大注目のデザインについて語る貴重な機会に
コロナ禍で大規模なイベントも開催できないなか、とあるシークレットイベントが開催された。ステージの中央に鎮座するのは、イエローのボディカラーを身にまとった、話題の新型日産フェアレディZのプロトタイプ。その統括責任者である、日産自動車のチーフプロダクトスペシャリストを務める田村宏志さんと、軽自動車からスポーツカーまで、日産車のデザインのほぼすべてを手掛けるプログラムデザインダイレクターの入江 慎一郎さん。まさに、新型フェアレディZのキーマンふたりによる、贅沢なトークショーである。
初代から受け継がれるフェアレディZの魅力とは? 新型はどうなる?
日産のスポーツカーといえば田村さんというイメージが強いが、今回のトークショーはデザインをテーマに進行。入江さんに新型Zに込めた思いや、こだわりについて実車を交えながら解説するというスタイルで進行した。ふたりは新型Zプロトのボディカラーに合わせ、田村さんはドライビングシューズで有名なネグローニからプレゼントされた特注のシューズを、入江さんはZのロゴがデザインされたオリジナルTシャツを着て登壇した。
「軽自動車からスポーツカーまで担当するので、頭の切り替えが大変です。フェアレディZは日産のラインアップのなかでも花形モデル。担当できるだけでも幸せですね。日産のデザイナーになったからには、一度はフェアレディZをデザインしてみたいという思いは誰もが持っているんですよ」と入江さんは語る。
トークショーは、まずどのようにして新型フェアレディZのプロジェクトはスタートしたのか、というテーマからスタート。2020年9月に全世界に向けて公開したことについて、率直な気持ちは? という問いに対して田村さんは、
「正直、ホッとしましたね。4年前に新しいフェアレディZのプロジェクトをスタートしたいという話を始めました。スポーツカーだけに、思いを伝えるためには形が大事だと思い、デザインのトップである、グローバルデザイン担当専務執行役員であるアルフォンソ・アルバイサに、カッコいいフェアレディZをデザインしてほしいと直談判しにいったんです」
本来、企画書を提出して承認を得てから具体的なプロジェクトがスタートするが、今回は新しいZはこうしたい、という田村さんが持つ“メモ書き”から始まったという。入江さんは当時のことをこう振り返る。
「アルフォンソから、とりあえずスケッチを描いてくれないか、という依頼があったんです。確かに、フェアレディZは形がないと進まないプロジェクトです。というよりも、形さえ決まれば進んでいくプロジェクトでした。先ほども話をしたとおり、誰もがZをデザインしてみたいと思っているので、デザイナーたちは誰もがなぐり書きのようなデザインを持っていたりするんです。スケッチは用意していないか? と各デザイナーに確認してみたら、一気に集まったんです。そのなかからいくつかチョイスし、そこからデザイン案を徐々に絞り込んでいきました」
と、日産のデザイナーたちが、フェアレディZに対して熱い思いを持っているというエピソードを披露。すると田村さんは、
「本来、まずはこのプロジェクトを進めていいですか? ということを役員会で話し合うんです。そこに話がいっていないことは、前代未聞なんです」と笑う。
新型Zプロトも、歴代モデル同様にひと目で“フェアレディZ”だとわかるデザインを採用している。新型をデザインするにあたり、チャレンジしがいがある分、相当なプレッシャーだったのでは? という問いに対して入江さんは、
「社内外からのプレッシャーがすごかったですね。それを担当することイコール、そのプレッシャーに耐えながら仕事を進める。それを逆にチャンスに変えて、ポジティブにできるかどうかですね」と語る。
田村さんは商品企画を担当する上で、今回のデザインと合わせてどのように新型のプロトタイプを作り上げていこうと考えていたのかと問うと、
「お客さまが喜ぶど真ん中のものに魂を込める。それに何をどう入れていけばいいのか考えるんです。どういうお客さま像なのか、どういったものが好みなのか? スペックを含めて考える。エンジンのスペックやサスペンションなど、それはカスタマイズが好きな人たちにも満足してほしい。さまざまなことを検討して、ひとつの仕様に落とし込んでいきました。でも、やはり一番最初は形でしたよ。それができたという意味でホッとしています。今は生産展開をしていく段階で現場は盛り上がっているところです」
プロトタイプはオンラインで全世界に向けて発表した。このようなスタイルでの発表で、スタイルを含めて反響はどうだったのだろうか?
