2022年4月7日に日本プレミアされたCX-60。新世代のラージ商品群第1弾モデルとなるSUVだが、注目は新たに開発された直6エンジンだ。
各メーカーでダウンサイジング化が進み、その生存が危ぶまれていた大排気量マルチシリンダーエンジンを、まさか今復活させるとは……と思った読者も多いだろう。
マツダが目指した内燃機関の最高到達点! 直6エンジン新規開発戦略の勝機と心配
今回は、そんなマツダが生き残りをかけて登場させる直6エンジンの期待と心配について考察していきたい。
文/西村直人
写真/MAZDA
■復活は嬉しいニュース! しかし歓迎する声ばかりではないマルチシリンダーエンジンの現状
最初に結論。3.0L 直列6気筒ガソリンエンジンがCX-60に搭載される。しかも国内仕様として! これは自動車好きの我々としてはうれしいニュースだ。
2022年4月7日、マツダの新型SUV「CX-60」が国内で発表された。FR方式/AWD方式に対応する新開発プラットフォーム「SKYACTIVマルチソリューションスケーラブルアーキテクチャー」を新規開発。
組み合わせるボディは、全長4740×全幅1890×全高1685mm、ホイールベース2870mm、トレッド前1640mm/後1645mmと現行「CX-5」よりもひと回り大きい。
2022年4月7日に国内初お披露目されたマツダ CX-60
パワートレーンも新規開発だ。エンジンはすべて縦置きで、ガソリンエンジンが2.5L 直列4気筒と同プラグインハイブリッドシステム付き、ターボディーゼルエンジンが3.3L 直列6気筒と同48Vマイルドハイブリッドシステム付き、以上4タイプであることが発表された。
筆者はCX-60欧州仕様プロトタイプの試乗を行う機会を得ていたので(本誌での試乗レポートは『マツダの新型SUVが日本プレミア!! 「CX-60」最速試乗でわかったPHEV&ディーゼルの痺れる実力』〈リンク先〉で!!)、その場で4タイプ以外のエンジン、つまり直列6気筒3.0Lガソリンエンジンの存在について開発陣上層部に対し直球取材を行った。
そこで得たのが冒頭の情報だ。スペックや搭載時期についてはさすがに回答を得られなかったが、直6バリエーションが増えることは素直に喜びたい。
ただ、歓迎の声ばかりではなかった。CX-60に3.3L 直列6気筒ターボディーゼルが搭載されることを知り、「何を今さら大排気量?」、「ダウンサイジングに逆行する6気筒?」など、大排気量化やマルチシリンダー化に疑問符をつける声がWebサイト上に散見されたからだ。
確かに一理ある。2000年代に入り、トヨタ「プリウス」が市民権を得た頃からHV(ハイブリッド車)でなくとも環境問題に対し高い意識を持つことが求められた。結果、フォルクスワーゲンを筆頭に、各国の自動車メーカーではエンジン排気量のダウンサイジング化が図られた。
さらに6気筒が4気筒に、4気筒が3気筒になるなど、部品点数の縮小化も一気に進んだ。ターボチャージャーやスーパーチャージャーの過給効果を低回転域から積極的に使うこと、さらにはガソリンの直噴化技術を組み合わせることで、マルチシリンダー並のトルク特性に富んだドライバビリティが実現できたからだ。
■長期ビジョンによる拡張性も考慮したエンジンは、電動車も視野に入れた究極進化したベース
CX-60は、車体サイズ的には現行CX-5よりもひと回り大きくなった感覚だ
2021年6月、マツダは「サステイナブル“Zoom-Zoom”宣言2030」に基づいた2030年に向けた新たな技術・商品方針を発表。
ここでは、直列6気筒ディーゼル/ガソリン/SKYACTIV-Xの存在に言及し、さらにPHEV(プラグインハイブリッド車)やMHV(マイルドハイブリッド車)など電動化車両についての説明も行っている。
電動化車両の方針については多くのユーザーが納得できると思う。マツダでは具体的なプランとして、HVとPHEVをそれぞれ5モデル、BEV3モデルを日本、欧州、米国、中国、アセアンを中心に2022年から2025年にかけて順次導入。
さらに2025年頃から2030年にかけて、BEV専用のプラットフォームである「SKYACTIV EV専用スケーラブルアーキテクチャー」を用いた複数モデルを各国各地域に導入するという。
大風呂敷を広げるような話に聞こえるが、CX-60に搭載された電動化へのキーテクノロジー(例/1モーター2クラッチ方式8速AT)や、日本を含め各国で発売済のBEV「MX-30EVモデル」の存在からすれば合点がいく。
懸念されるのは、直6エンジンのワイドバリエーション化だ。まずは3.3Lディーゼル、3.0Lガソリン&同SKYACTIV-Xと排気量が異なる点にも疑問が出ているようだ。
しかしながら、排気量違いについての答えは明確。CX-5が搭載している4気筒SKYACTIV-D=2.2L/550cc、4気筒SKYACTIV-G=2.0L&2.5L/400cc&500ccから推察できるように、直6Dが3.3L(550cc×6気筒)で、直6Gが3.0L(500cc×6気筒)になるとの計算が自ずと成り立つ。
これは「既存のSKYACTIV-D&Gエンジンを最大限活用した」という開発陣の声も裏付けになる。
懸念の中核は、大排気量&マルチシリンダーエンジンのワイドバリエーション化だろう。しかし、これにもマツダは2007年に方針を示している。
