フランチェスコ・バニャイヤ(ドゥカティ)とホルへ・マルティン(プラマック)による壮絶なMotoGPタイトル争いが決着した。最高峰クラス3連覇がかかったバニャイヤと、ドゥカティのファクトリーチーム入りを逃し、来季はアプリリアに移籍するマルティン……ふたりの意地がぶつかり合った1年となったが、軍配はマルティンにあがった。サテライトチームのライダーの戴冠は、2001年バレンティーノ・ロッシ以来の快挙だった。
また今シーズンは、別の意味でも歴史的なシーズンとなった。バニャイヤが決勝レースで11勝を記録しながら、タイトルを逃したということだ。過去にロードレース世界選手権の最高峰クラスで年間11勝以上を記録したライダーは、ジャコモ・アゴスチーニ、ミック・ドゥーハン、ロッシ、マルク・マルケスの4名だけ。当然ながら当該シーズンはいずれもチャンピオンに輝いている。バニャイヤは、シーズン11勝以上でタイトルを獲得できなかった初めてのライダーということになる。
■MotoGP連覇がストップしたバニャイヤ、マレーシアの転倒後に“V逸”を悟っていた?「あのミスは最も受け入れがたい」
しかもライバルのマルティンは、決勝レースで3勝しかしていないにもかかわらず、総獲得ポイントでバニャイヤを上回った。なぜこのような珍事が起きたのか? その”点”を紐解いてみよう。
結果から言えば、現在のMotoGPが全てのグランプリで土曜日にスプリントレースを実施していることが大きく関係している。両者の決勝レースでの獲得ポイントはバニャイヤ370点、マルティン337点となっているのに対し、スプリントでの獲得ポイントはバニャイヤ128点に対してマルティン171点……そして合計がバニャイヤ498点、マルティン508点となった。結論から言えばマルティンはスプリントの成績でバニャイヤを上回ったことが戴冠に繋がったのだが、さらに詳細なポイント内訳を見てみよう。
まずタイトルの行方を左右したスプリントの成績は、1位の回数は両者共に7回であり違いはない。点差を生み出したのは2位の回数であり、マルティンの6回に対してバニャイヤは1回。ここだけで45点の差ができている。これにはバニャイヤがスプリントだけで5回のリタイアを喫したことが大きく響いていると言える。
そして決勝レースに関しても、注目すべき点がある。それは2位の回数だ。バニャイヤは前述の通り11回の優勝を記録して25×11=275点を稼いだのだが、2位は1回のみ(20点)。マルティンは優勝3回(75点)だが2位に10回も入っており、これだけで200点稼いでいる。優勝回数の差だけを見るとバニャイヤが圧倒しているが、決勝での総獲得ポイントにはそれほど大きな差がつかなかったのには、そういった理由がある。
マルティンは、ライバルのバニャイヤよりも少ないリタイア回数にとどめ、バニャイヤが勝ったレースでも着実に2位を獲り続けたことで王座を引き寄せた。バニャイヤ本人も「安定感という点では彼(マルティン)の方が上だった」と認めている。
そのバニャイヤは、自分がシーズン中にいくつか手痛いミスをしてしまったことも認めている。ただ、両者のリタイアの内訳を見ていくと、実はバニャイヤだけ特段ミスが多いというわけでもない。
今季、マルティンはスプリントで2回、決勝で2回の計4回無得点に終わっているが、これらは全て単独での転倒に起因するもの。一方バニャイヤはスプリントで5回、決勝で3回と計8回のノーポイントレースがあったが、単独での転倒はその内半分の4回であり、残る4回は他車と絡んでの転倒(いずれもバニャイヤにペナルティは出ていない)やトラブル起因のリタイアだった。裏を返せば、少しの不運や不可抗力もタイトル争いの結果に少なからず影響を与えるほどに、マルティンとバニャイヤのパフォーマンスは拮抗していたと言える。
少なくとも、2024年シーズンのMotoGPクラスのタイトル争いが歴史に残る激戦だったというのは間違いないだろう。
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