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ラッセルの1ストップ成功の3つの要因。高速区間で厳しいフェラーリとノリスのメンタルの波【中野信治のF1分析/第14戦】

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ラッセルの1ストップ成功の3つの要因。高速区間で厳しいフェラーリとノリスのメンタルの波【中野信治のF1分析/第14戦】

 スパ・フランコルシャンを舞台に行われた2024年第14戦ベルギーGPは、1ストップ作戦を成功させてトップチェッカーを受けたジョージ・ラッセル(メルセデス)が失格となり、ルイス・ハミルトン(メルセデス)が繰り上がりで今季2勝目を飾りました。

 今回は1ストップのラッセルがトップを守り切った要因、予選から決勝でパフォーマンスが一変したフェラーリ、チームメイトとのメンタルの違いが明らかになってしまったランド・ノリス(マクラーレン)、そして前半戦総括などについて、元F1ドライバーでホンダの若手ドライバー育成を担当する中野信治氏が独自の視点で綴ります。

ラッセル重量不足の初期調査結果「タイヤとプランクの摩耗、体重減少が大きかった」軽量のメリットは微小とメルセデス

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 ラッセル車の車検失格によりハミルトンが優勝という結果で終わったベルギーGPですが、1ストップ作戦を成功させてトップチェッカーを受けたラッセルの走りは素晴らしかったですね。

 1ストップという決断は決して簡単なものではなかったと思います。そんななかでもラッセルが凄いと感じたところは、無線で自ら1ストップという単語を出してチームに対し『1ストップでトライしたい』ということを明確に伝えて、チームに1ストップという決断をさせたことですね。

 タイム的に振り返れば2ストップの方がよかったかもしれません。ですが、ラッセルは自身が提案したとおり、タイヤをうまくマネジメントし、ハミルトンとオスカー・ピアストリ(マクラーレン)を封じ込めることができました。今回の決勝での走りはラッセルというドライバーがただものではないということを改めて感じた一戦でした。

 終盤のトップ3台の攻防戦も見応えがありました。タイヤの状況は2ストップの2番手ハミルトンと3番手ピアストリが有利な状況でラッセルは守り切ったわけですが、その要因のひとつは、ラッセルがハミルトンよりもダウンフォースが少なめのセッティングで走っていたかもしれないということ。

 ふたつめは、1ストップを選んだことでラッセルがクリーンエアで長い時間走ることができたことです。先行する車両がいないなか、ラッセルはタイヤを守りつつ、レースペースを自分の望むようにコントロールできていました。

 一方のハミルトンとピアストリは2ストップを選んだため、最終スティントで履くタイヤの周回数は少なくはなります。ただ、1ストップのラッセルにコース上で追いつくためにプッシュしなければなりませんでした。このプッシュによりハミルトンとピアストリは、1ストップのラッセルよりもタイヤを酷使してしまったと見ています。

 プッシュするとタイムは良くなりますが、タイヤの表面温度や内圧を急激に上げてしまい、タイヤにダメージを与えることに繋がります。ハミルトン、そしてピアストリがラッセルの背後についた際には、3台のタイヤの状況は五分五分、もしくはクリーンエアでペースコントロールができたラッセルのタイヤの方がいいコンディションだったかもしれません。

 2ストップのふたりは、ラッセルに追いつくためのプッシュで2ストップのアドバンテージを使い切ってしまった、というイメージです。最後の攻防戦でタイヤに残る1皮を使うとなった際に、1ストップも2ストップも大きな差はなかったということが、3台の戦いの勝敗を決したのだと思います。

 また、3つ目の要因はラッセルが後続との差を守るために、最終コーナーとターン1の出口で、タイヤの使える最大限のグリップを使っていたことです。DRS区間であり、スパ・フランコルシャン最大のオーバーテイクポイントであるケメルストレートでオーバーテイクされないために、ラッセルはセクター2ではタイヤを温存し、最終コーナーとターン1の出口でしっかりとリヤタイヤを使い切るような走り方を続けていました。これは非常に計算されたドライビングで、今回のラッセルの走りで素晴らしかった部分ですね。

 ただ、残念ながらレース後の車検でラッセルのマシンの重量が、規則で定められた最低重量798kgを1.5kg下回っていることが明らかになり、ラッセルは失格に終わりました。レース直後には、メルセデスのトラックサイド・エンジニアリング・ディレクターを務めているアンドリュー・ショブリンが「1ストップで走ったことでタイヤのラバーが減ったことが、一因であると予想している」とコメントしていましたが、要因はラバーの減りだけではないと思います。本当の要因が明らかにされるかはわかりませんが、気になる部分ではあります。

※編注:その後、メルセデスは初期調査の結果として「タイヤとプランクの摩耗、ラッセル本人の体重減少が大きかった」というコメントを発表している。

■高速コーナーで懸念されるフェラーリ、メンタルの波に影響されるノリスのパフォーマンス

 雨の予選で最速タイムを記録したマックス・フェルスタッペン(レッドブル)が5基目のICE(内燃機関エンジン)を投入したため10グリッド降格となり、2番手タイムを記録したシャルル・ルクレール(フェラーリ)がポールポジションからのスタートとなりました。ただ、フェラーリのレースペースはメルセデス、マクラーレンには届くことはなく、ルクレールは4位チェッカー、繰り上がりで3位という結果に終わりました。

