未来のトップドライバー候補として、これから日本のモータースポーツ界を担う若手ドライバーにスポットを当てる『ネクスト・スター』。第3回は、今季からTOYOTA GAZOO Racingドライバー・チャレンジプログラム・レーシングスクール(TGR-DC RS)に加入してFIA-F4を戦う卜部和久に話を聞いた。
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17歳の高校生レーサーが目指す世界と、意外な憧れのドライバー【ネクスト・スターVol.2/佐野雄城】
──まず、卜部選手がモータースポーツを始めたきっかけは何だったのでしょうか?
卜部和久(以下、卜部):まだトヨタさんがレクサスLC500でGT500クラスに参戦しているとき、富士の雨と晴れが入り混じったレース(2019年第2戦)でZENT CERUMO LC500の立川祐路選手と石浦宏明選手が優勝したレースを見て、僕もこのかっこいい舞台に立ちたいなと思い『レースを始めたい』とお父さん(INGINGの卜部治久オーナー)に伝えたことからです。
──そこからカートを始めたということで、ここまでのキャリアを教えていただけますでしょうか?
卜部:14歳の夏ごろにカートを始め、15~16歳で全日本カート選手権に参戦して、16歳のときにランキング4位になりました。その後は限定ライセンスを取得して17歳からフォーミュラレースへステップアップしました。僕は最初から水冷のFS125クラスに乗っていたので、そのときから今同じチームの佐野(雄城)選手や、ホンダ育成の野村(勇斗)選手、洞地(遼大)選手などと一緒のレースに出ていました。
──FIA-F4にステップアップ後、卜部選手は昨年までBionicJackRacingで参戦していましたが、TGR-DC加入の経緯は何だったのでしょうか?
卜部:やはり、メーカーの育成に加入したほうがプロドライバーへの道が見えてきやすいということと、僕は世界で活躍したいなと思っています。そのなかでトヨタさんはWEC(世界耐久選手権)に参戦したり、平川(亮)選手がマクラーレンF1のリザーブドライバーになったりしていて、海外での活動も広めていたので、トヨタのオーディションを受けようと思いました。
──先ほど立川&石浦コンビのZENT CERUMO LC500の優勝を見てレーシングドライバーを目指すようになったと仰っていましたが、憧れのドライバーは誰になるのでしょうか?
卜部:憧れは阪口晴南選手です(笑)。もちろん立川選手と石浦選手も憧れですし、ほかにも坪井(翔)選手、最近は大湯(都史樹)選手にも憧れていますが、いちばんは阪口選手ですね。
──阪口選手のどの部分に惹かれたのでしょうか?
卜部:僕がカート時代のころから一緒に走る機会があって、そのときから速くて、あとはすごく大阪人なところです。世間話をしているときはすごく面白い人なのですけど、スーパーフォーミュラやスーパーGTなどのレースの話になると、ものすごく真面目で、そのギャップに惚れました(笑)。
──そうなんですね。そんな阪口選手も関係の深いCERUMO、INGINGについてお聞きします。レース界では卜部選手のお父様が手掛ける卜部グループが有名ですが、ご実家はどういったご職業をされていますか?
卜部:おもにカーディーラーを手掛けていて、トヨタのディーラーをやっています。そのなかにINGINGやCERUMOも傘下として含まれています。
──幼少期からそういった環境ということで、プロのレーシングドライバーなどに会う機会などは多かったのでしょうか?
