2008年、ゴルフR32に次ぐRシリーズ第2弾、「パサートヴァリアントR36」が日本に上陸した。ゴルフR32は高いパフォーマンスと質感ですでに定評があったが、パサートR36はどうだったのか。そのあり方はアウディのSモデル/RSモデルとどう違っていたのか。今回はアウディRSアバントとの違いに着目した興味深い試乗記を振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2008年11月号より)
絶対的なパフォーマンスで通常モデルのイメージも向上
フォルクスワーゲンには特注・特装の注文車両を手がける「VWインディビデュアル」がある。本拠はフォルクスワーゲンAGと同じウォルフスブルグにあるものの、同じ社屋内にある一部門というわけではなく、別のハコで業務を行う、独立性の高い関連会社だ。
●【くるま問答】ガソリンの給油口は、なぜクルマによって右だったり左だったりするのか
一方のアウディで、それに相当するのは「クワトロGmbH」。スポーツ性の高いプロダクトを専門に手がける武闘派的なイメージだが、実際はアウディエクスクルーシブの開発や施工、アウディグッズの企画や生産など、柔らかな業務も担当している。そういう意味ではこの両社は、お互いのご本家から見れば非常に近いポジションとして機能しているといえるだろう。とはいえ、クルマ好きからみるクワトロGmbHの本領は、やはりSモデルやRSモデルにある。近年のアウディの躍進とともにシンボライズされるようになったそれらが、同時に彼らの名を押し上げたことは間違いない。
そしてVWインディビデュアルが手がけるRシリーズに込められているのもまさにそれだと言えるだろう。絶対的なパフォーマンスを示すことでフォルクスワーゲン本体のイメージを引き上げる。それを別組織によるある意味「客観的」な仕事で達成するという点が、たとえばホンダのタイプRとはまったく違うところでもある。
2002年の先代ゴルフR32発表を発端に、VWインディビデュアルは4種のRシリーズをリリースしてきた。まず既に日本にも導入されている現行ゴルフR32、続いて欧州で販売されているトゥアレグR50は850Nmのトルクを発するV10ディーゼルターボをパワーソースとする弩級SUVだ。そしてこの度、ようやく日本上陸を果たしたのがこのパサートヴァリアントR36というわけである。ちなみにRシリーズではないものの、W12気筒搭載のトゥアレグもVWインディビデュアルの手掛けたクルマだ。
パサートR36にはゴルフR32に一脈通じる味わいがある
さて、そのパサートR36、エクステリアは専用の前後バンパーおよびサイドステップでまとめられ、足下はゴルフR32にも一脈通じるRシリーズ専用デザインの18インチマルチスポークホイールで固められる。インテリアはレザーとアルカンタラのコンビからなるリクライニングバケットシート、および専用デザインのペダルやアクセントの付けられたDシェイプステアリングやシフトノブが特徴的なディテールだ。このあたりもゴルフR32と同様の演出だが、Rシリーズでお馴染みになりつつあった細かなピッチのエンジンターンドトリムは与えられず、内装はアルミのヘアライン仕上げとなっている。モデルのユーザー層や性質を考えてのことだろうが、やや寂しい気もしなくはない。
R36に搭載されるエンジンは10.6度という超狭角の3.6L V6となる。先にトゥアレグにも積まれている最新世代のそれは、吸排気系やマネジメントの変更による高回転化が施され、日本仕様では299psを発揮。この微妙な数字はkWをpsへと変換する際の四捨五入を律儀に表記してのもので、実際は300psを唱う欧州仕様と同一と考えて差し支えはない。そのエンジンと組み合わされるトランスミッションはお馴染みの6速DSG。これをハルデックスカップリングの4MOTIONでドライブするというのがこのクルマの成り立ちだ。ちなみに今冬の導入が噂されるパサートCCのV6モデルもこれと同一のパワー&ドライブトレーンが用いられている。R36のセダン版が導入されなかった経緯は、恐らくCCとのバッティングを避けたいという日本法人の思惑もあったのだろう。
