2021年1月末、4番目のバリエーションとして導入された後輪駆動のタイカン(いわゆる素のタイカン)。今回は、その素のタイカン以外の、4S、ターボ、ターボSの3台を集めて完熟試乗を敢行。ここで明らかになったのは、グレードの違い、オプション装備の効果、そしてタイカンの卓越したポテンシャルだ。ポルシェBEVの実力に圧倒される試乗となった!
軽快なスタートダッシュはまさにポルシェ!
【比較試乗】「BMW 4シリーズ・クーペ×シボレー・カマロ」コイツこそが内燃機関の極みだ!
ついに日本の路上を走りはじめたタイカン。驚愕の性能が騒がれているが、それは主に0→100km/h加速2.8秒のターボSだ。そんな速さは、公道では非現実的であるし、車両価格も2454万1000円と高い。ならば2023万1000円万円のターボや1448万1000円万円の4Sはどうなんだということで、3車を比較試乗してみることにした。
3車とも基本構成は同じAWDだが、4Sのモーターはひと回り小さくパワーも控えめ。ターボとターボSは同一で通常時のスペックは共通だが、ローンチコントロール使用時のオーバーブーストに差がある。0→100km/h加速は4Sが4.0秒、ターボが3.2秒、ターボSが2.8秒。ターボSはクローズドコースで全開加速を試したことがある。血の気が引くぐらいの猛烈な加速であるのはたしかで、スピードメーターのデジタル表示が追いつかないから、正確にはいつ100km/hに達したのかわからないほどだった。
映像に撮って見返すと87km/hの次の瞬間が102km/hの表示。その時点でゼロスタートから3秒は経っておらず、ほぼスペック通りだった。過去に市販車、ワンオフのモデル含めて多くのハイパフォーマンスBEVに試乗したことがあるが、タイカンが素晴らしいのは異次元の速さながら違和感が少ないことだ。起動トルクが凄まじいモーターはいきなり強烈に背中を押され、なんだか気持ち悪い加速感であることが多いのだが、タイカンは刹那的なスタートダッシュのなかにドライバーの感覚に合う自然なフィーリングが存在しているのである。
もうひとつ楽しいのがシフトアップ。大抵の市販BEVはトルクバンドが広いモーターの特性に合わせて1速ギアで済ませているが、タイカンは発進加速と高速域の性能を両立させるべく、2速ギアを開発。フル加速させると80km/hを超えたあたりで、再びドンと背中を強く押してくれる。
スタートダッシュの気持ち良さがタイカンのキャラクターだが、それが2.8秒でなければダメなのかといえば、そんなことはない。数秒のなかでは0.1秒でも違いが大きいのはたしかだが、そもそも0→100km/h加速4.0秒だって相当に速い。モーターならではの大トルク感と違和感のなさの両立、2速ギアの面白みなどの美点はターボや4Sにもある。むしろ時間が長いほうがパワートレインの特性をじっくりと味わえる効果もあるほどだ。
だから、どのモデルも楽しさは一緒と言いたいところだが、こういった比較試乗の場合、パフォーマンスや価格が低いほうから順にステアリングを握っていく自分のモットー通りに4S→ターボ→ターボSと試乗していったところ、乗り換えるたびに気分があがっていたのもたしかだった。それは、おもにシャシー性能の違いによるものだ。
上位グレードになるに従いコーナリング性能が高まる
今回、試乗したワインディング路は、これまで何百台ものクルマで、同じコーナーを同じスピードで同じラインにのせて走らせてきたが、少なくとも上位5本の指に入るぐらいに思い通りに気持ち良く走れた。
最初に試乗した4Sで印象深かったのは、加速も減速もせずアクセル一定のまま入っていく中速コーナー。前後の荷重移動なしに曲がっていくのだが、ステアリングを緩やかに切り込んでいくだけで適度にフロント外側が沈み込んでタイヤがガシッと路面を捉えて曲がり始め、コーナーの中ほどでは前後のタイヤでバランス良く高い横Gを発生。ロールはあまり大きくないながらもじつにしなやかで、ヒタヒタと着実に路面を捉え続けていた。
これで文句なしといったところだったのだが、ターボに乗り換えてみるとステアリングを切り込んだときのダイレクト感がまず違った。これは4Sが20インチタイヤなのにたいしてターボは21インチであることが大きい。さらに、コーナーでの曲がりやすさもターボのほうが上回る。タイカン全般の傾向として、あきれるほどの大トルクの持ち主ながら、コーナーからの立ち上がりでアクセルを踏みつけていっても、タイヤのグリップが横方向に逃げそうなそぶりはほとんどなく、パワーを縦方向に伝えていく。
4Sでアクセルをちょっと踏みすぎたときには、リアに荷重がのってプッシングアンダー気味になるのだが、ターボは旋回しながら立ち上がっていけた。事前に細かなスペックを知らないまま乗ったので不思議だったが、4SになくてターボにあるのがPTVプラス(ポルシェトルクベクタリングプラス)だと知って腑に落ちた。電子制御リアディファレンシャルがリア左右のトルクを可変配分しているのだ。
