アズール・ブルーのボディにブラックトリム
執筆:Matt Saunders(マット・ソーンダース)
【画像】調整式サス獲得 フォーカスST エディション ライバル・ホットハッチと比較 全114枚
翻訳:Kenji Nakajima(中嶋健治)
世界の自動車メーカーのモデル・ラインナップに詳しい方なら、英国フォードが最近になって、多くのモデルへエディションという名称を追加していることにお気付きかもしれない。改訂した、という意味合いを持たせたいのだろう。
ただし、もし筆者が特別なフォード・フォーカスSTを作り上げたのなら、ST エディションとは違う呼び方を考えるとは思う。先日まで、唯一エディションを名乗っていなかったフォーカスSTだったから、取り残された感は消えたのだが。
ストライプやステッカーを追加して、新しい感じを演出したわけではない。ボディ色はアズール・ブルーの1択で、ブラックのルーフとホイール、スポイラーとミラーカバーで着飾った5ドアのハッチバックだが、それ以上の中身を得ている。
4気筒のガソリン・ターボエンジンやドライブトレインは、従来のフォーカスSTと同じ。快適装備は全部乗せといった感じで、ハーフレザーの内装に、ボディとコーディネートされたブルーのステッチが施されている。
さらにフォーカスST エディションで最も触れるべきは、KWオートモーティブ社製の手動調整式ツインチューブ・ダンパーの獲得だろう。フォーカスSTのパフォーマンス・パックに装備されるアダプティブ・ダンパーは、交代となった。
コイルスプリングには粉体塗装が施され、通常のSTより50%もスプリングレートが高められている。フローフォーミング加工による軽量な19インチ・アルミホイールが、とても凛々しい。
手動調整式のサスペンションを装備
手頃なホットハッチに調整式サスペンションを組んでも、さほど効果的な結果は得られないと考える方もいらっしゃるだろう。AMGやBMW Mモデル、ポルシェなどのサーキット前提モデルとは違って。
概して、その意見は正しい。フォードのRSシリーズにも当てはまる。だが今回の例は少し違う。
新しいKW社製のコイルオーバー・サスペンションで、車高は10mm低い。フェンダーアーチをきれいに埋める新ホイールのおかげで、バネ下重量は10%軽くなっている。
筆者は黒いボディトリムがあまり好きではないものの、ST エディションのルーフとミラーカバーは悪くない。黒く塗られたSTのエンブレムも、鮮やかなボディカラーに映えてカッコイイ。
テールゲートを開くと、車高を最大20mmの幅で調整できるツールキットが載っている。ダンパーは、収縮で12段階、伸張で16段階から選べる。車高はホイールを外さないと調整できない。リアの減衰力調整は、荷室の内装パネルを外す必要がある。
自宅のガレージで試す前に、ディーラーからアドバイスを聞いた方が良いだろう。作業に必要な時間は、前後合わせて数時間は必要そうだ。マニュアルには工場出荷時の標準設定が記されていない。変更前に、印やメモを付けるのもお忘れなく。
ST エディションは通常のSTと同じホイール・オフセットが与えられ、アクティブLSDも装備されている。郊外の一般道を走らせてみると、マナーは思いのほかマイルド。路面のキャンバーやワダチにステアリングが取られることもない。
敏捷さとシャシーバランスを向上
コーナーで負荷を高めると、デフが仕事をしていることをトラクションで実感できる。ステアリングの感触に影響を受けることもない。古いRSのように、無粋な振動が手のひらに伝わることもない。
ドライブモードをスポーツやレーストラックに設定すると、操舵感はやや重すぎ、スポンジーな印象も若干受ける。しかし、ステアリングホイールと格闘するほどではない。
ST エディションと通常のSTとで1番わかりやすい違いが、若干落ち着きに欠ける乗り心地だろう。表面の荒れた路面では、車内にロードノイズも大きめに伝わってくるようだ。
そのかわり、引き締められたサスペンションが敏捷さを引き上げている。路面へタイヤはしっかり喰らいつき、シャシーバランスも高められている。正当な対価といえる。
フォーカスSTは従来からシャシー性能に優れるモデルの1台だったが、ST エディションでは一層鋭く回頭していく。アクセルペダルの踏み込み量を調整しながらテールを流し、ノーズを切り込んでいくのも意のままだ。
ESPスポーツと呼ばれるモードが追加され、ESPの介入を抑えつつ、シャシーを積極的に振り回すことも可能。電子制御システムをオフにすると、完全に介入しなくなる。
姿勢制御は、従来のフォーカスSTより数段階引き締められた印象。ボディの動きはより小さく、スマートさすら感じるほど。ドライバー次第で、素晴らしいバランスを備えた操縦性を味わえる。90年代のホットハッチのように。
奥深さを備えるホットハッチ
ST エディションの魅力を完璧に引き出すなら、いつものワインディングやサーキットに合わせて、調整式サスのセッティングを決める必要はある。試乗時の設定では、低速域ではやや乗り心地が硬く感じられた程度だった。
高速道路の速度域では滑らかさが出てくる。手に負えなくなるような場面は限定的。大きめの凹凸でも即座に不安感なくいなし、タイヤの接地性は高いまま。路面がうねっているような区間でも、ボディは常に安定している。
もし筆者自身のST エディションなら、日常的に乗るのは郊外の一般道が中心。車高を少し上げ、ホイールトラベルを長めに確保するかもしれない。伸縮時の減衰力も、もう少し弱めるだろう。
サーキット走行がメインなら、前後の相対的な車高調整もできる。クルマのロール軸を変化させることで、ハンドリングバランスを自身好みに変えることも可能になる。
ホットハッチで、これほどの奥深さを備えているモデルは多くない。もちろん、工場出荷時のままの状態でも充分に楽しめる。乗った瞬間に調整が必要だ、と感じることはないはず。非常に良く仕上げられている。
通常のフォーカスSTも、素晴らしいハンドリング・マシンではある。それでも、ST エディションは買いだ。
特別な自分だけのフォーカスSTに
フォーカスSTでMTを選び、パフォーマンス・パックをオプションで付け、鮮やかなボディカラーで仕立てたら、それだけで3万5000ポンド(532万円)に達してしまう。特別なST エディションが、高額な仕様だとはいえない。
一方、ジャッキアップしてまでサス調整は・・・とお考えなら、あるいは鮮やかなアズール・ブルーの塗装色がお好みでなければ、通常のフォーカスSTが妥当だとは思う。
ST エディションには備わらないアダプティブ・ダンパーは、ラジオの選局くらい調整が簡単。通勤用のクルマとしても、文明的な相手になることも確かではある。
だがデフォルトの設定でも、ST エディションは躍動的で一体感が強く、シャシー性能を引き出しやすい。ドライバーの気分がノッていて、走る道もクルマにピッタリなら、通常のフォーカスST以上のエンターテイナーを演じてくれる。
ひと手間かけて、ST エディションを自身好みの足回りにセットアップすれば、特別感は一層高まるはず。自分だけの、フォーカスSTに仕立てられるというわけだ。
フォード・フォーカスST エディション(英国仕様)のスペック
英国価格:3万5785ポンド(543万円)
全長:4378mm
全幅:1825mm
全高:1454mm
最高速度:249km/h
0-100km/h加速:5.7秒
燃費:12.4km/L
CO2排出量:185-186g/km
車両重量:1432kg
パワートレイン:直列4気筒2261ccターボチャージャー
使用燃料:ガソリン
最高出力:280ps
最大トルク:42.7kg-m
ギアボックス:6速マニュアル
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