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【ヒットの法則444】カイエン、Q7、トゥアレグにはルーツが同じだからこその大きな違いがあった

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【ヒットの法則444】カイエン、Q7、トゥアレグにはルーツが同じだからこその大きな違いがあった

2008年、ポルシェ、アウディ、フォルクスワーゲンを巡るグループ内の関係に注目が集まっていた。そこでMotor Magazine誌では、3つのブランドが競合するカテゴリーとしてSUVに着目。カイエン、Q7、トゥアレグの3台の試乗を行っているので、その模様を振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2008年7月号より)

ポルシェがSUVの世界に! 衝撃的だったカイエンの登場
ポルシェ カイエンのデビューの衝撃は凄まじいものだった。スポーツカー専業メーカーであったポルシェが初めて登場させたSUVだというだけでも十分注目に値したが、カイエンはそれだけに留まらず、カッコいいだカッコ悪いだという議論を超越し、真っ直ぐにポルシェであることを主張するアピアランスを堂々まとい、また肝心な走りの面に於いても、期待をはるかに上回るものに仕上がっていたからだ。

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その走りに関して言えば、まず鮮烈だったのがオンロード性能だということは言うまでもない。しかし一方で、カイエンがこれほどまでのオフロード性能を備えて世に出たのは、まさしくサプライズだったはずだ。堅牢なシャシに豊かなサスペンショントラベル、そして電子制御式4WDシステムのPTMによって、そこには並のオフロード車を寄せ付けないほどの高い悪路走破性能が実現されていたのである。

カイエン第4のモデルとして登場したGTSは、しかしそんなオフロード性能をきっぱりと割り切ってみせた。PTMには変更はないが、21インチのタイヤは薄っぺらい35%偏平。幅は295サイズと、14mm拡大したフェンダーのギリギリまで張り出すほどワイドだ。しかも、どう見てもオフロードのことなど考えていないトレッドパターンを持っている。

ここにローダウンした専用サスペンションが加わり車高が24mm下がっているのだから、その狙いは説明されるまでもなく明快だと言えるだろう。

おかげで外観は異様な迫力を醸し出している。カイエンターボ譲りの大きく口を開けたフロントマスクをはじめとするボディワークにワイドフェンダーと極太/大径タイヤ、そして低い車高を組み合わせているのだから、それも無理はない。

ローダウンさせたサスペンションは、スチール製コイルスプリングに電子制御式減衰力可変式ダンパーのPASMの組み合わせが標準の設定。ただし試乗車には、オプション設定のエアサスペンション、そしてアクティブスタビライザーによってロールを制御するPDCCが装着されていた。この場合、車高は20mmダウンとなる。

パワーユニットは自然吸気のV型8気筒4.8L。ポルシェがDFIと呼ぶ直噴エンジンである。最高出力405ps/6500rpm、最大トルク500Nm/3500rpmというスペックはカイエンSの20ps増し。この差は専用設計のインテークマニホールドによるものだ。トランスミッションは6速ATと6速MTで変わらないが、最終減速比が下げられ、より加速重視の設定となっているのは目をひく。試乗車は何とその6速MT仕様だった。

期待を裏切らないカイエンGTSの爽快な走り
今回のテストにはこのカイエンGTSのお供として、アウディQ7 3.6FSIクワトロ、そしてフォルクスワーゲン トゥアレグV6も用意した。

そう、最初に記したデビュー時の大きな衝撃のもうひとつの要因である、大胆な共有プラットフォームの相手を引き連れていくことで、これら3ブランドのSUV観的なものを同時にあぶり出してみようというわけである。

まず乗り込んだのはカイエンGTS。そのインテリアは全面レザー張りで、アルミニウムのモール、そしてルーフ内張りやドアトリムなどに張られたアルカンターラなどと相まってスポーティな気分を盛り上げている。

実際に走り出しても、期待は裏切られない。V型8気筒直噴ユニットの吸気音を含めたエンジン自体の発するサウンドは、いかにもヌケの良いNAならではの爽快感を演出していて、回転を上下させるのがとにかく楽しい。

引っ張れば回転計の針は6600rpmからのレッドゾーンを超えて6800rpmまで達する。その時の速度は2速で90km/h、3速で140km/h弱という設定で、とくに2速は低め。引っ張って楽しむにはちょうどいいが、ストロークが長く節度も甘いMTのシフトフィールはやや残念だ。

一方、乗り心地はやはり硬めの設定である。といっても小さな入力に対しては思ったよりもしなやかで、大きな入力があると一転、ガツガツとショックを伝えてくる。そのぶん姿勢変化は抑えられていて、元々少ないSUV特有のグラッと傾く感じは、もはやほとんど気にならない。しかし、それと引き換えに、全体を硬めているが故にブッシュ類と思しきヨレ感が逆に強調されて、時折ピクピクと落ち着かない動きが出てしまっているのは、ちょっと気持ち良くない部分である。

