皆さんこんにちは、水野和敏です。
今回は国産ミッドサイズセダンを2台取り上げます。カムリはすでにデビューから2年近く経過しており、しかも一度取り上げているのですが、その際は標準モデルしかありませんでした。
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その後スポーティな仕様として「WS」というモデルが追加されたので、今回はそれを評価していきたいと思います。
もう1台はホンダのインサイト。先代型のインサイトはプリウスに対抗する存在とした5ドアハッチでしたが、今回のモデルは正統派4ドアセダンとしてきました。
はたしてどんなクルマに仕上がっているのか? しっかりと評価をしていきたいと思います。
文:水野和敏/写真:池之平昌信
ベストカー2019年7月26日号
■両車のホイールデザインはいったいなにがしたいのかわからない
まず目につくのはカムリのホイールデザインです。俊敏なスポーティモデルを表現したデザインではありませんね。デザインの処理からはRVを強調するデザインのようです。狙いは何でしょうか?
メインのスポークに際立った補助リブを追加していますが、これは一般的にはSUVやクロスカントリーモデルでどっしりとした"力強さ"や"重厚感"を表現するデザイン手法で、スポーティセダンの"軽快さや俊敏さ"の表現ができているとは思えません。
今回はカムリのWS(左)とインサイトを試乗します。どちらもハイブリッドミドルサイズセダンとして登場しましたがその実力はいかに?
デザインというのは単なる目先の形作りではなく、そのクルマのウリやコンセプトなどを伝えるための手段として表現する役割があります。
しかしながら一般的に個々の部品を担当するデザイナーは、どうしても部品単体のなかで他車との差別感を出すことに執着します。
だからこそ、開発責任者がしっかりとテーマを与えて個々の構成部品がどんな表現を受け持つのかを明確にすることが大切なのです。
個人的には、この「テーマのズレた」ホイールデザインが、せっかくの洗練された走りのイメージを壊してしまっている感じがします。もったいなく残念です。
スポーティで軽快さが売りのカムリWS。しかし力強さや重厚感を象徴するホイールデザインが残念との水野氏
一方のインサイトはというと……、ホイールデザインは何を表現しているのでしょうか!? ハイブリッドで燃費がいい、空力が優れているという、風の流れをイメージさせているのでしょうね。
でも、このホイールのデザインでは操安性のレスポンスや乗り心地で重要なホイールの軽量化は難しいと思います。
なぜなら、この渦巻きのようなスポーク形状では、瞬間にドンと入る縦方向の入力に対して剛性を確保するためには、スポーク内部の肉厚を上げる必要があり、軽量化が難しくなるからです。
さらに、「これは空力を優先したデザインだ」というのであれば、それよりまず先にやるべきことがあると思います。
ホイール面とフェンダーオープニングの大きな段差をなくしたり、隙間を減らすことからやるべきだと言いたくなります。
特にホイールオープニング部の隙間は、こんなに大きく空いていると走行中に風が入り込んでリフトや抵抗の発生要因となります。しかもホイールのデザインはほとんど空力性能には関係しません。
「風の流れ」を意識しているホイールデザインのインサイト。しかしそれよりもホイールオープニング部の隙間が空力性能が低下してしまうという
ただ、フロントバンパー前面からサイドにかけての面は上手に作っています。ここの風の流れはスムーズです。
でも、せっかくここは上手く作っているのにフロントフェンダーから後がもったいない。止まっているクルマに風を当てるだけの実車風洞で実験すると「いい結果」が出ていると思います。
しかし実際の走行中のクルマと同じ、地面が動いてタイヤも回る、ムービングベルトタイプの風洞で実験をすると、フロントフェンダー後方に巨大な渦が発生していたり、フェンダー内部に風が巻き込みリフトや抵抗を発生している様子がわかると思います。
■インサイトのワイパーむき出しは車格からしてありえない
今日はあいにくの雨降りですが、見てください、フロントフェンダーの後方でドアの真ん中まで大きく跳ね上げられた渦状の泥水の跡が残っています。これは風が流れた跡です。
フロントマスクはカムリもインサイトもグリルとバンパー面に大きな段差があって、これは渦の発生源となり、空力的にはあまりよくありません。
もっとも、いいか悪いかは別にして、カムリは「このトヨタ顔」に決めたのでしょうから、それはいいと思います。しかしベンツもBMWもフロントマスクにヘンな段差などは付けていませんが。
ここまでワイパーアームの根元がクッキリと見える車種は最近あまり見ない。特に約350万円のクルマとしては少し残念な部分だ
またワイパーを見てください。今どきこの車格で、このインサイトのように大きく曲げて湾曲したワイパーアームがむき出しのクルマなどありません。
フラットな形状のフード後端から来る強い風が、大きく湾曲して露出したワイパーアームに当たるので、大きな渦ができてしまいます。
