昨年7月にアメリカで発表され、日本では今年1月の東京オートサロンで初公開された新型シボレー コルベットは、通算8世代目にしてミドシップレイアウトに転身するというトピックもあり、大きな注目を集めた。その待望の新型に乗るために訪れたのは、アメリカはラスベガス。華やかな1台に相応しい舞台で、存分にステアリングを握ってきた。
「先代コルベットでは最高峰のZR1で最高出力766hpを実現して、FRとしては限界まで到達できたと考えています。この先、コルベットとしてその上の走り、そして感動を実現するにはミドシップ化しかありませんでした。」
シボレー・パフォーマンスカーズのヴィークルパフォーマンスエンジニア氏は端的にこう説明する。実際、開発は先代が登場した時にはすでに始まっていたそうだ。
その恩恵は性能数値にハッキリと示されている。今回試乗した新型は、最高出力495hpを発生するV型8気筒6.2ℓ自然吸気ユニットを積み、0-60mph(96km/h)の加速タイムは2.9秒と謳われている。何とこれは、スーパーチャージャー付きで659hpを誇った先代Z06の2.95秒よりも速いのだ。パワーを確実に路面に伝達できるトラクション性能が、大いに貢献したことは間違いない。
もちろん車体は完全に新設計で、アルミを中心にFRP、マグネシウム、CFRPなど様々な素材が適材適所で組み合わされている。ディテールにはやり過ぎ感もあるが、シャープで強い存在感を放つエクステリアは空力性能も追求されており、床面のフラット化と相まって、180mph(約290km/h)で400lb(約180kg)ものダウンフォースを獲得しているという。
サスペンションは、特徴的だった横置き樹脂製リーフスプリングが姿を消し、一般的なコイルスプリングを使った前後ダブルウィッシュボーン式になった。ドライサンプを採用した6.2ℓユニットは気筒休止機構も備え、8速DCTのみと組み合わされる。マニュアルギアボックスは遂に姿を消した。
試乗車は外装にエアロキットが装着され、タイヤをオールシーズンからサマーに変更。サスペンション、ブレーキ、トラクションコントロールの制御が専用とされ、eLSDも装備するZ51パッケージ装着車だった。これにオプションのマグネティックライドコントロールも追加されていたから、走りの面では日本導入予定のモデルと、ほぼ同等のスペックである。
荒々しい乗り味から洗練された味へラスベガス ストリップを抜けて郊外のワインディングロードに向かった一般道でのテストドライブでは、まず快適性の高さに感心させられた。ボディは剛性感たっぷりで、それを土台にサスペンションがよく動き、乗り心地は上々。直進性も高く、ステアリングの中立位置での据わりも良い。そしてエンジンはトルキーで、8速DCTの変速はこれが初出とは思えないくらいスムーズだから、ゆったり流していても快感なのだ。これはコルベットにとっては重要なポイントだろう。
ミドシップ化されたからと言って、妙にスパルタンになっているわけではないのも嬉しい。しかも従来どうしても気になったユサユサ、ガタガタという安っぽい振動がなくなっていることもあり、走りには上質感すら漂う。これまで通り脱着可能なルーフを外して、風と戯れながら流すのが、なんとも爽快だった。
続く、サーキットでのパフォーマンスには感動すら覚えた。ミドシップならではのトラクションとノーズの軽さが相まって、非常に素直に曲がり、そして積極的にアクセルを開けていける。ちょっとアクセル開度が大きすぎただけで接地荷重が足りない後輪が地面を掻きむしって姿勢を乱していたFRレイアウトの先代までとは大違い。非常にコントロールしやすい。まあ、これを寂しく感じる人も居るのだろうけれど……。
これは一般道でも感じたことだが、変にシャープなレスポンスが強調され過ぎたりしておらず、電子制御などによってムリヤリ曲げていくような感触が無いのも好感触の一因だ。ステアリングのギア比も特に速くはなく、しかし正確性はピカイチ。まさに意のままになる走りっぷりを満喫できる。
この素直な走りにはV型8気筒6.2ℓユニットが、伝統のOHVレイアウトを踏襲していることも貢献している。カムシャフトがシリンダーブロック脇にありシリンダーヘッドが軽くなるOHVは重心を低く抑えられる。それもあってコーナリング時にリアがグラっとするような動きが出ず、限界まで落ち着いた姿勢が保たれて、挙動が急変することがないのだ。もちろん、これは一般道での快適性にも効いているのだろう。
パフォーマンスを突き詰める、それがコルベットいずれにしても言えるのは、この古式ゆかしきV型8気筒OHVユニットが、単に伝統的なアイコンだからというのではなく、今の時代にも尚、これでなければという理由があって使われているということである。ミドマウントされて、そのメリットが更に活きてきたわけだ。
もっとも実際にはこのエンジン、旧式などではない。高G域まで安定したオイル潤滑ができるようドライサンプレイアウトが採られ、燃費向上のための気筒休止機構も備わる。そして回せば6500rpm辺りまで澱み無く吹け上がって爽快な走りを楽しませてくれるのだ。しかも、組み合わされる8速DCTはサーキットでも正確無比、電光石火の変速でサポート。快感度はバツグンである。
従来、コルベットには良くも悪くも大味で、独自の世界を認めつつも、日本やヨーロッパのスポーツモデルと同じ土俵で較べるような存在ではないという見方、強かったと思う。新型の走りは、そうしたイメージを間違いなく覆すものに仕上がっていると断言できる。それはミドシップ化のみならず、細部にいたる徹底的なエンジニアリングによって成し遂げられた成果だろう。
懸念を抱いている従来からのファンだって、乗ればきっと納得するはず。歴史に固執するのではなく、徹底的にパフォーマンスを追求していくのがコルベットなんだと納得し、そして感動するに違いない。
文・島下泰久 写真・GMジャパン 編集・iconic
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