もくじ
ー 圧倒的な視覚的衝撃
ー 電子制御の違い
ー 常軌を逸した動力性能
ー 予測不能な挙動
ー 16年分の技術的な差
ー MP4-12Cを試す
ー 驚異的なアジリティ
ー 完璧な電子制御
ー GT3バージョンにも期待
回顧録 スーパーカー対決 フェラーリ458 vs マクラーレンMP4-12C 前編
圧倒的な視覚的衝撃
(AUTOCAR JAPAN誌101号の再録)
マクラーレンMP4-12Cは、写真より実物のほうがはるかに美しく見えることはいうまでもない。特に今回の銀色に輝く試乗車を目の前にすると、その実車の美しさは実に素晴らしいのだが、しかしマクラーレンF1 GTRを前にしてしまうと視覚的な衝撃力という意味ではやはりまったく勝負にならない。
しばらく、GTRの眩しいほどのオレンジ色のボディカラーと、このクルマが実際には純然たるレーシングカーで、ル・マンで勝つことを目的とした実際にはシンプルなクルマであるという事実は忘れることにしたい。それというのも、今回はその事実は現実的にはほとんど問題にされないからである。
今問題なのは、F1 GTRは今まで常に史上で最も美しいルックスのクルマであったことであり、そして今後もそうあり続けるであろうという事なのだ。
というわけで、MP4-12Cはそれ自体は実にハンサムなマシーンなのは間違いないが、GTRを隣にするとその衝撃力は残念ながら一気に薄れてしまう。それは例えていうなら、お昼のテレビドラマでヒロインを演じているちょっとした女優が、赤絨毯の上で、アンジェリーナ・ジョリーの隣に立っているようなものなのだ。
電子制御の違い
とはいっても、MP4-12Cはすでに今日は1度ならずF1 GTRに対して自身の優位を見せつけており、2度のレッキ走行ではF1 GTRが苦闘するところを安定したグリップとトラクションで平然と走り抜けた。もっとも今日は氷点を上回ることわずか2℃しか気温がない。
そして12Cには可変式のトラクションコントロールと切替可能な電子制御デフ、それに信じられないほど洗練されたダンピングシステムが備わっていて、その助けを借りれば路面が例えウェットでも、さらに悪いことに1ヵ所か2ヵ所凍結していても、何とか足場を確保できるのである。
対してGTRには、その種のトリックは全く備わっていない。クルマに用意されているのはただ6.1ℓのV12エンジンから発生する強大なパワーだけで、あとはステアリングホイールを握る人間にすべてが託されている。紙の上のデータではMP4-12Cよりもストレートでは圧倒的に速いはずだ。
629psに66.4kg-mのパワーとトルクで、しかも重量は僅か940kg……と聞いても、実感がわかずに唖然とするだけかも知れない。言い換えれば、このクルマはつまりほぼプジョー205 XSと変わらないウェイトなのに600psオーバーの出力を持つクルマ……ということになる。さらにギア比は8300rpmのレブリミッターに合わせてあり、6速でちょうど290km/hに到達するようになっている。
常軌を逸した動力性能
それに対してMP4-12Cの3.8ℓツインターボV8は、発生するパワーはやや少なく(600ps)トルクは全く同じである。しかしクルマ自体の重量は1400kgでギア比は322km/h超まで出せる設定になっている。というわけで、単に純然たる加速力だけが問題であれば、比較にならないどころか存在する宇宙そのものが別なのだ。
ただし当然ながら、本日はそういうわけにはいかない。何故ならこの油や泥で汚れた空港の滑走路を使ったテストトラックでは、F1 GTRは本来の実力を発揮するにはあまりにもパワフルすぎるのだ。ちょっと前に乗り込んでスターターモーターを回し、軽くスロットルをブリップしたら、V12の強烈なパワーに正直いって不安を感じた。
そして走り出し、2速ギアに入れてスロットルを4分の1も踏み込まないうちに、数秒もたたずして危うくスピンに陥る寸前まで姿勢を崩してしまった。こんな状況でこれではもう究極のNoを突き付けられたようなものである。
しかしこれがF1 GTRの本質なのだ。完全に常軌を逸した存在であり、信じられぬほど音が大きく、そして今日のような日に自身のパフォーマンスを発揮するにはあまりにも実力がありすぎるのである。
