ほんの数週間前までは、マックス・フェルスタッペンがグラウンドエフェクト・カー時代を支配するレッドブルから去る可能性があるとは考えられなかった。
しかしチーム代表であるクリスチャン・ホーナーの不適切行為の疑いに端を発し、陣営内の緊張関係が露呈した。
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その詳細は明らかになっていないものの、全体像としては単純だ。フェルスタッペンはホーナーがチーム代表として指揮を執り続けるのであればチームに留まることに消極的であり、レッドブルのアドバイザーであり親しい支持者であるヘルムート・マルコがチームを去るのであれば、彼もチームを去ることを考えるだろうということだ。
フェルスタッペンが2028年までの契約にサインしたのは、2022年3月のことだった。2021年最終戦アブダビGPで物議を醸しながらも獲得した自身初のF1タイトルを受けて、両者はそのコミットメントを延長する時期が来たと判断し、5年間の延長契約を結んだ。
この契約は、2026年のレギュレーション変更から3シーズンを含むものであり、チームとフェルスタッペン双方にとって前例のない長期的な契約だった。スーパースターがマシンに乗っていることを前提に、レッドブルの交渉力は増した。
レッドブルは2026年から独自にパワーユニット(PU)を作る予定だったが、当初はポルシェがそのPUにバッジを付ける予定だったことや、それが頓挫したあとにフォードがパートナーに名乗りを上げたのにも、その影響があったはずだ。
しかし契約から2年が経ち、すでに4連覇も確実視されているフェルスタッペンが、契約を満了する可能性は低いかもしれない。
ホーナー代表自身のコメントが、それを物語っている。バーレーンGPの決勝日、彼はフェルスタッペンがどこにも行くことはないと断言していた。
「彼は契約を満了すると確信している。彼の周りには素晴らしいチームがある。彼はそのチームに大きな信頼を寄せている。我々は一緒に非常に多くのことを成し遂げてきた。彼は2028年までの契約を約束している」
しかし、それからわずか1週間後のサウジアラビアGPで、ホーナー代表はフェルスタッペンがチームを去る理由はないとしながらも、絶対にないとは言い切れないとトーンダウンしているのだ。
「チームとしては、誰かがこのチームから離れたいと思う理由は見当たらない」
「人生におけるどんなことでもそうだが、紙切れ一枚のために誰かをどこかに強制することはできない。もし誰かがこのチームにいたくなかったとしたら、彼らの意思に反して、ここにいることを強制するつもりはない。それは、マシンオペレーターであろうと、デザイナーであろうと、サポート部門の誰かであろうと同じだ」
2026年のレギュレーション変更後、誰が最高のエンジンを手にするのかは誰にも分からない。だが新規参入となるレッドブル/フォードやアウディにとっては、既存サプライヤーよりもはるかに厳しい挑戦とあることは明らかだ。
言い換えれば大幅なリセットが行なわれることになり、レッドブルが現在のような力を保つとは到底思えない。
加えて、F1の歴史が証明しているように最高のドライバーは育ったチームを巣立ち、新たなチームでその実力を証明しようとするものだ。
ミハエル・シューマッハーとベネトン、フェルナンド・アロンソとルノー、ルイス・ハミルトンとマクラーレン、そしてセバスチャン・ベッテルとレッドブルがそうだった。
ありきたりの言葉に聞こえるかもしれないが、全員が新たな挑戦と、新鮮な環境で様々な人々と仕事をし、別の場所でも成功できることを証明するチャンスを求めていた。
トロロッソでの在籍期間を含めると、フェルスタッペンは現在レッドブル陣営で10シーズン目を迎えている。
