F1サンパウロGPの予選と決勝は、ウエットコンディションで行なわれた。ただ、土曜日午前中のF1スプリントまではドライコンディション。このドライ時とウエット時では、勢力図が大きく異なっていたように感じられる。これには、5mmというわずかな差が関与しているようだ。
サンパウロGPは、今シーズンのF1で最も衝撃的な表彰台の顔ぶれとなった。17番グリッドからスタートしたレッドブルのマックス・フェルスタッペンが大逆転勝利を掴み、今季ここまでは大苦戦していたアルピーヌ勢が2位と3位に入りダブル表彰台を獲得したのだ。
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この3台は、ウエットコンディションとなったインテルラゴス・サーキットを、水を得た魚のように快走した。一方で、最近では最も高いパフォーマンスを発揮し続けていたマクラーレンとフェラーリは苦戦を強いられた。
逆転でのワールドチャンピオンを狙うランド・ノリス(マクラーレン)は、フロントがロックしてしまう問題に悩まされた、フェラーリのシャルル・ルクレールは、ドライビングはひどい感触だったと語った。
「僕たちには速さが足りなかった」
ルクレールはレース後にそう語った。
「マシンはドライブするのが難しく、とても尖った反応を見せた。指先で動かすような感じだったし、すごくオーバーステアだった」
たしかにフェルスタッペンとアルピーヌの2台は、赤旗中断の際にポジションを落とすことなくタイヤ交換できたという幸運もあったが、最終結果はそれだけでは片付けられない。レースが再開した後、各車のタイヤの差がなくなってからも、この3台はコース上で最速だった。
これを考えると、ウエットコンディションになったことにより、各マシンのパフォーマンスが変わったことが大きいように思われる。
特にこの3台は、ウエット路面になったことによる複数の要因により、ドライ路面で見られる欠点を覆い隠したようだ。
アルピーヌにとってほぼ確実に有利だった要因のひとつは、ウエット路面がパワー不足という弱点を覆い隠したことだろう。ウエットになったことで、最大パワーよりも、スロットルコントロールをいかに繊細に行なうかということの方が重要になったのだ。
もうひとつ興味深い要素がある。それは、ウエットタイヤによる空力面の影響だ。
現代のF1マシンはグラウンド・エフェクトカーであり、車高に非常に敏感。路面とマシン底面の隙間がわずか数mm異なるだけで、ダウンフォースレベルにかなり大きな影響が出る可能性がある。各車とも、可能な限り路面に近づけたいのだ。
インターミディエイトタイヤの直径は、725mmである。これは720mmのスリックタイヤに比べて5mm大きい数字であるため、車両と路面の隙間に影響を及ぼす。
またインテルラゴス・サーキットは、路面が全面的に再舗装されながら、ひどいバンプが残っていた。そのため、最適な車高で走るのは不可能であった。つまり、ドライコンディションでも理想的な車高から外れてしまっていたマシンは、インターミディエイトタイヤを履くことでさらに最適なパフォーマンスを発揮するのが難しくなった。
タイヤの空力的な影響は、車高だけに及ぶわけではない。サイドウォールの剛性は、さらに重要である。
コーナリング中に負荷がかかった時のタイヤの変形は、マシンの空力特性に大きな影響を及ぼす。そのために各チームは、タイヤの変形も考慮して、マシンのパフォーマンスを最適化することに、多大な労力を費やしている。
ピレリは、風洞実験用にサイズを小さくしたタイヤを各チームに提供している。この風洞用タイヤは、実際のタイヤと同じように変形するようになっていて、タイヤメーカーとしてはこの変形を再現するのが、大きな課題なのだ。
ただウエット系のタイヤを履くことで変形の仕方が変われば、車高に影響が及び、パフォーマンスにも当然影響が出てくる。バランスが変わり、かなりセンシティブな挙動になってしまう可能性があるのだ。
ハースは今回のサンパウロGPで低調な結果に終わったが、これはインターミディエイトタイヤを履いたことが大きかったようで、チームにとっては新しい現象ではなかったと、チーム代表の小松礼雄は明かしている。インターミディエイトタイヤを履くと、リヤのダウンフォースが失われるという。
「マシンのリヤが、インターミディエイトタイヤに対して弱いことを示しています。これは、今年の新しい問題です」
そう小松代表は語った。
「風洞実験用のタイヤでマシンを設計するのは当然です。その後、インターミディエイトタイヤやウエットタイヤを初めて履いたのがいつだったかは覚えていませんけど、すぐに安定性が大きく失われたんです」
その一方で、レッドブルとアルピーヌは、ウエット路面でライバルよりも一歩先を進んでいるようで、それによって今回の好結果を手にしたわけだ。
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