その結果、最初にこの2台のマクラーレンを本気で走らせて比較しようとサーキットに乗り出したときには(わたしがGTRに乗り、マクラーレン所属の達人にして変人のケヴィン・マクギャリティがMP4-12Cを運転した)、わたしにできることといったらただそこに座って、マクギャリティとMP4-12Cが視界から消えて行くのを眺めているだけだった。
予測不能な挙動
わたしは置き去りにされ、そしてGTRはすべてのストレートとコーナーの脱出を心臓が一拍するほどの間に抜けて行くのだが、その間にわたしは持てる運転能力のすべてを尽くしてただGTRが意図した方向から逸脱しないように抑えていなければならなかった。
4速ギアでタコメーターの表示がわずか4000rpmであってもGTRはリアタイヤのグリップを失い、いきなり横に滑り出すのだが、これが完全なストレートで起こるのである。コーナーでは5速であってもあっさりとグリップを失い、そして3速では、もうどんなコーナーであろうがどんなストレートであろうが、挙動は不条理の極みとなる。
要するにわたしはMP4-12Cを視界の内に保つことができなかった。われわれがトラクションゾーンに一緒に進入したときでも、MP4-12Cのほうはただ姿勢を低めて走り去る。そのときにテールがわずかながら滑ったようにも見えたから、おそらくマクギャリティはトラクションコントロールをスポーツかトラックに選択しており、電子制御が介入するまでに最低限のスリップを許容するように設定していたのかもしれない。
GTRに乗ったわたしは道幅いっぱいのドリフトを繰り返していたが、そのときに踏み込んでいたスロットルはマクギャリティの半分程度だったろう。しかしこれだけのドラマとサウンド、そしてスリルを感じながら追走しても、わたしはまったく彼との距離を詰めることができず、それはどれだけハードにわたしが努力しても無駄なことであった。
16年分の技術的な差
わたしが悟ったのは、これが16年前のクルマと、2011年のまさに今できたばかりのクルマとの違いだということだった。技術的にはこの2台の間には数億年にも相当するほどの差があり、それがマクラーレン・スタッフの達成した仕事なのだ。そして哲学的な意味ではこの2台の間にはさらに大きなギャップがある。
片方が生まれたのは、多くの人々にとってまだそれを受容する準備ができておらず議論が沸騰していた時代であった。1994年には価格が邦貨にして1億円を超え、しかもたいした努力も要せずに最高速度が320km/hを軽く超えるスーパーカーというのはまだ不気味な雰囲気を漂わせるものだった。
いまや邦貨2100万円で最高速320km/h級のスーパーカーは、ごく普通とはいえないまでも、決して理解不能なコンセプトというわけではない。だからこそマクラーレンはこのMP4-12Cが、少なくともフェラーリ458イタリアやランボルギーニ・ガヤルドLP560-4と同じくらい普通に売れるクルマになると考え、それを目標として発売してきたのである。
しかしF1 GTRは、今後も常に極めてレアな、希少性の極めて高いクルマであり続けるだろう。一生に一度でも見ることができたらそれだけでも驚きであり、ましてや走っているところを見たら好運この上ないという存在となろう。だからこそ今回の個体には200万ポンド(約2億5000万円)の保険が掛けられているのであり、そしてMP4-12Cの価格はその1割にも満たないのである。
MP4-12Cを試す
MP4-12Cは新車だが、大量の写真やビデオクリップの撮影が終わってからすぐにでも乗りたかったのはこのクルマだった。何より新型のマクラーレンであり、そして今日のほとんどをGTRの中で完全に打ちのめされた気分で過ごした後では、わたしとしてはこのクルマが本当に気に入るか確かめてみたくてたまらなかったのである。
わたしを乗せて、ちょっとこのクルマでスピンさせてみてくれないかとマクギャリティに頼んでみた。すると彼はアイルランド人でなければ絶対に見せることのない複雑な意味を含んだ微笑を浮かべて「いいですよ」と答えた。こうしてわれわれふたりは走り出した。その次に起こったことは実に呆れるほど滑稽なことだった。
マクギャリティは加速を続け、MP4-12Cはロケットのように前進を続けたが、ホイールスピンの兆候すら全く見せない。ツインクラッチのシームレスにシフトするトランスミッションはより素早いシフトアップをこなすが、その挙動は今までに覚えているいかなるロードカーよりもドラマに欠けたものだった。