「私たちが言うと手前味噌になるが、これがZだよねということをうまく引き出せて、いいリアクションがもらえましたね。自信が持てました」と田村さん。
これまでのZの流れも踏まえながら、新しいZを作り出さなければならない。すごいプレッシャーのなか作り上げた新型Zプロトを披露できたことについて、デザイナー目線でどのような印象だったのか? という問いに対して入江さんは、
「大満足でした。このクルマの完成形を最初に見たとき、ジーンときました。それだけ今回のZは満足できるものができた、と思っています」
伝統と現代のテクノロジーを融合した新世代のZが誕生
そんな新型フェアレディZは、ガラッと大きく変わるのではなく、伝統と最先端を融合させたスタイルで登場した。そのこだわりついて、入江さんは実車を前に解説。まず注目してほしいのはリヤビューだという。
「斜め後方からのシルエット、おしてリヤフェンダーのボリューム。優しさと力強さを融合した形でZらしさを表しています。テールランプもZ32型だけじゃなく、歴代モデルに採用されてきたオーバル形状、長楕円を現代のテクノロジーでしか表現できないデザインでアレンジしています。伝統と現代のテクノロジーの融合ですね。それは新型フェアレディZのコンセプトそのもので、随所に散りばめています」
リヤフェンダーはアスリートのインナーマッスルをイメージしたようなシルエットを目指して開発してきたという。
「艶めかしさもあり、アスリートのインナーマッスルを鍛えたような、凝縮感のあるリヤフェンダー。これは、日産のデザイナーで匠と呼ばれる、歴代Zにも携わったクレイモデラーが精魂込めて仕上げてくれました。ボディビルダーのようなマッスル感ではなく、アスリートのふくらはぎのようなシルエットを表現してくださいとだけオーダーしたのです。言うのは簡単なんですけどね。それを再現するのがクレイモデラーの腕の見せ所ですが、歴代Zのなかでもナンバー1の作り込みや魅力を出せたとコメントしています」
ボディサイドも、スポーツカーらしいディテールが与えられている。
「サイドビューはシルエットが大事になります。ロングノーズ・ショートデッキはもちろんですが、特徴となるリヤエンドの低さも、歴代Zが受け継いでいるデザインのひとつです。しなやかさ、まさに“フェアレディ”の部分がここに宿っています。そしてボディサイドのキャラクター。フードバルジとサイドビューの高さ、そしてボンネットがほぼ揃っています」
「そこから、パワーをFRの象徴であるリヤフェンダーに向かってつなげていくのですが、一番難しかったのがドアの個性的なキャラクターラインが、ドアハンドルを境に消えていくこと。これはパワーをここで発散させる、という意味を込めて造形しました。キャラクターラインを消してふくよかなフェンダーラインにつなげるのは、まさに匠の技です」
そのこだわりについて田村さんは、コンマ何ミリの単位で修正を重ねていたと当時を振り返る。すると入江さんは、
「ほぼ生産車に近いデザインとなっているので、(市販車の)厳しい要件をクリアしながら作り込んでいくのが、針の穴を通すようなシビアさでした。Zの命であるサイドビューですから、力を注ぎました。ですが、田村さんが一番厳しいんですよ、デザイナーじゃないのに!」と笑う。
「クルマは、リヤビューを見ていることが多いんです。それは、運転をしている最中、どの道を走っていても。渋滞中を含め、スタンス、艶めかしさ、表情を作るのはとても大事なんです。Cピラーやリヤフェンダーは構造物なので、あとから改良することはできないのです。フルモデルチェンジまでは。そのため、新型モデルを開発するときは、リヤビューに力を入れるべきだ、という持論でれまでやってきました。後ろ姿のカッコ悪いクルマはダメだ、と。半ば呆れ気味でしたが、意味をわかってくれて、ずっとやってくれました」と、田村さん。
サイドビューには、もうひとつの個性がある。それが、サイドウインドウの上にあるシルバーのモールのようなデザイン。これはあるものがモチーフになっているという。
「日本刀をイメージし、サイドウインドウの上に特徴づけて配置しました。これは、伝統を受け継ぐものではなく、新型Zプロトのためにデザインしたものです。ルーフはブラックアウトしており、ここにシルバーのアクセントを入れることで、前から後ろに向かってスロープダウンしていく美しいシルエットを刀と呼んでいます。このシルバーのモチーフによって、より強調しているんえす。これがないと、見え方がまた異なってきます」
