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トヨタGRカローラを冷静に考える【池田直渡の5分でわかるクルマ経済】

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トヨタGRカローラを冷静に考える【池田直渡の5分でわかるクルマ経済】

車の最新技術 [2022.11.10 UP]


トヨタGRカローラを冷静に考える【池田直渡の5分でわかるクルマ経済】
文●池田直渡 写真●トヨタ、池田直渡

米国トヨタ 2023年型カローラハイブリッド発表 赤が際立つ特別仕様車も設定

 トヨタから、 GRカローラが発売された。カローラ史上最強の304馬力ユニットを搭載するホットモデルである。あえてホットモデルという懐かしい言葉を使ってみたのだが、かつてのカローラにはホットモデルが当たり前に存在していた。TE27以来のレビンの系譜もあるし、80型世代には、いまだに人気のAE86以外にも4ドアの1600GTも存在した。しかし何時の日か、その当たり前が失われ、スポーツ系カローラはもはや半ばジジィの昔話になりつつある。


 そこに登場したのが、GRカローラである。その成り立ちは、カローラのボディに、GRヤリスのパワートレインと駆動系を移植したもの。なのだが、単純移植で終わっていないのがすごい。


 トヨタはWRC参戦を掲げてGRヤリスを開発した。そのヤリス用に開発された高強度ブロックを与えられた3気筒過給ユニット、G16型が全ての手品のタネである。こいつをベースに次々と魔法のようにレース用、市販用のハイパワーユニットを展開している。

 例えば、GRヤリスのコンセプトカーとしてラリーモデルの水素内燃機関に改造されて欧州で水素のデモンストレーションをしたり、スーパー耐久のカローラスポーツに搭載されてシリーズにフル参戦したり、同じくS耐を走るe-fuelの86に、本来の水平対向ユニットの代わりにコンバートされて搭載され、こちらもフル参戦。そして今回のGRカローラである。こうして生産台数を拡大することでG16ユニットの開発費が回収されていくのである。


 本来こうしたハイパワーユニットの役割はイメージ作りであり、売上的には商売にはつながらない。生産台数で割り算しても合わないのだが、どうやらトヨタはそれを合わせ始めた様だ。ちょっと戦いのレベルが違う。


 今、トヨタ以外のメーカーの多くは、CAFE規制対策のCO2クレジット抑制で必死であり、とてもじゃないが、ハイパワーユニットや、高性能モデルをリリースできる状況にない。そこでG16型をデビューさせたのみならず、それを採算ラインに乗せて利益を上げてみせるとなると、驚くしかない。


 GRカンパニーの使命のひとつは、トヨタ全体として掲げている、「モータースポーツを起点としたもっといいクルマづくり」を具体化していくことであり、そのモータースポーツ車両と市販車の汽水域を自由に行き来できるユニットがG16型ということになる。


 S耐の86のようにユニット単体で使う場合もあれば、その他のケースのようにAWDの駆動系を組み合わせることで、サーキットから、ラリーのターマック、グラベルに至るまで、全部対応してしまう。G16さえあればモータースポーツもマルチソリューションとすら言えそうな勢いで、トヨタが何をしようとしているかを説明するツールとしての効率の良さは驚くばかりである。


新型GRカローラ
 さて、そのGRカローラに袖ヶ浦フォレストレースウェイで試乗してきた。いや凄い。AWDらしさに溢れた仕上がりで、かつレベルが高い。基本的な性格は、踏んでいれば曲がる。ドライバーがタイヤのグリップの限界をしっかり把握してその内側で使っている限りは恐ろしく安定してグイグイと曲がって行くし、その旋回能力は、決して速度域の高くない袖ヶ浦ですら、横Gでドライバーの体力を問うほどに高い。


 ただし、そこはAWD、一度タイヤの限界を超えて大アンダーを出してしまうとそこからは結構手のひら返しに襲われる。滑り領域とグリップ領域の行き来がオンオフ的で、アンダーから急激なハイサイドへ。十分以上に速度が落ちてからでもその急変でむしろタコ踊りに見舞われる。AWDに乗り慣れていればなんとかしようがあるのだろうが、FRに慣れた感覚ではその急激なグリップの回復が結構厄介ではある。あとは修行あるのみ。


 ちなみに駆動力配分の切り替えは3種あり、フロント中心の穏やかなモードと、前後50:50の最も限界の高いモード、それにリヤ配分を増やしたライン修正のしやすいモードがある。これもお題目レベルではなく、本当にハンドリングも限界も変わるレベル。逆に言えばサーキットのようなところではモードを黙って切り替えられたら危ないレベルの作動をする。


 さて、ついつい「凄いホットモデルが登場した」という文脈だけで捉えられがちなGRカローラだが、そこには「モータースポーツを起点としたもっといいクルマづくり」の採算化という戦略的に大きな意味が隠れているのである。

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