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『神々のラリー』で英雄のごとく主役を演じたロバンペラ。その“飛ぶような速さ”に7冠王者オジエも脱帽

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『神々のラリー』で英雄のごとく主役を演じたロバンペラ。その“飛ぶような速さ”に7冠王者オジエも脱帽

 新たなる神話が生まれた。8年ぶりにWRC世界ラリー選手権イベントとして開催されたアクロポリス・ラリー・ギリシャのサブタイトルは『神々のラリー』。アテネ、パルテノン神殿下でのセレモニアルスタートを見ればそれも納得だが、英雄ペルセウスのごとき活躍で神話の主役を演じたのは、トヨタのカッレ・ロバンペラ(トヨタ・ヤリスWRC)だった。

 WRCトップカテゴリー参戦2シーズン目のロバンペラは、今年7月の第7戦ラリー・エストニア(グラベル)で初優勝。続く第8戦イープル・ラリー・ベルギー(ターマック)でも総合3位に入り、2戦連続でトヨタ勢最速だった。

ロバンペラとオジエが1-3フィニッシュ。トヨタ、今季5度目のダブル表彰台/WRC第9戦ギリシャ

 しかし、第9戦アクロポリスに関しては、ここまでずば抜けた速さを示すとは考えにくかったというのが正直なところである。というのも、アクロポリスはアベレージスピードが比較的低いテクニカルなラリーで、気温が高く、路面はラフで、タイヤにも厳しいタフなラリーになるだろうと考えられていたからだ。

 フィンランド出身のロバンペラは、ハイスピードなラリーを得意とする。実際、これまで優勝もしくはポディウムを獲得してきたラリーはいずれも超高速のイベント。一方で、テクニカルなステージでは苦戦することも多かった。そのアグレッシブなドライビングスタイルにより、タイヤの摩耗進行がライバルより速く、スピードが最後まで保たれにくいためだ。また、路面コンディションが悪くても攻めの手を緩めないことも多く、それがミスやトラブルを誘発していた。

 今回のアクロポリスはアベレージスピードが約84kmと、今年もっとも遅いラリーだったにもかかわらず、ロバンペラはベストタイムを連発。全15本のステージのうち、8ステージを最速で駆け抜けた。スノーやハイスピードグラベルでの速さは以前から折り紙付きだったが、前戦イープルでも総合3位に入り、ターマックでも優勝を狙えることを証明。そして、最後の課題と考えられていたテクニカルなラリーで圧勝したことにより、ロバンペラは完全体にさらに近づいたと言える。

 3日目の土曜日には4ステージ連続でベストタイムを刻み、総合2番手のオット・タナク(ヒュンダイi20クーペWRC)を約40秒後方に突き放した。しかし、今大会でもっとも印象的だったのは、最終日の1本目、SS13での走り。全長約23kmのステージで、ロバンペラは2番手タイムのタナクに何と14.1秒という大差をつけたのだ。

 このステージは突然の降雨によって湿り、一部はぬかるんでいた。そのため、スペアを含めてソフトタイヤを5本選んでいたタナクとティエリー・ヌービル(ヒュンダイi20クーペWRC)が絶対的に有利だと思われていた。対するロバンペラはソフト2本とハード3本という硬めの選択。ソフト3本、ハード2本のセバスチャン・オジエ(トヨタ・ヤリスWRC)はロバンペラと28秒差の3番手タイムにとどまったが、「雨が降るとは思わなかった。僕らのタイヤ選択はたぶん失敗で、正解はオールソフトだった」とステージを振り返った。

 そのオジエよりもさらに1本ソフトが少なかったロバンペラは、ハードとソフトを対角線上にクロス装着。タイヤ選択については、オールソフトのタナクに分があったはずだ。しかし、ロバンペラは濡れてかなりトリッキーなコンディションのステージをクロスタイヤで果敢に攻め、とんでもないタイムを出した。「クルマのフィーリングは良く、楽しんで走ることができたよ」とロバンペラ。恐るべき20歳である。

 では、なぜロバンペラはハードタイヤを2本混ぜても速かったのだろうか?

 タイヤを供給するピレリのエンジニアによれば、今回に限らず、ロバンペラのアグレッシブなスタイルにはソフトよりもハードのほうが合っているという。設定温度域が高いハードタイヤでも早く発動させることができ、摩耗についてもそれほど気にしないでいいからだ。実際、4連続ベストタイムを刻んだときも、ロバンペラはライバルよりもハード寄りの選択だった。また、ヤリスWRCというクルマ自体が、ソフトよりもハードのほうがマッチするのではないかと、ピレリのエンジニアは分析する。

 以上のように、今回はロバンペラのドライビングとクルマ、そして選んだタイヤがすべて、ステージにマッチしていたと言える。それでも、同じ条件で戦いながらも総合3位でラリーを終えたオジエは、「今回のカッレは飛ぶように速くて追いつけなかった」と脱帽。ペルセウスが怪物メドゥーサを退治したときに身につけていた有翼のサンダル『タラリア』を、ロバンペラは密かに履いていたのかもしれない。

※この記事は本誌『オートスポーツ』No.1560(2021年9月17日発売号)からの転載です。


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