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良質な機械式時計を彷彿とさせる「美しい道具」。メルセデス・ベンツ280Sとベルリンにて邂逅!

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良質な機械式時計を彷彿とさせる「美しい道具」。メルセデス・ベンツ280Sとベルリンにて邂逅!

ついにドイツではサマータイム到来!10月27日まで、日本との時差は7時間となります。とはいえ、ドイツでのサマータイムの評価はあまり芳しくなく、「夏の間は夜10時くらいまで明るくて寝られない、睡眠不足になる」「サマータイムと通常時間の切り替え直後、体のリズムの切り替えが難しい」などと、かなりの嫌われもの。つい先日、EU全体ではサマータイム廃止が決まり、来年を最後にドイツも廃止となる予定です。

そんなサマータイム問題はありつつも、ドイツにもようやく遅い春がやってきました。首都ベルリンのあちこちで桜も満開となり、人々も薄着で近所を散歩しています。そんな春らしい陽気の中、陽だまりのような明るいカラーの古いメルセデス・ベンツに出会いました。今回の主役は、非常に「雰囲気」のあるメルセデス・ベンツの280S(W116型)です。

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多彩なエンジンラインナップ

W116型は、それまで通称「Sクラス」と呼ばれていた同クラスのセダンに、メルセデス・ベンツが初めて正式に「Sクラス」という名称を与えたモデルとして知られています。生産されていたのは1972年から1980年までで、セダンの総生産台数は47万3,035台。全長4,960mmの標準モデルの他に、5,060mmのロングモデルの2タイプが用意されていました。

トランスミッションの種類は、4速マニュアルと5速マニュアル、3速オートマチックと4速オートマチックの4種類がラインナップ。エンジンの種類はさらに多彩で、2.8L直列6気筒、3Lの直列5気筒ターボディーゼル、3.5LのV型8気筒、4.5LのV型8気筒、そしてメルセデス・ベンツとしては現在でも最大クラスの6.9LのV型8気筒が設定されていました。

280Sは最もベーシックなモデル

写真の280Sは、ラインナップ中最小排気量のモデルで、インジェクションモデルの「280SE」に対し、ツインキャブレターを採用したもっともベーシックな仕様となっています。この時代のメルセデス・ベンツは、内外装ともに華美な装飾が存在しないのが特徴の一つですね。当時とても高価な「高級車」だったことは間違いないのですが、一方でとてもすっきりとした、シンプルでクリーンなデザインにまとめられています。その佇まいは、ロールス・ロイスやキャデラックといった、いわゆる「見た目にも訴えかけてくる高級車」とは全く異なる、「洗練された美しい道具」感に溢れていて、実用性を重視するドイツらしい「工業製品」と言えるでしょう。

横転に対応して強化されたピラーやルーフ、衝突時に前後のクラッシャブルゾーンがつぶれることで乗員を保護する「セーフティセル構造」、世界で初めての採用となったボッシュ製ABS、ステアリングやダッシュボードに詰められたショック吸収のための分厚いパッド、悪天候時の視界を確保するための大きな窓と、泥や雪で汚れても視認しやすくした凹凸付きの大きな前後の灯火類。安全のための工夫は挙げればキリがないほど数多く、これらの先進的な設計は、その後のクルマに大きな影響を与えました。

機械的工夫で安全性を高める

特に絶品と名高いのはシートです。大柄でゆったりと座ることができるのはもちろんのこと、サイドのサポートも十分に確保。座面に関しては、太ももが当たるシートの前部分のクッションは厚く柔らく、お尻のあたりは固めに作られています。こうすることで、脚の血管を圧迫してうっ血することがないようにしているのです。

6.9Lもの大排気量V8エンジンすら飲み込むボンネットに、2.8Lの直列6気筒を収めた「280S」は、性能としては平凡だったかもしれませんが、多くの人々に愛されるベーシックなSクラスとなりました。その生産台数は約12万3千台。総生産台数の約4分の1を占める人気グレードとなったのです。

エンジンの出力は160馬力前後、乾燥重量は1,660kgというスペックなので、決して動力性能に余裕があるというわけではありません。しかし、その硬すぎず柔らかすぎないサスペンションと、FRらしい素直で穏やかなハンドリングは、メルセデス・ベンツらしく万人に対して「安心感」を与えてくれるものだったのでしょう。ドライバーだけでなく、同乗者にとっても。電子制御ではなく、機械的な工夫で安全性と完成度を高めるという「精密な機械」を思わせるこの感覚は、良質な機械式時計や機械式カメラに通じるものがあるかもしれません。

この「280S」はドイツの「Hナンバー」(製造から30年以上経った車両で、かつ大幅な改造がなされていない車両に付与される)を取得していることや、その美しい外装から、オーナーから非常に大切に扱われていることが伺えます。オーナーにはこれからもぜひ安全運転で、長く楽しい「Sクラスとの生活」を送ってほしいですね!

[ライター・カメラ/守屋健]

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