2024年のフェルスタッペンは、デビュー当時のティーンエイジャーとは全く異なる人間に成長している。長期契約を結んでからの2年間でさえ、フェルスタッペンはさらに成熟し、F1を引っ張る人間としてF1のスケジュールやショービズ的な要素についても臆することなく本音を語っている。
彼はまた、あと10年もF1にとどまるつもりはなく、他にやりたいことがあると強調している。
そのため、レッドブルの内乱や2026年のPUに対する疑念がなかったとしても、契約を本当に満了したいのか、モチベーションを復活させるために別のチームに行きたいのかどうかを考えているはずだ。
メルセデスがフェルスタッペン獲得に動く? でも課題もアリ
ハミルトンがメルセデスを離れ、フェラーリと契約したのはまさにそれだ。そうすることで、ハミルトンはフェルスタッペンから見てひとつのドアを閉じたが、別のドアを開けたのだ。
ハミルトンがメルセデスを去ることで、フェルスタッペンにとってメルセデスへの移籍は明らかな選択肢となった。トト・ウルフ代表は2014年にフェルスタッペンを獲得しようと懸命に努力した。しかし、2015年のF1デビューという条件を即座に提示することはできなかった。レッドブルなら可能であり、フェルスタッペンはその方向に進んだ。
それから10年、フェルスタッペンがついにメルセデスに移籍する時が来たようだ。長い間、圧倒的な強さを誇ってきたチームであり、今は苦戦しているものの2026年から強力なパッケージを整えるだろうと期待されるチームに移籍するという理屈は通っている。
しかし、ウルフ代表は問題を抱えている。2025年末までの契約になっているとはいえ、ポスト・ハミルトンとして長い間チームの将来を担ってきたジョージ・ラッセルがいる。そして育成ドライバーのアンドレア・キミ・アントネッリがジュニアカテゴリーからの卒業を待っているのだ。
ウルフ代表は、アントネッリが2025年にメルセデスのレースシートに座る可能性があることを明言しているのだ。彼のF2シーズン序盤は難しいスタートとなったが、まだここから上昇気流に乗る可能性はあるだろう。
チームはまた、アントネッリが8月に18歳になった後、広範なプライベートF1テストプログラムを計画している。
オリバー・ベアマンがサウジアラビアGPでカルロス・サインツJr.の代役として、鮮烈なF1デビューを飾ったのはこれ以上ないタイミングだった。
アントネッリにとって、ベアマンはF2でチームメイトであり、完璧な指標となるだろう。そして10代の若手ドライバーがトップチームのマシンに乗り込んでもパフォーマンスを発揮できることを世界に示したのだ。
アントネッリが2025年にメルセデスからF1デビューを果たした場合、メルセデスが新レギュレーション下で再びトップチームに返り咲くまでの1年を、学習のための1年に使うことができる。
ラッセルとアントネッリのコンビが印象的なラインアップになることを考えれば、ウルフ代表がフェルスタッペンの獲得にジレンマを持っていることは間違いないだろう。もちろんフェルスタッペンが過去数シーズンで最も成功し、違いを生み出すことができるドライバーであることは間違いなく、どのチームも喉から手が出るほど彼を欲しがっているだろうが、どうやってチームにフィットさせるかが問題だ。
アントネッリを数年ウイリアムズに預けるというのも手だ。現チーム代表のジェームス・ボウルズはメルセデス時代に若手育成に携わってきたが、ウイリアムズのシートは保証できないとしている。
彼もウイリアムズの育成ドライバーを育てなければならないし、チームとオーナーの長期的な利益も考慮しなければならない立場なのだ。
最有力候補はアストンマーティン?
