モータージャーナリストの赤井邦彦はバーレーンGPで起こったロマン・グロージャンの事故に、F1の安全性を考える。
脱出を3度試みた
29歳、フェラーリを買う──Vol.79 スーパーカーとソーシャルメディア
F1グランプリを初めとするモータースポーツを取材するメディアには取材証(メディアパス)が配られるのだが、その取材証には必ず「Motorsport Is Dangerous(モータースポーツは危険です)」という文言が記されている。実際、モータースポーツには危険が詰まっている。先日のバーレーンGPでロマン・グロージャンのハースF1がガードレールに激突して出火、激しく燃えさかる様を見て改めてモータースポーツの危険を意識した。1960年代~70年代のレースでは事故が起こると大きな惨事になることが多かった。レースカーの安全性が低いために火災が頻繁に起こり、マーシャル達も事故への対応が稚拙だったため、結果的に多くのドライバーが命を落とすことが多かった。バーレーンGPでのグロージャンの事故を見て、当時を思い出した。咄嗟にグロージャンの命を心配した。なぜなら彼のクルマのコクピットから前部はガードレールに食い込み、ボディは真っ二つに引き千切られ、燃料タンクは破裂し、満タンの燃料が爆発するように火を噴いたからだ。
F1 Grand Prix of BahrainBryn Lennonしかし、グロージャンはその火焔の中から脱出してきた。奇跡としか言いようがないが、多くの関係者の安全を求める長い戦いの成果と、いくつもの幸運が重なったおかげで命拾いをした。まず、コクピットを守るHalo(ヘイロ)というセイフティバーが、ガードレールからグロージャンを守った。Haloがなければガードレールがグロージャンのヘルメットを直撃していたはずだ。燃えさかるクルマから脱出出来たのもHaloが作った僅かな隙間があったからだ。しかし、グロージャンを助けたのは彼自身の生への執念だ。彼は脱出を3度試みて3度目に成功した。途中で彼の気持ちが折れていたら違う結果が待っていた。まず、グロージャンの生きようとしたエネルギーを讃えたい。
F1 Grand Prix of BahrainPeter Fox今年から耐火指数が高くなったレーシングスーツもグロージャンを助けた。彼が火焔の中にいた時間は28秒。耐火スーツは30秒までドライバーを守るように作られていた。ヘルメットも彼の頭部を守った。彼は両手の甲と踵の火傷だけで事なきを得た。ドライバーの安全を守るために、FIAや関係機関が何10年もの時間をかけて積み重ねて来た努力の結果といえる。
ビアンキが僕を救った
F1 Grand Prix of Sakhir - PreviewsPeter FoxHaloの話に戻るが、導入時には大きな反対があった。理由は色々ある。見栄えが悪い、効果が薄そうだ、運転しづらい……。故ニキ・ラウダは反対派の筆頭だった。「Haloはレースカーのエッセンス(本質、真髄)を失わせる」とまで言ってのけた。しかし、元チャンピオンのジャッキー・スチュワートは導入を強く推した。彼は自らの事故の経験から1960年代から安全面に力を入れ、シートベルトの装着を実現させた。シートベルトはその後市販車にも広がり、今では世界中の道を走るクルマがシートベルトを装着する。
Haloに関しても採用を推進し、元F1ドライバーのアレックス・ブルツと共に反対派を説き伏せた。F1がHaloの実用化に踏み切ったのは2018年から。約2年の開発期間を経て、FIAを初めとするすべてのフォーミュラカーへの装着を義務付けた。採用は大きな成果を生んでいる。グロージャンは事故の後、「ジュール・ビアンキに感謝したい。彼が僕を救ってくれた」と、ビアンキの両親に伝えている。ビアンキは2014年10月に開催された日本グランプリで頭部を強打する事故に遭い、翌年の7月に亡くなった。2014年にはHaloは存在せず、彼の事故を受けてFIAはドライバーの頭部を守る安全対策に力を入れるようになった。
F1 Grand Prix of Monaco - PreviewsNurPhotoグロージャンはこの事故で今週末行われるサヒールGPへの参加が不可能になったが、サヒールGPを欠場するドライバーがもうひとりいる。先のトルコGPで早々に2020年の世界チャンピオンに輝いたルイス・ハミルトン。彼はバーレーンGP後の新型コロナのPCR検査で陽性と診断され、自主隔離を余儀なくされたからだ。バーレーンGPに先立つ検査では3度の陰性結果が出ていたと言うが、その後の感染が確認されたわけだ。
F1 Testing in Bahrain - Day TwoMark Thompson若いドライバーを守る
ハミルトンが欠場するサヒールGPは、ハミルトンのチームメイトのバルテリ・ボッタスとレッドブルのマックス・フェルスタッペンの相打ちになりそうだが、その他にも新鮮な話題が詰まったレースになりそうだ。まず、ハミルトンの抜けた穴を埋めるのはウィリアムズのジョージ・ラッセル。ストフェル・バンドーン、ニコ・ヒュルケンベルクといったベテランの名前も挙がっていたが、メルセデス・チーム代表のトト・ウルフは若い才能をピックアップした。そしてラッセルの抜けたウィリアムズには同チームのリザーブ・ドライバーであるジャック・エイトケンが乗る。彼はすでにF1グランプリの練習走行で走った経験がある。グロージャンの抜けたハースのシートにはピエトロ・フィッティパルディが座る。ピエトロは世界チャンピオンに2度輝いたエマーソン・フィッティパルディを祖父に持つ第3世代のドライバーだ。
F1 Grand Prix of Sakhir - PreviewsPoolこうしてみると、F1グランプリのドライバー相関図も大きく変わりつつあることがわかる。今回フィッティパルディが走るハースはすでに2021年のドライバーを発表しており、そこにはミハエル・シューマッハーの息子のミック・シューマッハーとロシアの大富豪の息子であるニキータ・マゼピンの名前が挙がっている。今年すでにランド・ノリスやランス・ストロールといった若者が活躍しており、ベテラン・ドライバーもうかうか出来ない。ただ、こうして次々と登場する若いドライバーの生命を守るためには、レースカーはまだまだ安全にならなくてはいけない。安全は黙っていてはやって来ない。
F1 Grand Prix of Sakhir - PreviewsRudy CarezzevoliPROFILE
赤井 邦彦(あかい・くにひこ)
1951年9月12日生まれ、自動車雑誌編集部勤務のあと渡英。ヨーロッパ中心に自動車文化、モータースポーツの取材を続ける。帰国後はフリーランスとして『週刊朝日』『週刊SPA!』の特約記者としてF1中心に取材、執筆活動。F1を初めとするモータースポーツ関連の書籍を多数出版。1990年に事務所設立、他にも国内外の自動車メーカーのPR活動、広告コピーなどを手がける。2016年からMotorsport.com日本版の編集長。現在、単行本を執筆中。お楽しみに。
文・赤井邦彦
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