6月20日、マクラーレン・オートモーティブ・アジアは都内で、グランドツアラーのあり方を独自に解釈した2シーター・ミドシップのニューモデル「マクラーレンGT」を発表した。
現在マクラーレンの市販車は、「スポーツシリーズ」(570S、600LT/同スパイダー)、「スーパーシリーズ」(720S/同スパイダー)、そして「アルティメットシリーズ」(P1、セナ、スピードテールなど)の3つのカテゴリーがある。
遠くに行きたくなるスーパーカーは優美だ!──アストン・マーティンDB11 AMR試乗記
マクラーレンGTはその3つに属さない、より実用性や快適性、長距離移動を念頭に開発したモデルだ。かつてのスポーツシリーズにあった「570GT」や現行のアルティメットシリーズにある「スピードテール」などは、マクラーレンの中でGTカーの位置づけだったが、今後はあらためて「GTシリーズ」が編成されることになるようだ。
ボディサイズは全長4683mm×全幅2095mm×全高1213mm、ホイールベース2675mmと、570Sに比べて全長は約150mm長く、全幅は同寸、全高は約10mm高く、ホイールベースは5mm長くなっている。カーボンファイバー製「モノセルII-T」モノコックを採用、リアのアッパー構造もカーボンファイバー製となっている。これらの高い強度を活かし、リアのテールゲート、Cピラー、リア・クオーターウインドウといった一連をガラス製とし、ドライバーに明るいキャビンと見晴らしのいい後方視界を提供。それでいながら車両重量は1530kgに抑えている。
リアのテールゲート下には420リットルの収容スペースを用意し、ゴルフバッグや185cmのスキー板2セットとブーツや手荷物も積載可能という。フロントにも150リットルの収納スペースを備えており、合計570リットルと、数字としてはBMW 5シリーズツーリングの通常時とほぼ同じ容量となる。
パワートレインは、最高出力620ps、最大トルク630Nmを発揮する4リッターV8ツインターボエンジンをミドに搭載。デュアルクラッチ式の7速SSGトランスミッションを組み合わせ、0→100km/h加速は3.2秒でカバーし、最高速は326km/hに到達するという。
この発表会のタイミングに合わせて、マクラーレンGTのチーフデザイナーであるゴラン・オズボルト(Goran Ozbolt)氏が来日、インタビューする機会を得た。
オズボルト氏は、日産デザインヨーロッパからインフィニティのデザイン部門を経て、2017年にマクラーレンに入社。スピードテールのデザインチームに参画し、マクラーレンGTでは、インテリアとエクステリアの両方のチーフデザイナーを務めた。
一般的にインテリアとエクステリアは別々のチームがデザインすることが多い。マクラーレンには約20人のデザイナーが在籍し、エクステリアやインテリア、カラー&トリムなどに特化したデザイナーもいれば、オズボルト氏のように2つを見るケースもあるのだという。
「トップにデザインダイレクターがいて、デザイナーはプロジェクトごとにチームに別れています。チームには2人のチーフデザイナーがいます。エクステリアとインテリアを私が、そしてカウンターパートとしてMSO(マクラーレン・スペシャル・オペレーションズ:ビスポーク部門)のチーフデザイナーがいます」
マクラーレンのデザインには、フェラーリともランボルギーニとも違う個性があるように感じる。マクラーレンをマクラーレンたらしめているものとは何なのか尋ねてみた。
「我々はある理念、ミッションに基づいてクルマをデザインしています。それを端的に表しているセンテンスが『To create breath-taking products that tell the visual story of their function.』(息を飲むような製品を作るためには、マシンがもつ機能性を如実に物語っているものでなければならない)です」
これをもう少し具体化してほしいというと、
「まさに、それをどのようにして実装していくかが、われわれの課題です。いつも新しいやり方を探していますし、必ずチャレンジをしなければいけない。大胆でなければいけないが、ごてごてと飾り付けるようことはしません。美しい車両をつくることは、重要なミッションであり、“シュリンクラップ(shrink wrap)”するようなイメージです」
“シュリンクラップ”とは一般的には熱収縮によって真空パックする方法だが、オズボルト氏は、車体の中にしっかりとテクニカルなエッセンスをつめこんだ上で、寸分の無駄がないカタチを創るという意味でこういった言葉を使っている。そして、マクラーレンのすべてのモデルに共通するエッセンスとしては、“シャークノーズ”(サメの鼻先)と答えてくれた。マクラーレンGTでは、水平なノーズ“ハンマーヘッド・ライン”と呼ばれているものだ。
「単にサメをモチーフにしたデザインということではなくて、その背景には機能性も合わせて、ノーズから上下にきれいに分離していく気流によって効率的な空力性能を実現していることも意図しています。マクラーレンGTでは、実用性を高めるためノーズの位置を高く、またスピードバンプなどの段差を乗り越えられるようロードクリアランスも高めにしてあります。それでありながらもすべてのマクラーレンがそうであるように、空力を最適化しているのです」
マクラーレンといえば、カーボンモノコックをはじめ、スピードテールに見られた、飛行機の補助翼のように可動するスプリット型のスポイラーなど、カーボンを使うことによってこれまで見たこともないデザインを実現するCFRP(炭素繊維強化プラスティック)技術の先進メーカーでもある。
「マクラーレンはすべてのモデルにカーボンファイバーを採用しており、カーボンファイバーはマクラーレンの核となるDNAと呼ぶべきものです。創業者であるブルース・マクラーレンが残した言葉に『重量は敵だ』というものがあります。軽量化にとってなくてはならない素材であり、継続して開発を続けています」
もしマクラーレンがEVになれば、デザインが大きく変わる可能性があるのかと聞いてみた。
「他の人たちが思っているほど、大胆に変わることはないと思います。クルマのデザインはエンジンを中心に考えているのではなく、人間を中心に考えるもの。マクラーレンはプラットフォームがあって、シートに座ったときに、キャビンスペースがぴったりと完璧に覆い被さるイメージで、その上で視認性を確保するようにデザインしています。大事なのはマクラーレンとしてのプロポーションであり、その背後には先進的な機能、エアロダイナミクス、適切な重量配分などがあります。そして最終的にマクラーレンらしいドライビング体験を提供しなければなりません。したがって、電動化しても人を中心に先進機能などの要素を包む込むパッケージをデザインしていくことに変わりはありません」
最後に、オズボルト氏がクルマをデザインするとき、どの部分から描くのか尋ねてみた。すると、「説明しづらいけど、全体のボリュームやシルエットを鑑みて、基本はルーフからかな」と言いながら、なんとその場でスケッチを描いてくれたのだ。許可をもらったのでここに特別公開する。
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