この記事をまとめると
■フォルクスワーゲン・グループが開発したプラットフォーム「MQB」を振り返る
「TNGA」「SKYACTIV」「MQB」などの命名! クルマのプラットフォームが突如「日の目」を浴びるようになったワケ
■2012年に発表されたアウディA3に初めて採用された
■フォルクスワーゲン・グループはEV化に向けて新たなシステムの開発も進めている
10周年を迎えた超万能プラットフォームを振り返る
10年ひと昔とはいうが、MQBが先の6月で10周年を迎えたそうだ。
説明するとMQBとは「Modularer Querbaukasten(モデュラーラー・クエアバウカステン)」の略で、フォルクスワーゲン・グループが自動車業界で先駆けたモジュラー・プラットフォームのこと。市販モデルでの初出は2012年のジュネーブ・サロン、8V世代と呼ばれた先代アウディA3(現行A3は8Y世代)だった。
続いて同年秋のパリサロンで、MQB採用世代初のゴルフとしてゴルフ7が登場した。会場の地下鉄駅を降りると、ゴルフ7のキャンペーンで用いられていたデペッシュ・モードの『People are People so why it should be』があちこちから流れていて、ピープルな車=VWがどこに行こうとしているのか、悩ましく感じたものだ。
プラットフォームとは、昔風にいえば「車台」のことで、4輪のついたアンダーフロアを思い浮かべることだろう。それを共通化、つまり一本化してラインアップの上から下まですべてのモデルに用いようという発想は衝撃的だった。そんなことをすれば開発も調達も生産も効率よくなって万々歳だが、それ以前は車種ごとのモノコックボディを作り出しては、せいぜい兄弟ブランド同士で大中小セグメントごとに大まかなコンポーネントを共有するのが、関の山だったのだ。MQBの凄いところは、横置きエンジンのFFならすべての車種の土台として活用することができた、その一点に尽きる。
パサートにポロ、アトラスやテラモントといったピックアップやSUVまで、サイズも車格も違うのにどうしてそんなことが可能か? という話だが、モジュラー・プラットフォームのおもな構成部位は、キャビンフロア、その前方のバルクヘッドを含むフロントアンダーボディ、後方のリヤアンダーボディからなる。フロアまわりコンポーネントの接合箇所や、サブフレームから先のサスペンションを含む懸架装置を変更することで、ホイールベースやトレッドを変えられるということだ。逆に変えられないのは、前車軸とバルクヘッド間、つまりエンジンとアクセルペダルの間の部分だ。エンジン、トランスミッションといったパワートレインに、エアコンユニットやインフォテイメントその他の電装系モジュールといった機能コンポーネントも当然モジュール化されているので、「プラットフォーム≠車台」という見方もあるが、ここではひとまず「容れモノと載せモノ」をひとまずわけておく。
電動化時代に向けた新たなシステムも開発中
先に述べた、変えられない部分の変えられない理由は、クラッシュ時にエンジンその他がキャビンの方向に動いて衝撃吸収、つまりダメージコントロールに使われるスペースであるがため。バルクヘッドに空けられた穴の数や位置が変わる毎に、欧州をはじめ多くの国では型式認証を別々に通す必要がある。衝突によってもたらされる物理的な帰結が変わってくるためだ。そのためMQBではエンジンの搭載位置は統一され、インテーク側が前方、エキゾースト側が後方の横置きで、後ろに12度傾けられている。
スケールメリットと生産プロセスの柔軟化をもたらしたという意味で、軽量にして高剛性、低重心のMQBは先駆的だったことは確かだ。
翌2013年には日産ローグ&キャシュカイII(3代目エクストレイル)とルノー・エスパスがCMF(コモン・モジュラー・ファミリー)アーキテクチャを、旧PSAグループがプジョー308IIやシトロエンC4ピカソでEMP2(エフィシェント・モジュラー・プラットフォーム2)を世に送り出した。2014年にはボルボが2代目XC90でSPA(スケーラブル・プロダクト・アーキテクチャ)で続き、さらに2015年にトヨタはプリウス4でTNGA(トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャ)を、そしてスバルは2016年に6代目インプレッサをSGP(スバル・グローバル・プラットフォーム)を、登場させた。
その間に、VWはラインアップのMQB化を着々と推し進め、モジュラー・プラットフォームの先駆として、今や生産台数は約3200万台以上に達している。
だが先発である分、ハイブリッドへの対応が当初の設計思想に反映されておらず、後手に回ったところはある。そのため後発世代の横置きFFプラットフォームほど車台以外の部分、予防安全技術装備や、インフォテイメントシステム、モーターパワー制御ユニット、配線やバッテリーといった、電装系モジュールのみならず、それらを動かすソフトウェアに至る非素材部分までもが、共有化・ファミリー化が進んでいるという意識が強く、定義として「プラットフォーム」ではなく「アーキテクチャ」と呼ばれたがる傾向がある。ようは「容れモノ」と並んで「載せモノ」の重要度が、増しつつあるのが最近のクルマで、だからこそ半導体不足に悩まされもする。
いずれMQBも、その他のFFのモジュラー・プラットフォームも、FFゆえにリヤアンダーボディの自由度は高い。が、後席からトランクの床下にバッテリーその他の電装モジュールを、燃料タンクやリヤシートの厚みとせめぎ合いつつ、マルチリンク式のようなスペースは食うが操安性に貢献するサスペンションを積むといった離れ業は、やはりハイブリッドを強く意識した後発プラットフォームが得意とするところでもある。
だからこそVWはMQBに続いて、EV専用のMEB(モジュラーE-アントリーブス・バウカステン、エレクトリック・ドライブ・プラットフォームの意)へと、一気にリープすることを決め込んだ。MEBの基本コンセプトは、電気駆動コンポーネントを最小限のスペース、しかもバッテリーのような重量物を前後車軸間に収めることで、広大なキャビンスペースと走行性能を確保するとのことで、ある意味、往年のタイプIIバスにインスパイアされた「ID.Buzz(バズ)」こそが、その範例となるのだろう。
しかし驚くべきは、MQBの10年周年を祝う半年以上も前、2021年のミュンヘンIAAで、VWは「SSP(スケーラブル・システム・プラットフォーム)」という次世代EV向けのモジュラー・ツールキットの開発にも取り組んでいることを明かした。これは「メカトロニクス」、つまり機械的な連結をドライバーの操作、あるいは電子制御がキューとなって機械を動かすのではなく、ソフトウェアやAIといったデジタル部分が核となって統合的に駆動メカニズムを動かすという発想。いわば「載せモノ」の究極統合化と考えていいだろう。VWはSSPが電動化、そしてレベル4自動運転を含むモビリティのデジタル化の新しいスタンダードとなり、2026年にその第1号車となるハイエンドEVセダンが登場するとしている。商品開発ではなくインダストリアル・レベルの計画としては「トリニティ(三位一体)・プロジェクト」と呼ばれており、完成度の高いソフトウェア、サプライチェーンの簡素化、完全にネットワーク化&インテリジェント化された生産体制が、実現されるという。
トップ交代があったばかりで心配の種は尽きないが、VWは大衆車メーカーとしてプラットフォーム開発のリーダーであり続けることに、特別なプライドを持っていると思えば、納得がいくだろう。
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