アロンソが離脱してシートが空けば、アストンマーティンへの移籍はもっと簡単な話だろう。
アロンソはまず2025年まで現役を続けるかどうかを決めなければならず、その後にどのような選択肢があるかを検討することになると示唆している。
アロンソもメルセデスに移籍するドライバー候補に挙がっているが、微妙に違うのはアロンソが1年契約を受け入れる可能性があるということだ。
フェルスタッペンがメルセデスとの1年契約(おそらく2年目のオプションはあるだろうが)を受け入れるはずがないだろう。
「チームのためにも、彼らが選択肢をオープンにしておくためにも、あまり判断を遅らせないようにするのが僕にとってフェアなことだ」と、アロンソは語っている。
アストンマーティンにとって、フェルスタッペンの獲得は第一選択肢となるだろう。チームオーナーのローレンス・ストロールは、ベッテルやアロンソを獲得したときのように、できることは何でもするだろう。
フェルスタッペンはアストンマーティンにとって、常勝チームを目指すうえで最後のピースとなるだろう。フェルスタッペンを引き抜くことで、今のF1を支配しているレッドブルのポテンシャルを下げることにもつながる。
アロンソが離脱すると仮定した場合、状況はメルセデスよりもはるかに明確だ。フェルスタッペンが望めばシートは用意される。若手を昇格させるというプレッシャーはない。チームメイトとなるランス・ストロールの立場も同様に揺るがないだろう。フェルスタッペンも、移籍を選べばどんな状況になるか分かっているはずだ。
フェルスタッペンにとって重要なのは、手に入れられる中で最も競争力のあるパッケージを手にすることだ。アストンマーティンは積極的な投資を行なっており、風洞を備えた真新しい施設があり、強力なテクニカルチームがある。2026年に非常に魅力的なチームになることを指し示す勢いがある。
アストンマーティンが2026年からホンダのワークスPUを手にすることも大きな要素だ。もはやメルセデスのカスタマーとして、ギヤボックスやサスペンションパーツの供給を受ける必要はなくなる。
フェルスタッペンほどホンダを理解し、リスペクトしているドライバーはいないだろう。そして、おそらく彼はホンダが新時代に向けて現在の調子を維持していくことを確信しているはずだ。
最近、ボブ・ベルがアストンマーティンのエグゼクティブ・ディレクターに就任することが発表されたばかりだが、ローレンス・ストロールがそのような人材を増やし続けているという事実は、彼がどれほど本気であるかを示している。
フェルスタッペン(そして彼の父ヨス)もまた、右腕のマーティン・ウィットマーシュとチーム代表のマイク・クラックから情報を得て、ローレンス・ストロールが大きな決断を下すという、アストンマーティンのシンプルな意思決定プロセスを高く評価するだろう。
陰謀や政治が何重にも張り巡らされているわけでもなく、レースチームの上層部に会社の役員会があるわけでもない。
メルセデスでは多くのマーケティング活動やスポンサーへの挨拶などに時間を取られるだろう。一方でアストンマーティンでは、ストロールが最低限の仕事しかしないで済むよう働きかけるはずだ。
シーズン24戦が予定されているため、すべてのドライバーにとって自由な時間を持つことは重要であり、特にフェルスタッペンのように子供の頃からカートに打ち込んできたドライバーにとってはなおさらだ。
結局のところ、どんなトップドライバーも最高のマシンを手に入れたいと願うものであり、最高のドライバーは、レースで勝てるかどうかの瀬戸際にあるマシンをタイトル争いに持ち込めるような違いを、自分なら生み出せると自信を持っている。
メルセデスであれアストンマーティンであれ、そして2025年であれ2026年であれ、フェルスタッペンのビッグニュース(早ければ数週間後)を覚悟しなければならないかもしれない。
フェルスタッペン自身は複雑なメッセージを発し続けており、現状に満足していると主張する一方で、どんなことでも起こり得るというヒントを投げかけている。
「ルイスがフェラーリに移籍するなんて、誰も想像もしなかっただろうね」
そうフェルスタッペンは語る。
「F1とかそういうこととは関係なく、一般的な人生では何が起こるか、何が自分に訪れるか、何が自分の周りで起こるか、何が自分に影響を与えるか、わからないものなんだ」
「だから、100%こうなるとは言い切れない。僕はそうやって自分の人生に取り組んでいる。でも、あまり深く考えることもない。とてもリラックスしているよ」
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