航続距離を割りきった都市部の足グルマ
ホンダの量産電気自動車、Honda e(ホンダ・イー)が姿を現した。といっても発売時期はまだ先となっており、先行公開という形だ。実車も用意され、細部も確認できたので、写真と共にお伝えしよう。
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まず大前提として、Honda eは、これまでにないコンセプトのクルマである。基本的にほとんどのEVは、ガソリンエンジン車の代わりになるクルマという位置づけだったが、Honda eはEVの価値を見直し、ガソリンエンジン車にはなかったクルマとして誕生している。具体的には航続距離で、満充電からの距離はWLTCモードで、標準グレードが283km、Advanceが259kmと、ハッキリいって短い。つまり長距離移動ができないことはないが、基本的には都市部の足グルマ、シティコミューターという位置づけなのだ。
航続距離を割りきったことは、当然バッテリーの大きさを小さくでき、車体のパッケージと動力性能に有利に働くほか、急速充電使用時もメリットがある。警告灯が点いたあと、30分の急速充電を行うと、約200kmの走行が可能になるという。大容量バッテリーのEVの場合こうはいかない。このあたりの割り切りは、開発責任者の一瀬智史さんによれば、タブレットではなく日常的に持ち歩くのに便利なスマホを目指したのだという。
若干失礼かもしれないが、ここ最近のホンダにあって、もっともホンダらしい独創的なクルマであるHonda eは、開発のスタートもユニークだ。まずは構想マンガを描くところから始まったのだという。さらにいえば、構想段階では、このサイズのスタンダードであるFFレイアウトだったものが、最終的にRRになっていることも異例だろう。これは、街で使うのにクラス最小レベルの最小回転半径を目指したことや、フロントオーバーハングを思いっきり詰めることなどを実現するための選択だという。その結果最小回転半径は4.3mという軽自動車よりも小回りの利くクルマとなった。
気になるモーターの動力性能だが、標準車は100kW(136馬力)/315N・m、Advanceは113kW(153馬力)/315N・mというもの。当然モーターならではの大トルクで発進加速は鋭い。
走りでいえば、さまざまなモードを組み合わせることで、最大7つの特性を得ることが可能だ。まずドライブモードはNOMALモードとSPORTモードで、SPORTのほうがより力強い加速を得ることができる。さらにシングルペダルコントロールのオン・オフが用意され、オフにすれば従来のガソリンAT車のような走行フィーリングで、クリープもする。オンにすれば、クリープはなくなり、完全停止までアクセルペダルオフだけで可能となる、シングルペダルドライブが楽しめるという。
加えてステアリングのパドルスイッチで、アクセルオフ時の減速度が調整可能。シングルペダルコントロールオフ時は4段階、オン時は3段階の調整となり、それぞれ最大減速加速度は0.1G(オフ時)、0.18G(オン時)に設定されている。
さて、まだ正式発表前なので詳細スペックなどは公開されていないが、ボディサイズは全長3900mm×全幅1750mm×全高1500mm以下であるとのこと。同じコンパクトカーでいえばフィットより少し短く、幅広く、背が低いクルマであるといえる。実際、目の当たりにするとフィットよりもロー&ワイドな雰囲気の、安定感のある佇まいだ。
前後対称のような愛らしい外観デザイン
エクステリアはさすが電気自動車。開口部がないため、まるでモーターショーのコンセプトカーを見ているような、近未来的なデザインを感じる。開発陣はこれを「ツルピカ」デザインと呼んでいるらしい。
フロントの特徴は丸いライトとそこをつなぐグリルだ。さらにボンネット上にはあえて存在感を主張させたという充電&給電ポートのリッドが見える。前から眺めているとこれがストライプのように見えるので、ちょっとレーシーな雰囲気を感じてしまった。
リヤビューはフロントとまったく同じような丸いリヤコンビランプとそれを繋ぐパネルが特徴的だ。リヤハッチを開ける楕円のスイッチ部は、フロントではレーダーのリッドとして再現されており、前後対称にとことん心血を注いでいることがわかる。
サイドにまわると、ボディに収納されたポップアップ式のドアハンドルが確認できる。リヤドアもピラー部にハンドルが格納されていて、もちろん空力にも効果があるのだろうが、開発陣の説明ではデザイン要素を重視したというのだから面白い。「使いやすさなら通常のドアハンドル」という発言まで飛び出すあたり、ホンダらしさが帰ってきたと嬉しくなった。そうはいっても実際ドアの開閉を何度も行ったが、使いづらさを感じなかったことは、伝えておきたい。
