2026年からパワーユニットマニュファクチャラーとしてF1に復帰するホンダと契約、新たなパートナーになることが決まったアストンマーティンF1チーム。現在の名称での活動期間はまだ短いが、ルーツを探ると、非常に複雑な変遷を経たチームだ。過去にはホンダと提携していた、その長い歴史を振り返る。
■アストンマーティンF1の第一期と61年後の復帰
ホンダ三部社長、F1参戦の理由は「カーボンニュートラルの方向性と新規則が合致したため」タイトルへの意気込みも示す
1955年、アストンマーティンのオーナー、デイビッド・ブラウン卿がF1世界選手権に参戦する計画を立て、DBR4が誕生、1959年にF1デビューを果たした。ただ、この時は、ノーポイントのまま1960年で撤退することになった。
そのアストンマーティンがF1に復帰したのは、それから数十年後のことだった。2016年からレッドブル・レーシングのスポンサーを務め、2018年から2020年にはチームのタイトルスポンサーとしてF1に関与。そして、2020年1月、当時のレーシングポイントF1チームのオーナー、ローレンス・ストロールが、アストンマーティン社に出資することに伴い、2021年から同チームがアストンマーティンF1チームとしてF1にエントリーすることを発表。アストンマーティンは、レッドブルと袂を分かち、61年ぶりにF1参戦を果たすこととなった。
■アストンマーティンF1チームのルーツ:ジョーダン時代
アストンマーティンの前身チームの歴史を遡ると、1991年から2005年までF1に参戦したジョーダン・グランプリが起源となる。ジョーダン・グランプリは、エディ・ジョーダンが設立したチームで、その歴史のなかで、ホンダエンジンを搭載した時期がある。
ジョーダンは、フォード、ヤマハ、ハート、プジョーのエンジンを使用した後、1998年から2000年まで無限ホンダで戦った。1998年には1勝を挙げてランキング4位、1999年には2勝でランキング3位と好調な時期を過ごした。
2001年にはホンダと契約。2002年にはジョーダン・ホンダから佐藤琢磨がF1デビューを果たした。佐藤はこの年の日本GPで5位で入賞している。
ジョーダンとホンダの契約は2002年末で終了。資金難が続いたジョーダンは、2005年にカナダの実業家でミッドランド・グループ会長アレックス・シュナイダーへと売却され、2006年からミッドランドF1レーシング/MF1レーシングとして参戦を続けることになった。
■アストンマーティンF1チームのルーツ:ミッドランドF1レーシング/スパイカー時代
低迷し続けた2006年終盤、チームはスパイカー・カーズに売却され、スパイカーMF1レーシングの名称を経て、2007年にはスパイカーF1としてエントリー。しかしこの体制も長続きせず、2008年に向けて、チームはインドの実業家ビジャイ・マルヤに売却され、フォース・インディア時代がスタートする。
■アストンマーティンF1チームのルーツ:フォース・インディア時代
長く低迷し続けたチームだが、フェラーリエンジンからメルセデスエンジンへと変更した2009年から徐々に明るい兆しが見え始め、ベルギーGPでジャンカルロ・フィジケラが2位表彰台を獲得。ランキングは、2008年から10位、9位、7位、6位、7位、6位、6位、5位、4位、4位と大きく飛躍。この間、セルジオ・ペレスが5回の表彰台を達成した。
ところが2018年、マルヤが財政的、法的トラブルに見舞われ、チーム経営を継続できなくなり、チームは7月にロンドンの高等裁判所の管理下に置かれた。そのチームの資産を、カナダの事業家ローレンス・ストロールが率いるコンソーシアムが買収、チームはレーシングポイント・フォース・インディアという名称で終盤9戦に参戦することが可能になった。旧フォース・インディアはシーズンを完了することができなかったため、選手権から除外され、それまでのポイントを引き継ぐことは許されなかった。
■アストンマーティンF1チームのルーツ:レーシングポイント時代
2019年からはレーシングポイントとして活動。同年は苦戦し、ランキング7位にとどまった。翌2020年1月、チームオーナーのストロールが、2021年から同チームをアストンマーティンのワークスチームに変更することを発表。ストロールのコンソーシアムが、イギリスの自動車メーカー、アストンマーティン社の16.7%の株式を取得し、ストロールがエグゼクティブチェアマンに就任することに伴う変更だった。レーシングポイント最後のシーズンとなった2020年、ペレスがサクヒールGPで初優勝、トルコで2位、ストロールがイタリアとサクヒールで3位に入るという好結果を残し、チームはランキング4位へと再び浮上した。
■アストンマーティンがF1に復帰
2021年は、セルジオ・ペレスに代わり、4度のF1チャンピオン、セバスチャン・ベッテルが加入、ランス・ストロールとのペアで AMR21で戦った。第6戦アゼルバイジャンGPでベッテルが2位を獲得し、アストンマーティンF1チーム初の表彰台を達成。ハンガリーでもベッテルは2位でフィニッシュしたが、燃料サンプルの問題で失格になった。最終的なコンストラクターズランキングは7位。
2022年もベッテルとストロールのペアを継続、AMR22で戦った。チーム代表はオットマー・サフナウアーから現在のマイク・クラックに変更に。また、コグニザントに加えてアラムコが新たなジョイントタイトルスポンサーに就任した。この年は最高位が6位と振るわず、コンストラクターズランキングは7位を維持した。
■大躍進を遂げたアストンマーティン。タイトル獲得の目標に向け一歩前進
ベッテルが2022年末でF1を引退、代わって2023年には2度のワールドチャンピオン、フェルナンド・アロンソが新たにストロールとのチームメイトとして加入した。テスト&リザーブドライバーにストフェル・バンドーンとフェリペ・ドルゴヴィッチが就任した。
今年ここまでのF1最大のトピックといえるのは、アストンマーティンの驚くべき飛躍だろう。AMR23は開幕戦から王者レッドブルに次ぐ強さと安定性を発揮、アロンソがここまでの5戦中4戦で3位表彰台を獲得。第5戦終了時点で、アストンマーティンはコンストラクターズ選手権で2位、アロンソはドライバーズ選手権で3位に位置している。
この躍進のひとつの要因とみられるのが、レッドブル・レーシングの元ヘッド・オブ・エアロダイナミクス、ダン・ファローズが昨年4月にテクニカルディレクターとして加入したことだ。F1復帰以来、アストンマーティンは、タイトルを狙える体制を整えるべく、従業員を増やし、積極的にライバルチームからのスタッフ引き抜きを行ってきた。また、設備の向上のため、新たなファクトリーの建設にも着手。シルバーストンの37,000平方メートルの敷地に、3つのビルから成る建物が作られ、新しい風洞も設置される。
長年メルセデスのパワーユニットを搭載し、ギヤボックスとリヤサスペンションも使用しているアストンマーティンだが、F1チャンピオンになるという大きな野望をかなえるためのひとつの選択肢として、新世代F1パワーユニットが導入される2026年に向けて、自社製パワーユニットを製造する可能性について検討していた。自社製PUではなくても、PU製造者登録を行っているホンダと提携し、ワークス待遇でのパワーユニットを手に入れることは、アストンマーティンにとって、タイトル獲得という大望において大きな一歩となるだろう。
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