卜部:多かったですね。かつてINGINGからレースに参戦していたロニー(・クインタレッリ)選手は、僕が小さいときに抱っこしてもらったりしていました。今ではそういったドライバーたちと一緒に戦うことができ、すごく楽しめていて、プラスの経験になっていると思います。
──そのことをあまり公にしていない理由などあるのでしょうか。
卜部:僕自身、お父さんの力を使ってというよりも、自分の実力を認めてもらいたいという部分があるので、あまり公にはしていません。
■ル・マン訪問で感じた世界の舞台「海外に行きたい」
──なるほど。ありがとうございます。そんな卜部選手は、近年FIA-F4に加えてインタープロトシリーズ、スーパー耐久の富士24時間など、さまざまなレースで活躍されています。その原動力は何なのでしょうか。
卜部:やはり『レースが好き』という気持ちが強いのだと思います。クルマに乗っていても楽しいですし、ダメなレースの原因は何だったのか、ロガーデータやオンボード映像を見直し、自分で考えて実践したことがプラスに繋がったらすごく嬉しくなるので、また次も頑張ろうと思いますね。
──今年の富士24時間には立川選手とともに参戦しました。何かアドバイスや勉強になったことはありましたか?
卜部:スーパー耐久はどちらかというと『レースを楽しもう』ということがメインだと思いますけど、そのなかでも立川選手の情熱は、スーパーGTやスーパーフォーミュラと変わらないくらいのものがありました。楽しむレースだけど、レースにかける思いや勝ちたいという気持ちが強く、その情熱は僕も大きく必要だなと感じました。
──今年の6月には、ル・マン24時間レースも訪問されていましたね。トヨタの小林可夢偉代表兼選手や平川亮選手、FIA F2の宮田莉朋選手などとは、どういった話をしましたか?
卜部:いろいろなアドバイスをいただき、いちばん心に残ったのは宮田選手のメンタルに関しての話です。やはり海外はさまざまなアジア人差別などがあるらしく「日本のF4でくよくよしていちゃダメだぞ」ということを教えてもらいました。
──そうなんですね。卜部選手は海外でレースをしたい気持ちはありますか?
卜部:あります。今は『海外に行きたい』という思いが強いです。将来的にはF1に参戦したいですし、今まではWECはそこまで見ていなかったのですが、現地に行かせていただき、世界選手権というレース自体が本当にすごい舞台だと感じることができたので、WECにも参戦したいという気持ちがすごく湧いています。
──外国人選手で憧れているドライバーなどはいますか?
卜部:マックス・フェルスタッペン選手とランド・ノリス選手です。F1を見ていると、一発も速いしレース中も冷静なので憧れますね。
──卜部選手の長所と短所があれば教えてください。
卜部:長所はよく考えることだと思っていて、レースや私生活でダメだった部分はよく見直しています。基本的にはポジティブかつ真面目に取り組み、レース前にはスタッフの人と笑い話などをして緊張を和らげるなど、そういった部分は気を使っています。
短所は考えすぎてネガティブになってしまうことですね。レースの期間が空くと考える時間が多くあるので、すごく考えすぎてネガティブになることがたまにあります。最近は考えすぎないようにすることを心がけているので、ときには考え、バランスをうまく取っています。
──では最後に、今季のFIA-F4はここまで4戦を終えています。これからTGR-DCでどのようなシーズンを過ごしていきたいですか?
卜部:今年はマシンが新型車両に変わり、いろいろとドライビングの面で難しい部分があります。そのなかでエンジニアさんと片岡(龍也/TGR-DCレーシングスクール校長兼主任講師)さんが、ドライビングとセットアップを教えてくれるので、チーム一丸で優勝を獲りにいきます。ランキングでは、もちろんチャンピオン争いに加わることをまず目標にしたいです。
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現在19歳でクルマも大好きな卜部は、大学に進学せずレースに専念するため平日はINGINGで働いている。2019年のカートデビューから数年で国内のさまざまなカテゴリーに挑戦しており、国内では当然セルモ・インギングとの繋がりが強いが、ドライバーとして将来、国内と世界のレースにどのように関わっていくのか、そのキャリアに注目が集まる。
■プロフィール 卜部和久(うらべ・かずひさ)
2005年4月25日山口県出身。2019年にカートデビューすると、2021年には全日本カート選手権西地域&東西統一戦協議会FS-125クラスでシリーズ4位になる。2022年からはFIA-F4に参戦を開始し、2023年にはポールポジションと優勝を獲得。2024年からTGR-DCに加入し、現在ランキング12位につけている。
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