「2020年においてもグローバル市場における自動車の主要なエネルギーは石油であり、動力技術は内燃機関が主流だと予測しています」。これは2007年にマツダが公表した「ビルディングブロック戦略」の説明導入文だが、15年を経ても内燃機関はいまだ主流だ。
ビルディングブロック戦略では、まず内燃機関であるエンジンの究極進化をベースにBEVを環境対策の象徴としつつ、主戦場はPHEV、HV、MHVであるとし、エネルギー効率を高めることが先決であるとした。
■直6SKYACTIV-Xにも期待 マツダが狙う今後の展望
このうちエンジンの大排気量化は「エンジンの究極進化」プランとして、すでに2007年の時点から策のひとつとして示されていたのだ。ここでの要はシリンダー内にたくさんの空気を採り入れること。
マツダは、エンジンの究極進化の具体例として2019年に2.0L 直列4気筒のSKYACTIV-Xを完成させる。ガソリンとディーゼルの両エンジンがもつメリットを活かすことを目指したSKYACTIV-Xは、「SPCCI:Spark Controlled Compression Ignition(火花点火制御圧縮着火)」を中核技術とし、2022年4月現在、「マツダ3」と「CX-30」が搭載する。
そして今回、エンジンの究極進化をかなえるためSKYACTIV-Xのさらなる進化として直6化される。
「今回の直6化は、SKYACTIV-Xがこの先に目指している姿、すなわちエンジンの究極進化を完成させる策なのか?」という筆者の質問に対し、前出の開発陣上層部の一人は「YES」と答えた。
つまり、CX-60への3.3L直列6気筒ターボディーゼルの搭載は20km/Lに迫る燃費性能と、PDFやSCRなどアフタートリートメントシステムに頼り切らずにユーロ7相当の排出ガス規制をクリアするための策であり、これがディーゼルエンジンでの究極形だ。
ディーゼルエンジンでの究極形と言える直列6気筒のSKYACTIV-D 3.3エンジン
そこに今回、冒頭の3.0L 直列6気筒が通常燃焼モデル&SKYACTIV-Xモデルで示されたわけだが、こちらがガソリンエンジンでの究極形になる。
ただし、直6 SKYACTIV-Xの国内導入はすぐには予定されず、直4SKYACTIV-Xの評価をみながら検討されていくようだ。
この先、マツダのディーゼルとガソリンの両究極形エンジンは融合しSKYACTIV-Xとして長らえ、要素技術の宝庫であるガソリン&ディーゼルエンジンは、ともにバイオフューエル対応/eフューエル対応が実現する。
そしてロータリーエンジンでは水素エンジンの実用化。これら全方位でカーボンニュートラル化へと突き進む。
e-SKYACTIV PHEV。プラグインハイブリッドはマツダ初となる
マツダの直6ストーリーには別の展開もある。ターボモデルの存在だ。開発陣に対し、「3.0L 直6ガソリンターボは存在するのか?」と質問したところ、「YES」。続けざまに、「ではCX-60として国内に導入するのか?」に聴くと、「ニーズの高いところに導入」として明確な回答を避けたが、声のトーンは明るかった。
ここからは筆者の想像だが、3.0L 直6ガソリンターボはトヨタにも供給されるのではないだろうか。
「東京オートサロン2022」にGRが出展していた「GR GT3 Concept」が、マツダが2015年の東京モーターショーに出展していた「RX-VISION」に似ているとの声が絶えないが、このパワートレーンとして使われる可能性があると推察している。
もっともマツダは、次世代ロータリーエンジン「SKYACTIV-R」をRX-VISIONに搭載すると公表しているが、登場から7年の歳月が経ち開発情勢も大幅に変化。環境問題へのさらなる対応や開発費用の削減などが求められている。
こうした状況変化は、トヨタとの協力関係にも言えること。SKYACTIV-Rの搭載が消滅したわけではないと信じているが、まずは両車を実在させるため“現実的なパワートレーン”として3.0L 直6ガソリンターボがあるとすれば……。
筆者はさらに、「FRプラットフォーム向けの3ペダルMTを新規で開発する予定はあるのか?」と質問してみたが、明確に「NO」と示さなかったことも両車へ3.0L 直6ガソリンターボが搭載される可能性があると踏んだ裏付けのひとつだ。
マツダの新生・直6ガソリンエンジンの存在を知った当初、当事者でもないのに、「そんなニーズが世の中にあるのか」、「開発コストは回収できるのか」と心配していたが、話を伺っていくに従い腹落ちする点が多かった。
勝機は今だ! 第7世代ラージ商品群としての開発初期コストは、第6世代商品群のそれから25%コストダウンできたという。これこそマツダが強みとする「MBD:Model Based Development(モデルベース開発)」のなせる技。そこに直6ガソリンエンジンが含まれていることからも、まずは積極的に応援したい。
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みんなのコメント
コンセプトは良いが10年遅かったな。
今後新車でエンジン付き自動車が販売禁止になると言うのに
今頃では遅すぎる。開発費もペイできないだろう。
最後に一花咲かせたかったのだろうが遅すぎた。