多様な準備を並行して進めるポルシェ
合計37時間を掛けて、3回のフライトを乗り継ぎ、目的地のスタート地点へ到着した。英国価格10万ポンド(約1610万円)を超える、柔らかいレザーシートとダブルガラスを備えたスーパーサルーンに乗り換えても、簡単には言葉が出てこない。
【画像】ポルシェの合成燃料工場へ パナメーラ 4S E-ハイブリッド タイカンと911 ダカールも 全121枚
ドイツ人は、今の筆者とは違って、様々な感情や考えを多才な表現で言葉にする。ポルシェは、そんな知的なドイツのメーカーらしく、多様な事態に対応できる準備を並行して進めている。
電動化への第一歩としてリリースされたタイカンは、他社が羨むような初陣を飾った。同時にガソリンで走る最新の911 GT3も擁し、フラット6が放つ9000rpmでの咆哮を堪能することもできる。
ハイブリッド・モデルも複数ラインナップする。4.4LのV型8気筒エンジンで水素を燃焼させる試みにも挑んでいる。ニュルブルクリンク・ノルドシュライフェも、その開発現場に含まれている。
そして、別のソリューションにもポルシェは意欲的。今回、筆者がはるばる南米大陸の南端、チリ・プンタアレーナスへやって来た理由だ。
マゼラン海峡に面し、南極大陸ともそう遠くはない。氷河が削り出したフィヨルドが海岸線を形成し、海風の強い丘には鬱蒼とした森が広がり、まるで陸の孤島のよう。
ポルシェの開発拠点がある、ドイツ・ヴァイザッハからも相当に遠い。しかし、地面を大規模に掘削せずに炭化水素ベースの燃料を製造するには、理想的な場所らしい。
モータースポーツで登用される合成燃料
いわゆる合成燃料で走らんとしているのが、ラグジュアリーなスーパーサルーン。ここまで乗ってきたDHC-6ツイン・オッター飛行機の隣に停まっている、V6ツインターボエンジンのプラグイン・ハイブリッド、パナメーラ 4S E-ハイブリッドだ。
80Lの燃料タンクは、カーボンニュートラルな燃料で満たされている。ポルシェによれば、既存のV6ユニットへ特に改良を加えずに使えるという。
欧州でも話題になっている合成燃料だが、大気中に存在するCO2を利用して生産されることがポイント。エンジンを燃やしても、相対的に大気中に放出されるCO2の量は変わらない、という考えだ。
モータースポーツでは、レーシングカーを走らせる燃料に登用される動きが目立つ。2022年のル・マン24時間レースでは、出場したすべてのマシンにワインの製造過程で生まれる廃棄物を利用した、合成燃料が用いられた。
フランスのトタルエナジーズ社は、絞りかすなどを発酵させバイオエタノールを抽出。FIA認定のレース燃料を作った。イギリス国王、チャールズ3世が乗るアストン マーティンDB6にも、同じものが用いられている。
2026年には、F1でもガソリンとエタノールのブレンド燃料から、合成燃料へ切り替えられる予定。こちらは、サウジアラビアのアラムコ社が供給するという。
カーボンニュートラルなら2035年以降も容認
英国にも合成燃料を提供する企業がある。コリトン社は、トタルエナジーズ社と似たプロセスで生成している。ただし、市場価格は通常のレギュラーガソリンの2倍と、なかなか現実的なものではない。
ラリーカーの開発で名の通ったプロドライブ社は、コリトン社の合成燃料でT1+ダカールというラリーマシンを走らせている。型落ちのBMW 3シリーズに乗るドライバーへも身近な存在にるよう、コスト削減に務めているそうだ。
エクソンモービル社やBP社は、1970年代にこの関連技術で特許を取得した。半世紀後に日の目を見るようになったのは、政治的な要因が大きいだろう。ポルシェだけでなく、BMWやフェラーリなども関心を寄せている。
AUTOCARの読者ならご存知の通り、欧州のEUは走行時にCO2を排出する新車の販売を2035年に禁止する、という方針を打ち出している。その結果、多くの自動車メーカーが内燃エンジンの開発を縮小し、バッテリーEV(BEV)へ注力している。
しかし先日、ドイツとイタリアがEUでの全面的なBEV化に対する懸念を表明した。市場競争での優位性を保てないのではないかと、憂慮したためだ。そして、カーボンニュートラルな合成燃料を利用することを条件に、販売を容認する決定がくだされた。
最後のもがきといえる変更は、大きな衝撃を生んでいる。今後は不透明。モータースポーツの技術者や燃料工学を専攻した学生以外、馴染みの薄い燃料は普及するだろうか。内燃エンジンに対し、楽観視は許されるだろうか。
1000億円以上の投資をするポルシェ
さて、今回の舞台は強風がやまないプンタアレーナスだ。ポルシェの試験工場に電力を供給する風力発電のブレードも、勢いよく回転している。年間で270日ぶんの、稼働に必要な電気をまかなえるという。
この工場はハルオニと呼ばれており、運営はチリのハイリー・イノヴェーティブ・フュエル(HIF)社が担っている。ポルシェは同社の株式の12%を取得しており、7500万ドル(約1012億5000万円)を投資している。
HIF社は、ポルシェをPRに活用したいと考えている。世界有数のブランド力を持つドイツのスポーツカーを利用すれば、合成燃料を広く認知してもらえる。
ポルシェもCO2の排出量を減らし、環境意識の高いドライバーからの支持を高め、内燃エンジンを愛するクルマ好きに希望を与えるという、幅広いメリットが得られる。
投資額は、自動車メーカーとしては巨大とまではいえないだろう。2022年にポルシェは、60億ユーロ(約8700億円)をBEVなどの開発へ費やしている。
同社は、2035年に向けたEUの決定に対し、政府へ介入した事実はないと表明している。合成燃料プロジェクトを率いるマルコス・マルケス氏は、次のように述べている。EUが販売を容認する前の発言ではあるが。
「実現可能であることを示しつつ、正式な決定を待っています。合成燃料は、環境問題の視点でも理にかなっています。電動化戦略に対する、素晴らしい追加ソリューションになるでしょう」
この続きは後編にて。
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