「10年ひと昔」とはよく言うが、およそ10年前のクルマは環境や安全を重視する傾向が強まっていた。そんな時代のニューモデル試乗記を当時の記事と写真で紹介していこう。今回は、ホンダ N-BOX(初代)だ。
ホンダ N-BOX(2011年:ニューモデル)
大容量のスーパーハイトワゴンが主体の最近の軽マーケットに、ホンダ得意のセンタータンクレイアウト&低床フロアを生かした軽がなぜ出てこないのか、ずっと不思議に思っていた。ライバルに遅れを取ること4年。「もう一度軽に力を入れないとマズイ」と、ようやく思い直してくれたホンダが、原点であるN360の「N」を与えて、本気でやってきた。室内は、とにかく広い! ミニバンに通じる広さと低さのパッケージングはお世辞抜きでお見事だ。
●【くるま問答】ガソリンの給油口は、なぜクルマによって右だったり左だったりするのか
前後座席間の距離は、もはや会話が困難なのでは?と思えるほどで、「ミニミニバンを作るつもりがステップワゴンを超えてしまった」とは、開発責任者の浅木氏の弁。これはアクセルペダルをタイヤハウスギリギリまで70mmほど前方に移動させたことと、センタータンクレイアウトで自由度を高く設置できる後席の恩恵が大きい。また、広さを最大限に生かしたユーティリティを実現するため、後席にあえてスライド機構がないのも特徴だ。
ちなみに後席に関しては、タント=座面一体式スライド、パレット=5:5分割式スライドと、ライバルたちはアレンジ方法に長らくこだわり続けているが、ホンダはスライドせずとも灯油用ポリタンクが4個積める荷室と、十分な足元の広さを持っているということで、軽初の座面跳ね上げチップアップ機構付き後席も採用。跳ね上げれば、ベビーカーをたたまずに載せられるのは素晴らしい。またワンアクションで後席をたためば、地上から480mmという低い開口部と、1560mmという長い荷室長で、後ろから身体ごと乗りこんでママチャリを積むこともできる。
さて、これほど大きな箱となると気になるのは走り味。パワー面では新エンジンとCVTは全車共通。走り味では13インチタイヤのオリジナル、14インチのカスタムL、15インチのターボの3つに分けられる。このうち文句なしにいいのはターボ。エンジンはもちろん、ハンドリングもいちばん余裕がある。ステアフィールも自然で、これをメインに開発したと思わせるほどまとまっている。
出来がすごく良いだけに気になる部分もある
少々気になるのが、最量販モデルになりそうなカスタムL。というのも、このエンジンはNAでも非常に元気が良く、しっかりとパワーを出しつつエコ運転に気を遣わずともかなり好燃費。高速でも交通の流れを先導できるほど、速度が乗っていく。そうなると、若干タイヤが物足りない。これが13インチだと高い速度域でコーナリング、なんて気にならないので問題ないのだが、14インチだとけっこう行けてしまう分、もう少しタイヤに余力が欲しい。
ちなみに速度が乗るだけあってブレーキ性能は絶品で、踏みごたえやコントロール性は抜群。カックンブレーキにもなりにくく、同乗者に褒めてもらえること請け合いだ。しかしその減速時に、ややCVTの段付き感があるのは残念。エンジン音も少し気にかかる。80km/hでのエンジン回転数は、メーター読みでNAは約2500rpm、ターボは約2100rpmとさほど高くはないが、アイドリングストップが付いているおかげで、逆に静粛時との落差が大きくて気になる。全体の質感が高いだけに、もう少し静粛性が欲しい。
質感と言えば乗り心地はなかなかのもので、これにはシートが大きく貢献している。女性が乗って当たりが柔らかく、男性が乗っても底付きしないことを目明日というシートは、確かに肌触り&包まれ感&サポート感が良く、滑りにくくていい。
もうひとつの美点は、ホンダがこだわり続けている視界の良さ。Aピラーまわりの視界の工夫や、合わせ鏡を使って左前や左横、真後ろを映し出すピタ駐ミラーのおかげで、全方位視界が保たれている。しかも、自然と目がいくところにミラーがあるので使いやすい。斬新なアイディアを盛り込んで、二大巨頭に挑むN-BOX。軽自動車のさらなる発展のために、ぜひ大暴れを期待したい。
ホンダ N-BOX カスタムG・ターボパッケージ 主要諸元
●全長×全幅×全高:3395×1475×1780mm
●ホイールベース:2520mm
●車両重量:980kg
●エンジン:直3 DOHCターボ
●総排気量:658cc
●最高出力:47kW(64ps)/6000rpm
●最大トルク:104Nm(10.6kgm)/2600rpm
●トランスミッション:CVT
●駆動方式:横置きFF
●燃料・タンク容量:レギュラー・35L
●JC08モード燃費:18.8km/L
●タイヤサイズ:165/55R15
●当時の車両価格(税込):166万円
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