このパワーを受け止めるシャシ側には、モンローとの共同開発からなるDCCと呼ばれる電子制御可変ダンパーが用いられた専用チューニングのサスペンションが採用された。そもそも可変ダンパーのようなギミックには消極的なフォルクスワーゲンだが、さすがにこのクルマほどのサイズとパフォーマンスになると、快適性との両立からそれを検討するに至ったのだろう。ちなみにこのDCC、通常時は走行状況に応じてアクティブにレート可変するシステムで、任意にコンフォートとスポーツのモードが固定できるようになっている。この操作ボタンはシフトノブの脇に据えられており、自光式でモードを知らせる仕組みになっているが、直射日光などでその確認が妨げられることが多かった。とくにコンフォート側は意外と使う頻度も高いため、メーター内にインジケーターが欲しいところではある。
そう、ダンパーのモードを逐一確認したくなるほどで、端的に言えばパサートR36は決して乗り心地重視のクルマではない。細かなギャップだけでなく、舗装のスクラブ感まで伝わってくるような、路面状況がわかりすぎるほどのインフォメーションが中低速域では発せられている。そのため車体は、我慢できる程度ではあるが、微振動や小ピッチが常につきまとう。飛ばす気もない時はダンパーを積極的にコンフォート側にしておきたくなるわけだ。
思えばこの味付けの傾向は、ゴルフGTIに対するR32のそれと似ているかもしれない。ゆったりした流れにおける乗り心地はよくないが、その分、情報の解像度は確実に一枚上手と。これまた端的に言えば、飛ばしてナンボの点数を確信犯で狙ってきている。それがはっきりするのはワインディングや高速道路に入ってからだ。
そういう場所でのパサートR36はまさに水を得た魚というヤツで、ねっとりしたロードホールディングと強烈なスタビリティをベースに、絶大な安心感をもってコーナーを任せられるクルマになっている。ステアリングを45度以上も切り込むようなコーナーでは素直なアンダー傾向も現れるが、基本的にクルマの動きは軽く、かつニュートラルだ。
高速域はこのクルマのもっとも得意とするところで、足をビタッと地面に張り付け、唖然とするほど高い速度を維持しつつ姿勢はあくまでフラットなまま、しゃなりとコーナーをクリアするサマは圧巻でもある。この点、標準モデルのV6 4MOTIONもかなりのレベルにあるが、やはりR36は姿勢変化の少なさやピッチ、バウンドの押さえ込みはひと味違っており、そこにスペシャルモデルならではの高質感や安心感を見いだすことができる。
と、こんなシチュエーションで存在感を示してくるのが後ろ脚の動きだ。高速コーナリング時はしっかりとスタビリティのためにリアが駆動していることがわかるし、2速落としでダッシュを掛ける時などもしっかりと蹴り上げられる感触を伝えてくるほどに仕事をしている。担当エンジニアによれば、ハルデックスカップリングのセッティングはノーマルに対して変更がないという話だったが、標準車より強い作動感を覚えるのは、エンジンのパワーに比例してのことなのかもしれない。
そのエンジンは決して小さくはないこのボディを0→100km/h5.8秒で加速させるほどの力持ちだ。が、実際のデリバリーには危うさや荒っぽさはまったく感じることがない。トゥアレグに搭載されるそれと違って低速トルクは決して太いわけではないが、そこから高回転域へと綺麗にパワーが乗っていく感じは、スポーツユニットとして良好なフィーリングと言えるだろう。ゴルフR32では右ハンドル化による排気取り回しの関係でエキゾーストサウンドが細くなってしまうという変化があったが、パサートR36はその点、決定的な変化を感じることはなかった。やや低めのノートには極端な派手さはないが、十分に力強さと気持ちよさを感じさせてくれるものと言えるだろう。
高速性能を目指したRシリーズ、高精度を追求したRSモデル
パサートR36を通してRシリーズの位置づけを個人的に測ろうとすれば、「高級というよりも高速」を目指しているという印象が強い。もちろん、内外装に特別なメイクが施されて静的な質感や所有感も高められているが、クルマの動きは低速域で歴然とした標準車との違いが現れるわけではない。とくにシャシに関してはむしろ意志を持って高速側に振り込んでいるという感すらある。
