都合7名のタイトル候補が雌雄を決した2023年SCBストックカー・ブラジル“プロ・シリーズ”の最終第12戦が、12月15~17日にサンパウロのアウトドローモ・デ・インテルラゴスで開催され、予選の数時間前に困難な瞬間を経験したTOYOTA GAZOO Racingブラジル陣営のリカルド・ゾンタ(RCMモータースポーツ/トヨタ・カローラ)が逆転王座に望みを掛ける最速タイムを叩き出すと、涙を隠さず「自分の感じている感情を言葉にするのは難しい」と、そのままポール・トゥ・ウインを達成してみせる。
しかし唯一、自力チャンピオンを決める立場を維持した選手権首位のガブリエル・カサグランデ(A.マティス・フォーゲル/シボレー・クルーズ)が、その初戦で3位表彰台に上がると、続いて前戦で初優勝を果たしていた42歳のフェリペ・マッサ(ルブラックス・ポディウム/シボレー・クルーズ)が連勝を飾った今季最終ヒートでは、直接の対立候補となったシリーズ3連覇王者ダニエル・セラ(ユーロファーマRC/シボレー・クルーズ)が12位に終わったことで、カサグランデ自身もポイント圏外フィニッシュながら2021年以来となる2度目のチャンピオンに輝く結末となった。
ブラジルも「新時代」だ。新規定導入で2025年よりSCBもSUV化『トヨタ・カローラクロス』参戦へ
新たに有効ポイント制を導入し、下位4戦切り捨ての結果286ポイントで最終戦に到達した28歳のカサグランデを先頭に、地元サンパウロ出身の39歳セラ以下、史上最年少SCBタイトル記録保持者でもあるフェリペ・フラーガ(ブラウ・モータースポーツ/シボレー・クルーズ)や、“予選最速男”ことチアゴ・カミーロ(イピランガ・レーシング/トヨタ・カローラ)、そして自身初のファイナリストになったラファエル鈴木(ポール・モータースポーツ/シボレー・クルーズ)に、王者ルーベンス・バリチェロ(モービルエール・フルタイム/トヨタ・カローラ)と、同じく元F1ドライバーのゾンタという面々がインテルラゴスに乗り込んできた。
そのレースウイーク開幕に合わせ、シリーズは2025年より導入する新車両規定『Audace SNG01』の規約とコンセプトを一部修正し、世界最大級の鉄鋼メーカーであるアルセロール・ミッタル社製の鋼管パイプフレームを採用した新設計シャシーに、こちらも新開発の直列4気筒2.1リッターのターボエンジンを搭載する車両のベースモデルを「SUVとする」ことをアナウンスした。
また同規定はファンとの双方向性を重要視していることも特徴で、マシンにはクアルコム社製モバイルCPUのスナップドラゴンによる高速5G対応の通信機能が備えられることも受け、日曜のインテルラゴスではファンやプレスルームを対象に同社が提供するWi-Fi 6EとWi-Fi 7のテクノロジーも試験導入された。
従来の2.4GHzおよび5GHz周波数帯の通信速度を最適化し、将来的には拡張現実(AR)メガネとマルチカムを併用することで、観客がドライバーの隣に仮想的に座っているかのようにレーシングカー内部から360°ビューが提供される、臨場感あふれるリアルタイム5G伝送も計画されている。
■元フェラーリF1のふたりがポディウムで並ぶ
そんな未来を予感させる最終決戦の走り出しは、ポイントリーダーのカサグランデがネルソン・ピケJr.(クラウン・レーシング/トヨタ・カローラ)らを抑えて順当にトップタイムを刻むと、予選ではラファエル鈴木とカサグランデを凌ぐ安定したパフォーマンスで、ゾンタが今季2度目、SCBキャリア通算7回目のポールポジションを獲得した。
「達成された偉業に対して神に感謝したい。今日は本当にたくさんのことが起こっていたんだ。実は早朝に起きた後、僕の目は完全に腫れていてドライブが可能か不安視されるような状態だった」と、これでボーナスポイント2点を獲得しバリチェロと並ぶランク6位に浮上したゾンタ。
「それにFPではクルマの調整にも失敗し、ポールを手に入れたのは『神の手』としか言いようがない。物事は正しい方向に進んではいなかったが、今はチームが明日の勝利を目指すために最速のクルマを与えてくれたとしか考えられない。誰もが僕を支えてくれる……これだけで僕は強くなれるんだ」
そんな感情に満ちた酷暑の日曜は、そのまま30分+1周の幕開けをゾンタが制し、今季3勝目(インテルラゴスで2回目)、ストックカーでは通算11勝目を“ライト・トゥ・フラッグ”で飾ってみせる。
その背後では、今季初表彰台となったフリオ・カンポス(ルブラックス・ポディウム/シボレー・クルーズ)を挟み、最終周まで鈴木とのバトルを演じ切ったカサグランデが3位表彰台をもぎ取り、シリーズ“3冠”のセラが5位に終わったことで、最終レース2では逆転チャンピオンに向けセラは勝利が必須となり、その上でカサグランデがノーポイントに沈む必要がある厳しい条件が突きつけられた。
迎えた決着の最終ヒートはファイナルラップのセーフティカー介入が流れを決定づけ、ここまで義務ピットを引っ張っていたマッサがイエロー掲示直前に作業へ飛び込み、あのF1時代以来となるインテルラゴスで15年ぶりの勝利を手にすることに。さらにマルコス・ゴメス(カバレイロ・スポーツ/シボレー・クルーズ)を挟んでバリチェロが3位に入り、表彰台で元フェラーリF1ドライバーが並び立つ演出で、跳ね馬の後輩を祝福した。
さらにその後方では、無用なリスクを避けるべく保守的な展開で21位チェッカーを受けたカサグランデに対し、セラも12位フィニッシュが精一杯の展開となり、シボレーをドライブするパラナ州出身の28歳が自身2度目のシリーズチャンピオンを手にした。
「もう疲労困憊だ(笑)」とサンパウロ南地区の猛暑にも体力を奪われたと明かした新チャンピオン。「命という贈り物と、ふたたびここでこの挑戦をする機会と能力を与えてくださった神に感謝しなければならない。(初タイトルでは)もっと緊張したが、今回はもちろん緊張しつつ、うまく状況をコントロールすることができた。僕らは2度のチャンピオンだが、ここでは立ち止まらない。さらなる挑戦を目指すさ」
これで年間22レースのうち24名が表彰台を経験し、うち12名が勝利の美酒を味わったシーズンは、トヨタとシボレーが12勝ずつを分け合う拮抗した勢力図を保ち続ける結果となり、来季2024年3月初旬の開幕戦ゴイアニア、アウトドローモ・インテルナシオナル・デ・アイルトン・セナでも、このパフォーマンス・バランスが維持されることとなりそうだ。
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