この質感を生産車で再現することができるのか、そしてこの薄さでここに貼り付けることは可能なのか? という声もあったという。しかし、ここはデザイナーのこだわりとして、採用することを死守したそうだ。そして、もちろん注目ポイントはリヤやサイドだけではない。フロントセクションにも数多くのこだわりが投入されている。
「田村さんはリヤだ、と言っていますが、私はフロントも大事だと思っています。やはり、クルマのフロントはファーストインパクトなんです。田村さんもよく言われますが、フロントデザインによって、クルマの性格や特徴など、ひと目惚れに近いような最初の掴みを意識してデザインしています。やはり、一番はヘッドライトでしょう」
自動車の“顔”といえるフロントマスク、その構成物のなかでも印象づけとしては重要なヘッドライトだと入江さん。新型Zプロトは、上下2分割の変形丸形のシグネチャーライトが与えられている。これにも、こだわりが込められているそうだ。
「初代(S30)のヘッドライトを点灯させると、光の反射で特徴的なリフレクションが現れるんです。このシェイプを、現代のテクノロジーで形にし、シグネチャーライトとしたことがこのヘッドライトに込めたこだわりです。伝統的なモチーフである、初代Zのアイコニックな部分を、違う形、光っている状態をLEDで再現したんです。これについては、社内でも本当の意味を知らないという人も結構います。それをイメージしてもらう映像を作成して、初めて理解してくれました」
田村さんも続けて、「開発を重ねてきて、Zらしい顔つきになりました。ヘッドライトはシンプルに丸にしたいという声もありましたが、配光の問題、ヘッドライトの光らせ方も重要になってきます。このボディラインに対してただ古いものをもってきたのではなく、デザイナーなりにイメージした、レトロモダンの表現がこの形になったと解釈しています。やはり、ボディラインと合っていないとダメ。ただの丸では」とこだわりを語る。
「そのほか、Zバルジと呼んでいますが、スポーツカーらしいハイパフォーマンスを表現し、高性能なエンジンを搭載しているんだという意味も込めて、新しい形のフードを与えました。これはフロントフェンダーにも繋がるし、Zらしさに貢献しています。また、賛否両論あるフロントグリルですが、ベストバランスでデザインできていると思っています。いろいろなレギュレーション上で、この開口は必要でした。高性能なエンジンを搭載するので、この大きさは必要なんです。うまくバランスさせてデザインしています。グリルパターンも、テールランプなどと同様に、オーバル形状として統一感をもたせました。前後のつながりを演出しているんです」と入江さん。
Zに対するイメージを持っている人は多いと思うが、そに人たちのイメージを壊すことなく、新しいものを作るのは大変だったのでは? という問いに対し、
「Zはよくダンスパートナーに例えられます。初代Zがダンスパートナー、Z32がダンスパートナー、という方たちがたくさんいらっしゃる。新型Zプロトは、それぞれのダンスパートナーをどこかで感じさせるデザインになっているのではと思っています。新しいダンスパートナーとして、新型Zを迎え入れてほしいです」
最後に、入江さんと田村さんは新しいZに対しての思いを語ってくれた。
「私たちがこめた思い、社員ひとりひとりの熱い魂がこのZには注ぎ込まれています。それを感じ取ってもらい、皆さんのなかで魅力を広めていってほしい。新しいダンスパートナーとして、迎え入れてください。そこに尽きますね」と入江さん。
「ZやGT-Rは、社員みんなが温めているなにか、ふつふつとしたマグマを集約できる喜び、社長などがポンと発言したときに、すぐ反応できる会社のノリの良さ。新型Zのスポークスマンとして私の名前がよく出ますが、デザイナーやエンジニアなど、日産のDNAが集約したのがこの新型Zです。まだまだ日産はやりますよ、というクルマなんです」と田村さんは締めくくった。
日本を代表する伝統あるスポーツカー「日産フェアレディZ」。その歴史や伝統を受け継ぎながらも、最新のテクノロジーを生かして見事に融合させたプロトタイプは世界中のZファンを魅了した。新世代のZが、日本の、そして世界の道を走る姿を、早く見てみたい。世界中のファンが、そう願っていることだろう。
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みんなのコメント
懐古趣味の人が喜ぶだけのS30のレプリカをつくればいい訳じゃない。
量産モデルへの展開が楽しみです。