では、対するアウディのSモデルやRSモデルとはどうなのか。改めてRS6アバントに乗って思ったのは、こちらは結果的に高速なアウディではなく「高級な」アウディになっているということだった。あるいは高級という言葉は、高精度とか高品質とか、そういうものにも置き換えられるだろう。
RS6アバントのパワートレーンはご存じの通りガヤルドのユニットをベースにツインターボ化され、580psという途方もない出力を放つV10だ。正直にいえば全く必要性を感じない。こんなものをワゴンに積むという冗談のような狂気が、アウディという会社の中には潜んでいる。それは先代のRS6アバントでも思い知らされていたことだ。間違いなくアウディ史上最も凶暴だったあのクルマは、爆発的なパワーを強烈なトラクション能力で受け止め、路面を削り落としながらなめすように爆進していく、さながら戦車かローラー車のようなクルマだった。
アウディでしか、クワトロでしかあり得ない。そう言わんがばかりの、自信の塊のような壊滅的なドライバビリティは新型RS6アバントでさらに爆発的に増強された。1500rpmで既に発せられる650Nmという強大なトルク、そして580psの途方もないパワーがそのまま逃げる間もなく地面にぶちまけられるそのフィーリングは、たとえば近いパワーを持つAMGの12気筒あたりとは明らかに違うものだ。
一方で新型RS6アバントは、ダンパーをX字に結んでロールやピッチを抑制するダイナミックライドコントロールに、ダンパー本体の電子制御可変システムを組み合わせることで、580psを支えながら標準車にも迫る快適性を身につけるという、極めてダイナミックレンジの広いクルマに仕上がっている。そこにEセグメントワゴンなりの積載力や居住性をそのままオンしているわけだから、そりゃあアウディとしてはR8くらいの値段をもらわんと合わんですよ、というところかもしれない。
両車の性格は異なるがその狙い、目的は同じ
そこで話を戻すと、アウディのSモデルやRSモデルが目指しているのは明らかにスピードとコンフォート、そしてあわよくばユーティリティのすべてを満たすことにある。仮にMやAMGをライバルに見立てるなら、そこで強烈な武器となるのが「クワトロ」というわけだ。とくにRSモデルはこれによって、無尽蔵なパワーウォーズにいくらお付き合いしようが、雨でも平気な顔をしていられる。
そう、S/RSモデルの核心を個人的に挙げるとするならば、それはスピードでもパワーでもなく、他の追随を許さないドライブトレーンだ。たとえ同じクワトロでも基準車からSになれば1枚、そしてRSになれば3枚は動きモノの摺動感が確実に緻密になっていく。センシティブなドライバーならばそのタッチやフィールが、並の量産車では絶対に醸せないものだと気づくことだろう。つまり、「高い機械式時計はゼンマイを巻く時の感触からして違う」、みたいなところに対価を払える人にとってのアウディは、高ければ高いほどいいことは間違いなく、その象徴がS/RSモデルであると。シャシの洗練された化けっぷりにまつわるこの手間暇やお代に比べれば、パワーアップ代などたかが知れている。
確信犯的にスポーティなRシリーズ。結果的に上質なフィーリングのRSモデル。もちろん投じられるコストの問題もあるだろうが、両車の落としどころは異なってはいる。しかし両車とも、パフォーマンスでブランドイメージを高めるという目的は同じ。やはりそこに強く働いているのは、スピードこそ性能の象徴と信じ抜く、ドイツの自動車メーカーの性なのだろう。(文:渡辺敏史/写真:永元秀和)
フォルクスワーゲン パサートヴァリアント R36 主要諸元
●全長×全幅×全高:4820×1820×1490mm
●ホイールベース:2710mm
●車両重量:1770kg
●エンジン:V6DOHC
●排気量:3598cc
●最高出力:220kW(299ps)/6600rpm
●最大トルク:350Nm/2400-5300rpm
●トランスミッション:6速DCT
●駆動方式:4WD
●燃料・タンク容量:プレミアム・68L
●10・15モード燃費:8.8km/L
●タイヤサイズ:235/40R18
●車両価格(税込):590万円(2008年当時)
[ アルバム : フォルクスワーゲン パサートヴァリアント R36 はオリジナルサイトでご覧ください ]
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