電気自動車の弱点である充電時間が短いのは優れた点だが…
中国の新興メーカー「NIO」が、バッテリー交換式の電気自動車というビジネスモデルを展開すると発表しました。すでに交換ステーションも作り、運用も始まっているようです。とはいえ、バッテリー交換式の電気自動車というのは、同社が世界初というわけではありません。過去に日本ではベタープレイス社が実証実験を行なったこともありますし、あのテスラ社もバッテリー交換式らしきクイックチャージシステムのプロトタイプをお披露目したことがありました(その後、断念したと報道されています)。
ユーザー視点でいえば、電気自動車の課題は航続距離と充電時間です。NIOが発表したシステムでは30秒程度でバッテリーを交換することができるということで、一見すると非常に優れたシステムに見えます。しかし、過去にチャレンジした企業がいくつもあって、結果として諦めたのには理由があるはずです。バッテリー交換式の電気自動車というビジネスモデルの課題とは何でしょうか?
クルマ1台当たりのバッテリーの数が多くなってしまう
まず環境負荷が高まってしまうことが挙げられます。
バッテリー交換式ということは、走行中の車両に搭載されているバッテリーパックと、交換ステーションで充電するバッテリーパックが必要です。倍必要とはいいませんが車の数よりもバッテリーパックを多く用意しなくてなりません。電気自動車の環境負荷について「バッテリー製造時に排出するCO2が多く、ライフサイクルアセスメント(LCA)で考えるとエンジン車のほうが有利」という指摘もあるように、バッテリー交換式ではLCAで考える環境負荷が高まってしまいます。
実は、ユーザーのコストメリットもそれほどありません。
バッテリーをリース方式とすることで車両価格を下げられるわけですが、車両1台につき複数のバッテリーパックが必要なこと、また交換ステーションの維持費なども最終的には車両価格に乗ってくると考えると、トータルでは通常の電気自動車よりコスト高になってしまうと考えるのが妥当でしょう。もっとも、バッテリー劣化による車両価値の下落という要素からは解放されるので、リセールバリューまで考えると有利な面もあるといえるかもしれません。
バッテリーパックの規格が数年で陳腐化してしまう可能性も
大手の自動車メーカーがバッテリー交換式に踏み出さない理由はほかにもあります。
電気自動車用バッテリーの性能が、もう伸び代がないくらい高性能になっていれば問題ないのかもしれませんが、いまのリチウムイオン電池を基準に規格化しても、数年でその性能が陳腐化してしまう可能性は十分に考えられます。そうなると、数年で交換式バッテリーパックの規格を見直すことになってしまい、古い規格の車両やバッテリーパックは用なしになってしまうのです。逆に、古い規格に引っ張られて技術が進化しなくなる可能性もあります。バッテリー交換式を全否定するわけではありませんが、技術レベルとして時期尚早という見方もあるわけです。
普及には世界中の電気自動車の統一規格が必要になるが…
そもそも、電気自動車の性能というのは、ほぼバッテリーによって決まります。どんなに大きなモーターを積んでも、バッテリーが出せる以上の出力は発揮できません。もちろん、航続距離もバッテリーによって決まります。エンジン車でいうと、バッテリーというのはエンジンと燃料タンクを合わせたような存在なのです。
仮に同じ規格の交換式バッテリーを世界中の自動車が採用したとすると、すべてのクルマからパフォーマンスにおける性能差がほとんどなくなってしまうということを意味しています。プラットフォームの共通化も必要で、そうなるとサスペンションも似たようなものになってしまうであろうと考えられます。
現在でも多様なモデルがラインナップしているのはユーザーニーズが細かくわかれているからで、バッテリーを規格化するということは、すべてのニーズを満たすオールマイティなクルマを作る必要がありますが、そうしたコンセプトが非現実的なことは自明ではないでしょうか。
また、バッテリー交換式システムを一社で独自に進めても、よほどのシェアを取らない限りは交換ステーションの設置コストがカバーできずに、狭いエリアのサービスに限られてしまいます。というわけで、世界中の自動車ユーザーが交換式のメリットを享受できるという未来はまだまだ見えづらいというわけです。
文:山本晋也(自動車コミュニケータ・コラムニスト)
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みんなのコメント
何かあってもカネとコネで解決可能な国でないとなかなか出来ないでしょ。
シェアサイクルでやらかしたみたいに
使用済み電池のゴミが街にあふれないよう祈ります。