もうひとつ、外観で目を奪われるのは、ドアミラーがないことだ。これは機能部品であるのだが、サイドカメラミラーシステムが採用されている。つまりカメラで後方の画像を映し出し、車内インパネの左右両端にあるモニター部に表示するというもの。レクサスESがいち早く実用化したものだが、Honda eでは全車標準でこの装備となる。
サイドカメラミラーシステムの利点としては、運転席サイドウインドウやミラーそのものが雨や雪で見えづらい場合、さらに夜間や夕暮れ時などでもでもクリアな後方視界が得られることにある。加えてドラミラーよりもカメラシステムのほうが圧倒的に小さいため、窓越しの斜め前方の直接視界がひらけることもメリットとなる。ちなみにこのカメラシステムは車体左右幅に収まっているため、畳む必要はない。
先ほど2グレードが用意されることに触れたが、Honda eは16インチ、Honda e Advanceは17インチタイヤを装着する。
今回のクルマを見ると、16インチはヨコハマのブルーアース-Aで、17インチはなんとミシュランのパイロットスポーツ4(PS4)を装着していた。フロア中央部に重いバッテリーを積むHonda eは、重心センターが低く、かつセンターマス化されているので、運動性能にも期待が持てそうだ。PS4の選択はその現れかもしれない。
ボディカラーは全部で7色を用意。 ・プラチナホワイトパール ・ルナシルバーメタリック ・モダンスチールメタリック ・クリスタルブラックパール ・プレミアムクリスタルブルーメタリック ・プレミアムクリスタルレッドメタリック ・チャージイエロー このなかでチャージイエローは新色であり、Honda eだけの色となる。
自宅のリビングと繋がっているようなインテリア
続いてインテリアだが、Honda eのコンセプトのひとつである、家からクルマをシームレスに繋ぐという内容に基づき、自宅リビングのような空間を目指したという。
実際乗り込むと、なるほどと納得するような室内だ。2トーングレーのメランジ調ファブリックによるシートは、自宅のソファを思わせる人に優しい雰囲気。インパネは木目調となっていて、これまたリビングの家具を想像させるような色合いだ。
とくにインパネはクルマのデザインでは難しいと言われている水平基調なもので、平らなテーブルのような造形がとられており、これまでのクルマとは一線を画す雰囲気をもたらしてくれる。
それより何より衝撃を受けるのは、全面液晶といっていい表示部だ。メーターが液晶なのは多くのクルマで採用されているが、ドアミラー代わりの左右モニター、さらにメーターの左には12.3インチの横長液晶パネルがふたつ続いている。つまり、室内の端から端まですべて液晶パネルというわけだ。
2枚の液晶からなるワイドパネルは、簡単にいえば埋め込みのタブレット端末のようなもの。さまざまな専用アプリをダウンロードして使用したり、ナビゲーションや車両情報の表示はもちろん、動画を映し出したり好きな写真を壁紙に設定することも可能だ。操作はスマホやタブレットに慣れている人であればまったく違和感がないもので、ふたつの画面それぞれで好きな表示を行うことができる。たとえば助手席側では音楽を操作し、運転席側でナビを表示ということも可能だ。
もうひとつ、音声操作のHondaパーソナルアシスタントも装備されている。「オーケーホンダ」の発声で起動するこのシステムは、対人間に話しかけるような感覚でいろいろな操作をすることができるもの。たとえば天気を教えてもらったり、近辺のレストランを検索したりという具合だ。こうした音声認識システムは多くのクルマに搭載されているが、撮影車で試した限り、Honda eのそれはかなりの認識精度を誇っていたので「日常的に使用できる」ものだと感じた。
身長167cmの筆者に合わせた運転席の後ろに座ると、広々とは言わないが、十分な頭上空間と膝前スペースが確保されていた。一回の航続距離が200kmというHonda eの特性を考えれば、そこまで長時間の連続移動はない。これだけの広さがあれば十分だろう。
ちなみにリビング感は後席でも一緒で、天井には埋め込みのダウンライトが用意され、そのスイッチもデザインを損なわないようにピラー部に設けられるなど、リビングの延長という世界感の演出はバッチリだった。
ラゲッジは、フロアが高めなのはやや気になる点だが、RRレイアウトであることと考えれば妥当か。リヤシートの背もたれを倒せば、ラゲッジフロアとフラットになる点は使い勝手がいい。ただしリヤシートは一体可倒式なので、倒す場合はふたり乗りになってしまう。
数々の先進装備のなかでも駐車支援は秀逸!