ここはしっかりとアームをフードの中に隠すか、あるいはフード後端にアプローチの傾斜をつけることでフード後端の位置を上げて、素直にフロントウィンドウの風を流す処理が必要です。
まずはスケールモデルでムービングベルト風洞開発テストをしっかりやり、空力開発を終了してから実車風洞で最終確認をする。
本気でエアロダイナミクスを追求するのなら、しっかりと手順を踏んでほしいところです。さらにフード後半部分のフェンダーとのパーティングの隙間から、ヒンジなどの中の臓物がもろに見えるのは販売価格を考えるとありえないとも思います。
インサイトのエンジンルームを見ると、ホンダもストラットアッパーをダッシュパネルと直接繋げる構造をとるようになってきましたね。
樹脂パネルでカバーしていますが、ガッチリとしたスチールの板をダッシュパネルに這わせて左右のストラットアッパーを繋げています。
このクラスとしてはいまだにポールを採用しているインサイトのボンネットストッパー。価格帯を考えれば……
エンジンフードは、カムリはガスダンパー使っているのに対しインサイトはポールです。このクルマの価格からはガスダンパーくらいは欲しいところです。
エアインテークはエンジンルーム前端に上向きに配置しています。ボンネットフードの隙間からフレッシュエアを取り入れて、フード裏側のエアダクトを介して吸気するレイアウトです。
これはこれで面白いアイデアなのですが、よくよく空気の流れを考えると、このインテークダクトはちょうどラジエターの上に位置します。
ある程度の速度で走行している時はいいのですが、渋滞で止まっていたり、低い速度の時は下からの熱で吸気が暖められてしまいます。
■汎用性の高いカムリのHVユニットに対して改善の余地があるインサイト
パワーユニットのレイアウトを見ても、システム化されて汎用性を高めているカムリのハイブリッドと比べてインサイトは無駄なコストがかかっているように見えます。
カムリのハイブリッドシステムは安く、共用化で効率よく作っています。これは安っぽいという意味ではなく、無駄なコストを抑えて、汎用性を高めた合理的で量産効果のあるパワーユニットの構造、レイアウトだという意味です。
それに対してインサイトはまだまだ発展途上。このパワーユニットをそのまま、どのクルマにもポンと搭載することはできないでしょう。機能を高めながら原価低減はまだまだ可能です。
続いてインテリアを見てみましょう。インサイトの室内を見ると……、とてもこの販売価格のクルマには見えません。
質感は決して高くなさそうなインサイトのインパネ。設計段階と実物の完成後のギャップが大きかったようだ
インパネはプラスチック感がむき出しで、シボもあいまいで安っぽい。質感を感じません。一方助手席側は革を使って差別化を図っています。
インパネの段差の付け方など、造形検討の段階では、艶もなく光を反射せず吸収するクレイ粘土を使って見ているために立体感があっていいと感じる形状なのでしょう。
しかし実際の樹脂素材になった時、今度はその立体造形がガチャガチャして見えるのです。仕上げ後の素材感やカラーのイメージができていません。
インパネ全体がつや消しブラックなのに、センターのモニター画面はテカテカ反射するような表面処理で、ここだけが浮いて見えます。
一体感が感じられません。インパネはブラックを基調としていますが、黒の色調が7色あり、まったく統一感がありません。
形状によって反射の仕方が違うのですから、微妙に色調を変えて、視覚的には同じように見えるようにするのが「プロの仕事」なのです。
クレイ粘土のモデルから、実際の生産用材料に変えた実車時のそれぞれの黒色の見栄え変化がわかっていません。まずは基本の基本をしっかりと押さえて、それからさまざまなアレンジにトライしてほしいです。
シートは可もなく不可もなくですね。ただ、このシート形状は実際に走るとサポートが効きません。
止まった状態で座ってみると、サイドサポートが身体を支えるように感じますが、実際に走ってGがかかると身体を支えきれません。もっと腰の部分を包み込むような形状でないと、動くクルマでドライバーの身体を支えることはできません。
後席はフロアと座面の高さ感は標準的で腿が大きく浮くことはなく、まあ標準的です。
トランクリッドを開けると、インサイトは自重で勝手に閉まってきてしまいます。これはいけません。
カムリのトランクはロックを解除するとトーションバー反力でスーッと開いていきます。これが普通の設計でしょう。ところがインサイトは開かないばかりか、開度半分より下方では自重で勝手に落っこちて来て閉まってしまうのです。
雨が降るなか、半分開きで荷物の出し入れをしたいときなど、落ちてきたトランクリッドが頭に当たりそうです。設計の基本となる部分です。
ブラック基調で落ち着いた雰囲気のカムリのインテリア。トランクなども実際に使う人の目線で作りこまれている
カムリのインテリアは上手にまとめていると思います。ブラック基調の色調の合わせ方も上手で、インサイトのようにガチャガチャした印象はありません。
センターパネルのピアノブラックと、その他の部分のつや消しブラックの2種類でまとめられています。
