ルイス・ハミルトンは、F1史上最高の成功を生み出したメルセデスとのパートナーシップを打ち切り、2025年にフェラーリで新たなキャリアをスタートさせる。39歳にして移籍を決断した理由は何なのか、2024年シーズンを前に離脱が決定したことが、その後の1年にどのような影響をおよぼしたのか、また、ハミルトンはフェラーリで成功を収めることができるのかについて、ベテランモータースポーツジャーナリスト、ピーター・ナイガード氏が考察した。
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ハミルトンがフェラーリドライバーとして初コメント「2025年シーズンが楽しみで仕方ない。忘れられない一年にしよう」
ルイス・ハミルトンとメルセデスのパートナーシップは、12シーズンにおいて、84回のグランプリ優勝、そして6回のドライバーズチャンピオンシップ獲得という成績を収め、F1の歴史上、最大の成功を達成した。
それにもかかわらず、ハミルトンは2024年末でメルセデスから離れ、2025年からフェラーリの一員になった。なぜハミルトンは、メルセデスの最大のライバルチームへと移籍することを決めたのだろうか。
■メルセデス離脱の理由/3チームでの優勝という“新たな挑戦”
表面的な理由としては、“新たな挑戦”ということになる。それはある程度は事実だ。偉大なキャリアの終わりに向かいつつあることを、自分で理解しているハミルトンは、“フェラーリドライバー”の項目にチェックを入れることにした。偉大なF1ドライバーたちが次々とマラネロで腕を試してきた後、2025年にハミルトンの番が回ってきた。最大のライバルふたりが成し遂げられなかった仕事を達成することができれば、自分の才能を強調することができると、ハミルトンが考えていることは間違いない。フェルナンド・アロンソもセバスチャン・ベッテルも、フェラーリでワールドチャンピオンになることができなかった。
ハミルトンはマクラーレンとメルセデスで実績を挙げてきた。3つ目のチームで勝利することができれば、彼はより一層特別な存在になるだろう。F1ドライバーは、より多くのチームに勝利をもたらすことによって、マシン以上にドライバーとしての力が優れていたと強調することができる。
たとえばアロンソはルノー、マクラーレン、フェラーリ、ベッテルはトロロッソ、レッドブル、フェラーリと、それぞれ3つのチームで優勝を挙げている。
アラン・プロスト(ルノー、マクラーレン、フェラーリ、ウイリアムズ)とファン・マヌエル・ファンジオ(アルファロメオ、マセラティ、メルセデス、フェラーリ)は4つのチームで勝利を獲得した。ハミルトンにとって偉大なるロールモデルであるスターリング・モスは、4つのメーカーで優勝している。
そういう意味で、“新しい挑戦”という使い古された表現は、ハミルトンがフェラーリに移籍する理由の一部を説明するものであることは確かだ。
■メルセデス離脱の理由/世代交代のなかで募らせた疎外感
他の要素について考えてみよう。たとえばお金は理由のひとつだっただろうか。ハミルトンがマラネロで莫大な報酬を得るだろうことは間違いないが、私は、サラリーの額がフェラーリとの交渉において決定的な役割を果たしたとは思わない。サー・ルイスはすでに使いきれないほどの額の財産を築いているからだ。
私が最も大きな理由だと考える、別の要因について説明しよう。
メルセデスから離れる決断をしたのはハミルトン自身であり、その決断はチーム代表トト・ウォルフを驚かせた。だが、もしかすると2024年初めに39歳になったハミルトンは、メルセデスチームの中で、自分が締め出されつつあるように感じていたのかもしれない。あるいは、チーム内で地位を維持できる時間は残り少ないと悟ったのではないだろうか。
ウォルフ代表は、2022年に当時24歳のジョージ・ラッセルをレースドライバーに起用した。それがメルセデスにおける世代交代の始まりだった。約1年前、ハミルトンが将来について決断しなければならなかったころ、ウォルフは17歳のアンドレア・キミ・アントネッリに注目していた。2023年にFIA F2で6勝を挙げたフレデリック・ベスティも、メルセデスF1チームの候補ドライバーだった。本格的な世代交代の波が迫り来るなかで、ハミルトンは、追い出される前に自分からチームを離れようと考えたのかもしれない。
ウォルフが、ハミルトンについて語るなかで“賞味期限”という言葉を使ったことが物議を醸したことは記憶に新しい。2024年にはハミルトンとウォルフの関係も少し緊張しているように見えた。
■早期の移籍発表が2024年シーズンにもたらした影響
2024年2月1日、ハミルトンがシーズン末でメルセデスから離れ、フェラーリに加入することが発表された。早い段階でフェラーリへの移籍を決めたことが、2024年シーズン全体に影響を及ぼした。メルセデスチームもハミルトンも、その協力関係が終わりに近づいていることを知りながら、シーズンを戦わなければならなかったのだ。
マシン開発に関してハミルトンが徐々に孤立していったのは明らかだ。メルセデスの2025年型マシンは、2024年型を基にしたものであるため、チームとしては、技術的な知見をハミルトンがマラネロに持ち込むことを可能な限り防がなければならなかった。
そうしてハミルトンの心は次第にマラネロへと移っていったのかもしれない。メルセデスでの最後のシーズンが、ハミルトンにとって期待外れの結果に終わった理由の一部は、そこにあったとも考えられる。予選でのチームメイト対決では、ラッセルが19勝5敗(スプリント予選では5勝1敗)と、ハミルトンを大きく上回った。チャンピオンシップポイントでも、ラッセルは245ポイントでハミルトンは223ポイントだった。しかもラッセルはトップでフィニッシュしたベルギーで失格となり、その結果、ハミルトンが繰り上がって優勝したことも考慮に入れるべきだ。
■フェラーリでのキャリアがスタート。侮るべきでないハミルトンの能力
2024年後半の低調さから、ハミルトンがフェラーリで成功を収めることができるかどうかについて、ネガティブな考えを示す者もいるが、私は、ハミルトンの能力を過小評価すべきではないと考える。
まず、ハミルトンは、ドライバーとしての能力に加えて、“預言者”としての才能も備えている。未来を“読む”能力を持っているのだ。2012年末に、トップチームだったマクラーレンから、当時中団に停滞しているように見えたメルセデスへの移籍を決めた。ハミルトンが加入してからわずか1年後に、新しいターボ・ハイブリッドエンジンを搭載したメルセデスは、支配的なチームとなり、その地位を何年にもわたって維持した。一方でマクラーレンは、2021年まで優勝を挙げることすらなかった。
ハミルトンは、メルセデスが今後衰退していくと結論づけたのだろうか。そしてフェラーリの時代がやってくると考えたのだろうか。それは分からないが、歴史が示すことを考慮すれば、ハミルトンを決して侮ってはならないことは明らかだ。コース上の才能も、先を見通して契約をまとめる能力も、超一流なのだから。
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