それでも、ワインディングロードではまさに水を得た魚。ステアリング操作に対してリニアにノーズをインに向けるニュートラルな応答性は、2.3トンもの車重を忘れさせる。しかもタックインを誘発させれば、安定した動きの中でしっかりとその意思に応えてくれるなど、コントロールする余地をたっぷり残しているから嬉しくなる。

これでもう少し、舵を入れた瞬間の応答性が鋭ければと思ったが、あるいはそれは、試乗車がエアサスペンション仕様だったからかもしれない。よりポルシェらしい走りに期待して、ノーマルのコイルスプリング式サスペンションも試してみたいと感じた。

同じプラットフォームでも想像以上に存在する独自性
そういう意味で予想以上に好印象だったのがQ7 3.6FSIクワトロである。コンベンショナルなサスペンションは路面感覚が豊かで、ワインディングロードでも結構楽しめる。あまり姿勢変化を誘発しようとすると、サイズがあるだけに揺り返しも大きいが、無理せずクルマなりに走らせてやれば長いホイールベースが高い安定感をもたらし、基本前後トルク配分を40:60としたトルセン式のクワトロシステムが、気持ち良い姿勢での立ち上がりを可能にしてくれる。

また高速道路でも、ホイールベースの長さが活きているのか、楽に直進を維持できる。乗り心地は硬めだが、ピッチングが抑えられているので不快ではない。もっとも気になるのはエンジンパワー、というか低速域のトルクに余裕がなく、頻繁に全開を強いられることかもしれない。回すとこのエンジン、正直にうるさくなる。

全体的に見て、クルマと格闘させずサラッと速く走らせるという意味ではQ7は、まさにアウディと言えるかもしれない。

トゥアレグは予想通り、もっとも穏やかな手触りだ。径の大きなステアリングを切り込むと車体が大きめにロールして、良い意味で飛ばそうという気にさせない。ただし、エンジンは基本的にQ7と変わらないはずだが、こちらの方がトルクフルに感じられた。車重の差は10kgだというが。あるいはエンジン音が小さく、躊躇なく踏めるせいでそう感じたのかもしれない。

面白いのは、ワインディングロードで走らせてみると、姿勢変化の大きさとホイールベースの短さのおかげで、案外に操り甲斐があること。もっとも、その代償で高速域で落ち着かない印象もあるのだが、それも含めてアウディとはやはり違う世界が、そこにはしっかり構築されているのだ。

こうして3台まとめて乗り較べてみると、それぞれの走りのキャラクターには、事前に想像する以上の違いがあることがわかる。中でもカイエンGTSは、やはり突き抜けていた。その操縦性はSUVという範疇をさらに半歩踏み出し、とにかく潔くポルシェたろうとしているからだ。

いや本当はアウディだってフォルクスワーゲンだって、それぞれに「らしく」あろうとしている。そういう意味で、意気込みに差があるわけではない。言ってみれば、それは単なる出自の差。ポルシェはスポーツカーメーカー、他の2社は量販車メーカーなのだ。

そう言えばカイエンについて、フォルクスワーゲンやアウディと基本骨格を共有しているからというネガティブな評価を下す声はほとんど聞かない。それは、そのプロダクトが紛れもないポルシェとして隙のない仕上がりを見せているからだろう。

しかしながらポルシェは、カイエンにGTSを設定することによって、そのことを改めて強く印象づけようとしているように思える。モデルライフの後半に入っているはずの現行カイエンに依然として変わらぬ魅力を感じさせる材料としても、その存在は十分以上のものがある。どうやら彼らの戦略は、またも見事に的中したようだ。(文:島下泰久/Motor Magazine 2008年7月号より)



ポルシェ カイエンGTS(6速MT) 主要諸元
●全長×全幅×全高:4795×1955×1675mm
●ホイールベース:2855mm
●車両重量:2300kg
●エンジン:V8DOHC
●排気量:4806cc
●最高出力:405ps/6500rpm
●最大トルク:500Nm/3500rpm
●駆動方式:4WD
●トランスミッション:6速MT
●車両価格:1020万円(2008年)

アウディ Q7 3.6FSIクワトロ 主要諸元
●全長×全幅×全高:5085×1985×1740mm
●ホイールベース:3000mm
●車両重量:2270kg
●エンジン:V6DOHC
●排気量:3594cc
●最高出力:280ps/6200rpm
●最大トルク:360Nm/2500-5000rpm
●駆動方式:4WD
●トランスミッション:6速AT
●車両価格:698万円(2008年)

フォルクスワーゲン トゥアレグV6 主要諸元
●全長×全幅×全高:4755×1930×1730mm
●ホイールベース:2855mm
●車両重量:2260kg
●エンジン:V6DOHC
●排気量:3594cc
●最高出力:280ps/6200rpm
●最大トルク:360Nm/2500-5000rpm
●駆動方式:4WD
●トランスミッション:6速AT
●車両価格:557万円(2008年)

[ アルバム : ポルシェ カイエンとアウディ Q7とフォルクスワーゲン トゥアレグ はオリジナルサイトでご覧ください ]

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