名機なくして名車なし。今回は「闘うために生まれた」タフなユニット、モータースポーツへの投入を前提に開発された日産FJ20型にスポットをあてて2回連続で紹介しよう。今回はその前編として、8年ぶりに復活した本格的な4バルブDOHCの詳細についてだ。
DOHCの本質を追究した日産のエンジニア
「DOHCエンジンはレースにも使えるものでなければならない」。FJ20Eの開発に際して、日産のエンジニアはそう考えていた。当時はトヨタが「ツインカム」をスポーティカーや上級車に続々搭載してその普及が加速していた時代。FJ20Eはそれとは真逆のアプローチで開発された硬派なユニットだった。その背景には、あの栄光のS20型の影響が少なからずあった。S20は純レーシングエンジンのR8型をベースに開発された日産初の量産DOHCであり、レーシングメカニズムであった4バルブを採用していた。スカイラインGT-R(PGC10/KPGC10、KPGC110)とフェアレディZ432に搭載され、今も名機として語り継がれる伝説的な存在だ。
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8年のブランクを経て次期スポーツツインカムを開発しようというとき、その栄光が脳裏をよぎったとしても不思議はない。日産は、トヨタが量産していた「ボルトオンツインカム」とは対極にある、頑固なまでに本格派路線を突き進んだ。
FJ20Eの開発に際しては、日産モータースポーツ部隊から以下の要望が寄せられたという。
(1)WRCラリー用の次期主力エンジンとして2.4Lまで排気量を拡大できること。
(2)モータースポーツ用途に最適化するため4気筒とすること。
(3)レースやラリーでの使用に耐えうる高い耐久性と信頼性を確保すること。
こうした要望を満たすスペックが固められていった。
まず、2.4L化しても十分な耐久性を確保するため、シリンダーブロックは専用設計とした(ここが量産エンジンベースのトヨタと異なる)。ちなみに、この強度を確保するために参考にされたのが、当時トラックやタクシー用として作られていたH20型エンジン。これとボアピッチを共通として、工作機械も同じものが用いられた。
シリンダーヘッドはアルミ合金製で、ペントルーフ型の燃焼室を持つ。バルブ挟み角は60度ゆえヘッドは幅広だ。カムシャフトの駆動にはS20型と同じく2ステージ式のダブルローラーチェーンを、バルブまわりは直動式リフターにインナー式調整シムを採用した。生産性やコスト、騒音などは二の次とされた本格派である。のちに主流となっていく、狭角ヘッド、コックドベルト駆動カム、アウターシムなどを使ったDOHCとは別モノの、ラスト・サムライなエンジンとなっていく。当時のカタログを見ると「DOHCは誰にでも扱える必要はない」という挑発的なコピーが躍っている。これはDOHCの大衆化を進めていたトヨタを揶揄したものだろう。
S110型シルビア/ガゼールにも搭載
こうして完成したFJ20Eは、まず1981年10月にR30型に追加設定された「RS(レーシングスポーツの略)」に搭載される。デビュー時のスペックは、最高出力150ps/6000rpm、最大トルク18.5kgm/4800rpm。本格派として設計された割にはいささか物足りないスペックだったかもしれないが、これは当時の排出ガス浄化装置(とくに触媒)の性能に起因するものだった。ちなみに当時のモーターマガジン誌によるスカイラインRSの実測テストでは、最高速は192km/h、ゼロヨンは16.0秒を記録している。
翌1982年4月には、3代目シルビア/ガゼール(S110型)にもFJ20Eを搭載したRSおよびその上級グレードのRSエクストラが追加された。さらに同年10月には、WRCホモロゲーションモデルとしてボア×ストロークともに拡張(92.0×88.0mm)して2.4L化されたFJ24を搭載する240RSが限定200台で発売される。
もっともFJ20Eとの共通点は非常に少なく、競技車専用エンジンと位置付けるべきという意見もある。ちなみにFJ24のスペック(標準車)は、ソレックスキャブ仕様で最高出力240ps/7200rpm、最大トルク24.0kgm/6000rpm。この数字を見ればわかるように、そのままラリーに出場できる仕様だ。一般の使用には適さないため、ほとんどが海外のラリーチームやプライベーター向けに販売されたが、日本でも少ないながらも販売され、そのうちの何台かは現存していることが確認されている。(以下、後編に続く)
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みんなのコメント
当時あの赤いヘッドとインテークに日産の意思を感じたものさ
始動時にチェーン駆動独自の「ジャーン」って音が良かったんよ
結局レース用FJは早々と諦めてVG型へスイッチしていったけど市販車用としてはR30、S110およびS12の前期にしか使われなかったんだからかなり贅沢なエンジンではあったよね