シートはいいです。背もたれ中央部が体重でスッと沈み込んで包み込むようなフィット感が得られます。
インサイトのシートはフラットなまま均一に沈み込むためサイドサポートの張り出し頼みだったのですが、カムリのシートは背もたれ全体で身体を支えるシートです。
これは実際に走り込んで作り上げていったシートです。対してインサイトはメーカーが持ってきたものを車載しただけで「走っていない」し「使い込んでいない」ように感じられてしまいます。
カムリの後席はやはり広い。当たり前ですがアメリカ人がゆったり乗れるサイズです。
■乗ってわかる2台の実力。インサイト79点 & カムリ91点
【インサイト】しなやかでスムーズな乗り心地は高く評価したいが、CADとシミュレーションだけでなく人が持つ技術と買い手を考えた視点を持ってほしい
あいにくの天気なのでワイパーを作動させていますが、アームが視界のあらゆる位置に入ってきてうっとうしく感じますし目が疲れます。
助手席側のアームがくの字型になっていますが、この折れ曲がりポイントがちょうどフロントウィンドウのど真ん中にくる。
視界にズンと入り込んでくるのです。
加速をすると"グォー"という低周波の音が気になります。50km/h前後で特に音が出る。これはパワートレーンの共振音です。
エアコン吹き出し口から室内に入り込んできます。同時に音だけではなくペダルに微振動も出ています。
速度をもう少し上げるとスッと消えます。ただ、速度を上げていったときのエンジン音はかなり耳につきます。
駆動力はモーターですが、モーターを回すためにエンジンがグンと回転を高めて発電力を上げる。この音があまり気持ちいいものではありません。
足はしなやかでいいと思います。ゲインは緩やかで、けっしてスポーティではありませんが、ファミリーカーとしてはちょうどいい。
しなやかな足回りの動きは水野さんも認めるところ。しかし細かな作りこみなどまだまだ課題はありそうだ
ちょっとクルマの重さに持って行かれる感じもあるのでもう少しだけ固くしてもいいかもしれません。ただ、路面の微細な段差を乗り越えたときのしなやかな動きはいいです。
とても滑らかな乗り心地です。ショックアブの微小入力域の動きがとてもスムーズ。ただ、減衰の反力を緩めているため、車重に対して若干抑えが効いていない部分も感じるのです。
このクルマの狙い……、ファミリーセダンとしてのコンセプトを考えれば、この足回りのチューニングは正解だと思います。ロードノイズは抑えられていて上質です。それだけにパワートレーンの音と振動が気になり残念です。
操舵に対する前後のバランスはいいですがブレーキは前輪への配分がちょっと強く、ノーズダイブが大きい。もう少し後輪ブレーキを使ってほしいです。ブレーキの剛性感は高く、コントロール性もいいと思います。
【カムリ】乗り心地や操縦性のバランスが絶妙。パワートレーンは熟成の極みだが、ホイールのデザインは一考してほしい
続いてカムリです。
このパワーユニットはとても熟成が進んでいます。走り出しや、低中速での巡航からグイとアクセルを踏み込んだときのモーターアシストによるトルクレスポンスがものすごくシャープで力強い。
50km/h前後で走っても共振による振動や音は感じません。ただ、回転が上がったときのエンジン吸気音はトヨタハイブリッドモデル全車共通ですが……感じますね。
操舵に対する車体の反応はインサイトと比べれば明らかに敏感。先日試乗をしたレクサスESはちょっと機敏にしすぎていた印象でしたが、こちらはほどよいスポーティドライブ感覚を味わえます。
カムリWSのハンドリングはちょうどいいと語る水野さん。走り込みをしっかりしているとの評価だった
ノーマルカムリとレクサスESのちょうど中間的な印象です。この乗り味がレクサスESにも欲しかったですね。カムリWSのハンドリングは『ちょうどいい』。これはアリです。
モーターによるトルクレスポンスの押し出し感と操舵に対する車体の反応のレスポンスがマッチしていて気持ちいい。
操舵に対する前後動きのバランスもよく、変にフロントが突っ張るようなこともなく、リアがスッと追従する。これは公道をしっかりと走り込んで作り込んでいます。乗りやすく安心感もある。
フロントを固めてグイグイ動かす最近のFF系BMWのハンドリングなどよりもいいとすら感じます。ボディ剛性とサスペンションチューニングのバランスが絶妙でいい。これ以上硬くするとレクサスESのようにボディが負けてしまいます。
ロードノイズはちょっと感じますが、これはすべてボディ後半から入ってくるものです。
このプラットフォームはBピラー後ろのフロア剛性がちょっと不足しているのですが、カムリWS程度の足の硬さであればカバーされてESのような不満は感じません。上手なチューニングだと思います。
さらに、このカムリWSの足はアメリカの国立公園や山の中のハイウェイを60~70マイルで走ったら最高だと思います。アメリカで受けるでしょうね。
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