ターボとまったく同じタイヤを履くターボSに乗り換え、ひとつめのコーナーに入っていったら、さらに舵が効くフィーリングに再び驚かされることになった。ステアリングを切ったら切っただけ、なんの抵抗もなくノーズがインに向いていく感覚。ターボSにはPDCC(ポルシェダイナミックシャシーコントロール)とリアアクスルステアリングが装備されていたのだった。前者は電気機械式のスタビライザーによってロールを大幅に抑制し、後者は低速コーナーでは回頭性を高め、高速コーナーでは安定性を高める。
さらに、荒れた路面でのスムーズな足さばきがひと際光っていたのだが、これはPCCB(ポルシェセラミックコンポジットブレーキ)のおかげだろう。制動力の高さもさることながら、スチールブレーキよりも大幅に軽いのでサスペンションのストロークがスムーズなのだ。これによって乗り心地も向上。スポーツカーとしても圧巻だが、しなやかで落ち着いた乗り味との両立ぶりは、並みのプレミアムカーでは達成できない次元だ。
シャシー系の装備選びがタイカン攻略のカギ
4Sは、ポルシェが新たに開発したBEV専用のJ1プラットフォームが持つ良好な重量配分や剛性といった資質の良さを素直に堪能でき、ターボとターボSは上乗せされた装備でシャシー性能を引き上げていた。素晴らしいのは電子デバイスの制御に違和感がなく、ドライバビリティに優れる自然なフィーリングを、初期モデルから実現していることだ。
加速力だけではなく、走りの装備が増えて価格があがれば、パフォーマンスや楽しさがそれ相応にあがっていくことが確認できたわけだが、シャシー系の装備ほぼすべてがオプションで選べる。サーキット重視なら、より緻密なサーマルマネージメントがなされ、メーターでバッテリー温度が確認できるなど、高負荷の連続走行を想定しているターボSが安心だが、そうでなければ好みや予算の都合で選べばいいだろう。4SをベースにシャシーをターボSと同等の仕様にするなどリーズナブルに楽しむ方法もあるのだ。
【Specification】ポルシェ・タイカン・4S
■車両本体価格(税込)=14,481,000円
■全長×全幅×全高=4963×1966×1379mm
■ホイールベース=2900mm
■トレッド=(前)1710、(後)1694mm
■車両重量=2140kg
■バッテリー種類=リチウムイオン
■総バッテリー容量=79.2kWh
■モーター種類=永久磁石シンクロナスモーター
■モーター最高出力=435ps(320kW)
■モーター最大トルク=640Nm(65.2kg-m)
■トランスミッショッン形式=F:1速、R:2速
■サスペンション形式=(前)Wウイッシュボーン/エア、(後)マルチリンク/エア
■ブレーキ=(前後)Vディスク
■タイヤ(ホイール)=(前)225/55R19、(後)275/45R19
【Specification】ポルシェ・タイカン・ターボ
■車両本体価格(税込)=20,231,000円
■全長×全幅×全高=4963×1966×1381mm
■ホイールベース=2900mm
■トレッド=(前)1702、(後)1667mm
■車両重量=2305kg
■バッテリー種類=リチウムイオン
■総バッテリー容量=93.4kWh
■モーター種類=永久磁石シンクロナスモーター
■モーター最高出力=625ps(460kW)
■モーター最大トルク=850Nm(65.3kg-m)
■トランスミッショッン形式=F:1速、R:2速
■サスペンション形式=(前)Wウイッシュボーン/エア、(後)マルチリンク/エア
■ブレーキ=(前後)Vディスク
■タイヤ(ホイール)=(前)245/45R20、(後)285/40R20
【Specification】ポルシェ・タイカン・ターボS
■車両本体価格(税込)=24,541,000円
■全長×全幅×全高=4963×1966×1378mm
■ホイールベース=2900mm
■トレッド=(前)1690、(後)1655mm
■車両重量=2295kg
■バッテリー種類=リチウムイオン
■総バッテリー容量=93.4kWh
■モーター種類=永久磁石シンクロナスモーター
■モーター最高出力=625ps(460kW)
■モーター最大トルク=1050Nm(107.0kg-m)
■トランスミッショッン形式=F:1速、R:2速
■サスペンション形式=(前)Wウイッシュボーン/エア、(後)マルチリンク/エア
■ブレーキ=(前後)Vディスク
■タイヤ(ホイール)=(前)265/35ZR21、(後)305/30ZR21
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