はまったく問題なかった。こういうことを書くと「どうせ買わないくせに」と無責任に思われるかもしれないけれど、330dも日本へ導入されたらいいのにと感じたのは正直な気持ちである。

Eデフと前輪駆動の恩恵あらたかな操縦性

操縦性はセダンと大差ない。車両重量を見るとやっぱりガソリンよりもディーゼルのほうが重いのだけれど、ディーゼルエンジン搭載のインプレッション記事によく書かれている「鼻先の重さ」も顕著には感じられなかった。

ターンインでステアリングの操舵角が少なくてもノーズが内側へ巻いていくように入るのはEデフの恩恵によるところが大きく、この所作は日本で試乗したEデフ付きの330iセダンにそっくりだった。

ただ、試乗車のツーリングは4輪駆動で、xDriveの前後の駆動力配分は常時可変だから、旋回スピードやクリッピングポイントを過ぎてからの再加速はフロントにもトラクションがかかっている分だけ後輪駆動よりも速い。

ランフラットタイヤでも乗り心地がいい理由

装着タイヤはピレリ・チンチュラートP7のランフラットだったが、ブリヂストン・トランザT005のランフラットを履く日本の広報車よりも乗り心地は明らかによかった。

考えられる要因は主にふたつ。ひとつは、ディーゼル+ツーリングはガソリン+セダンよりも約200kg重いので、ばね上の動きがゆったりとした速度になっているから。もうひとつは、ツーリングは18インチだったのに対してセダンは19インチだったから。

いずれも電子制御式ダンパー装着車なので、減衰力の制御は似たような傾向にある。それでも乗り心地がいいと感じたのは、車重とタイヤ&ホイールのサイズの影響が大きいと推測したわけである。

“グラスハッチ”を採用する希少種

ワゴンタイプのモデルにとっての荷室は、スポーツカーにとってのエンジンのような核となる存在。新型3シリーズ ツーリングにもさまざまなアイデアが散りばめられている。

容量は、後席を倒さない状態で従来型より+5リットルの500リットル(セダンのトランク容量は480リットル)を確保。後席を倒した最大値では+10リットルの1510リットルとなった。

テールゲートの電動式開閉機構は標準装備とし、リヤハッチウインドウのみでも開閉できる機能は従来型から受け継がれている。限られたスペースでの荷物の出し入れの際に、ウインドウだけで開け閉めできるというのは想像よりもずっと使い勝手がいい。コストや重量を考慮して廃止という意見もあったそうだが、いまではこの機能を備えるライバルはほとんどなく、ユーザーからも好評だったため継続が決まったという。

荷物を抑える新発想

オプションではあるけれど、BMWはツーリングのラゲッジフロアに新しいアイテムを採用した。「アンチスリップレール」と呼ばれるそれは、アルミ製のレールの間にゴムが仕込んであり、テールゲートを開けるとゴムはレールよりも低い位置にあって、荷物はレールの上を滑りながら奥まで楽に押し込める。

が、そのままだとクルマが走り始めたら、荷物は前後左右に動いてしまう。そこで、テールゲートを閉めると自動的にゴムの部分が浮き上がりレールよりも約2mm上昇、こうして荷物を支えるので運転中でも動きにくくなるという。

当然、効果は荷物の素材次第だが、「出し入れはしやすく、でも動きにくく」という「日中は落ちにくく、でも洗顔の時は落ちやすく」の女性のお化粧みたいな難題をクリアするアイデア機能である。

セダンをベースに居室と荷室をひとつの空間にしただけの単なるワゴンではなく、走りの面でも機能面でも、細部まで徹底的に吟味してこだわって作り上げたというエンジニアの気概が伝わってくる3シリーズ・ツーリングだった。

REPORT/渡辺慎太郎(Shintaro WATANABE)

【SPECIFICATIONS】

BMW 330d xDrive ツーリング

ボディサイズ:全長4709 全幅1827 全高1445mm

ホイールベース:2851mm

トレッド:前1573 後1567mm

車両重量:1745kg

エンジン:直列6気筒DOHCディーゼルターボ

総排気量:2993cc

ボア×ストローク:84.0×90.0mm

最高出力:195kW(265hp)/4000rpm

最大トルク:580Nm/1750-2750rpm

圧縮比:16.5

トランスミッション:8速AT

駆動方式:4WD

サスペンション形式:前ダブルジョイント・スプリング・ストラット 後5リンク

ブレーキディスク:前後ベンチレーテッドディスク

タイヤサイズ(リム径):前後225/50R17(7.5J)

【問い合わせ先】

BMWカスタマー・インタラクション・センター

TEL 0120-269-437

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