エンジンのサウンドはどれほど強烈な加速を始めるときでも不思議なほど遠くに聞こえる。たしかにそれは存在しているが後ろのどこか判らない場所のようで、強烈な加速感の中ではその印象は簡単に忘れられてしまいそうだった。
驚異的なアジリティ
第1コーナーの進入に差し掛かり、もはや戻れない一点を越えた所で、わたしは事故を起こしそうなときに助手席の人間がするのと同じ反応に見舞われた。わたしは不甲斐なくも哀れなうめき声を上げていたが、すでにウィンドスクリーンのすぐ下に見える鋭いオフキャンバーの下り坂の左コーナーではもう止まり切れないと確信していたからだ。
しかしその次の瞬間にマクギャリティが急ブレーキを掛けると、MP4-12Cはあっという間に80km/hまで減速。彼はブレーキを踏んだままターンインし、そしてわれわれは見事に後輪をスライドさせた状態でコーナーに入り、その姿勢を維持したまま脱出。さらに150mほどテールスライドを続けたのである。
度肝を抜かれるようなこの出来事で驚嘆すべきなのは、マクギャリティのドライビングの土台となっている実力と自信なのか。それともMP4-12Cそれ自体の、これだけのプレッシャーを受けたときの驚くべき安定した挙動なのか。いったいどちらなのか判断するのも難しかったが、どちらにせよ、それからの15分間は人間とマシーンとが完全無欠の調和を保っているように見えたのは間違いない。
ドリフトやスライド、加速やブレーキング、そして地平線に向けての全力疾走など、ほとんどほかの人間とマシーンだったらもたつくところを、こちらは何の問題もなく走り抜けていった。そしてMP4-12Cに関して(このクルマで2番目の特等席から見た限りでは)、もっとも印象的なのはそのアジリティだった。
完璧な電子制御
一見したところ手首を軽くひねっただけで平然と方向を変え、その際にテールから何も対応するリアクションが発生しないように見えるのは、驚異としかいえない。多くのミドエンジンのスーパーカーでは、これが重大な問題となっているだけに本当に驚きである。
助手席から見た所では、コーナリングの負荷をかけてもほとんど慣性が発生するような兆候はなかった。そのためかマクギャリティはクイックなコーナーに全力で集中しているように見えるときでも、アペックスの中央で平然とブレーキを踏み続けることができるのだ。
そしてその結果スピンは起こらずそのままクルマはスローダウンし、ただダッシュボード内側のESP警告灯により、車載システムが「モーメント」の始まりを検知して目に見えぬうちにそれを処理したことがわかるだけであった。
わたしが座っている位置から感じた限りでは、システムは多様なモードのすべてにわたって完璧なように思えた。しかしマクギャリティは「これはまだ最終的な量産の前に終わらせなければならない、残された最終調整のうちのひとつなのです」という。
GT3バージョンも期待
MP4-12Cが「スライドするかどうか」、そして「スライドするならいつか」を判断して行うスタビリティコントロールの介入する速度と程度のチューニングは、特にトラックモードではまだ進行中なのだ(ここで比較を行っているのは2010年12月時点の個体なのにご注意いただきたい)。
この日の終わりに近づいて、MP4-12Cに関する考えが少しずつ形を整えつつあった。このクルマはロードカーとしてはまだ初期の量産前バージョンでまだ開発の余地を残しているものの、それでも明らかになってきたのは、優れたレーシングカーの素質をも兼ね備えているということだ。それは単に今回MP4-12Cが伝説のF1 GTRに完勝したしたというだけの理由からではない。
しかし、そう考えているのはわたしだけではなかった。今回の比較テストから1週間後に、マクラーレンはGT3バージョンを製造する意思があることを発表。レーサーやジェントルマンドライバーがレースで走ることを、サーキット専用マシーンを造って真剣にサポートしようとしているのである。
マクギャリティのようなスーパースターが操るこのクルマを敵に回したら、まず絶対に勝ち目はないだろう。何故なら、F1 GTRが登場した当時に感じられたのと同様に、MP4-12Cは走り出した瞬間から勝利という言葉を予感させるものがあるからだ。
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