 フェラーリは高速コーナーで苦しみ続けています。高速コーナーが厳しいとダウンフォースを多めにしなければならず、そうなると今度はストレートスピードが犠牲になります。昨年までのフェラーリのマシンは低速コーナーでの回頭性の良さ、ストレートスピードの速さという部分でアドバンテージを持っていました。ただ、今年のクルマはバウンシングに悩まされてダウンフォースを多めにしなければなりません。

 さらに、低速コーナーでの回頭性の良さというアドバンテージも、ライバル勢が速くなったことで以前のようなアドバンテージは無くなったように見えます。ウエット路面の予選でのルクレールの2番手タイムは、ダウンフォースを多めにしたことが活きた結果だと見えました。ただ、ドライコンディションとなった決勝では、ダウンフォースを多めにしたことが足かせに戻ったというかたちです。

 現在のままでは、今後も高速コースでは苦しい戦いとなるかもしれません。サマーブレイク明けに問題を解決できるかがフェラーリにとっての大きな課題となるとは思います。ただ、フェラーリがシーズン後半に急に速くなる、強くなるという印象はあまりないので、少し心配ではあります。

 そして、5番リッドスタートのピアストリが2位となった一方で、4番グリッドスタートのノリスはスタートで運がなく、決勝は1ポジションダウンの5位に終わりました。今回はスタートの蹴り出しは悪くはなかったとは思いますが、その後の位置取りが悪く、7番手に後退しました。

 スパ・フランコルシャンはスターティンググリッドからターン1までの距離が短く、あまり自分の意思で位置関係を変えることはできません。そんななかでノリスはターン1出口で縁石の外側にはみ出て、失速してしまいました。ノリスはこれを「愚かなミス」とコメントしていましたが、ミスというよりは流れが悪かったなという印象です。

 乗れている際、ゾーンに入った際にはとてつもないスピードを見せるノリスですが、無線でのコミュニケーションでも感じさせるように、少しメンタルの部分で波があります。ここはメンタル面で波がなく安定した強さを見せ続けるピアストリとの決定的な違いだと私は感じています。ノリスは自分自身に対し厳しく、自分に対してイライラを感じているように見えますね。チームメイトのピアストリが確実に結果を出してきていることが要因だと私は考えています。

 ハンガリーGPでの一件も、ノリスにとってプレッシャーとなり、そのプレッシャーがノリスのベルギーGPでの流れの悪さに影響を与えているのかもしれないとは感じました。速さは十分に証明しているノリスですので、今後に向けてメンタルの波を抑制する力も身につけなければ、経験値を積んだピアストリとの戦いは困難なものになるかもしれません。メンタルの波を抑制できるようにチームが手助けをするのか、それとも自力で変化を遂げるのか。ノリスの速さ以外の部分での成長には、引き続き注目です。

■2024年F1前半戦総括

 全24戦が行われる2024年のF1も10戦が終わりました。サマーブレイク前の前半戦はマクラーレンの台頭に始まり、メルセデスの復調と、マシンアップデートがこれまでにないほど勢力図を大きく変えました。開幕直後はレッドブルとフェラーリがタイトルを争うのかと思いきや、マクラーレン、メルセデスが猛追している状況で、見ている側にとってはたまらなく面白い展開となっています。

 レッドブルはマシンのプラットフォーム、シーズン中のアップデートともにうまくいっておらず、その影響で近年は大人びた走りを見せていたフェルスタッペンの走りが、荒々しかった昔の走りに戻ってきたようなシーンもありました。それもまたレースを面白くさせていると感じます。

 スパのレースも、チェッカーの際には3台が1.1秒以内という接戦ぶりで、そこにレッドブルとフェラーリがいないというのも新鮮でした。前半戦は面白すぎるという言葉がピッタリでしたね。

 また、裕毅(角田裕毅/RB)は前半戦で抜群の安定感を見せてくれました。確実に成長し、その成長ぶりをアピールできていると思います。レッドブル昇格といった噂などによるプレッシャーなどもあったとは思います。ただ、そのプレッシャーを集中力に変えて、やるべき仕事をしっかりとやっていたという印象です。

 要所要所で『角田裕毅、ここにあり』という走り、成長をアピールすることができているので、サマーブレイク明けもさらにチームに対し、良いアピールができるように、この良い流れを維持してほしいなと思います。

【プロフィール】
中野信治(なかの しんじ)
1971年生まれ、大阪府出身。無限ホンダのワークスドライバーとして数々の実績を重ね、1997年にプロスト・グランプリから日本人で5人目となるF1レギュラードライバーとして参戦。その後、ミナルディ、ジョーダンとチームを移した。その後アメリカのCART、インディ500、ル・マン24時間レースなど幅広く世界主要レースに参戦。スーパーGT、スーパーフォーミュラでチームの監督を務め、現在はホンダレーシングスクール鈴鹿(HRS)のバイスプリンシパル(副校長)として後進の育成に携わり、インターネット中継DAZNのF1解説を担当。
公式HP:https://www.c-shinji.com/
公式Twitter:https://twitter.com/shinjinakano24

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