さて、Honda eには安全面、快適面でのさまざまな最新装備が備わっている。
安全装備に関しては、渋滞時に完全停止まで行うアダプティブ・クルーズ・コントロール、レーンキープアシスト、オートハイビーム、車両・歩行者・自転車との衝突回避を支援する衝突軽減ブレーキなど、いまどきのクルマがもつトップレベルの内容はすべて備わっている。加えて歩行者との衝突回避をステアリング操作のアシストで行う、歩行者事故低減ステアリングなど、一歩先行くデバイスも装備されている。
注目は駐車支援を行う「Hondaパーキングパイロット」で、枠のある並列駐車、縦列駐車、最近のSA・PAなどで多い斜め駐車、さらに枠のない並列駐車、縦列駐車にも対応している。何より素晴らしいのは操作が簡単なこと。駐車したい場所を画面で選んだらボタンを押すだけ、あとはハンドルもアクセルもブレーキもシフトも操作することなく、駐車してくれるのだ。
クルマで出かけるのが億劫という人には、たとえばスーパーなどでの駐車が苦手というケースも多い。まだ実際の環境下では試していないものの、Honda eの駐車アシストは、こうした人がリアルワールドで日常的に使えるようなシステムであると期待がもてる。
もうひとつ、このシステムには縦列駐車からの出庫アシストも付いている。駐車して用事を済ましてからクルマに戻ったら、前後に狭い間隔で駐車されていたという場合に、自動で切り替えしながら頭を振り、ぶつからずに本線に出られる角度を付けてくれるというものだ。コチラも日本のパーキングメーターなどでは重宝するだろう。
先進装備として、もうひとつ注目したいのがスマートフォンとの連携だ。うっかり窓を閉め忘れた、ドアロックを閉め忘れた、というケースでも遠隔からスマホで操作ができる。また、乗車前にエアコンを起動しておき、快適な状態で走り出すことも可能だ。もちろん電気自動車ゆえに事前にエアコンを起動しても、エンジン車のアイドリングのように排ガスや音で周囲の迷惑になることもない。
さらにHonda eではスマートフォンをキーとして使うことができ、タッチすることでのドアの解錠、システムの起動ができる。もちろん電池切れの場合は使えないのだが、通常のキーもあるのでうまく使い分ければ問題ないだろう。
最後になるが、コロナ禍で生活様式が変わるなか、クルマ移動が増えたり、たとえば仕事や昼食を車内で、ということも多いだろう。そんなとき電気自動車であるHonda eならば前述したとおり、エアコンを使用し続けても問題がない。さらに通信の契約は必要だが、車内Wifiも備わっているのでPC作業などもしやすいハズだ。また、USB端子にHDMI端子も備わり、たとえば昼食がてらの休憩時にはワイドモニターに映像を映し出すこともできるので、ネット動画はもちろん、本格的な映画などを快適な空間で楽しむこともできる。
Honda e、都市部の乗りものとして、まさに新しい時代の「スタンダード」となる可能性を秘めたクルマではないだろうか。
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みんなのコメント
これで起死回生を狙ってるんだろうな。
ただ、価格が重要と思う。プレミアムコンパクトってのがどれ程受けるんだろう。楽しみだな。