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【大谷達也のモータースポーツ時評】筋の通らなくなったアウディの活動と、F1参戦を推し進めたふたりの人物

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【大谷達也のモータースポーツ時評】筋の通らなくなったアウディの活動と、F1参戦を推し進めたふたりの人物

 オート上海開催中の中国で、2026年からF1に参戦するアウディが現在の進捗状況に関する発表を行った。ここでアウディはF1のショーカーを公開するとともに、「F1 Power made in Germany」をモットーとして参戦することを宣言。大規模な準備が順調に進行していることを明らかにした。

 私がアウディとアウディのモータースポーツ活動を取材するようになって、間もなく30年になる。

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 アウディV8で参戦していた(オリジナルの)DTMにはギリギリで間に合わなかったけれど、1996年にはスコットランドのノックヒルまで脚を伸ばし、A4クワトロでこの年のBTCCタイトルを勝ち取ることになるアウディ・スポーツを取材したのはいい思いでのひとつ。当時、アウディ・モータースポーツ活動のボスといえばすでにウルフガング・ウルリッヒさんで、彼とはその後、ル・マン24時間で何度となく顔を合わせることになる。もちろん、2000年に再スタートを切った新生DTMでも、2014年に始まったフォーミュラEでも、アウディの取材は欠かさなかった。

 なぜ、アウディのモータースポーツ活動を追い続けたのかといえば、彼らはいつでも筋が通っていて気持ちよかったからだ。

 アウディがワークスとして初めて国際レベルのモータースポーツに挑んだのは、1981年のこと。この年からWRC世界ラリー選手に参戦した唯一にして最大の理由は、その前年に発表した初のフルタイム4WDモデル“クワトロ”のパフォーマンスをモータースポーツの場で実証することにあった。

 当時、4WDといえばオフロード走行のためのもので、フルタイム4WDがハイスピード走行で役に立つとはまったく考えられていなかった。そうした常識を覆すためにWRCに参戦して1982年にはメイクス・タイトルを、そして1983年にはドライバーズ・タイトルを獲得。その後のWRCカーが軒並み4WDになっていったことからも、アウディ・クワトロがどれだけ大きなインパクトを与えたかは想像に難くない。

 その後、パイクスピークやIMSAに参戦したのは、最大の輸出国であるアメリカでクワトロの知名度を高めるのが目的。続いてDTMやBTCCに挑戦してタイトルを勝ち取ったが、これはサーキットにおけるクワトロの性能を実証するためだった。しかし、クワトロの戦闘力があまりに高すぎてツーリングカーの世界から閉め出されると、今度はル・マン24時間に参戦。テクニカルレギュレーションの懐が深いフランスの耐久イベントでは、TFSI(直噴ガソリンターボエンジン)やTDI(直噴ディーゼルターボエンジン)といった量産車用の最先端技術をル・マンカーに搭載しただけでなく、その後も電動化技術のe-tron、そしてクワトロなどをル・マンカーに投入し、結果的にポルシェに次ぐ歴代2位の通算優勝記録(13回)を達成したのである。

 つまり、彼らは常に量産車で使われるテクノロジーでモータースポーツに参戦し、その有用性を証明してきたのである。量産車用のテクノロジーを鍛えるために、モータースポーツに参戦してきたといってもいいだろう。

 けれども、2015年にディーゼル・エンジンの不正問題(いわゆるディーゼル・ゲート)が発覚したあたりから、雲行きが怪しくなっていく。この事件の責任をとって、フォルクスワーゲン・グループのトップだったマルティン・ヴィンターコルン、同グループの技術トップだったウルリッヒ・ハッケンベルグ、アウディ会長だったルパート・シュタートラーらが相次いで退任。シュタートラーは2018年にミュンヘン検察当局に逮捕されるという一大スキャンダルに発展する。2017年限りでアウディがWEC世界耐久選手権から撤退したのは、このディーゼル・ゲートが最大の理由だった。

 その後、経営陣が一新されると、フォルクスワーゲン・グループは急速に製品の電動化を進めることになる。なかでもアウディは2026年以降に発売するすべての新型車を電気自動車(EV)にすると公言するなど、その急先鋒的存在となった。

 それでも、2012年の設立当初からフォーミュラEに参戦し続けていることは、まだ筋が通っていた。ところが、2021年をもってフォーミュラEから撤退することを発表すると、その代わりに、高効率なハイブリッドシステムを搭載したRS Q e-tronでダカールラリーに、そしてLMDhでIMSAやWECに参戦する方針を明らかにする。ちなみに、ダカールカーもLMDhカーも、パワートレインはハイブリッド。電動化の流れからいえば、フォーミュラEから後退しているように思えなくもない。

 しかも、2022年に2026年からのF1参戦を発表すると、実戦投入前だったにもかかわらずLMDhの開発中止を決定するなど、長年アウディを取材してきた私の目にはチグハグに映ることが少なくなかった。

 それにしても、なぜアウディはこのタイミングでF1参戦を決めたのか?

 実は、アウディがF1に挑戦するという噂は2014年ごろにも取り沙汰されていた。私が参加した記者会見でもF1関連の質問が飛び出すことはあったが、アウディは明言を避けていたほか、実際に計画が現実化することもなかった。なにしろ、当時はル・マンで連戦連勝を重ねていた時代。しかも、画一的なテクニカルレギュレーションが適用されるF1と違って、ル・マンには量産車に近い技術を投入できる。アウディがF1参戦に踏み切らなかったことを、私は「当然でしょう」という思いで眺めていた。

 それがあっさりと覆されたのは、なぜだったのか?

 私は、2019年7月にアウディAGのセールス&マーケティング担当取締役に就任したヒルデガルド・ヴォートマンが大きな役割を演じたのではないかと見ている。ちなみにヴォートマンは1998年から2019年までBMWに在籍していた。しかも、2020年にアウディ会長に就任したマルクス・ドゥスマンも同じBMWの出身。それどころか、2007年からBMWのF1活動を指揮していたのが、このドゥスマンだったのだ。

 アウディ社内でも、ヴォートマンがF1参戦に熱心なことは公然の秘密という。さらにいえば、彼女の情熱をドゥスマンが後押しする格好でF1計画が実現に向けて動き出したという推測も成り立つ。

 ちなみにアウディはF1活動の母体となるアウディ・フォーミュラ・レーシングGmbHを、ノイブルグのアウディ・スポーツ本社と同じ敷地内に建設中。グーグル・マップで見るとまだ空き地のように思えるスペースで、新社屋の建設がすでに進んでいるとの情報をアウディ関係者から聞いた。さらには昨年末から単気筒エンジンで基礎実験を始めており、今年末までにはハイブリッドシステムの試作第1号が完成する予定。これにあわせて、現在およそ260人の従業員を、最終的には300人以上まで増員する計画だ。

 だからといってアウディのF1参戦を暴挙というつもりはないが、古くからフォーリングスを見守ってきた自分には、この急展開を現実的に受け止められないのも事実である。いやいや、そんな年寄りめいたボヤキは辞めて、いまは期待とともにアウディF1の今後を見つめることにしよう。

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